第一章 問題関心

 現代の若者はキャラを用いたコミュニケーションをとることが多い。人によって程度の差はあるものの、若者は自分がどのようなキャラであるかを自覚し、コミュニケーションをとっている。

数あるキャラの中から「いじられキャラ」に焦点を当て、話題となった『りはめより100倍恐ろしい』(木堂,2006)という小説がある。このタイトルには、いじ「り」はいじ「め」より100倍恐ろしいという意味がこめられている。この物語で主人公は、人気者と「いじられキャラ」は紙一重であると主張している。かつて主人公は「いじられキャラ」となったことで、表面上は周囲の人から好かれるようになるものの、実情は見下され常にピエロとして嘲笑され続けたと感じたためである。またタイトルにもあるように、いじりはいじめより恐ろしいと述べている。なぜならいじめは加害者の側に罪悪感があるため、ふと止まる可能性がある。しかしいじりは加害者の側が罪悪感を抱いていないので、止まることがない。さらにいじめであれば外部の人が気づき、介入して止めようとしてくれるかもしれないが、いじりは外部から気づかれにくいので逃げ道が無い。そのため主人公は進学先の新しい人間関係の中では「いじられキャラ」にならないよう、あらゆる手段を講じていた。

作中では「いじられキャラ」は忌避すべき役回りとされていたが、実際の若者たちも「いじられキャラ」をそのように捉えているのだろうか。実際の「いじられキャラ」に対する認識とは、ずれが生じているように感じた。そこで、実際のいじりに参加している若者を対象としたインタビュー調査を通じて、若者は「いじられキャラ」をどのようなものと認識しているのかを明らかにしていきたい。