第四章 分析

 

第一節 企業の特徴からの分析

 はじめに、それぞれの企業が持つ特徴を踏まえながら、中小企業の女性についておおまかな全体像を見ていこうと思う。

 

 

第一項 業種・職場の特徴

 

まず、業種の異なる二社の違いについて分析していく。

(中略:調査協力者の要望により、この部分は非公開とする。) 

ビルメンテナンス会社は、清掃サービスやビル管理などを中心に扱う企業である。正社員の比率は男性のほうが多いが、現場のパート社員は女性が多い。本社も現場も、どちらかというと女性が優位であり、そのため職場も女性色が強いようだ。その一例としては、インタビューをした管理職女性の方が「結局は家庭が大事」という風に話していたことが挙げられる。

 

 

 

第二項 女性社員の立場

 

(中略:調査協力者の要望により、この部分は非公開とする。)

ビルメンテナンス会社では、女性でなければ務まらない仕事が存在している。もちろん、清掃の仕事は男性でもできる。しかし、Dさんはトイレ掃除を例に挙げ、女性用トイレを男性職員が掃除することは、利用者にとってあまり気持ちの良いものではないということを話していた。また、比較的若い女性社員は医療現場の補助的な仕事や、受付の仕事をしている。そうした点も、女性が優先される分野であると言える。

 

 

 

第三項 中小企業の仕事の特徴

 

ビルメンテナンス会社のインタビューの中で、この企業の特徴として、DさんとFさんが口を揃えて「人に仕事がついてくる」ということを話していた。これは、大企業のように一定の知名度・顧客の信用があり、安定した仕事量や売り上げが確保しやすい状態ではないことを意味する。自ら積極的に営業に回り、同業他社との厳しい競争を勝ち抜かなければならず、とても厳しい状況である。清掃の仕事は、サービスの質、価格、技術レベルによって優劣がついてしまう。そのため、この企業では自社のレベルを高めるため、定期的な研修を受けたり、最新の清掃技術を取り入れる努力をしたりと、積極的に改善に取り組んでいる。

 

 

 

第四項 この節のまとめ

 

こうした企業の持つ特徴から言えることをまとめる。まず、2社において会社内での「女性の活躍」の意味合いは違っているように思われる。社内での女性の役割の違いがあれば、そこからの活躍の条件も違ってくるだろう。(中略:調査協力者の要望により、この部分は非公開とする。)初めから女性の就ける分野を決めず、やる気のある社員には積極的に新しい仕事を任せていくことが大切である。

ビルメンテナンス会社は、清掃・サービス業という、女性が活躍している分野であり、女性の職域の拡大も、比較的進んでいると考えられる。このような業種においては、女性社員一人ひとりの要望や適性をしっかりと見極めた上で登用に踏み切ることが、女性管理職増加のカギとなりそうである。つまり、前者は期待で進歩でき、後者は工夫で進歩できると言えるだろう。

 また、ビルメンテナンス会社で語られた「人に仕事がついてくる」という中小企業の特徴も、大きな可能性が感じられる。あらかじめ個人の仕事が決まっていないため、与えられた仕事をこなすというよりは、社員が自ら工夫を凝らして仕事をしなければならない。こうした仕事の特徴も、社員が能力を発揮したり、多くの困難を経験したりすることに繋がるのではないだろうか。


 

 

第二節 経営者の意識

 

ここから、先行研究で浮かび上がった、女性の活躍のための4つの要素<@経営者の意識、Aジョブローテーション、B適切な評価、C企業のさらなる向上への期待>を、インタビューから分析する。まずは、経営者の意識について見ていく。

 

 

 

第一項 女性管理職の増加

 

(中略:調査協力者の要望により、この部分は非公開とする。)

ビルメンテナンス会社は、当初から女性がある程度活躍していたこともあり、過去から現在に至るまで、女性の活躍について大きく変わったということはないようだ。しかし、「ポジティブ・アクション応援サイト」によれば、この企業は平成188月に財団法人21世紀職業財団主催 業種別使用者会議メンバーになった。この財団は、雇用環境の改善を通して経済社会の発展を目指すことを目的とした団体であり、主に女性社員の活躍推進、ワーク・ライフ・バランスの整備体制づくりなどを支援する活動をしている。この企業が会議メンバーになったことは事実であるが、これは9年前のことであり、当時担当していた社員の方は現在では在籍していない。そのため、当時企業が必要性を感じて自ら参加を申し込んだのか、団体から案内を行って参加に至ったのかは不明である。Dさんは、ここ5年で女性管理職が増えたと話していたが、この会議がきっかけとなったのかは明らかではない。

 

 

 

第二項 社風や雰囲気の変化

 

 ビルメンテナンス会社では、ここ56年の間に社長や上部の社員が頻繁に変わることがあり、それがきっかけで本社の雰囲気が大きく変わったという。この会社は、かつてはとても意見が通りにくかったそうだ。上司の考え方も、古く堅いものが多かった。しかし、社長が変わったことで、その状況は一転し、意見や考えも自由なものになったという。それについてのEさんの語りが以下である。

 

やっぱり上が変わったんで、風通しがよくなったというか、相談しやすいような状況だよね。(Fさん:うん)昔は何か言うと「何言ってる」とか、「そんなこと言うもんじゃない」とか、押さえつけられた部分はありましたけど。今の社長は全然、そういうの全くないので。風通しがよくなったね。

 

 社長、上部の社員が変わったことで、発言や相談が以前よりしやすくなったことが語られている。昔は言いたくても言えないといった制約があったようである。Eさんの語りからも分かる通り、社長の考え方は社風や職場の雰囲気に大いに関わっているようである。

 

 

 

第三項 この節のまとめ

 

ここまで、経営者の意思や考えが、企業の内部にもたらす影響力について見てきた。経営者の考えや意識が会社や社員にもたらす影響は非常に大きいことが分かった。大企業には多くの部署があり、社員数も多いゆえ、各部門に上司がいる。そのため、経営者の考えた方針が細部にまで浸透する可能性は低いだろう。一方で、中小企業では、社員数も少なく、経営者と社員の距離も近い。経営者が社員に直接自身の考えを伝える機会も多いと思われる。つまり、経営者の影響力は、企業の規模に関わらず強いものであることが分かる。

 

 


 

節 ジョブローテーション

 

次に、今回調査した企業においても定期的なジョブローテーションが行われているのかを見ていく。

 

 

 

第一項 中小企業の人手不足

 

まず、企業の人手はどのような状態なのだろうか。

(中略:調査協力者の要望により、この部分は非公開とする。)

ビルメンテナンス会社では、毎年新卒採用を募集するということはなく、中途採用やパート採用での募集が主である。注6 Dさんは、人手が欲しい状況ではあるが、あまりコストはかけられないという葛藤があることを話していた。

 

 

 

第二項 社内移動・ローテーション

 

前項では、両社とも人手不足に悩んでいることが分かった。では、実際の社内での異動やジョブローテーションの状況はどうなっているのだろうか。

 (中略:調査協力者の要望により、この部分は非公開とする。)

ビルメンテナンス会社では、異動がある分野は主に営業である。その理由としては、自社のサービスをお客さんに売り込む際のアピールポイントを知ったり、サービス内容の知識を習得したりするためのものだ。営業以外の分野では、基本的に異動はないという。しかし、同じ分野の社員にはなるべく仕事の共有を図っているという工夫が見られた。これは制度として確立しているものではないが、必要になったときや、引継ぎのタイミングが合ったときなどに行われる。仕事の割り振り方としては、簡単な書類の作成のようなものは誰にでも任せるが、他はある程度の個人の力量や得意分野を見極めた上で、割り振りを行っているという。このような工夫の主な目的は、コストの削減である。それについてのDさんの語りが以下である。

 

 例えば、「ここの仕事のここの部分」は、担当している人が専門でやってたところがあったんで。(中略)そこにおいては、お互いに協力体制ができるところで、仕事の量が増えたときは、お互いに協力してそれを対応していこうということができるからだと思います。・・・やっぱり、みなさんの仕事の力量はみんな個々に違うってところがありますので、対応できるかどうか見極めるっていうことはありますね。

 

(中略)どうしても、「一人が一つの仕事を」ってことになってくると、私どもも企業ですんで、一人分のボリュームをもっと大きくしないと。一人で二人分の仕事をカバーできるという形にすれば、コストも抑えられるし、利益も出てくるしというところがありますので。その辺を考えていくような形をとっていると思いますね。

逆に今度、非常に景気が悪い中で、募集してもなかなか集まらない、人手が足りないということもありますので、そうするとやっぱり、もう少しボリュームをつけなければいけないというところもありますので。

 

 

 ビルメンテナンス会社では、かつて社員一人ひとりの仕事の専門性が高く、負担が大きかったという。そして、そのような体制ではコストがかかってしまうため、協力体制という形で、少しずついろいろな分野の仕事を担当するようになった。そして、仕事を任せる際は、ある程度個人の力量を見て、適性を確認しているという。

 Dさんの話しているこの会社での協力体制は、先行研究で取り上げたような、社員のキャリアアップのための計画的・大規模なジョブローテーションではない。あくまで、ほかの社員の仕事をカバーするための、いわば守備範囲の拡大のようなものである。そしてこれは、コスト削減のためのものである。しかし、Dさんはそうした取り組みから、相乗効果として社員も色々な仕事に適応できるようになるのではないかということも話していた。

 

 

 

第三項 協力体制

 

今回調査した企業2社に共通していたのは、協力体制である。休暇等でできてしまった仕事の穴を埋めたり、助け合ったりするといった、協力体制の様子が両社に見られた。

ビルメンテナンス会社では、管理職女性のFさんから、前項で触れたジョブローテーションの中で仕事を補い合う様子が、以下のように語られた。

 

確かにお互い助けられるっていうのはある(Eさん:そうだねえ)。皆近い距離で。私の部署の場合は、ある程度他の人がカバーできる状態にあるんで。誰か何かあれば代わり、っていう対応ができるようなシフトができてるんで、その辺は非常に有効かなって思います。(中略)もともと私たちの会社って、どっちかというと、人に仕事がついてきてたんですね。だからあんまり変わらない仕事で部署だけ変わってるっていう実情なんですけども。

(中略)私たちの業務管理の場合は、女性がほとんどでできてるんで、今までやってた仕事と違う仕事を今やってる人もいるんで。ある程度みんながこう、持ち回り異動になって、変わってる仕事をやってるもんですから。私たちはそこらへんが、結構スムーズに行ってるのかなと思います。逆に、人事のほうは、本当に2人しかいないので、(Eさん:そうなんですよね)にっちもさっちも行かないのかなとは思いますけどね。

 

 本章第一節第三項でも取り上げた、「人に仕事がついてくる」という語りがある。これを、仕事の面ではなく人事評価の面から分析すると、能力の高い人は自然といろいろな仕事を任されるということだと思われる。「あんまり変わらない仕事で部署だけ変わってる」という語りは、基本的に事務的な仕事を積み重ねてきたということであると考えられる。また、「結構スムーズに行っている」という語りからも、異動の効果と思われるものも伺える。しかし、この会社においては、ジョブローテーションと同等の効果があるは言いきれないだろう。Fさんは、ジョブローテーションで自信をつけるというよりも、協力体制という企業からの要請に応えられるようになることで自信をつけるという捉え方をしているように思われるからだ。一方で、人数が少ない部署になると、協力体制すら築くことが難しくなってしまっているようである。協力体制は部署によって差があり、会社全体に拡大できているわけではないようだ。

 

 

 

第四項 この節のまとめ

 

ここまで、二つの企業の人手とジョブローテーションの状況について見てきた。

両社とも、慢性的な人手不足に悩んでいるが、その中でも工夫をし、労働力を確保していることが分かる。また、大きな異動が無い点も特徴である。もともと、2社には総合職・一般職といった区別がなく、特定分野での採用を行っているということもあり、社員は採用時の分野にずっと就くことになるのだろう。実際、2社の管理職女性についても、採用時と同じ仕事を何年もしてきたことで昇進している。つまり、色々な仕事を経験して昇進するという大企業とは違い、特定分野でのスペシャリストとなって昇進していることが分かる。人手が足りない分、その分野での仕事を一通り経験することで、その分野に特化した人材を固定していくというスタイルがとられている。そして、そのようなスタイルが、社員のあらゆる面での適応力を上げている。そしてそれは、長く働き続ければそれだけ、昇進の可能性が高くなっている。こうした特徴は、中小企業ならではだと言える。

 また、社員同士の協力体制についても、このような社員の適応を助長している。仕事の穴を協力して埋めるということは、本来自分の担当でない仕事を経験するということだ。このような経験は、よりその分野での知識を習得するのに役立つと言える。

 社員数が少なく、コスト意識が重要となってくる中小企業においては、これらの「スペシャリスト志向」と「協力体制」が、昇進に大きく関わっていると言える。先行研究に対する筆者の仮説である「中小企業では、制度整備が無くても女性管理職は増える」という可能性の中身は、この2点が大いに関係しているようである。つまり、大企業に必須のジョブローテーションは、中小企業には必ずしも必要ではないものだと考えられる。

 


 

第四節 評価のしくみと社員

 

次に、中小企業での人事評価や、管理職女性の人柄について分析していく。

 

 

 

第一項 企業の評価方法や視点

 

2社の人事評価の方法や工夫は、どのようなものなのだろうか。

 (中略:調査協力者の要望により、この部分は非公開とする。) 

ビルメンテナンス会社には、「自己申告制度」というものがある。この社内制度は、社員の要望や仕事の感想などを用紙に書いてもらうもので、用紙は人事担当が回収して読むこととなっている。実現可能な要望については検討し、実現に努めるそうだ。しかし、Dさんによると、申告の内容は主に異動申請や「このままでいい」というような声が大半であり、アピールや工夫を伝えるよりは、単純な感想を書く場となっているそうだ。そのため、この用紙に書いた内容がきっかけで昇進した人というのはめったにいないそうである。一方、「資格を取りたい」というような、前向きな意見については評価し、積極的に支援をするそうだ。Dさんは、実際に仕事に対する前向きな姿勢があるかどうかが、評価の上で最も重要だと語っていた。

 

 

 

第二項 管理職女性の人柄や考え

 

前項では、インタビュイーから、リーダーとなるべき人物像や、仕事への姿勢といった点が語られた。一方で、女性社員自身の考え方や人物像はどのようなものなのだろうか。ビルメンテナンス会社の管理職女性Eさん・Fさんの語りから分析していく。

 まず、2人に共通しているのが、前職があるということだ。Eさん・Fさんは、前職に不満をもって退職したのち、この会社に入社した。Eさんは、それまで働いていた公的団体の低賃金での長時間労働、「女性は正社員になれない」という条件に不満を抱き、正社員という条件を求めてこの会社を選んだ。一方、Fさんはこの会社に入るまで製造工場で働いていた。しかし、女性の職場特有の雰囲気やいざこざに嫌気がさして退職し、製造でない分野もいいのではないかという気持ちでこの会社を選んだ。

 次に、2人の家庭環境と過去の悩みについて触れる。Eさんは、ご主人のご両親と同居していた頃に「一家に主婦は2人いらない」と言われたことで、お子さんを産んだ後も働くことになった。また、Fさんは夫婦共働きではあるが、専業主婦は自分に向いていないという考えのもと、働き続けている。そのような中であっても、やはり家庭とのバランスや、責任からのストレスに悩んだこともあったそうである。Eさんは、責任ある仕事を任される不安やストレスで体調を崩したこともあったそうだ。また、Eさんのお義父さんの介護が必要になると、お義母さんが介護を担当していた。老老介護への不安や、帰宅後の空気の重さをEさんは心理的に負担に感じていた。ゆえに、仕事を辞めた方がいいか少し考えたこともあったという。当時、介護休暇も取得可能ではあったが、人数の少ない部署であったため、他の人に迷惑はかけたくないということで、取得はしなかった。Fさんは、Eさんと同じように、部下ができることへの不安はあったが、とにかく自分に出来る仕事をたくさんすることで自分を追い込み、不安を自然と解消していった。また、Fさんの旦那さんがそれまでの仕事を辞め、新しい仕事に就いたばかりの時は、長い間お子さんを家に一人にしてしまうことになってしまった。その際、仕事を辞めるか悩んだこともあったが、続けるという選択をし、現在まで続けている。

 最後に、Eさん・Fさんの仕事への姿勢について触れる。両者とも、仕事に対してとても前向きな方である。EさんもFさんも、もともと責任ある仕事がしたいと思ってここまで来たわけでは無いそうだ。むしろ、家庭に気が行ってしまうため、淡々と仕事ができればよいということを話していた。しかし、インタビューのお話からは、やるからには責任を持ってやろうという姿勢や、主体性を持って働こうという積極性が見られた。そのように感じられる発言が以下である。

 

Eさん:もう子どももいたんで、とにかく早く帰りたかったんですけど()(中略)・・・(キャリアップの希望は)なかったんですけど、職種的に、やっぱり給与とかだと勉強しないと全くできないところなので。まあ仕方なく勉強したというか()、せざるを得ないというか。研修会に行ったり、あの、本を買ったりなんかで、勉強しましたけどね。

 

Fさん:私もキャリアアップ云々というよりも、自分がこう、何だろう、興味を持って覚えること、そういうものについては、やっぱりとても意欲的にはなって。別にそれが、キャリアアップにつながるとかいう話ではないんですね。(中略)人よりいっぱいやっていかないと、ほんとに無理ですよね。人にやらせといて自分はやらないって、絶対それはできないじゃないですか。

 

Eさんは、経理の勉強を自主的に行ったそうだ。また、Fさんも、何かに興味を持って覚えたり、責任感の下で仕事をこなしたりしている様子がうかがえる。EさんもFさんも、家庭を守れればそれでよいというわけではなく、仕事も勉強や工夫をして、しっかりこなそうとしていることが伺える。このような心構えが、現在の役職につながっているのではないだろうか。

 

 

第三項 中小企業ならではの評価の環境

 

(中略:調査協力者の要望により、この部分は非公開とする。)

ビルメンテナンス会社のDさんは、基本的に市外への転勤がなく、落ち着いて仕事ができること、自分の能力を発揮できることが中小企業のメリットだと話していた。本章第三節第四項でも触れたが、総合職としての採用が無いこと、また、基本的に県内の企業を取引先としており、全国転勤の可能性が低いということが、そのようなメリットに繋がっていると考えられる。

 

 

第四項 この節のまとめ

 

この節では、評価と人物、つまり企業側と社員側の思い、そして両者のつながりについて見てきた。

 まず、Eさん・Fさんは責任感や主体性を持って仕事に取り組んでいる点が共通している。また、両者とも前職があったり、家庭の状況や考えが似ていたりもした。こうしたことは今回の偶然であったかもしれないが、このような要素も現在のキャリアに関与しているのではないかと思われる。一度勤めたところで自分の価値観や適性をしっかりと見極めたこと、様々な困難にぶつかったことなどで、一層自分の軸や考えがしっかりとしたものになったのではないだろうか。両者とも、特にキャリアアップしたいという思いがあったわけではないが、そうした経験や思い、環境が重なって現在に至っていると考えられる。

 企業としては、他の人とは違うもの、仕事への姿勢が高評価につながるということが話された。Eさん・Fさんについては、企業側の求めるような積極性や主体性があると言える。ゆえに、正当な評価がなされていると思われる。しかし、さらにより多くの社員の能力を引き出すためにも、目立っていい人だけに光を当てるのではなく、まだ明るみになっていない社員の魅力や長所にも積極的に目を向け、期待をかけて仕事を任せてみるという姿勢も必要であろう。

また、2社の特徴として、制度に縛られない柔軟な評価体制や、社員がのびのびと仕事ができる環境が整っていることが分かる。2社には、本章第四節第一項で紹介したような社内制度も存在しているが、そうした制度を通して見える外側の部分だけでは、社員の魅力や能力は完全に把握しきれないだろう。実際の仕事ぶりを見ることができたり、同じ職場の社員からの声・評価を実際に聞いたりできるという点は、より正確な評価につながると言える。

 


 

第五節 企業のさらなる向上への期待

 

大企業が女性活躍で効果を実感したものとしては、企業の生産性・社員のやりがいの向上などがあった。また、松井(2012)の調査でも、中小企業が女性活躍推進で感じた効果について人材確保、職場の雰囲気の改善、従業員の勤労意欲の向上という効果があった。このようなものは、今回の調査企業にもあてはまるのだろうか。

 今回調査した企業では、インタビュイーが会社の変化について把握しているケースが非常に少なかった。そのため、実質的に業績が向上したり、社内での変化があったりしたということは語られず、現状の変化を認識している様子は見受けられなかった。ビルメンテナンス会社のDさんは、女性の活躍を通して現段階で変わったことはないが、現在の工夫が、将来の戦力や経営の効率化に貢献しうるものとして、期待をしているようであった。