第三章 先行研究のレビュー

 

第一節「地域旅」という考え方

 

 金山地区の「筋骨めぐり」は,観光資源として住民の手により発掘され,路地を巡る

ツアー型の観光商品として形成されている。このように地域の特色を生かした観光について,齋藤(2012)は「地域旅」という表現を用いて解説をしている。

この「地域旅」について以下では,齋藤に従ってまとめたい。

まず齋藤は,訪問者が地域の価値を体感できる行動を「地域旅」としている。そのプロセスとして,特色ある地域資源を商品化し,ターゲットとする属性(市場)に情報を発信し,人々が「訪れてみよう」という気にさせることが重要であると述べられている。つまり,地域資源の中から観光資源となりえるものを発掘し,訪問者がその価値を体感できる「形」に仕立てて,かつ,納得・満足して料金を支払っていただけるようなレベルまで引き上げ,さらに旅行市場の中で流通しやすいように,食事・宿泊・交通などの観光行動に必要な付帯的なサービスと合わせてパッケージ化するということである。

 また,「地域旅」においても訪問者が地域に来てもらう環境を整備することが重要であることから,このような取り組みを通じて,「地域を商品化」することが求められるとしている。しかし,「地域を商品化」するということは,決して地元の人々の暮らしを犠牲にして,観光客向けに地域を改変するものではないとしている。地域の生活も含めた地域全体を訪問者に受け入れてもらう仕組みを構築することが「地域旅」にとって最も重要であり,地域資源を大切に守り,訪問者と共有を図る中で持続的な動きを維持することも重要であるとしている。

 さらに齋藤は,従来型の旅行では,地域の資源(美しい風景や,祭りや伝統芸能など)

を見聞きし,訪問者自身が感動を感じることはあるものの,地域の生活や感性等,地域社会の内面に入り込むことはない。つまり,地域の人々と訪問者とが地域の価値観を共有することはないとして,「地域旅」との違いについて言及している。

 

第二節 観光ボランティアよる商品価値の付加

 

 「筋骨めぐり」では,観光客は基本的に地域内を自由に散策することができるが,まち歩きをする際に,希望者は地域住民による「ガイド」を申し込むことができる。これは,「筋骨」自体が地域内に入り組んでおり,コースの誘導が求められる場合があるために必要とされるが,それ以上に「観光ボランティア」が観光商品に付加価値をもたらしている可能性も大きい。

 矢島(2009)は,旅行形態が時代ともに変化し最近の傾向では団塊世代を中心に「自分の興味のある分野(歴史・文化・美術等)にこだわり,時間をかけてゆっくり巡りたい。できれば地元の方の話も聞きたいし,地元ならではの食事も楽しみたい」という旅行者が増えているとして,魅力を伝える案内人(インタープリター・語り部)の必要性を訴えている。

 その案内人として地域住民による「観光ガイド」が挙げられ,旅行会社の手配する「プロガイド」とは,「ホスピタリティ概念」と「サービス概念」という点で違いを指摘している。

地域住民による「観光ガイド」は,旅行客と近い立場での横関係であり,地域住民しか知らないようなエピソードなど旅行者の興味と案内人としての誠意の間で感情の共有や共感が起こりやすいとし「ホスピタリティ概念」であるとしている。一方,「プロガイド」は,

会社の指揮に従う縦関係で,旅行者とは上下関係にあるとして,一定の品質は保証され安心感はあるものの一方通行的なやりとりが多くみられ「サービス概念」であるとしている。

 また「観光ボランティア」について,その担い手は定年を迎えた高齢者が多く,定年後

の生活の中で,郷土への愛着が旅行客へのガイドを通して社会貢献につながり,生き甲斐・やり甲斐を感じることがあることから,旅行者だけでなく「観光ボランティア」にもメリットがあると論じている。

 

第三節 先行研究のまとめ

 

 斉藤(2012)では,特色ある地域の観光資源を,観光商品として成立させ,「地域を商品化」することが求められるとしている。その際,地域の生活を犠牲にするのではなく,地域の生活も含めた地域全体を訪問者に受け入れてもらう仕組みを構築することが「地域旅」にとって最も重要であるとしている。

観光客と地域とをつなぐ役目を矢島(2009)で取り上げられる「観光ボランティア」が担っているという図式になる。そして地域住民が行う「観光ガイド」がより観光資源の魅力を増幅させていると論じられている。こうした地域の観光商品化や,地域住民の参与が

下呂市金山地区の「筋骨めぐり」において,どのようになされているかを次章以降で論ずる。