第三章 調査

本研究では富山市内でシェアハウスの運営をしているシェアライフ富山の管理人姫野泰尚さん、そしてシェアライフ富山が運営するシェアライフ磯部に入居経験のある3名にインタビュー調査を複数回行い、入居までの経緯や、シェアメイトとの交流に関して語ってもらった。

 

 

第一節 調査対象

第一項 シェアライフ富山

シェアライフ富山は管理人である姫野泰尚さんが単に家をシェアするというよりは知識や経験、人生観など暮らしを共有することを目的としたシェアハウス運営会社である。不動産会社に勤務する姫野さんは富山市内に6件のシェアハウスを運営している。入居者には、1人じゃない安心感や、これまで知らなかった価値観や考えに触れて刺激を受け取ってほしいと考えている。6件のシェアハウスは長江、小泉、白銀、有沢、五福、磯部にある。入居者はHPで募集する。既入居者達の不安や心配を軽減する観点から、姫野さんが入居の可否を最終的に判断するが、入居希望者に対しては、入居の経験を通して柔軟な考えを持つ機会にしてほしいという思いも持っている。

1つのシェアハウスに45人の入居が可能で、主に20代から30代の社会人が住み個室以外を共有している。家賃は3万から4万円前後であり、このシェアハウスが所在する都市ではワンルームマンションに比べて安いとはいえないが、キッチン用品や家電といった生活に必要な物がそろえられているので初期投資が抑えられる。また、広いキッチンや立地の良さなどの付加価値が魅力とされる。家賃はメールで次月分の請求書を送信し振り込む形をとっている。

掃除やゴミ捨てなどの家事負担は、当番制ではなく気になった人がやることになっている。当番制にしない理由は、何曜日にこれをしなければならないという生活スタイルの拘束や、感覚の違いからやったのにやっていないと思われるようなことを避けるためである。姫野さんは他人と暮らすのだから我慢は必要だが窮屈な生活にしたくないと考えており、ルール作りに工夫を施している。姫野さんは入居時にいくつかルールが書かれた紙を入居者に渡す。その内容は戸締りや整理整頓、節電節水など生活するうえでの基本的なことが書かれているのだが、逃げ道が作ってある。例えば節電のルールには、「違う生活環境で育った他人同士の共同生活であるとどうしても感覚が違いは現れます。行き過ぎた節電の強要は、せっかくのシェアメイト一人一人の生活を窮屈なものにしてしまいかねません」と付け加えられている。実際、どうしても電気を消し忘れてしまう女性がいたが他の入居者は彼女を責めるのではなく気付いたら消すようにしていた。この紙には姫野さんがシェアメイトに一番伝えたいこととして最後に以下の文が書かれている。

 

シェアハウスは「共同生活」です。一人暮らしの寂しさや、刺激のない退屈な日々からの解放が魅力とされています。しかしもちろん、常に他人に気を使う窮屈さは必ずついてきます。年齢も今までの生活習慣も全く違った仲間たちです。一人一人が寛容な心を持ち、今までにない他人の考えも理解しようとする前向きな気持ち、「気を遣う」のではなく「思いやる」という姿勢を大事に、新しいシェアライフを心から楽しみましょう。

 

第二項 シェアライフ磯部

シェアライフ富山が運営するシェアライフ磯部は2階建庭付きの一軒家である。お風呂とトイレ、洗面所、キッチンが1階と2階それぞれに付いており、4名まで入居可能である。1階はリビングとダイニングとキッチンが一体となっており、テレビが1台置いてある。個室にテレビは置いていない。玄関と個室は廊下でつながっているためリビング・ダイニング・キッチンに入る必要はない。しかし、ふすまのため廊下を通る音が聞こえたりリビングの明かりが見えるようになっている。

 

 

3-1 シェアライフ磯部間取り図


 

3-2 リビング・ダイニング・キッチン

 

シェアライフ磯部の共有部の使用実態

【キッチン】

キッチンには食器や鍋など道具が一式揃っており入居者同士で共有して使う。3合炊きの炊飯器が2つある。そのうちの1つは入居者の所有物である。食事は他の入居者が使用することを考えて片づけをしてから食べる。キッチン使用中に他の入居者が来た場合は同時に使用している。洗い物は水切りに置いたままにしておき、乾いたりたまっていたら食器棚にしまう。つまり必ずしも使用者が食器棚にしまうわけではない。生ごみは三角コーナーに入れておきたまったら、キッチンの引き出しにある小さなごみ袋に入れて縛って大きな袋にためておきゴミの日にまとめて出している。

 

【テレビ】

テレビは1階のリビングに1台あり、個室にはない。テレビをつけるか、番組はどう決めるかなどは一声かけたり、譲ったりとその時の状況に合わせて対応し共有している。特に見たいテレビがなくてもつけっぱなしのこともある。

 

【ゴミ】

キッチンの奥に燃える、プラスチック、ペットボトルの大きなゴミ箱が3つ置いてある。その近くにビンと缶を捨てる段ボールがある。段ボールは冷蔵庫と棚の隙間に挟んである。個人のゴミはまとめてキッチンのゴミ箱に捨てるか、ゴミが出るたびに直接捨てる。

【消耗品の購入】

消耗品は無くなったことに気付いた人が買ってくる。レシートに名前を書いて、専用の箱に入れておき管理人の姫野さんが家賃から引くことになっている。商品にきまりはなく、買ってきた人の選択自由である。

 

 

第二節 シェアハウス入居者の語り

本研究では、シェアライフ磯部に現在入居している男性1名と、以前入居していた男性1名女性1名にインタビュー調査を行った。

 

第一項 「もともと料理作るの好きやから、もしよかったらどうぞみたいな感じ」―30代男性 整体師 Aさんの語り―

2012年の10月から2014年の10月まで約2年シェアライフ磯部に住んでいた。現在はシェアライフ有沢に住んでいる。シェアハウスに住むまでは、名古屋の実家暮らしだった。

シェアハウスに住むきっかけは、富山でアパートを探していた時に管理人の姫野さんが働いている不動産会社のホームページにシェアライフ富山の動画があり興味を持ったからである。Aさんは海外に行くことが好きで、ドミトリー(相部屋)や旅人が集まる宿に泊まっていた経験があり、他人と生活することに好感を持っていた。シェアハウスを実際に見て

想像していた以上にきれいだったこと、そして初期投資の費用を抑えることができることから選んだ。人間関係に関しては、自分はそういうことに不安を感じないし、不安があれば選んでないと語った。

最初、シェアハウス生活はうまくいかなかった。4人中3人は女性で、前に住んでいた男性と入れ替わりでAさんが入居した。Aさん自身は仲良くしたいと考えているのに、うまくいかなかったという。そもそも生活パターンが違うのだから、あまり会わないのだが、その中でもあまりにも会話がなく、ほとんど話さずに退去した人もいた。また、Aさんは時間が合えばリビングで食事を一緒に食べたいと考えていたが、そうはいかなかった。その後、入居者が入れ替わり、Aさんは料理好きで食材をおいしく無駄なく使いたいという価値観を持っていることもあり、料理を多めに作って入居者に食べてもらうようになった。

料理はAさんが作りたいときに作っている。例えばフクラギを1本さばくことにした。しかし、1人で1本食べきることはできない。だから、メールや置き書きで「もしよかったら食べてね」という内容を書き、鍋や冷蔵庫に置いておく。料理は味噌汁が多いという。味噌汁を作り鍋に入れたままにしておき、飲みたい人が飲み、片付けは鍋を空にした人である。最初はうっとうしく思われるのではないかと気にしていた。しかし、入居者が喜んでくれていることと、うっとうしければ言ってねーと伝えてあるので問題ないようだ。また、料理は入居者の分を用意しているわけではなく自分が勝手に作っているだけなので、食べてもらえなくても構わないという。

Aさんは食事は一緒に食べたいと考えている。1人で食べるのは寂しいからだ。しかし、毎日ご飯を食べながら話すネタはないし、朝時間がないのに団らんを求められるのはうっとうしいという。たまたま時間が合ったときに一緒に食べたいという意味のようだ。

家事負担は各自気付いた人がやることになっているため、やる人に偏りは出てくるけれど、自分が快適に使おうと思ったらやるしかないし、みんながそれぞれ気を遣って負担のバランスを取ろうとしているという。

Aさんは職業柄1日のパターンが決まっていないがシェアメイトと大体週3回から4回ほどリビングで顔を合わせるという。シェアメイトとはたわいもない話が多い。シェアメイトに仕事上の愚痴を言うことはあまり無いが聞くことはある。例えば、シェアメイトが帰ってきてリビングをのぞいてAさんがいると、「ちょっと聞いてくださいよー」と話すことがある。悩み相談は自分にはなく人によると思うという。他のシェアメイト同士でそういう悩み相談をしていたけれど自分はそういうタイプじゃないと語った。人生設計の話はする。例えばシェアメイトの1人が就職活動で、どういうところに行ってこんなことがやりたいというような話をした。

シェアハウスをして、親が家族の分まで掃除や洗濯などをずっとしてくれたことに改めてすごいと感じた。シェアハウスは自分の部屋に加えて、広いキッチン、リビングなどを掃除しなければならないしゴミ捨ては自分が出した物だけではない。そこが自分のことだけする1人暮らしとは異なるという。

個室は用事があればノックをしたり声をかけたりするという。メールをすることもある。例えばシェアハウスに以前入居していた子が遊びに来て、他のシェアメイトに会いたいねって話になったら個室にいるシェアメイトに「誰々来てるけど」と呼ぶ。パーティをしたときに、シェアメイトの1人が体調が悪く個室にいた。食べれそうな料理をよそってドアの前に置いておき、メールで「元気になってね、食べたら外に置いてくれたらいいよ」という内容を送った。この時ノックしなかったのは、体調が悪いので声をかけたらうっとうしいのではないかと思ったからだ。

 

 

第二項 「みんな悩みを抱えながら頑張ってるなーって。自分も負けてられんなって思った」―20代女性 医療関係 Bさんの語り―

2013年の7月から11月末まで5か月間シェアライフ磯部に住んでいた。それまでは富山県内で実家暮らしをしていた。当時の入居者は、Aさん、同い年の女性Dさん、30代の女性である。

シェアハウスに住むきっかけは、雑誌でシェアライフ富山の特集記事を見て面白そうと思ったからである。Bさんはシェアハウス入居前の生活を、家と仕事の往復で毎日同じことの繰り返しでつまらないと感じていた。働きはじめは仕事を覚えることに必死で意気込みも強かった。しかし仕事にも慣れてきた3年目ごろ、将来のことを考える余裕ができると何がしたいのか分からない状態になってしまい、漠然とした不安を抱えていた。そんな時にシェアハウスの特集記事を見た。シェアハウスに住めば今までとは違う生活になることから生活が楽しくなるかもと思い、あまり深く考えず行動に移したという。また、1人暮らしはいつでもできるけれどシェアハウスは独身の今しかできないとも思った。退去したのは仕事が忙しくなり、実家からの方が通勤しやすかったからである。

Bさんにとってシェアハウス生活は楽しいものだった。特に出会いが大きかったという。

入居した当初は、その人のことを知りたいと思いながら興味を持って仕事のことや出身地のことなど自分から色々質問した。仲良くとはいかなくても関係が悪化しない程度にしようという気持ちがあった。シェアメイトとの会話では仕事上の愚痴は性格もあってあまり話さなかったが「大変だー」くらいは言った。人生設計は、「結婚したいねー」や「将来どうするー?」というような話をした。入居者の1人が既婚者であったことから出会い話などを聞き面白かったという。

現在の磯部シェアハウスは交流する頻度が少なめのようだが、Bさんがいた時は頻繁に交流していた。Bさんは当時のシェアライフ磯部をアットホームだと表現する。帰宅したらリビングに顔を出し、リビングに明かりがついていたら自然とメンバーが集った。Dさんとは親しい関係になった。初対面は入居してちょっとしてからキッチンでだった。まず何歳ですかから始まり同い年だからお互いに下の名前を呼び捨てしようとなった。同性で同じ年齢だったことから、苗字で呼ぶことに壁を感じたという。入居してから12週間でDさんの誕生日会が飲食店で行われ、別のシェアハウスの人から誘われて参加した。その後、シェアハウスのイベントに一緒に行くようになり、ご飯も行くようになった。帰る時間帯やご飯を食べる時間が一緒のことが多くリビングでよく話をした。恋愛話が多かった。Dさんの仕事の悩みをよく聞いたという。忙しくて会えない時は一緒に住んでいるがメールで話すこともあった。恋愛と家のことはDさんとしか話していない。

シェアライフ富山ではバーベキューや花見、誕生日会などイベントが開かれる。これは入居者の誰かの一声で始まることが多いようだ。Bさんはお誘いを受けたら予定がない限り行くようにしている。理由は、自分自身が気軽に人を誘えないタイプのため誘うという行為をとても勇気のいることと感じ、ありがたいことだと考えているからだ。また、人との出会いでいろんなものを吸収したい、成長したいという思いがある。職場にもよるが一般的にはずっと同じ人と過ごす場合が多いため、新たな出会いを作るには自分から積極的に出かけるしかないという。参加者は入居者に留まらず入居者の会社仲間など外部の人もいる。Bさんはシェアライフ磯部やイベントでの交流を通して職種も出身地も歩んできた人生も違う自分の知らない世界の人と出会い、それぞれの道で頑張っている姿に刺激を受け、自分も負けていられないと思うようになった。

Bさんは夢がない人だったという。しかしシェアハウスに入居して、他の入居者と仲良くなるうちに彼らの仕事に対する頑張りや向上心の高さを感じるようになった。Dさんから将来の目標を聞いたときに、自分の人生の先を見据えていることがかっこよく素敵だと感じた。人づてに聞くこともある。ある飲み会で話した内容が別の飲み会で話されて、新しい人が入ってきて出身や何の仕事をしているかなど情報が流れてくる。Bさんは心のモチベーションが変わったという。

シェアハウスを出て実家に戻ると、また以前のような家と仕事の往復に戻ったが気持ちの持ちようが全く違うという。人生設計ができるようになって、若い人に憧れられるような素敵な大人になりたいという目標ができた。そして今持っている資格を極めたいし、色々な仕事をしてみたい、旅行に行きたい、英語ができないから勉強したいなどやりたいことがたくさん出てきた。仕事も目標を立ててするようになった。

Bさんは家族から学べることもあるが、それぞれの人生経験から話をしてくることに上から目線を感じることや、そもそも一緒に生活していることもあり、家族から学ぶことを意識しないという。

Aさんが食事を作ってくれることはありがたいと感じていた。仕事から帰ってきてご飯が出てくることは幸せだった。1人で食べることは平気だが、1人よりも誰かと食べたほうがおいしく、今思うと食事の時間は楽しかったという。

Bさんは家事の負担は偏っていると感じていた。ゴミだしは家を出るのが一番早いということもありよくしていたという。当番制なら平等でいいのではと少し思っていたが、世話好きという性格もあって、私もしたくないけどという気持ちでしていたわけではなかった。その利益を求めない無償なものが家族みたいだという。また、全くしない人はいないし、しないといけないという意識があることは分かるし、ありがとうと言ってもらえるので苦痛ではなかった。入居者同士、空気を読んでうまく回っていたという。

 

 

第三項 「そんな無理に合わせようとしない。すごいストレスになっちゃうと思うから」―20代男性 大学生 Cさんの語り―

2014年の3月から現在まで半年間、シェアライフ磯部に住んでいる。それまでは大学の寮に住んでいた。入居者は他にAさんと20代女性Dさんである。

シェアハウスに住むきっかけは、大学の寮が狭く、生活する場としては困らないが過ごす場としては不満があり、初期投資の費用を抑えられる住まいを探していたところシェアライフ富山のHPを見つけたからである。初期投資の費用を抑えたかったのは大学生活が残り1年だったからだ。Cさんの周りにシェアハウスに住んでいる人がいることや、中高が全寮制の学校だったということもあり、人と一緒に生活することにあまり抵抗がなかった。

Cさんはシェアメイトと交流したいという思いは大きくなく、シェアハウスの生活は1人暮らしとあまり変わらないと感じている。入居者それぞれがバラバラの生活スタイルで、全員そろうのは誕生日やバーベキューといったイベントの時くらいだという。Cさんの生活スタイルではリビングに明かりがついているのは週2日程度で、しばらくいるよりも顔を出してすぐ戻ることの方が少し多い。家に誰もいないことの方が少し多いが1人じゃないことに魅力を感じており、何かあったときに相談できる人がいることに安心感をもっている。

Cさんがリビングに行くのは、食事、テレビ、パソコン、読書、リビングに明かりがついている時である。また、朝はコーヒーを入れることが多い。リビングに明かりがついていれば顔を出している。顔を出して「ただいまです」や「お疲れ様です」と挨拶しすぐ個室に戻ることもあれば、しばらく過ごすこともある。しばらく過ごすときは雑誌や本を読む、もしくはパソコンをすることが多い。出ていく時は、おやすみなさいなど一言いう。

雑誌は個人の物で、リビングで読むのはソファがあるからだという。個室にソファを置かないのは引っ越しが大変だからだ。雑誌をそのままリビングに置いておくことがあるが、他の入居者に読んでもらいたいわけではなく読んでも構わないですよという気持ちだという。パソコンは個室で6割、リビングで4割ぐらいしている。個室でやってもいいのだが、なんとなく気が向いた時にリビングでするのだという。

コーヒーはリビングに人がいれば「どうですか?」と聞いて一緒に飲んだり、多めに作って冷蔵庫に入れておいて他の入居者に「飲んでいいですよ」と言ったりしている。

家事はあまりしていないが、ゴミ出しはしているという。特に入居者から不満を言われたことはなく、偏りが出ることは問題になったら考えればいいと思っている。

食事はあまり作っていない。朝はしっかり食べるほうではなくコーヒーを飲むくらい、昼と夜は学食をよく使っている。Aさんが食事を作ってくれることは別に不満も無く、助かっているという。Aさんの友達が遊びに来ているときに、外から帰ってきて挨拶することもあれば個室からリビングに行って挨拶することもある。リビングに挨拶しに行って一緒にどう?など誘われてご飯を一緒に食べることもある。個室にいる時は声をかけられない。ご飯を食べる食べないは関係なく挨拶はしようかなという気持ちでしている。リビングにいてAさんがご飯を作ろうか?と聞いてくる時もある。洗い物は作ってもらった側がすることもあるし、そうでないときもあるという。この時食費や、食材の分担はない。