第九章 考察

 本研究はYouTuberYouTubeにおいて出現し、活動する理由とは何か、という問題関心のもと、YouTubeとニコニコ動画という二つの主要な動画共有サイトを比較しながら調査を行った。その調査の過程で浮かび上がったYouTuberが投稿する動画の特徴やYouTuberそのものについての特徴なども含めて、この第九章で記述していく。

 

第一節 YouTuberYouTubeにおいて活動する理由

 YouTuberYouTubeにおいて活動する理由についてであるが、これは第三章で触れたYouTubeの機能、運営の取り組みに大きく関係していると思われる。YouTubeにおいては投稿者が動画制作・投稿を行う環境が、ニコニコ動画などの他サイトに比べて整っており、投稿者への支援プログラムも充実していることが、多くのYouTuberYouTubeにおいて出現し、活動するに至った理由の一つではないかと考える。また、それだけでなく、YouTubeの運営側の投稿者育成という取り組みが実際に投稿者側で受け入れられ、活用されているという点も忘れてはならない。そして、UUUMをはじめとした大規模なMCNも登場し、企業とのマッチングも盛んに行われるようになったことも理由の一つとして考えてもよいだろう。

 

第二節 視聴者と投稿者の間の距離

 YouTubeには投稿者と視聴者との間に「双方向性」という関係性があると述べたが、この関係性は時に第八章で取り上げたような、炎上といった投稿者の立場を揺るがす状況を発生させる。そのためYouTubeの投稿者はニコニコ動画の投稿者に比べ、視聴者の反応に対し敏感なっているように思われる。その例として、UUUMの企業タイアップの提供表示が挙げられる。万が一、企業タイアップがステルスマーケティングと誤認されれば、視聴者が投稿者のコメント欄で多くの批判や意見を行い、大きな炎上と化してしまう恐れがある。そのため、投稿者は慎重にならざるを得ない。また企業タイアップの動画内容は、普段の投稿者の動画スタイルと大きくかけ離れたものとなっては、視聴者は離れていってしまう。投稿者のチャンネルのブランド力を欠くことになってしまわないように、なるべく普段と変わらないような動画内容にしなければならない。YouTuberにとって視聴者との距離というのが非常に重要であり、常に意識しなければならないのである。視聴者との距離をより親密にする手段として顔出しが挙げられる。顔出しすることにより、視聴者に親近感や信頼感を与えることができ、視聴者との距離を保つことができる。

 

第三節 動画投稿者の志向性

 筆者はYouTubeとニコニコ動画という二つの動画共有サイトを様々な観点から比較し、調査を行った。その結果、YouTubeとニコニコ動画で活動する投稿者には、それぞれに特有の志向性を有しているのではないかという結論に至った。この第三節ではそれぞれが有する志向性について説明していく。

 まずYouTubeの投稿者が有する志向性についてであるが、YouTuberは「プロデューサー志向」を有していると考えられる。YouTuberは運営が提供しているクリエイターハンドブックにのっとり、動画投稿を行っている。コンスタントな投稿によって、チャンネルの回転数を上げ、活発なチャンネルの運営を行っている。すると、YouTuberはチャンネル全体を運営、統括する者といった意味で、「プロデューサー」を目指していると言えるのではないだろうか。

 テレビ番組制作では、それぞれの過程に専門家が付き一つの番組を仕上げるが、YouTuberの場合、個人でチャンネルを運営している者がほとんどであるため、すべての過程を一人でこなさなければならない。そういった点からも、YouTuberはチャンネルの運営、管理を目的とするプロデューサー志向であると言えるのではないだろうか。

次に、ニコニコ動画の投稿者が有する志向性について、ニコニコ動画の投稿者はYouTuberの「プロデューサー志向」に対し、「クリエイター志向」を有していると考えられる。第六章で述べたように、ニコニコ動画の投稿者は活発な動画投稿よりも、より質の高い動画制作を目指している。自身のチャンネルの活動や管理よりも、動画一本一本の質の高さを重視しているように思われる。よって、ニコニコ動画の投稿者は、純粋に創作、制作活動を行う者という意味でクリエイター志向であると言えるのではないだろうか。

YouTubeとニコニコ動画で活動する投稿者は、両者とも動画投稿者という同じ立場ではあるものの、動画を投稿する意識や意味合いといったものはかなり異なっているということが分かる。

第二章で触れたように、宮向(2014)はニコニコ動画では投稿者がプロデビューする事例が多い理由について、ニコニコ動画はタグ機能や、ニコレポ、充実した検索機能などにより、「発掘の場」、「活動の場」として機能しているからであると主張していた。筆者はニコニコ動画の投稿者はクリエイター志向を有していると述べたが、ニコニコ動画において活動していた者が、プロデビューするという事例が多いのはニコニコ動画の機能面に加え、投稿者の志向性によるところも大きいのではないかと思われる。

 

第四節 YouTuberの活用と今後の展望

 YouTuberはここ数年で急激に増加、成長しており、その勢いは衰えることなく続いている。現に本研究の調査期間中においても、YouTuber自身や、YouTuberを取り巻く環境は著しく変化していった。今回調査対象となったYouTuberの中にはチャンネル登録者数が2倍以上になっている者がいたり、新しいMCNが次々と出現したりと、確実に規模は大きくなっている。今まさにYouTuberは成長期にあると言ってもよいだろう。

 現在、MCNの登場もあってか企業のYouTuber活用が積極的に行われている。YouTuberに自社製品をPRしてもらうのと、テレビ等でCMとしてPRするのではいったい何が違うのだろうか。まず、コストの違いについて、テレビCMPRするよりも、YouTuberを活用しタイアップ動画を制作してもらった方が、はるかに安い費用でPRを行うことができる。次に、PRの対象の違いについて、テレビCMはある一定の消費者層に向けてPRを行っているが、YouTuberは、投稿者が抱えているファン(チャンネル登録者)に向けてPRを行っている。人気YouTuberであれば数百万ものファンを獲得しているため、拡散力もそれに比例して大きくなる。そして、テレビCMの視聴者は基本的に受動的に視聴を行うが、YouTubeの場合、視聴者はお気に入りのYouTuberの動画を見に来ているので、タイアップ動画であっても能動的に視聴を行う。

 上記は、YouTuberを活用したPRとテレビCMでのPRの違いについてであったが、以上のように整理してみると、YouTuberを活用したPRは、対象であるファン、つまりチャンネル登録者が非常に重要であるということが分かる。チャンネル登録者が存在して初めて企業とのタイアップが成立すると言ってもよいだろう。

 また、タイアップ動画で気を付けなければならないのが、テレビCMのような広告感を出してはならないということだ。いかにチャンネル登録者が多くとも、企業の色が出過ぎた動画では視聴者は離れていってしまう。ではどうすれば広告感を小さくすることができるだろうか。それにはやはり、投稿者と視聴者との間で「親近感」を構築することが必要だろう。投稿者と視聴者との距離を縮め、まるで友人から勧められているかのような「親近感」を生み出すことがタイアップ動画のカギとなっていると思われる。第五章では、顔出しの効果について触れ、顔出しは視聴者にある種の親近感や信頼感を与えると述べた。タイアップ動画において、親近感が必要とされるとするならば、顔出しは非常に効果的で有効な手段なのではないかと考えられる。

企業のYouTuber活用について述べてきたが、今後、YouTuberはどのような方向に進んでいくだろうか。今でこそ、YouTuberと企業とタイアップが当たり前のように行われているが、数年前までは「YouTuber」という言葉でさえ、聞き慣れないものであった。そんなYouTuberが今後どのように変遷していくのかは到底予想できない。ただ、YouTuberが主要なメディアの一つとして、数えられる日は近いのかもしれない。