第三章 YouTubeとパートナープログラム
第一節 YouTubeの機能
YouTubeとは2005年2月に設立されたアメリカのネットベンチャーYouTube社が運営する動画共有サイトである。会員登録することで、誰でも容易に動画投稿・閲覧することができる。その手軽さゆえに毎日1分あたり72時間分の動画がアップロードされており、これまでの総動画再生時間は30億時間を超えるまでになっている(The Official YouTube Japan Blogより)。
第一項 視聴環境および投稿環境
YouTubeは多くの国で利用されているため、YouTubeを知らない人はいないほど有名になっており、知名度は高い。YouTubeに投稿された動画は、世界中の人々に向けて発信することができる。ニコニコ動画は日本の動画サイトであるため視聴者は日本人に限られる。
動画を視聴する環境についてであるが、YouTubeの場合、アカウントの設定を行っていなくても視聴することが可能であるが、ニコニコ動画の場合、必ず自身のアカウントを設定する必要がある。
次に、動画を投稿する環境について、YouTube、ニコニコ動画、両方ともアカウントの設定を行う必要がある。両方とも投稿する動画に対して容量の制限があり、YouTubeの場合、1つの動画あたりの容量が2GBまでであり、また、それを超えるときは無料で上限を引き上げて投稿することができる。それに対してニコニコ動画の場合は、上限は40MBまでであり、上限を引き上げるには有料のプレミアム会員に登録する必要がある。引き上げたとしてもニコニコ動画場合、100MBまでとなっており、YouTubeの初期状態よりも少ない。
第二項 チャンネル登録(YouTube)・お気に入りユーザー(ニコニコ動画)
YouTubeのチャンネル登録とニコニコ動画のお気に入りユーザーは機能的に同様の役割を果たすものである。以下では両者の特徴について説明する。
チャンネルとは、動画の発信者から動画を検索する方法である。チャンネルにアクセスすることで、その投稿者の動画をまとめて視聴することができる。ある人のチャンネルを登録した場合、YouTubeにアクセスした際に、その人の動画がトップに現れるようになる。またその人の動画がアップロードされると、メールで通知を受け取ることができる。チャンネル登録を行うには、Googleアカウントを持っていることが必要となる。
お気に入りユーザーとは、気に入った動画投稿者をお気に入りユーザーとして登録することで、その動画投稿者情報をいち早く取得する機能である。動画が新たにアップロードされたり、投稿された動画の再生回数、コメント数、マイリスト登録数が一定数に達したりすると通知が送られてくる。
YouTubeのチャンネル登録はYouTubeに訪れた際に、チャンネル登録した投稿者の動画がトップに現れるため、否応なく視聴者は登録チャンネルを目にすることになり、チャンネルが強調される。ニコニコ動画のお気に入りユーザーはチャンネル登録とは違い、ニコニコ動画にアクセスしてもマイページに移動して、お気に入りユーザーをクリックしなければ、その投稿者の情報は流れてこないため、チャンネル登録ほどの影響力はないと思われる。
第三項 動画概要欄
動画概要欄はYouTubeとニコニコ動画で基本的な役割は同じで、たいてい動画の説明であったり、関連リンクを貼ったりする。ただし、YouTubeの動画概要欄は外部リンクを自由に載せることができ、興味を持ってくれた視聴者を自身のFacebookやTwitter、ブログに誘導することができる。またアソシエイトリンクも制限されてないため、動画内で紹介した商品をリンクさせて、そのまま購入サイトに飛んでもらうことで収益化することが可能になっている。
対して、ニコニコ動画の動画概要欄は外部リンクが制限されており、URLを記載することはできても、リンクとして貼り付けることができないので視聴者は自分でコピー&ペーストする必要があり、URLのページに移動しにくくなっている。
第二節 収益化としての機能
第一項 アナリティクス
YouTubeはアナリティクスという動画解析機能を投稿者に提供している。アナリティクスによって、どういったユーザー層が、どこで動画を発見し、どの程度動画を再生しているのかということを詳細に知ることが可能であり、ユーザーの動向を分析することができる。アナリティクスは動画投稿者が視聴者を獲得し、戦略をたてるための手段として活用できる。ニコニコ動画はユーザーチャンネルを開設した場合にアクセス解析が可能であるが、一般ユーザーには提供されてない。
ユーザーチャンネルとは動画、ブログマガジン、生放送をユーザー個人が配信できるチャンネルである。動画および生放送の高画質配信、生放送の延長無料、月額課金機能といった一般ユーザーが受けられないサービスを受けることができる。しかしながらユーザーチャンネルは誰もが開設できるわけではなく、推薦や選考によって選ばれた投稿者のみ開設できるチャンネルであり、2016年1月時点で48人がこのユーザーチャンネルを開設している。
第二項 アノテーション
アノテーションはYouTube独自の機能であり、YouTubeの動画内に表示されるクリック可能なテキストのことである。アノテーションを使用することで動画から直接、関連するコンテンツにリンクさせることができ、再生回数や関心度、チャンネル登録者数を伸ばすことにつながる。
第三項 クリエイター支援
YouTubeはYouTube内に、クリエイターハンドブックやクリエイターアカデミーといったクリエイター支援のための資料を提供している。クリエイターハンドブックでは「設計」、「最適化」、「コミュニティ」の3つのテーマに分かれて、チャンネルのレベルアップにつながる要点が、詳細にまとめられている。クリエイターアカデミーには、いくつかのコースが設けられており、それぞれのコースに応じた様々なトピックが用意され、クリエイターの目的別に学習できるようになっている。第五章で、クリエイターハンドブックを扱うため、ここでクリエイターハンドブックについての概説を行っておく。
クリエイターハンドブックは先も述べたように、「設計」、「最適化」、「コミュニティ」の3つのテーマに分かれている。「設計」は、さらに、「視聴者の心をつかむ」、「行動を促すフレーズ」、「アップロードとアクティビティ」、「再生リスト」、「ビッグイベントに焦点を当てる」、「YouTube ライブ」に分かれる。同様に「最適化」、「コミュニティ」も、テーマごとに、いくつかの項目に分かれている。
表3-1 クリエイターハンドブックのまとめ
表3-1がクリエイターハンドブックをまとめたものである。これらはほんの一部であり、実際はさらに細かく具体的な方法、手段が書かれている。
クリエイターハンドブック、クリエイターアカデミーに共通していることは、両者ともクリエイターに視聴者獲得に役立つ知識やアドバイス、戦略などを紹介し、優秀なYouTubeパートナーとなるクリエイターの育成を目的としていることである。
ニコニコ動画にはYouTubeのようなクリエイター育成マニュアルのようなものはなく、ヘルプという形でサービスの種類や使い方について紹介されているだけであった。YouTubeのようにクリエイターの育成を目的とした取り組みは見られなかった。
またYouTubeにはYouTube Space Tokyoという、動画制作施設を六本木ヒルズに置いている。YouTube Space Tokyoは、動画コンテンツの制作、ワークショップへの参加、他のチャンネルとのコラボレーションに取り組む YouTube クリエイターのためのアジア拠点となっている。YouTube Spaceは東京のほかに、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンにも置かれている。
さらにYouTubeはYouTube NextUpという、将来有望なYouTuberのキャリア育成と、さらなるYouTubeチャンネルの発展を支援するための育成・支援プログラムを実施している。プログラム選抜者には、動画制作機材の提供や、クリエイタートレーニングキャンプ、YouTube内外でのプロモーションといった特典が与えられる。
最近になって、YouTubeに視聴者ファンディングと呼ばれる機能が新たに追加された。視聴者ファンディングは、自由意志による支払いで好みのYouTubeクリエイターをサポートできる機能のことである。一般的なクラウドファンディングでは、特定の目的のための資金を求めるとともに、達成時の見返りを提示することが多いのに対し、YouTubeの視聴者ファンディングは、動画の内容を問わず、支援理由も視聴者側に委ねられている。よって、“投げ銭”機能とも呼ばれている。これらは、日本・米国・メキシコ・オーストラリアの四カ国でスタートされた。
第三節 まとめ
機能面において、YouTubeはニコニコ動画にはない特徴が多くあることが見て取れる。視聴環境・投稿環境ではYouTubeの制限の少なさがよく分かる。また動画概要欄においては、YouTubeの方が概要欄の自由度が高く、アソシエイトリンクも貼れるため収益化もしやすくなっている。YouTubeのアナリティクスやアノテーションの豊富さは、投稿者の動画制作を手助けする大きな強みである。そしてYouTubeはクリエイターハンドブックやクリエイターアカデミー、YouTube Space Tokyo、YouTube NextUp、視聴者ファンディングといった数多くの様々なクリエイター支援プログラムをYouTubeのサイト内外で積極的に取り組んでいる。YouTubeは他の動画共有サイトに比べ動画投稿における機能と、運営側の投稿者支援が充実しているということが言える。