第四章 分析
前章での集計結果を踏まえ、ここからは実際の文面を読み解きながらそれぞれの要素から見えてくるものを論じていく。
第一節「すきなもの」と書式のお作法化
プロフィール情報としては一般的であろう「性格」の要素はわずかしか見られず、「すきなもの」はほとんどのプロフィールにみられたことから、Twitterでのコミュニケーションを前提にプロフィールを作成する場合、その人自身の内面的なものはあまり重要でなく、共通の話題になる「すきなもの」の列挙、そしてその思いを述べることのほうが重視されるようだ。先述の通り、インターネットでのコミュニケーションは、共通の話題を持つ者同士の選択可能なつながりである。興味関心に共通項はあるかどうかはもっとも優先されるべき情報であろう。
@_Run****
【好きなもの】
◆アニメ(50音順)◆
APヘタリア
┗日伊中心の世界領。いいですか世界領です(下に詳細あり)
がっこうぐらし!
┗くるみちゃんとめぐねえ
きんいろモザイク
┗カレンちゃそ
刀剣乱舞
┗加州、鶴丸、堀川、蛍丸、三日月、安定
ミカグラ学園組曲
┗男子なら赤間きゅんと九頭竜先輩。女子ならひみたそとおとねちゃん
ラブライブ
┗のんたんとにこにー
結城友奈は勇者である
┗夏凛ちゃん
表記の方法にも特徴があり、この例は典型的かつ非常に丁寧な書き方をしているものである。
箇条書きでアニメであれば作品名、アイドルであればグループ名などを列挙、続けてその中でもとくに好きなキャラクターやメンバーを括弧や改行して表記するのが一般的である。視認性を高めることで膨大な量の作品名を挙げても閲覧者は容易に一覧することができる。これは共通の話題を発見するのに最適かつ、後述する“地雷”の発見しやすさにも関係する。「すきなもの」を列挙するアカウントは非常に多かったが、そのほとんどがこれに近い書式で書かれており、ツイフィールにおけるプロフィールのお作法の一つといえよう。
第二節 つながりの可視化
「やってること」については「つながり」と関連している部分がある。「やっていること」のなかには団体への所属を表記しているものがあり、その場合はその他の構成員を列挙し、役割、立場とともにその関係性が可視化されている。自分の活動を役割として述べる例として、有名人のアクティビティに自分を重ねる”行為があり、今回のサンプルではアイドルグループのメンバーに自分たちをなぞらえた、いわゆる担当制を用いたファン活動、交流の特徴的な例が見られた。以下はその例である。
@Yuin****
*☆----------------------------------☆*
\ 定期コラボ / ※ただいま休止中。
▽みるふぃーゆらじお
毎週金曜日PM9:30?
高杉トオル×もふ。
▽ゆいとりっちゃんのまったり時間
毎週土曜日PM10:00?
平沢唯/もふ。
田井中律/わんこ
*☆----------------------------------☆*
所属団体
□けいおん!
□スフィア
□twenty/one
\ けいおん!ファミリー紹介 /
▽ほっこりティータイム( HTT )
平沢唯/もふ。【 @yuin****
】
秋山澪/あにゃむ【 @anya****
】
田井中律/わんこ【 @wanw****
】
琴吹紬/たまま【 @tama**** 】
中野梓/あゆみ【 @hina****
】
山中さわ子/くうにゃん【 @1231**** 】
平沢憂/ちびいぬ【 @nunnun2764**** 】
*☆----------------------------------☆*
この例は前章「つながり」の欄で参照したものと同じユーザーによるものである。声優の声を真似して芝居や歌などをインターネット上で公開する人たちのつながりが可視化されている。このユーザーは豊崎愛生さんを言わば“担当”しており、豊崎さん以外のメンバーを担当するファンらとともに実在するグループを再現している。さらには「みるふぃーゆらじお」「ゆいとりっちゃんのまったり時間」といったWebラジオの配信などの活動もしており、徹底的に豊崎愛生さんのアクティビティを追従、再現している。
また、以下は有名人、アニメ、漫画などの設定によるものではない、オリジナルの関係性を可視化したものである。
@sime****
お隣【 @rina****】
ちょこれ~と がーるず【 @yuri****】
夫婦【 @trop****】
チェリー双子組【 @yu_s****】
うんこ同盟【 @___yy****】
脱ゆとり同盟【 @yyko****】
片割れ 【 @iwa_****】
愛棒 【 @kapu****】
TWO TOP同盟【 @0826****】
姉妹 【 @nagg**** 】
この中でもとくに「お隣」、「夫婦」、「片割れ」、「姉妹」などはほかのユーザーでも見られ、オリジナルの設定でありながらもこうした家族のような関係性を表す語彙によるものはある程度普及している。ただし、有名人の関係性を再現するものと異なる点は、まったくそのユーザーについて知らない人がこのプロフィールを見た場合、共通の話題を見いだせないため、そこで可視化された関係性に価値を見出しにくいうえ、入り込むのも難しいと思われる点である。
つながりを可視化することの意義は、つながりがあるということ自体がその人の付加価値になることにあり、それが知人や有名人であればなお親しみや尊敬を感じるきっかけになる。有名人に自分をなぞらえるのも、ファンコミュニティのなかで自分の属性として価値を付加することができるからである。「やってること」の一部と「つながりの可視化」は、ともに自分以外の人物を用いて自分に価値を付加するものであるといえる。
第三節 地雷表示とブロックします宣言
地雷の表示とブロックしますという宣言によって苦手な話題をけん制するのはサンプルの半数近くにみられるポピュラーなものであった。
地雷とは、その人の苦手な話題を意味するスラングで、予め宣言しておくことで接触を最小限に食い止めようというものだ。とはいえtwitterのシステム上、タイムラインに流れてくるツイートの内容はフォローしている人次第のため、当人による自衛は完全にはなりえない。
ブロックは特定のユーザーに自分のツイートを見せないようにする機能で、リプライ等も不可能になる。「ブロックします」という言い方は、ともすればその人のイメージを怖い人、あるいは臆病でコミュニケーションが難しそうといったものに決定づけかねない。プロフィールというオープンな場所にこうしたコミュニケーションの障害になりそうな文言を表記するのは、その人のイメージにとってマイナス印象なように思うが、それ自体がポピュラーになり、意味は薄まっているようだ。
@aman****
夢呟くのに振り分け垢は使用したりしなかったり。
お相手被りは基本気にしませんが、好きなキャラを拗らせると一時期地雷になる場合がございます。
面倒な奴ですがご理解お願いします。
地雷になったときは反応が鈍くなるのでご了承ください。
【地雷】
夢主、キャラの嫌われ
愛なしのキャラdisり
BF(仮)のBL夢、カプ
YBJのDr.キリコのカプ
【お相手被り地雷】
BF(仮)/新海凛十
YBJ/Dr.キリコ
文スト/福沢諭吉
るろ剣/比古清十郎
上記のお相手被りは申し訳ありませんが地雷です。自衛はしますが新規さんで取り扱いの方はフォローしかねます。
この例は前章「けん制」で参照したものである。1行目の「夢」はアニメなどのキャラクターと視聴者である自分との恋愛を空想することである。13行目「お相手被り」は、この夢において自分との恋愛の相手になるキャラクター、あるいは第二節「つながりの可視化」でも触れた担当制で自分が担当するキャラクターが他のユーザーと被ることを意味する。このユーザーは「振り分け垢」、夢をつぶやくために別途用意されたアカウントを持っており、これを使用することで夢が苦手なフォロワーへの配慮をしていることもあるという。お相手被りについては気にしないとは言っているものの、しっかりと地雷として列挙されているため、事実上けん制しているといえる。4行目「面倒な奴ですがご理解お願いします。」にみられる自己を俯瞰するような言葉遣いを踏まえて全体を眺めると、まるでアレルギー表示のようだ。何かが起こってしまってしまうまえに、あらかじめちゃんと明示しておくことで予防線を張っているように見える。
第四節 リアルの表出
「リアル」については、それを記載することでデジタルセルフが現実のユーザーと変わらないものになるというものではなく、現実の自分を取り巻くものをうまく再解釈し、個性的なデジタルセルフを作り上げている印象があった。次の例はその典型例である。
@__kn****
ゆきりん (20↑) : 関西住み : 社会人
一年の半分 は 病院 で 暮らしてます。
安井 謙太郎
会いに行ける 時間 や 回数 は
他の人に比べると 少ない かもしれない
でも、 会いに行ける 一回 一回 を
大切 に しています。
(( なんだかんだ文句は言うけどだいすき ))
このユーザーはなんらかの病気を患っており、好きなアイドルである安井謙太郎さんの出演するイベントにはなかなか足を運ぶことができない境遇にある。この状況に不満を感じつつも、前向きにファン活動をしていきたいという心があらわれている。ただ淡々と自分をめぐるリアルを記載するわけではなく、この例のように好きなものと関連させて、詩的で繊細な印象のプロフィールを作っている。
本来インターネットでのコミュニケーションを前提とする場合、わざわざリアルに触れる必要はない。しかしそこであえてリアルを持ち出して語ることでインパクトのあるプロフィールを作り出しているユーザーもいる。この場合は、リアルを持ち出すことで話題に説得力を持たせたり、他のユーザーとの差別化を図ったりといった自己演出的な視点があるのではないか。
第五節 複垢の意味するところ
「複垢」については、話題によるものと、現実とインターネットを分かつものとがあった。話題によるものは、エログロ、版権(二次創作)と創作(オリジナル)、BLGL(ボーイズラブ、ガールズラブ)などがみられた。これらの話題は苦手なひとも多く、一つのアカウントでごちゃまぜにつぶやくのは避けられているということだろうか。これは地雷表示による自衛的呼びかけに対して、発信者側からの配慮ということができそうだ。
@Urrr_****
うるる(@Urrr_www)の創作アカウントです
TLは版権となるべく分けたい所存
この例は前章「複垢」で参照したものと同じものである。このユーザーも創作と版権でアカウントを分けているようだ。話題ごとにアカウントを分けるのはそれが苦手であったり関心のないフォロワーへの配慮である。これが「振り分け垢」の発想である。
インターネットはもともと、嫌なものがある人が自己防衛するのが常識であったが、twitterでは情報の発信者がフォロワーを鑑みて話題を選択し、必要に応じてアカウントを分ける現象が起こっていることに着目したい。