第三章 調査概要
第一節 調査対象とする活動事例
第一項 富山の「日常」を、女子が自ら綴るリトルプレス
本研究では、富山県内において、女性のみでリトルプレス『itona』を発行している活動を対象に調査を行う。リトルプレスに関しては、第二項で説明する。
『itona』は、富山県在住の20代から50代の女性達によって作成されている。富山市在住であり、編集長を務めている明石あおいさんの発案により、2012年8月31日に第1号が発行され、現在第4号まで継続している。県内の観光スポットや富山の食・風景・生活環境、祭のこと、郷土文化に至るまでを、メンバーの女性達が自ら取材し、自分達の目線で紹介している。
編集に携わっている女性達は陶芸家、インテリアコーディネーター、建築家、野菜ソムリエなど職業は様々で、年齢や立場も人それぞれ異なっている。また、住む場所も富山市、上市町、立山町、南砺市、氷見市等県内各地に点在している。
また、県内16か所(例:紀伊国屋書店、BOOKSなかだ、リバーリトリート雅楽倶他)に加え、東京都4か所、石川県1か所、長野県1か所、大阪府1か所、兵庫県1か所において、1500円(税抜)で販売されており、Webでの注文も可能となっている。
第二項 リトルプレスとは
個人や団体が、制作から流通までを手掛ける冊子のことで、別名小出版と呼ばれている。2005年頃から誕生したといわれており、販売地域や流通チャンネルが、限定されていることが多い。大手の流通ルートには乗らず、発行部数も数百〜数万部と規模は小さめ。趣味やライフスタイルなどを発信する目的で、作られるものを指す。
第二節 itonaに関わる女性達の特徴
itonaの制作に関わる女性達は、第4号発行の時点で19名となった。そのメンバー達に見える特徴を、いくつか挙げておきたい。詳しくは、第四章第二節第一項で表にまとめておく。
年齢:30代〜40代の女性で主に構成されている。
職業:女性達は、それぞれ特徴的な仕事に就いていることが分かる。一言でイメージが湧くような職種名もあれば、仕事内容が想像しにくいものと様々だ。
出身地:富山県出身者の女性が主であるが、19名中4名が県外出身者、1名が他国出身者。
Uターンor移住:19名中、Uターン者は13名、移住者が5名、県外在住者が1名と読み取ることができる。
第三節 itonaの詳細情報
第一項 itonaの構成
itonaは、A5版160ページで構成されており、基準として1人6ページ分担当している。文章、写真に至るまでは、すべて執筆する女性達に任せられており、書き手が原稿を仕上げ、明石さんに提出する方式である。毎号、大まかなテーマは設定してあるそうだ。
第1号:「女子13人分の富山」
第2号:「雪国、だからこそ」
第3号:「乗り物天国、富山」
第4号:「山に富む県。」
第二項 執筆者の報酬
報酬に関してだが、書き手のitona女子の方々には、物品支給の形がとられている。約8000円の謝礼として5冊を無料で渡し、同時に販売権利を委託する形をとっている。支給された分すべて販売するという方もいれば、誰かにプレゼントする方もおり、各々で活用方法は異なっている。
第三項 itonaの収益面
発行部数(2015年10月21日現在)
1号:5000部
2号:2000部
3号:2500部
4号:2500部
発行にかかる経費
約200万円強
(印刷代、翻訳料、イラスト製作費、はさみ込むしおりの代金等、最低限のものだけで考えた場合。)
実際の利益、売上状況
itonaの売上は、±ゼロもしくは赤字の状態であるそうだ。しかしこの状態に関し、明石さんは以下のように語っている。
毎月出るような雑誌と違って、新しい号が出たら前号が古くなっちゃうってわけじゃなくて、もう何年も前だけど、また1号読みたいって言って、全部買ってくれる人とかも多いので、時間が経つほど1号分が損益分基点を超えて儲けにつながってるんですね。だけど、2号目はまだちょっと、もうちょっとかなあとか。
現時点で赤字だとしても、毎月最新号が出るような雑誌とは異なり、itonaはどの号も古くなりにくい。そのため、年数を重ねていく中で、前の号が読みたいといった人が表れる場合もある。それが積み重なって実際の利益として加算されていくように、長い目で見た場合に、徐々に収益へとつながっていく部分もあることが分かった。