第二章 先行研究

第一節 シェアハウスの定義

他人と生活するスタイルについて「シェアハウス」「ルームシェア」「居住型ゲストハウス」など、記事や文献によって表記の仕方が異なっている。

シェア住居を専門に掲載する国内最大のポータルサイト「オシャレオモシロフドウサンメディアひつじ不動産」(()ひつじインキュベーションスクエア2014)を運営するひつじインキュベーション・スクエアの代表北川大祐は、他人と生活するスタイルはさまざまな捉え方がされているため一概に定義づけるものはないとしているが、サイトに一定の掲載条件を設けている。それは「物件の供給および管理・運営に事業者が介在」し、かつ「屋内の共有設備で入居者同士のコミュニケーションを育む余地のある空間、設備が提供されていること」というものだ。よく浴室やトイレ、キッチンなどの水回りが共有であればシェア物件であると誤解されがちだが重要なのは入居者同士の交流が促進できるスペースが建物内にあるかどうかである(北川201120)。

 

 

第二節 日本のシェアハウス

第一項 日本でのシェアハウスの広がり

「オシャレオモシロフドウサンメディアひつじ不動産」によればシェアハウスの登録物件数は2008年から2010年で約2倍となっており短期間で拡大している。

一般にシェアハウスはここ12年で爆発的に台頭してきたものであり、その人気要因はテレビドラマや漫画の影響によるもので一過性のブームだと断じる向きもあるが、北川はこれを批判している。シェアハウスの歴史は2030年に及ぶもので、メディアに取り上げられる頃には一定のマーケットに成長していたことから、もともとあった流れにメディアが巧みに乗っかっただけという(北川201122)。日本のシェアハウスは長期的に徐々に広まっており、近年注目されるようになったと考えられる。広まっているとはいうものの、シェア住居の90%以上が東京、埼玉、千葉、神奈川の首都圏に立地しており、東京近辺のみで成り立っている市場である(北川201122)。

 

第二項 入居者の特徴

()ひつじインキュベーション・スクエアが2008年に行った調査によると、入居者数の7割は女性で年齢層は30歳前後が最も多いことが分かった。また、月収が15万円以下の層がわずか8%であるのに対して月収40万円以上の層が13%もいることから、それなりの収入がある人が多いことがわかった。この調査は、「オシャレオモシロフドウサンメディアひつじ不動産」に掲載されたシェア住居物件に関するデータ、シェア住居運営事業者に関するデータ、蓄積されたシェア住居への入居希望者による問い合わせデータの3つを統計的に処理したデータと、20079月〜12月に「オシャレオモシロフドウサンメディアひつじ不動産」に登録している運営事業者57社と入居者727名を対象に実施されたアンケート調査と、ひつじ不動産未登録の物件(()ひつじインキュベーションスクエア2014)についてインターネット等を用いた独自調査をもとに集計、分析されたものである。

 

第三項 日本型シェアハウス

海外のシェアハウスは掲示板などでシェアメイトを募って物件を借りる個人同士の集まりによるものや、不動産投資家が家を一軒借り上げ貸し出しているスモールビジネスの色合いが強いものである。また、入居者は比較的不安定な収入の学生やアーティストである。これに対して日本のシェアハウスは、管理・運営会社が介在して継続的に切り回し、一般的な社会人が入居している。

その他に日本独特のものとして北川(2011)を一部とする『月刊レジャー産業資料』の特集では企業独身寮や集合住宅といった完全に個室と共有部が分かれたストックが市場に多数出回っていることを指摘する。初期のシェアハウスは戸建てを居室ごとに分割し共有部をシェアするスタイルが主流であったためプライバシーの面で弱かった。しかし、完全に個室と共有部が分かれている物件が出回ったことでプライバシーを犠牲にすることなくワンルームマンションなみのクオリティを確保し、かつワンルームマンションにはない充実した共用設備が使える、というように居住性が飛躍的に高まったのだと編集部は述べている。ワンルームマンションなみのクオリティとは、おそらくキッチン・トイレ・バスが個室にそれぞれ付いていることや、ワンルームマンションなみの防音ができていることだと思われる。また、充実した共用設備とは広いキッチンや、PC、家電といった生活水準を上げてくれるもの、ビリヤードや卓球台、シアタールームといった娯楽要素のものなどが挙げられる。  

このように完全に個室と共有部を分けることによってパブリックとプライベートの間に明確な境界線を引いた日本型シェアハウスの確立が適度なコミュニティは欲しいがプライバシーは確保したいという若者のニーズとマッチしたのだという(『月刊レジャー産業資料』編集部2011)

 

 

第三節 交流スペースの注目

北川(2011)を一部とする『月刊レジャー産業資料』の特集では、個室と共有部が完全に分かれている物件はプライベートとパブリックの境界線を明確にしプライバシーを強化させるので日本人のニーズとマッチしたとしている。その一方で北川は、シェアハウスとは入居者同士の交流が促進できるスペースが建物内にあるかどうかが重要だと主張する(北川201120)。

入居者同士の交流が促進できるスペースとはどういうものなのだろうか。テレビやソファ、雑誌等が置いてあってくつろぐことを目的としたリビングのようなスペースは比較的長時間その場で過ごすことができる。キッチンやダイニングでは使用頻度が高く食事の時間はおおよそ決まっているので一緒に食べる可能性も低くない。風呂トイレ、洗面所などの水回りは毎日使用するが長時間その場に留まることはなく一緒に使用することもない。北川は水回りが共有だからといってシェア物件とはいえないと主張している。(北川201120)これらのことから、使用頻度が高くそこに留まる時間が長ければ長いほど交流が促進できるスペースになると考えたい。またシェアハウスでは、自発的に集まる空間であっても交流を促進できるスペースになると考える。なぜならシェアハウスは入居者と交流できることが魅力として発信され、それに何かしら関心をもった人が入居しているからである。

 

 

第四節 入居者同士の関係

北川(2011)を一部とする『月刊レジャー産業資料』の特集は若者の「常に誰かとつながっていたい」、あるいは「不安を共有したい」という“つながりたいニーズ”がSNSを瞬く間に広げたように、つながりたいニーズは住まいにまで及んできたと述べている。

SNSの普及で、身近な人だけでなく旧友や全く知らない人ともつながることができるようになり、つながりを求めるには十分なインフラが整っているはずなのに何を求めてシェアハウスに住むのだろうか。北川(2011)を一部とする『月刊レジャー産業資料』の特集は、シェアハウスの入居者の関係を年齢が近いうえ、仕事上のしがらみも上下関係もない、かつ同じ建物で暮らしているから会おうと思えばいつでも会えることから、血縁でも地縁でも社縁でもない、新しい関係性(つながり)があると述べている。

新しい関係性とは具体的にはどういう関係のことを言うのだろうか。阿部・茂原(2012)は、シェアハウスは孤独を受け止める場として効力を発揮すると主張し、直接的に関わる人という視点で見ると、2030代の「リアルな人のつながり」は縮小する一方であることを指摘している。かつて日本は「終身雇用」を通じて、会社自体をムラとして結束させることで経済発展につなげてきた。しかし、欧米型の「成果主義」などのシステムが取り入れられ始められたことで、会社は「常に頼れる場所、仲間がいる場所」ではなく、競争相手が潜む緊張感の高い場所になってしまった。また、大手の企業の倒産、リストラがめずらしくないこと、自分のスキルを磨くためといった転職観の変化から、一生一社に勤める現実感が薄い世の中になった。このように、学校を卒業した後、本来なら次なるコミュニティとして存在したはずの会社は、寄りかかるにはひどく脆くて頼りないものになっており、孤独になってしまうのだという(阿部・茂原2012112-114)。

一方、島原は入居者の質の高さが価値になると主張する。シェアハウスには企業家マインドを持ったサラリーマンや第一線で活躍するフリーランスの人たちも多く、そこでは住民同士のおしゃべりから住民イベントやコラボレーション・ビジネスのアイデアが生まれたりしている。入居者は面白い人が多い、面白いことが起こると語っており島原はそこでのコミュニティはつながりや絆とは少し違うと感じているようだ。もっと軽やかでやわらかく、自由であるといった表現をし、あまり明確には説明していない。(島原201343

 

 

第五節 先行研究のまとめと調査の着眼点

海外の文化であったシェアハウスが日本でも広がりを見せ、日本独特の進化をしている。入居者の特徴は、女性が多い・収入がそれなりにある・30歳前後の若者が中心である。また企業独身寮や集合住宅のような完全に個室と共有部が分かれている物件が多数出回っている。北川は、シェアハウスとは入居者同士の交流を促進できるスペースが重要だとし水回りだけの共有はシェアハウスではないと主張する。(北川201120)では、交流を促進できるスペースとはどういうものなのだろうか。私は日常的に利用しそこに留まる時間が長ければ長いほど交流が促進できるスペースになると考えた。今回の調査対象のシェアハウスはキッチン・リビング・ダイニングが一体となっていることから、このスペースに着目したい。

入居者同士の関係性を北川(2011) を一部とする『月刊レジャー産業資料』の特集は新しい関係性と表現した。一体それはどういうものなのだろうか。阿部・茂原は会社というコミュニティが機能しなくなった現代で孤独を受け止める効力があると主張する。(阿部・茂原2012112-114)一方、島原は入居者の質の高さから面白いことが起こると主張する。(島原201343)このように違った見方をしているのであれば、改めてシェアハウスを調査しシェアメイト同士の関係を分析する必要がある。今回私は一地方のあるシェアハウスを調査し、新しい関係性について自分の考えを主張したいと思う。