第二章 先行研究

国内では代表的な動画共有サイトとして、YouTubeと同じく収益化プログラムを取り入れており、幅広い分野の動画が投稿されているニコニコ動画がある。基本的な機能はYouTubeと変わらないが、YouTube、ニコニコ動画それぞれに特徴的な機能を備えている。

ニコニコ動画の収益化プログラムとはniconicoの投稿作品に対し、プレミアム会員収入の一部を原資として、奨励金(クリエイター奨励スコア)を支払う制度である。プログラムを利用するにはプレミアム会員であること、プログラムに対応したサービスに作品を投稿すること、コンテンツツリーを作成することなどいくつかの条件がある。

この第二章では宮向(2014)の論文を先行研究として扱っていく。宮向の論文はニコニコ動画を調査対象に、ニコニコ動画で人気を得た投稿者がプロデビューしていく過程、そういった事例が増えたことによる今後のニコニコ動画の可能性について調査、分析したものである。なお、今回、ニコニコ動画に関する論文を先行研究としている理由は、YouTuberと呼ばれる投稿者が比較的最近になって登場したということもあり、YouTuberに関する論文を見つけることができなかったからである。

 宮向は、ニコニコ動画においては、「人気のタグや動画作品そのものだけでなく、人気の投稿者もまた一種のブランド化する」と述べており、この投稿者のブランド化の背景については「マイリストやお気に入り通知、マイページでのニコレポ機能を通じて、投稿者そのものに注目するコンテンツが整えられているからだ」と結論づけている。以下では宮向の主張する、視聴者が投稿者そのものに注目する構造について説明する。

 マイリストとは、ニコニコ動画内にあるお気に入りの動画をブックマークとして保存することができる機能である。また、マイリストを自身の動画一覧ファイルとして活用している投稿者もいる。そのため、視聴者は特定の動画を視聴した後、その投稿者の他の動画に興味がある場合、マイリストを通じて、その投稿者の他の動画を視聴できると宮向は説明している。マイリストは単なるブックマーク機能だけではなく、視聴者が投稿者に注目することを促す機能を果たしていると分かる。

 二コレポとは、投稿者の更新情報を一覧できる機能である。二コレポ機能を通じて視聴者は次第に動画単体の作品から、動画投稿を行う投稿者そのものへと関心が移っていき、作品よりも投稿者に人気が集まっていくことで、サイト内における投稿者自身のブランド化を引き起こしていくと宮向は述べている。

 また宮向は、投稿者のブランド化についてYouTubeに関しても言及しており、「YouTube においては、投稿者は「チャンネル」と分類され、チャンネル登録という形で登録が行われるため、個人としての像が浮かび上がりにくい。しかし、ニコニコ動画では、ユーザーをお気に入り登録する、という形になるため、お気に入りの投稿者を、と意識されやすい。」と主張している。

 最後に、ニコニコ動画における動画投稿者がプロデビューしていく背景について触れておく。宮向は、ニコニコ動画から投稿者がプロデビューする背景には2つの理由があると述べている。

まず1つ目にニコニコ動画がアーティストの「発掘の場」として機能していることを挙げている。ニコニコ動画は、サイト内にある独特の機能(タグ登録)やそこから引き起こされる現象によって、検索する側が、より求める人材や人気の作品に注目しやすく、その中で活動する投稿者を「発見」しやすい仕組みになっていると宮向は述べている。

 そして2つ目にニコニコ動画がプロモーションの「活動の場」として機能していることを挙げている。ニコニコ動画は、人気の作品だけでなく人気作品を作り出す投稿者にも注目が集まりやすく、ファンがつきやすい仕組みになっているが、さらに、コメント機能を始めとする、匿名性を含みつつの、ファン同士の結束を強くする仕組みが存在することで、動画作品そのものを一つのSNS的な場所として成立させる働きを持っていると述べている。これらの点を利用することで、YouTubeなどの他の動画共有サイトでは「動画投稿を行った上で、そこからのリンクを利用して他のサイトへ宣伝し、プロモーションとして活用していく」という形で行われる活動を、ニコニコ動画では「ニコニコ動画に投稿することそのものが、一つのプロモーションとなる」現象を引き起こしているのであると主張している。

 以下の章では上記の宮向の主張を念頭に置いた上で、自身の問題関心に従って調査を行っていく。