第二章 下呂市の観光についての取り組み

 まず,「筋骨めぐり」の観光資源化を達成した金山地区を含む,下呂市の観光の現状についてどのような取り組みがされているか調査した。

 

第一節  下呂市の観光の概要

 

 岐阜県下呂市は,小坂町・萩原町・馬瀬村・下呂町・金山町の5地区が合併により平成16年に誕生し,旧下呂地区(以下,下呂市と旧下呂町の混同を防ぐため旧下呂町を下呂地区と表記する,同様に他地区も揃えてこのように表記する)に存在する温泉を利用し古くから湯治場として発展してきた経緯がある。JR高山本線が開通し交通の便が改善されると多くの湯治客で賑わうようになり,近年では年間平均280万人の観光客を招き入れるまでの市場に拡大しているが,温泉観光以外での経済効果に乏しく,近年は温泉以外の観光資源の開発に力を入れている。

下呂市内では自然の観光資源も豊富で,標高3,000mを超える御嶽山を有し,ここには5m以上の滝が大小合わせて200か所以上も点在しており,小坂地区はこれを利用した滝めぐりなどのレジャー観光にも積極的に取り組んでいる。各地区が温泉を主軸としたこれに付随するような形での観光資源の発掘・開発を行っているのが現状である。

近年では,下呂市全体の観光として,下呂地区以外のレジャーと下呂地区の宿泊施設をパッケージ化し,長期滞在型の観光を目指す動きもみられる。温泉観光だけに依存せず,様々なニーズを持つより多くの観光客を下呂市に呼び込み,消費をはじめとする経済効果を誘発することが,これからの下呂市の観光に求められているものである。

 下呂市の観光体制は,合併前の名残があり,それぞれの地区にそれぞれの観光を取り仕切る観光協会が存在している。それらをまとめる役割として下呂市役所観光商工部がある。下呂市の観光の現状を調査するにあたり,下呂市観光商工部へのインタビューを行った。

 

 

第二節 インタビュー調査 

 

平成27618日に下呂市役所観光課職員である富永 哲也さんにインタビューを行った。この調査では,平成22年度〜平成26年度にかけて行われた「下呂市観光計画」について尋ねた。

「下呂市観光計画」は,国の観光立国推進基本法,観光立国推進基本計画等を踏まえて策定されたもので,下呂市合併後6年を経過した下呂市をより魅力的に創出し,結果的に下呂市に訪れる人々を増やし,多くの市民の参加を得て5年間で確実に実現できる具体案に絞り込んで検討・策定ものである。主要3項目についてのインタビューを行った。

 

第一項 下呂市の観光の現状

宿泊者数・観光客数について,平成22年度から平成26年度までの計画を終えて,評価指標として下呂市として150万人の宿泊者数を目標としていたが,平成26年度の宿泊者数は1069808人と乖離した結果となり数値的には目標達成できなかった。ただ,観光客数(観光客入込数)では,年間270万人を維持することはできた。(以下,図2-1にて下呂市内観光客数の推移)

 

2-1.下呂市内観光客数の推移

 

第二項「下呂市観光計画」の取り組み

 

「受け入れ態勢の強化」について,観光課としては着地型観光を目指し,湯治を目的とした宿泊客に対し,体験型のプログラムを開発し,滝めぐりやフルーツ狩りなどといったツアーを観光資源化に繋げている。こうした体験型プログラムをツアー商品として,公式ホームページ上で紹介し,旅行会社へのアプローチも行いツアーに組み込んでもらっている。これにより,下呂市内での滞在時間の長期化を狙っている。

 また,「旅行商品に関する情報発信」について観光課としては,名古屋・東京・大阪といった都市に出向いてパンフレットを配布するなどのPR活動や,旅行情報雑誌などへの記事の掲載などが挙げられる。一方,同時に国外誘致事業の促進も行っており,岐阜県内のその他の観光地域である,高山市や岐阜市,郡上市といった地域と連携して海外でのプロモーション活動を行っている。

そして,「街並みや景観整備」については,年間100万人の宿泊客を街へ誘い込み,市内での経済効果を期待している。さらにそれを中心的な温泉街だけでなく,下呂市全体へも波及させようとコンセプト商品(農業体験などのツアー商品)が開発されている。

しかし,交通網に関しては,温泉街から下呂市内の各所への交通手段がまだ利用しやすい状況にあるとはいえず,個人客を巻き込むための課題でもある。

 

第三項 下呂市の観光についての総括

 

 下呂市は,年間100万人の宿泊客が訪れる観光地である。主要な温泉観光以外にも,観光資源は,今後開発されていく可能性がある。そのうえで,滞在型観光に結び付き,温泉観光の中心地のみならず,市内全域での経済効果が見込めるような着地型観光をも開発しているところであり,温泉街を有する下呂地区以外の4つ地区において既存の観光資源の活用や,新たな観光資源の開発が求められている。その一つの事例として挙げられるのが,金山地区の「筋骨めぐり」である。

 

第四項 下呂市金山地区の「筋骨めぐり」について

 

 本論で扱う金山地区の「筋骨めぐり」について概略的にまとめると以下である。

筋骨とは,飛騨地方の呼び名で「路地裏」のことで,人体の筋や骨のように路地が張り巡らされている様子からこのように呼ばれるようになった。この「筋骨」は,公道であり住民が今も生活の一部として使用している特徴がある。

昭和40年代まで金山地区は飛騨街道の宿場町として栄えてきた経緯があり,多くの筋骨が残されており,金山町観光協会では,宿場町としての面影と今も残る筋骨を実際に体験してもらうためのストーリーテラーとして「住民によるガイド」を採用し,「筋骨めぐり」というツアーを催行している。

金山地区は下呂温泉の中心地からは,20キロ以上離れた距離にあり,公共機関か,自家用車での移動を必要とするため,交通の便が良くない。そのため,現地集合・現地解散という形式をとって,「筋骨めぐり」を展開している。

 これは,下呂市の展開する観光において,温泉や自然の観光資源に頼らない,地域住民の文化的側面に焦点を当てた新たな観光のあり方である。