第六章 考察

 

第一節     演劇の場としてのフォルツァ

 インタビューにおいて、フォルツァが持つ他劇場と違った特別な魅力とはなんでしょうかと利用者に尋ねると、単純に他の劇場と比べて利用料金が安いところ、という答えが利用者側としての純粋な意見のようだ。プロとは違い、自分たちだけでまかなえる範囲の予算で公演を行なう地方のアマチュア劇団ともなれば、やはり舞台の値段というものは利用する舞台を選ぶうえで重要な判断基準となるのだろう。

 しかし私は、フォルツァスタッフの方々や、利用者の語りの端々にフォルツァならではの魅力と呼べそうなもの存在しているように感じた。フォルツァスタッフ側が利用者に対して心を痛めているという、照明や舞台の設備不足という点。この点は一見するとフォルツァが他劇場より劣っている点のように感じられるが、第五章第一節の野路だいすけさんの語りからはこの設備不足こそが、フォルツァの魅力となっているような語りがみられる。設備が整っておらず、演劇を成立させることが難しい環境であるからこそそのような場所で演劇を成立させるということが、利用者側に達成感、満足感を味わわせているのである。私自身も演劇をしており、フォルツァを舞台として利用したことは何度かあるが、確かに最初はこの設備でどのように舞台をつくろうか、というところで悩まされる。だが、第四章でフォルツァスタッフの方々が語って下さっているように、利用者が利用しやすいようフォルツァ側からこうしたらどうか、といったアイデアをもちかけてくれたりするため、舞台の作り方が少しずつ膨らんでいく。途中、舞台上にあるコンセントをすべて利用したいなどのような無茶な要望がでても、可能な範囲でフォルツァ側が対応してくれるため、本来課題となるであろう部分がスムーズに進んだりもするが、その要望を通すことで別のアイデアの実現が不可能になる、といったことも多々あった。そのような過程を経て、いざ本番でお客様から大反響があったときは、とてつもない満足感を感じられた。現状はおそらく、フォルツァは設備が不足しているから、という単純な理由で利用を避けている団体もいるのであろう。しかし一度利用してみれば、設備不足という難しい環境で演劇を成立させるからこそ味わえる達成感があって、また使ってみたくなるというフォルツァで生まれつつある仕組みがフォルツァならではの魅力となる可能性は大きいのではないだろうか。

 そしてもうひとつ、第四章第二節でNさんが語って下さっているように、映画館と併設された舞台という点もフォルツァの強みとなる可能性が大きいと私は考える。確かに第五章第二節で映画館と併設されていることで、演劇利用者との間にメリットばかりが生まれているわけではないことがわかった。しかし、映画か演劇のどちらかだけを目的としてフォルツァに来た人間がもう一方に情報を得られるという環境づくりができているという点に関しては何も問題はない。この点が他劇場と違う魅力になりうる理由は、フォルツァの場合は映画か演劇のどちらかの観賞を目的としてフォルツァへ来たその日に、どちらも観賞できるというところである。確かに他劇場でも、告知のチラシがずらりと劇場前に並べられているため、今までに触れたことのなかったジャンルのイベントの情報を得ることは可能なのだ。だがフォルツァでは、例えばお昼に映画の観賞を行なった場合、もしその日に隣の多目的ホールで演劇が行なわれていて少しでも興味を持てば、そのままその日の夜に観に行く、というようにその日得た情報のものに触れるということが可能なのである。お客の劇場への出入りの細かい時間設定や、まずフォルツァでの演劇での利用の数を増やすなど、課題はそれなりにあるとは思うが、もしフォルツァが上記のような流れを確立できるような場所になれば、フォルツァならではの特別な魅力になることが期待できそうである。


 

第二節     まちづくりの中の演劇

 第五章第二節で演劇を長い間やってきた宇野津さんが語って下さったように、現状では、ただまちなかの小劇場で演劇をするだけでは、まちづくりには何の効果ももたせられないようだ。だからといってまちなかと協力した企画を行なえばいいというわけでもないことも、同章第二節第二項のコラボレーション公演の結果が証明している。ただ演劇にも他のジャンルのイベントと同様に、これまでまちなかに集めたことのない人達をまちなかに集めることができるため、活性化の手助けのような影響は与えられるということもわかった。

 しかし私は演劇によってしか与えられない影響は存在している可能性はあると考える。例えばフォルツァでの公演の場合、中央通り商店街をテーマとした作品を上演し、その際にコラボレーション公演で行なった半券サービスをやる、とするとどうなるだろうか。過去のコラボレーション公演と違う点は、中央通り商店街をテーマと作品を上演することのみである。皆さんにもTV番組で自分の地元が紹介されていると、ついつい観てしまうという経験はないだろうか。その心理を利用して、商店街を作品のテーマに取り上げれば自然と、今まで演劇を観たことのない商店街の人々も集まってくるだろう。またお客として商店街の人間が集まれば、これまで関わったことのなかった同じ商店街の人と関わることができ、商店街の人々の間が親密になるきっかけにもなる。こうして商店街中の人々が親密な関係になれば、樋口(2010)の伊勢佐木町クロスストリートの事例のように、商店街の人間が一致団結して大きな事業を成し遂げることができるかもしれない。

 演劇を好む私の私情と憶測が入ってしまっているが、人を集めることは可能であるのだから、劇場のある商店街をテーマとした作品を上演して、集まる客層を多少変化させることで、演劇にしか起こし得ない、まちなかの大きな変化のため小さな影響を与えることが可能であると期待し、今後も追究していく必要があると考えたい。