第四章 調査(2) 女性アイドルグループのファン

 ここまで、ジャニーズアイドルファンに焦点を当てて研究を進めてきた。ジャニーズアイドルファンは、担当を設定し、他のファンと担当を意識しながらコミュニケーションをとり合っていることが分かった。しかし、この結果はあくまでジャニーズアイドルファン側からの研究に限定したものである。そのため、この章では女性アイドルグループのファンがどのようにしてアイドルを応援しているのかを調査していく。

 ジャニーズアイドルファンが自分の好きなアイドルのことを「担当」と呼ぶことに対して、女性アイドルグループのファンは応援しているアイドルのことを「推し(メン)」と呼ぶ。この「推し(メン)」という言葉は、AKB48を中心に、主に女性アイドルグループに対して使われている。このように、ジャニーズアイドルファンにおける「担当」と、女性アイドルグループファンにおける「推し(メン)」はほぼ同義である。そして、ジャニーズアイドルファンが、自分と担当が同じファンのことを「同担」と呼ぶのに対して、女性アイドルグループファンは他のファンと同じアイドルを推すことを「推し被り」と呼ぶ。これより、ジャニーズアイドルファンにおける「同担拒否」と、女性アイドルグループファンにおける「推し被り拒否」もほぼ同義であると言える。

 ジャニーズアイドルファンにおける「同担拒否」行動についてこれまで調査してきたが、女性アイドルグループのファンの間でも、「推し被り拒否(推し被りNG、推し被り嫌い等)」という行動をとるファンがごく少数ではあるが存在する。この「推し被り拒否」という行動は、先にも述べたように、ジャニーズアイドルファンにおける「同担拒否」行動と似た性質を持っていると考えられる。そのため、「推し被り拒否」という行動についてもインタビューの中で調査していきたい。

 

 

第一節     調査概要

女性アイドルグループを応援しているファンは、ジャニーズアイドルファンと同様の行動をとっているのだろうか。女性アイドルグループのファンの行動について調査するため、インタビュー調査を行った (第三節、第四節) 。以下はインタビュイーの概要である。(情報は第一回インタビュー当時のもの)

 

    表41 女性アイドルグループファン インタビュイー概要

 

性別

年齢

推し

ファン歴

E

20

-ute 鈴木愛理

南條愛乃

鈴木愛理→10

南條愛乃→2

F

20

SKE48 日高優月

4

※南條愛乃は女性アイドルグループの一員であるわけではないが、「μ's(ミューズ)(メディアミックス作品群『ラブライブ!』に登場する架空の9人組女性スクールアイドルグループ、および劇中のパフォーマンスを担当声優が再現する実在の9人組女性声優ユニット)の一員であるため、女性アイドルグループのメンバーとして扱う。


 

第二節 推し被り拒否について

 第四章 第二節で「同担を拒否するファンの語り」を分析したが、女性アイドルグループのファンにおける「推し被り拒否」はどのように捉えられているのだろうか。

 

第一項     推し被り拒否、推し以外のアイドルファン拒否の排除

 女性アイドルグループのファンの間では、推し被り拒否のファン、推し以外のアイドルファンを拒否するファンをグループから排除する傾向があると分かった。以下にその様子が語られた語りを引用する。

 

山口:(中略)ぶつかってしまうから、それを避けたりとか、まあなんか…その、あの人を推してる人はあんまり、みたいなのは、特にない?

E:いや、特にそういうのはまったくないですね。みんななんか基本的には、そのー僕もずっと鈴木さん(8)、在宅(9)の時は鈴木愛理さん推しだったんですけど、あのーそうですね、現場(10)行ってやっぱ℃-ute、グループ推しに変わっちゃうっていうのがみんな多いですね。だから、(中略)この人推してるからよくないとかは誰も言わないし、まあ言っちゃいけないような禁句ワードですよね、たぶん()

 

E氏は、他のファンが誰々を推しているから交流を持ちたくない、といった発言は誰もせず、仲間内で、そのような発言は禁句ということが暗黙の了解になっていると述べている。

 この語りより、仲間内での人間関係を良い状態に保つために、推し被り、または推し以外のアイドルファンを拒否する発言を無意識のうちに排除していると考えられる。

 

第二項     推し被り拒否の原因

 推し被り拒否という行動をとるファンが生じる原因は、アイドルを恋愛対象として見ているためではないかと語った。以下は、推し被り拒否についての考えを問う質問に対する語りである。

 

E(中略)拒否するのは、そのガチ恋だからですよね?たぶん。たぶんガチ恋だからですよね()、拒否するってことは。俺らもガチ恋いっぱいいるんすけど、男の考えなんですけど、そのーなんていうんですかね、独占欲は、なんかなくなりましたね()昔はあったんですけど在宅のときは。でも現場に行ってからはそんな独占欲はそんなにないです。(中略)

山口:うんうん。…なるほど。……なんでなくなったと思いますか?

E:いやなんか、そのーやっぱり、たぶん1番決定打…違うのは、握手があるかないかだと思うんですよ。ジャニーズと普通のアイドル、女の子のアイドルは。ジャニーズって絶対接触できないじゃないですか。接触できたら奇跡的なことじゃないですか。 (中略)やっぱそしたら独占欲強くなりますよね。自分たちはもう、(中略)1000円でCD買って、券付いてきたら、まあ誰かわかんないすけど、8秒間は、その自分としかしゃべらないじゃないすか。だから、(中略)独占欲がなくなっているっていうか、まあ独占したければ、枚数を重ねればいいし、お金を積めないから独占できないだけであって…っていう感覚になるんですかね?

 

E:あとはやっぱコンサート行っても、(ジャニーズは)やっぱ遠いっていうのが前提じゃないですか。僕たちはもう遠いコンサートには、基本記念のコンサートじゃないと行かないんで。(中略)どうしてもなんか、そうですね、そのー小っちゃいハコだと、そのー柵自体も近いじゃないすか。だから近くに行けるんですけど、ホールになると、どうしてもやっぱ機材の関係とかで、1番前の席でも遠いじゃないですか。

 

 E氏は、推し被り拒否は、アイドルを恋愛対象として見ているから起こるとしている。この発言と同様の趣旨の発言をF氏のインタビューからも得られた。E氏は自分もアイドルを過去に恋愛対象として見ていたが、アイドルに会いに行くようになってから独占欲があまりなくなったと述べている。その理由として、握手会でアイドルと握手している間はアイドルのことを独占できるためとしており、独占したいのならばお金をかければよいという感覚になったのではないかと述べ、他のアイドルと比較してジャニーズアイドルは握手会等のイベントがほとんどないため、独占欲が高まるのではないかとしている。そして、E氏が応援しているアイドルと比較して、ジャニーズアイドルはコンサートでの観客とアイドルの距離が遠いとし、それも独占欲を高める要因となっているのではないかと述べている。

 これらの語りより、ジャニーズアイドルのファンは他のアイドルと比較して、アイドルと直に接触することも、近くで観賞することも難しいため、独占欲が高まるのではないかと推測できる。女性アイドルグループでは、握手会で直接アイドルと接触することができ、自分が握手している間はそのアイドルのことを独占できるため、握手会に参加すれば自分で独占欲を満たすことができる。また、すぐ近くでアイドルを見る機会を持てるため、それもまた独占欲を満たす手助けをしているのではないだろうか。しかし、そのような機会の少ないジャニーズアイドルグループのファンは、自分で独占欲を満たすことが難しいため、独占欲が高まってしまうのではないだろうか。


 

第三節 他のファンへの対応

 ジャニーズアイドルファンは、担当を意識してコミュニケーションを工夫していたが、他のアイドルファンはどうであろうか。

 

第一項     推し被りファンとのコミュニケーション

 女性アイドルグループのファンも、推し被りのファンとコミュニケーションを取る際に工夫していることが分かった。以下は、同じアイドルを応援している人を拒否するかという質問に対しての語りである。

 

E:いや、全然拒否しないっす()……あーそうですね、でも、今ずっと鈴木愛理さんの話ばっかしてきたんですけど、たとえば、(中略)やっぱり南條愛乃さん(13)だと、ちょっと、ちょっと拒否するわけじゃないですけど、どんな人か、ちょっとそうっすね、し、気になりますね。 (中略)

山口:(中略)じゃあその、鈴木さんと南條さんの違いって?

E:たぶんですけど、鈴木さんの場合は、自分がもう有名になっちゃってるから、変な感じで負ける気はしないっていうか。南條愛乃さんの場合は、そのー自分がその、(中略)有名オタに嫌われてるから、(中略)まあ孤立状態なんで、まあたぶんみんなほとんどそっち、有名オタについちゃうんで。

山口: (中略)鈴木さんの場合は負ける気がしないって思うけど、

E:そうっすね。登りつめてないからですよねたぶん南條愛乃さんの場合は。

山口:なるほどね、なるほど。(中略)……拒否までは別にしない?

E:拒否まではしないですけど、(中略)南條愛乃さんのファンですって来て、その、まあ自分と相反することを言っとったら、まあちょっと嫌うかもしれないっすね。

 

E(中略)-uteになると、仲間、やっぱ仲間意識が強いっすね。でも南條さんになると、みんながみんな敵じゃないすけど、やっぱ敵が多いですよね。

山口:……それは、(中略)自分の、まあステータスじゃないけど、 (中略)鈴木さんの場合は自分は結構有名だからっていう話で、南條さんの場合は、逆にまだ全然登りつめてないからみたいな、それって関係してると思います?

E:そう、それ、そうっすね。

山口:んー。…自分の、ファンとしての、まあ立ち位置というか。

E:そうっすね。

 

 E氏は、自分が推しているアイドルによって、その推し被りのファンへの対応に差異があるとしている。自分がファンの中で有名であれば、他のファンに負ける気がしないため、他のファンのことをそこまで気に掛けることはしないが、自分が他のファンの中で孤立し、他のファンに負ける可能性があると感じる場合は、自分と異なる意見を持つファンを嫌うかもしれないと述べている。

 この語りより、他のファンとの関わり方において、強い、弱いという感覚が働いており、それはつまり、自分のファンとしての立ち位置が重要であることが考えられる。自分がファンとして有名な場合は不快な思いをする可能性が少ないため、気にせず交流することができるが、自分がファンの中で孤立している場合は不快な思いをする可能性があるため、交流を避けようとしていると考えられる。

 

E(中略)鈴木愛理さんのファンですって言ってきたら、逆に、なんか警戒心があるわけじゃないですけど、そのーどれくらい知っとるっておかしいですけど()(中略)同じメンバー推しの、子が来ると、その子に嫌な思いさせちゃだめだから、そのーまあ初めてこういう会に来たとかだったら、その子が引いちゃったらあれだから、その子がどれくらい知っとるか探りを入れてから、相当知っとるような子だったら普通にしゃべりますけど、そのー最近の鈴木愛理さんしか知らなかったら、最近の鈴木愛理さんの話をします。

 

山口:(中略)自分のほうが知ってるとか、相手のほうが全然知らないからどうだっていうことではなくて、相手が不快な思いをしないように。

E:そうっす、どれくらい知っとるって聞くのも失礼だから、まあ徐々に話広げながら探り入れてって感じですね。(中略)

 

 また、E氏は、相手が推しについてどの程度知識があるかを確認し、相手の知識に合わせた話題で話を進めると述べている。それは相手のほうが知識があり、自分が不快な思いを避けるという考えではなく、自分と相手との間に知識の差異があることで相手に不快な思いをさせないようにするためであるとしている。ジャニーズアイドルファンが、自分のアイドルに対する「思い」を重視したこととは異なり、女性アイドルグループファンは「知識」を重視しているようである。

 これらの語りより、E氏は推し被りのファンと仲良くしたいと考えているが、自分が(鈴木愛理さんファンとして)有名なファンであり、知識もあるため、相手を不快な思いにさせないようにするために気を遣ってコミュニケーションをとっていることがわかる。ジャニーズアイドルファンが、自分が不快な思いをすることを避けるために工夫してコミュニケーションをとっていた事例とは異なる結果となった。これは、アイドルについての知識が他のファンに負けることはないという自負が大きな要因になっていると考えられる。

 

第二項     推しが自分と異なるファンとのコミュニケーション

 女性アイドルグループのファンは、推しが自分と異なるファンとのコミュニケーションでも考慮している点があると分かった。以下に語りを引用する。

 

山口:本当に、その人ファンだったら(関わりたくない)っていう考え方の人って、会ったことあります?(中略)

E:基本的に別に拒否はしないですけど、(中略)-uteの場合は特にない、別にAKBのファンと会いたくないとかはないんですけどそのー、南條愛乃さんの場合になると、たとえば水樹奈々(14)とかのファンとは、会いたくないですし、きょ、それはまじで拒否しますねたぶん。あの、会わん?って言われても、拒否します。

 

 E氏は水樹奈々のファンに強い、怖い、というようなイメージを持っているとし、拒否する理由を以下のように語った。

 

E:自分が水樹奈々ファンじゃないから、水樹奈々のことをうまく肯定できんかったら大変なことになるだろうなと()思うんで、一緒にごはんとか食べたりはしないですね。(中略)

山口:(中略)強いファンの人と会ったときに、自分が、(中略)ちょっと不快な思いをするのがいやだっていう理由で、仲良くしたくない?

E:まあその、やっぱり、話し合えば全然、強い人でもいいんですけど、そのーやっぱり、強いからには、やっぱり自分の意識、意識っていうか意思を持ってると思うんですよ。(中略)その意思と、…合わなかったら、だいたいまあみんなそうなんすけど、そのー器が大きくなかったら、その意思に合わせていかなきゃいけない、でそれが嫌だから、あんまりですね。

 

 E氏は、怖いファンや強いファンとは関わりたくないと述べている。その理由として、自分が相手の推しを肯定できなかった場合に不快な思いをするということ、相手の意思に合わせていくことが苦であるということを挙げていた。

 この語りより、怖いファンや強いファンとコミュニケーションをとるには、相手の意思に合わせるという工夫をすることが必要であり、それができない場合に不快な思いをするため、そのようなファンとの交流を避けていることがわかる。自分が不快な思いをしないようにするために工夫しているという点で、ジャニーズアイドルファンと共通している。

 また、この語りからも、自分の「ファンとしての立ち位置」の重要性が読み取れる。自分がファンとしてどの立ち位置に立っており、接する相手のファンはどの立ち位置であるか、ということを意識していることが分かる。

 

第三項     推しを意識した行動

 女性アイドルグループのファンにも、押しを意識した行動があると分かった。以下は、ファンと接するとき、相手がどのアイドルを応援しているかということを意識して注意しているかという質問に対する語りである。

 

E:℃-uteだったら5人いるじゃないすか、だから、(中略)一応、別に、仲いい人だったら別に気にしないですけど、仲いいっていうかその、んーやっぱり年がいってる人とかだったらやっぱり、その、鈴木愛理さんじゃない子を推してる人の場合とかだと、その、その子の、欠点になることは絶対言えないんでその人の前で。その、その子のいいとこをまず話しますね。でその子の話メインで進めることになります。

山口:相手に合わせる?

E:相手に合わせますねそれは()

 

山口:年齢によって話す内容が違うみたいな話があったんですけど、なんか年が近かったら、どうとかなんかありますか?

E:…えーっと、(中略)年が近かったら、そのー…まあ人にもよるんですけど、その、ズバズバ意見言えるっていうか、それは年近いからですけど。仲いいやつだったら。ただ、その年齢上にいかれると、やっぱりそのー、そのグループのことを、自分よりも前から知ってたりする人だったら、あんまりちょっとその意見を言ったらあとで何言われるかわかんないんで()あんまり意見は言わないようにしますね。

 

 E氏は、ファンと接する際に、年上の人や、まだそれほど仲の良くない人である場合には、相手の推しの話をし、相手に合わせてコミュニケーションをとると述べている。

 この語りより、相手と円滑なコミュニケーションをとり、お互いが不快な思いをしないようにするために、工夫して話題を選んでいることがわかる。この点においても、ジャニーズアイドルファンと共通している。

 

第四項     ファンコミュニティ

 女性アイドルグループのファンはコミュニティを組んで積極的に応援活動を行っている傾向があることが分かった。E氏へのインタビューでは、自分が応援するアイドルグループのファンが40人ほど入っているグループラインに参加しており、そのメンバーで交流があるという語りが得られた。ライン上で話すというより、実際に会って話すようなコミュニティであり、仲が良いと述べている。また、メンバーの流動はあるが、ライングループから抜けていくことに対して、他のメンバーは何も思わないとしている。F氏のインタビューでも、複数のコミュニティに所属し、その各コミュニティで交流があるという語りがあった。また、コミュニティを抜ける人に対しても、それまでと同じように接するとしていた。

 そして、E氏、F氏ともに、自身が所属するコミュニティで、アイドルの誕生日を祝う生誕祭のための準備や、プレゼント等の作成を協力して行っていると述べた。コミュニティに所属するファン同士で協力して活動する場面があると分かった。

 これに対して、ジャニーズアイドルファンは、第三章 第三節 第二項でのB氏の「コミュニティを組んでおらず、組んだら人間関係が大変そう」という語りのほか、A氏、C氏、D氏からも、コミュニティを組んでおらず、自分の周りにそのようなファンコミュニティが存在していない、コミュニティに入る機会がなかったという語りを得た。また、コミュニティを組むことでそのメンバーとの人間関係や、メンバーに合わせることができるか不安に思うと述べている。

 これらの語りより、女性アイドルグループのファンはファンコミュニティを形成し、積極的に交流を行っている傾向にあるのに対し、ジャニーズアイドルファンはコミュニティを形成することに対して消極的な傾向にあることがわかる。他のファンとの人間関係に対して、より注意を払っていると考えられる。


 

第四節 分析のまとめ

 E氏は推し被り拒否に関して否定的な見解を持っていた。女性アイドルグループのファンの間では、推し被り拒否はファングループの中で人間関係を壊してしまうものとして捉えられており、グループ内の人間関係を良い状態に保つために、暗黙のルールとしてそのような発言は禁止されている場合があると分かった。また、女性アイドルグループのファンは各種イベントで近くへ会いに行ったり、握手をしに行ったりといった行動ができる。そのようなイベントで独占欲を満たすことができるため、推し被り拒否のようなものが生じにくくなり、その結果そのような存在は稀有になるため、推し被り拒否をするファンに対して否定的なイメージを持たれやすくするのではないだろうか。

 そして、ジャニーズアイドルファンが他のファンと接する際に工夫していたことと同様に、女性アイドルグループのファンにおいても、他のファンとコミュニケーションをとる際に工夫していることがわかった。その中で大きな要素となっているのが、「自分のファンとしての立ち位置」であり、その点を考慮しながらコミュニケーションがとられていた。ジャニーズアイドルファンはアイドルへの「思い」を重視していたのに対し、女性アイドルグループのファンは、アイドルに関する「知識」を重視していたという点では異なっていたが、それぞれが重視するものを意識して配慮している点は共通していた。

 相手と円滑なコミュニケーションをとるという点においては、ジャニーズアイドルファンと共通していた。ジャニーズアイドルファンも女性アイドルグループのファンも、他のファンと気持ちよくコミュニケーションをとるために気を配る様子が語られた。しかし、相手を不快にさせないようにするといった直接的な語りはジャニーズアイドルファンからは見られなかった。これは、自分が有名なファンであると捉えていたE氏であるからこその発言であると考えられる。ジャニーズアイドルファンにおいても、そのような自負があるファンからは同じような発言が見られると推測できる。

また、女性アイドルグループのファンはコミュニティを形成し、積極的に交流を行っている傾向があることが分かった。これは、ジャニーズアイドルファンへのインタビューと相反する結果であった。女性アイドルグループのファンが、コミュニティを形成し、アイドルの誕生日を祝う生誕祭の準備を行ったり、プレゼントを作成したりしているのに対し、ジャニーズアイドルファンはコミュニティを形成せず、他のファンと積極的な交流を持っていなかった。そのため、このようなコミュニティでの活動の有無が、ジャニーズアイドルファンと女性アイドルグループファンの一番端的な差異であると考える。このような差異が生じるのはいったいどうしてであろうか。この点について、次章から調査していく。