第三章 調査(1) ジャニーズアイドルファン

第一節 調査概要

最初の調査では、ジャニーズアイドルファンの考えを調べるための調査を行った。まず同担拒否という行動をとるファンの語りを調べるため、メディア分析を行った (第二節) 。検索サイトで同担拒否のファンのブログ等を検索して語りを探し、同担を拒否する理由や同担拒否になったきっかけなどを中心に分析していく。用いた検索語は「ジャニーズ」「アイドル」「ジャニオタ」「同担拒否」の4語であり、これらを組み合わせて調査した。調査を進めていくうち、「トラウマ」という語を付け足し、さらに調査した。取り扱うブログは以下の通りである。

 

ブログ1:「嵐の前の静けさ」http://arashinomae.blog.fc2.com/blog-entry-42.html

ブログ2:「おっかけつらい。」http://mallow.hatenablog.com/entry/2014/04/10/005054

ブログ3:「だぁくんとのぁ。」http://mamacrooz.com/ariokarunoa/ShowArticle?no=4

ブログ4:ブログ名不明(1)http://x55.peps.jp/a0911s0711/diary/view.php?cn=4&tnum=3

 

 次に、同担を拒否しないファンの語りを調べるため、インタビュー調査を行った (第三節)

今回の調査では20代前半のジャニーズアイドルファン5名にインタビュー調査の依頼をした。いずれも同担を拒否する行動はとらないファンである。以下はインタビュイーの概要である(情報は第一回インタビュー当時のもの)。また、このインタビューは他の学生と共同で行ったため、筆者以外のインタビュアーが発言した箇所は、その個人名ではなく、「インタビュアー」と記すこととする。

 

31 ジャニーズアイドルファン インタビュイー概要

 

性別

年齢

担当

ファン歴

A

21

大野智

7年目

B

20

大野智

6

C

21

相葉雅紀

7年目

D

21

相葉雅紀

5年目

G

22

SMAP 中居正広

5

G氏は第五章で追加したが、ここにまとめて記載した。


 

第二節 同担を拒否するファンの語り

 メディア分析を行った結果、ブログ等の存在から、同担を拒否するファンは一定数存在することが分かった。徳田(2010)はファンが同担を拒否する理由を「担当に対して恋愛と似た感情を抱くため」としていたが、本調査で得られた同担拒否のファンの語りから、同担拒否という行動をとる理由には主に二種類あるのではないかと推測することができた。

 

第一項 疑似恋愛感情等と、それに伴う独占欲や嫉妬からくる同担拒否

 徳田(2010)が述べていたように、「担当」へ抱く疑似恋愛感情等と、それに伴う独占欲、嫉妬から、同担拒否という行動をとるファンが存在すると分かった。以下に記述を引用する。

 

JUMPコンの時には、

「伊野尾(2)ウチワがなくてよかったって思ってる・・・?」

確かに、私の隣の人がいのちゃん(1)担当で、

もしもその人が、ファンサとか貰ってたら嫉妬で自爆死確定だな。

(中略)

翔さん(3)ファンは多すぎて、もう「みんなの翔さん」状態に慣れてるんだけど、

いのちゃんて、もちろんスーパーアイドルだけど、まだ一般知名度低いせいか、

私のいのちゃん感覚が抜けてないんだろうねえ。

こういうのが、同担拒否という感覚の始まりなんだろうね。

(ブログ1)

 

 このファンは、自分が応援するアイドルのコンサートへ行った際、自分の担当のうちわを持っているファンが少なかったことに対し「よかった」と感じた。また、自分の周りに同担がおり、そのファンがアイドルからファンサービスを受けている仮定すると、その同担に対して激しい嫉妬の感情を抱くだろうと語っている。

 この語りより、このファンは同担である別のファンがアイドルからファンサービスを受けていたら嫉妬してしまう、アイドルに対して「自分の〜(アイドル)くん」という独占欲を持っていると分かる。(このファンは自分が同担拒否だとは認識していなかったが、無意識で同担に対して拒否反応を示していたと語っていた。)

 このように、担当へ疑似恋愛等の感情を抱いたことにより、同担である別のファンが嫉妬の対象になる、あるいはアイドルに対する独占欲が生まれる事例がみられた。このようなファンは、同担と関わりを持つことにより嫉妬や独占欲を抱くといった不快な思いをすることになる。そのため、不快な思いをする場面から自分を遠ざけようと同担を拒否するのではないだろうか。実際に、自分が不快な思いをしないように同担を拒否するという次のような記述も見られた。

 

私はこの同担拒否が単なる独占欲からではないかとずっと思ってきました。しかし、最近になりようやく、それだけでないことに気付いたのです。一生懸命推しを応援する過程で、同担の存在が私を憂鬱にさせることが増えてくる

(中略)

私の場合、「同担拒否」をしたくなるのは自分が嫌になった時です。
つまり、同担に嫉妬してしまった時。その時「こんな自分は嫌だ! 自分はいつも余裕を持った大人のファンでいたい」という理想からかけ離れた自分を見ることになってしまい、ひどく落胆するのです。

(中略)

嫉妬してしまう自分が嫌になるので、そんな自分になるのが嫌で同担拒否をしてしまうのです。

(ブログ2)

 

 このファンは、アイドルを応援するなかで、同担に対して嫉妬の感情を抱く場合があり、そのようなときに、理想のファン像から自分が遠ざかっていくことに対して落胆してしまう。そのような思いをしないようにするために同担を拒否するとしている。

この語りから、同担と関わりを持つことで嫉妬という感情を抱くだけでなく、それにより自分が落ち込むことを恐れて同担を拒否していることがわかる。先ほども述べたが、嫉妬や独占欲を抱くといった不快な思いをしないようにするために同担を拒否していると考えられる。

 

第二項 同担とのトラブル等によるトラウマからくる同担拒否

 第一項で述べたものとは異なり、同担と親しくしていた過去があるが、同担とのトラブルからトラウマが生まれ、同担を拒否するという行動をとるというファンも存在すると分かった。以下に記述を引用する。

 

ホントゎ同担拒否なんてなりたくなかった
もっとたくさんの同担様と絡みたぃ
でも前みたいに裏切られて色々言われるんゃなぃか…
大ちゃん(4)大ちゃんって自慢してくるんゃなぃか…
自分の都合で人を責めるんゃなぃか…
怖くて頭も体も言う事聞いてくれへん

始めゎ(中略)めちゃくちゃ仲良しゃった
でも感謝祭に一緒に行った時からなんかぉかしくて…↓初対面です))
すごぃぅちを無視するし、なんかィジリ加減ができてへんからすごぃ傷つぃたし、ぅちが取った銀テを鞄から盗むし、
(
中略)
信用無くすょな

しかも異常なだぁくん自慢…
ぅちに喧嘩売るかのょぅに私ゎだぁくんの特別をァピ 
ま、ぉ前にゎ無理ゃけどな発言

そんなこんなで同担拒否になってしまった
(
中断)
同担拒否なんてなりたくなかった

(ブログ3)

 

 このファンは、親しくしていた同担のファンがいたが、一緒にアイドルのイベントに参加した際に、相手から無視や盗難等のひどい扱いを受け、それがきっかけとなり同担拒否になったと語っている。

 この語りから、初めは同担のファンと良い関係を築いていたが、付き合っていく中で発生したトラブルによって同担に対するトラウマができてしまい、それ以降同担と交友関係を持つことができなくなったとわかる。「同担拒否なんてなりたくなかった」としめられているところからもわかるように、初めから同担を避けようとして避けるのではなく、トラウマが原因でやむを得ず避けている。また、次の記述も、過去の同担とのトラブルがきっかけとなり同担拒否になった例である。

 

私はその身内ちゃんが本当に大好きでした。
(
中略)
普通に絡んでむっちゃのろけあって2人の、章ちゃん(5)への愛ゎお互い認めてました。
だけど私がそう思ってただけみたいでした。
(
中略)
やっぱり、めーると会うのとゎまた違うのかケンカになりました。

(中略)
私の章ちゃんへの愛は本気です。けなしたりできない程大好きなんです。
そんなに好きな担当を目の前でけなされたら(中略)私は大声で反論しました。

すると
『なんやねん。後輩のくせに。しかもヤス(4)をけなしたりできひんねんやろ?反論すんな』
っていわれました。
けなさないと好きってことにならないと言われたみたいで私は悔しくて
『好きなんやったらけなさんとって!!
って叫んでしまいました。
すると平手打ち。ありえへんくないですか??
もうこれっきり連絡もとらんくなりました。
だから私は同担拒否です。

(ブログ4)

 

 このファンは、親しくしていた同担のファンがいたが、愛しすぎるあまり貶すことができないブログ筆者と、貶すことも担当への愛の一種だとする同担のファンと意見がぶつかってしまったことが原因で、同担を拒否するようになったとしている。

この語りからも、良い関係を築いていた同担のファンとのトラブルが原因で、それ以降同担とかかわりを持つことができなくなったことがわかる。この事例では、同担拒否のファンと、そのきっかけとなった同担のファンは先輩後輩の間柄であった。信頼していた同担と言い合いになり受けた精神的ダメージにより、同担を拒否するようになった例である。これらの事例の他にも、同担とのトラブルからくるトラウマでそれ以降同担を拒否する行動をとるようになったファンは多数みられた。

 

 これら第一、二項の事例よりこの節の分析をまとめると、ジャニーズアイドルファンが同担拒否という行動をとる理由として、「トラブルや不快な思いを避ける」というものがあるのではないかと考えられる。同担と関わりを持つことで、自分の中に嫉妬や独占欲などの消極的で不快な気持ちが生まれたり、なんらかのトラブルが発生して不快な思いをしたりすることを避けるための手段として、「同担を拒否する」という行動がとられているのではないだろうか。


 

第三節 同担を拒否しないファンの語り

 第二節では、メディア分析を用いて同担拒否という行動をとるファンの語りについて分析してきた。そして、きっかけは違えども、同担拒否という行動をとる理由には「トラブルや不快な思いを避ける」というものが含まれているのではないかと分析した。

しかし、ジャニーズアイドルのファンには同担を拒否する行動をとらないファンも存在する。それでは、同担を拒否する行動をとらないファンには、そのようなトラブル、不快な思いを避ける行動は見られないのであろうか。

 この節では、同担を拒否しないファンの語りを調べるため、インタビュー調査を行った。インタビューを分析していく中で、同担を拒否しないファンにも、他のファンとのトラブルや不快な思いを避けるため考慮されていることがあるとわかった。

 

第一項     他のファンとの人間関係

 ジャニーズアイドルファンは他のファンと交流する際に、他のファンとの人間関係を考慮していることがわかった。以下にその様子が語られた語りを引用する。

 

山口:(中略)(アイドルのことを)すごい好きだって言ってるけど、全然なんかグッズ買ったりCD買ったりまでしてないっていう人に対する、なんか…嫌な気持ちとかっていうのは、特にない。

A:それがたぶんあたしなので、なんていうんですか…(中略)自分がファンといっていいのかっていう気持ちはあります。ファンまでいくのかなって思ってます。

 

山口:(ファンの集まりが)あったら行こうと思いますか。なんか…。

A:んー行きたい気持ちもあるんですけど、さっきも行った通りあんまり、すごい、すごいすごい詳しいってわけじゃないので、なんかついていけるかなとか、申し訳、ないなっていうのもあります。

 

 A氏は、他のファンから見て自分がファンと言っていいのか、他のファンについていけるか不安で申し訳ない、といった気持ちを抱くと語っている。

これらのふたつの語りから、自分がアイドルに対して他のファンより、ファンとして「劣っている」と感じることによって、他のファンに引け目や申し訳なさを感じていることがわかる。そのため、他のファンへの遠慮をしているように感じられた。これは、自分が他のファンよりもファンとして「劣っている」とみられたときに、他のファンとトラブルになったり、自分が不快な思いをしたりする可能性を考慮していると考えることができるのではないだろうか。

また、他のファンとグループを作る際の人間関係の考慮についての語りが以下である。

 

山口:アイドルのファンの友達と、(中略)いつもこのメンバーで活動してるなみたいな、(中略)そういう仲間みたいなのは、あんまり特にないですか。

B:ないーですね。

山口:(中略))そういう人(グループを組んでいる人)を見て、どういう風に感じますか。

B(中略)そこまでして、なんかー同じ時間を共有…せんなん必要はあるかって考えると、別にいいかなっていう…(中略)

山口:じゃあ、あのーえっと、自分が、そこまでして同じ時間をファンの人たちと共有しようと思わないっていうのが…組まない理由ですかね。

B:うーん…そう、かもしれないです。なんかグループつくろうみたいなん思って、集めたいみたいな気持ちはないので。

 

インタビュアー:あえて、(コミュニティを)つくって時間を共有する必要性があるかどうかみたいな話題があがったと思うんですけど、やっぱりそれってなんか、そういう一緒に活動することに対してなんか、やっぱり…(他のファンと一緒に活動するのは)大変そうとかいうイメージあるからですかね。

B:そうですね。なんか…けっこう、大変そうやなって思うし、なんかーきっと、すごいいろんな情報を知ってて、なんか知らんだら、ばかにされるんじゃないかみたいなのはありそうだし、(中略)アイドルを応援するためにつくっただけのグループだったら、別に人間関係も怖そうだなって思うし()

 

 B氏は、他のファンとグループを作ることによって、自分が馬鹿にされるのではないかという不安を抱えており、人間関係についても不安を持っているため、あえて他のファンとグループを作って時間を共有する必要性がないと述べている。

この語りから、自分が馬鹿にされてしまうことや、グループ内の人間関係について恐れていることがわかる。グループを組むことによって、人間関係でトラブル等が起こる可能性を考慮して、自分が不快な思いをすることを避けるためあえてグループを組む必要がないと考えているとみられる。

 

第二項     他のファンとのコミュニケーション

 ジャニーズアイドルファンは、他のファンと交流する際、コミュニケーションを工夫していると分かった。以下は、他のファンと接する際に、「担当」を意識して注意していることがあるかという質問に対する語りである。

 

D:なんか、うーんと…ものすごい仲いい子とかだったら、自分の好きなものについて、けっこうばーっとしゃべれるんですけど、うーん……まあ、出会ってそんな日がたってないっていうか、出会ったばっかりとか、そういう子とかだったら、相手の好きなも、相手の好きなものについてむしろ積極的にふるようにしてます。

 

D:なんか、うーん…どっちかっていうとなんか、自分の好きなものをつたえ、伝えたいっていうよりはなんか、楽しく、なんかお互い気持ちよくお話したいっていうのがあるので。そうですね…他の人が担当っていう子がいたら、そういうことを意識して、話すようにしてます。

 

 D氏は、同担(仲のよいファン)には自分の好きなものについて話せるが、他担(出会ったばかりのファン)と話すときは相手の好きなものの話題を積極的に振り、相手の担当によって話題を調整すると語っている。

この語りから、他のファンと話すときに、相手との関係や担当を考慮してうまく話題を振るようにしていることがわかる。他のファンと話す際に、お互いが楽しく気持ちよいコミュニケーションができるようにすることで、相手とのトラブルを避け、不快な思いをしないようにしているのではないだろうか。

 

 これら第一、二項の語りよりこの節の分析をまとめると、同担を拒否しないファンであっても、他のファンとのトラブルや不快な思いを避けるために考慮しながらアイドルを応援していると言えるのではないだろうか。同担を拒否しないファンが、他のファンとのトラブルや、自分が不快な思いをしないように工夫して他のファンと関わりを持つことは、同担拒否をするファンが、トラブルや不快な思いを避けるために同担を拒否することと同じような意味を持っていると考えられる。


 

第四節 分析のまとめ

 この章では、ジャニーズアイドルファンの考えを調べた。ジャニーズアイドルファンには、同担を拒否する行動をとるファンと、拒否する行動をとらないファンがおり、その両者の語りを調べた。

同担を拒否するファンの拒否行動には2パターンあることがわかった。第一は疑似恋愛感情等と、それに伴う独占欲や嫉妬からくる同担拒否、第二は、同担とのトラブル等によるトラウマからくる同担拒否である。この2パターンは、発生源は異なるが、どちらも同担と関わることによって生じるトラブルや不快な思いを避けるために行われていると言える。

 そして同担を拒否するファンの行動と同様に、同担を拒否しないファンにも、トラブル、不快な思いを避ける行動が2パターン見られた。第一は、他のファンとの人間関係を考慮しているというもの、第二は、他のファンとのコミュニケーションを工夫するというものである。

 このように、同担を拒否するファンと同担を拒否しないファンには、他のファンと関わる上での行動に差がある。しかし、その行動に違いはあっても、同担を拒否する行動をとるファンは同担を避けるという行為、拒否する行動をとらないファンは他のファンとのかかわり方を工夫するという行為で、アイドルを応援する際のトラブルや不快な思いを回避しているという点は共通していることが分かる。同担を拒否するファンは、他のファンとの「アイドルへの思い」での競争、同担を拒否しないファンは、「アイドルへの思い」に対する配慮をしているのである。