第八章 コメント分析

第一節 コメント機能の違い

第一項 ニコニコ動画のコメント機能

ニコニコ動画では、視聴者が投稿したコメントはコメントを投稿した動画の場面に流れるように表示される。これはニコニコ動画独自のコメント機能であり、ニコニコ動画最大の特徴ともいえる。この機能により、異なる時間に動画を視聴し、コメントを投稿しているにもかかわらず、視聴者はあたかも同じ時間、同じ場所で動画を共有しているような錯覚に陥る。これを濱野智史(2012)は疑似同期と呼んでいる。疑似同期は視聴者に一体感や臨場感をもたらす。

ニコニコ動画にはコメントの表示件数に制限があり、一定量を超えた場合過去のコメントから順に表示されなくなる。ただし過去のコメントは削除されるわけではなく、過去ログとして保管されており閲覧することができる。

 

第二項 YouTubeのコメント機能

YouTubeではコメントは動画概要欄の下に設けられており、ニコニコ動画のように動画再生と同時にコメントが流れるということはない。投稿されたコメントはすべて表示され、コメントひとつひとつに高評価、低評価をつけることができ、またコメントに対しては返信することが可能である。コメントの表示には新着順と評価順の二つであり、基本設定では評価順で表示される。

 

第二節 コメントの質的違い

第一項 ニコニコ動画のコメント

 ニコニコ動画に投稿されるコメントで特徴的なものとして「弾幕」や「コメント職人」と呼ばれるコメント投稿者が投稿する特殊コメントなどがある。弾幕は動画内で特に盛り上がった場面において複数の視聴者が一斉にコメントを投稿し、動画画面を覆い尽くすようなコメントのことである。コメント職人にはいくつか種類があり、アスキーアート職人、コメントアート職人、字幕職人などがある。それぞれの職人がコメントを駆使して動画を盛り上げている。また、ニコニコ動画のコメントはインターネットスラングが多く用いられており特徴的である。

 

第二項 YouTubeのコメント

 前節の第一項でニコニコ動画には「疑似同期」という特異性があり、これによって視聴者は異なる時間、異なる場所で視聴しながらも動画を互いに共有しているような感覚を得ることができると述べた。ではYouTubeでは視聴者はそのような他の視聴者と動画を共有する一体感は得られないのだろうか。筆者がYouTubeに投稿されたコメントを調査したところ図8-1のようなコメントが多くの動画で確認することができた。

 

8-1 疑似同期コメント(https://www.youtube.com/watch?v=2U6Dczl0rdQ

https://www.youtube.com/watch?v=vez3RHOJptY)

 

 図8-1を見ると、自分が動画を視聴した日時を書きこみ、同様に動画を見ている人がいないかを探すようなコメントや、印象の深かった動画の時間帯、シーンを書き込み、同じように感じた人がいないかを探すようなコメントが投稿されており、また、そのコメントに対して多くの人が返信していることが分かる。この事例から、YouTubeでは機能的にはニコニコ動画のように一体感、臨場感を得ることはできないが、自分以外の視聴者に自ら共感や一体感を得ようとするコメントを残すという試みにより、それらを達成させることに成功していると言えるのではないだろうか。

 

第三節 双方向性

 この第三節ではコメントが投稿者にどのような影響を与えているのか、コメントと投稿者との関係性について言及していく。

 ニコニコ動画では、第一節でも述べたように、コメントは基本的に動画が再生されると同時に流れていくため、特定のコメントに対し返信をすることはできない。これは投稿者が自身の動画に発したコメントに対しても同様であり、視聴者は返信することができず、投稿者と視聴者がコミュニケーションを取ることはできない。

 それに対し、YouTubeでは投稿者が発したコメントに対しても視聴者は返信することができるため、投稿者と視聴者との間で直接コミュニケーションを取ることができる。投稿者のコメントに対し、多くの視聴者からコメントが返ってくることもあり、投稿者はありありと視聴者の意見や批判を受け止めることになる。実際、図8-2のように視聴者からの多くのコメントが寄せられ、炎上した事例(炎上の原因は今までは動画編集を行っていたが、今後は一切編集せずに動画を投稿すると明言したため)では、投稿者は次回の動画で多くのコメントがあったことに触れ、これまで通り編集を行っていくと謝罪した。

 この事例から、視聴者のコメントが投稿者に一定の影響を与えているということが分かるのではないだろうか。YouTubeの動画投稿者たちは、視聴者の意見や批判を取り入れながら、動画投稿を行っていると言えるのではないだろうか。そういった意味で、YouTubeにおいては投稿者と視聴者との関係において「双方向性」が成り立っていると考えられる。

 

8-2 炎上した投稿者コメント(https://www.youtube.com/watch?v=tQg78NUPEXc)