第七章 MCN

 前章では投稿者の動画ジャンルに焦点を当てて調査を行った。表6-1を見ると、企業コラボが多くの投稿者で見られ、YouTubeで活動する投稿者は企業とのタイアップ動画を投稿していることがわかる。人々の購買行動に強い影響力を与えるYouTuberに企業が依頼をして対価を支払い、動画を作成してもらうことは投稿者と企業の双方にメリットがある。自身の生活を動画投稿にゆだねているYouTuberにとって、企業とのコラボ動画は貴重な収入源であり、今後もますます増えていくと思われる。

そもそも、なぜ企業とのタイアップがYouTubeにおいては活発に行われているのだろうか。それはMCN(マルチチャンネルネットワーク)YouTubeにおいて出現し始めたからであると思われる。MCNとは「複数の YouTube チャンネルと提携し、一般にサービス、プログラムの作成、資金、相互プロモーション、パートナー管理、デジタル著作権管理、収益受け取り/販売、視聴者の獲得などの面で支援を提供する組織」(YouTubeスタートガイドより抜粋)であり、YouTube Google が提携または承認する組織ではない。つまりMCNとは所属クリエイターのマネジメントを行う、ある種の芸能プロダクションのような存在であると言える。MCNが企業とクリエイターを結び付ける役割を果たしているため、直接企業がひとりひとりのクリエイターに依頼していた以前よりも、より効率的に企業とクリエイターとのマッチングが行われるようになったのではないかと考える。現に本研究で紹介した20人のYouTuberのうち半数以上はMCN、またはそれに類するものに所属しており(表7-1)、企業とのタイアップ動画も多くみられる。

 ニコニコ動画においてはMCNのような事務所は確認できなかった。MCNがニコニコ動画ではなく、YouTubeで出現した理由は、やはり投稿者が抱えるファン(登録者)の多さと扱うジャンルの豊富さであると思われる。

 

7-1 MCN所属の有無

 

 

第一節 UUUMの取り組み

繰り返しになるが、MCNとは動画投稿者と契約を結び、動画投稿者のマネジメントや動画制作環境、各種サービスを提供する組織である。以下ではMCNの一つであるUUUMについての設立から現在に至るまでの変遷を記述していく。

UUUM20136月に設立されたマネジメント事業や、ショッピングサイト事業を中心に活動を行う株式会社である。UUUMの設立当初のクリエイター数は8名ほどであったが、徐々に数を増やしていき、現在は40名を超えるクリエイターがUUUMに所属している。UUUM所属のクリエイターにはそれぞれに専属のマネージャーが付いており、クリエイターの管理や補助を行っている。

 クリエイターと、UUUM、企業の3者の関係や業務の流れを表しているのが図7-1である。企業からの依頼をUUUMが一括して引き受け、それぞれの案件に適したクリエイターを紹介、マッチングさせるといった流れになっている。

 

7-1 業務の流れ (UUUMHPより)

 

またUUUMは、UUUMに所属するトップクリエイターとは別に、UUUMネットワークと呼ばれるクリエイターを発掘、支援するネットワークを立ち上げ、201412月に1000人のYouTubeクリエイターを募集した。また20154月に、二次募集を行っており、ネットワークの拡大を図っている。なお、UUUMネットワークに所属する場合、自身が得た動画広告収益の20パーセントをUUUMに納めなければならず、UUUM所属のクリエイターとは区別されている。

 これまでにUUUMYahoo! JAPANをはじめ、ブルーカレント・ジャパン、SPACE SHOWER MUSIC、デジタルハリウッド株式会社など数多くの企業と業務提携を行っている。

さらにUUUMは所属クリエイターのグッズ販売や、握手会なども行っている。

 

 

 

 

第二節 タイアップ動画

 この第二節では、YouTuberが公開している企業とのタイアップ動画の内容、中身について触れていきたい。今回タイアップ動画の対象としたのは、UUUM所属のクリエイターである「はじめしゃちょー」である。以下では一つのタイアップ動画を取り上げ、その詳細について述べていく。

 タイアップ企業は「株式会社バンダイ」、動画タイトルは「たまごっち100個育ててみた」、紹介商品は「たまごっち」である。そして動画の内容はというと、バンダイが販売している「たまごっち」の使用、レビュー、動画内で使用した「たまごっち」の視聴者プレゼントなどである。

この「はじめしゃちょー」という投稿者は「やってみた」系の動画が多く、大量の商品や食べ物を使うのが特徴であるが、今回のタイアップ動画においても紹介商品を100個使用して、タイアップ動画を制作している。

UUUMはステルスマーケティングの防止のために、タイアップ動画の提供表示にはかなり細かく規定している。以下はUUUMのタイアップ動画に関する規定の抜粋である。

まず、タイアップ時、動画内(冒頭部分)に「提供」もしくは「タイアップ」の表記を行う。その際、クリエイター本人 あるいは チャンネルアイコンの表示、もしくは文字での チャンネル名やクリエイター名の表示も同時に行う。次に、タイアップ時、動画内に広告主体者(企業もしくは商品・サービス・ブランド名)を明示する。また、表示時間は 3秒以上とする(提供表示をアニメーションさせる場合は完全に提供表示を認識できるときから3秒以上とする)。文字の縦幅は最低でも画面の 8分の1以上。文字色は背景色と同化しないようにする。そして、動画概要欄は提供またはタイアップであることを必ず一行目に明示する。

 

第三節 まとめ

 前節では、MCNの概要やタイアップ動画の中身について触れた。MCNの一つであるUUUMは所属クリエイター数を増やしていき、さらにUUUMネットワークを立ち上げ、クリエイターの囲い込みおよびクリエイターの育成、支援を行っているということが分かった。また、UUUMはさまざまな企業とも業務提携を行い、YouTuberの活用を促進させていた。

 クリエイターと企業とのタイアップ動画ではステルスマーケティングの防止のために細かな規定が設定されていることが分かった。また、実際のタイアップ動画の中身について言えば、クリエイターはタイアップ動画を、ただ単にテレビ広告のように「広告」として扱っているわけではなく、自らの動画スタイルに合わせ、1つの「作品」として制作しているということが言えるのではないかと思う。視聴者がタイアップ動画であると認識していても、興味を持って動画を見続けられる工夫がなされていると感じた。