第四章 フォルツァ総曲輪と演劇

 本章では、フォルツァを運営している人々、つまり演劇の場として利用される側のフォルツァと演劇の関わり方についての考えを、インタビュー内容をもとに分析していく。

 

第一節     まちづくりとやまにおけるフォルツァ総曲輪

 フォルツァを管理しながら、フォルツァと演劇との関わりを第三者的視点からみているまちづくりとやまへのインタビューに行なった。インタビューの詳細は以下の通りである。

 

日時:201494

場所:株式会社まちづくりとやま(総曲輪WIZビル3)

インタビュイー:Hさん(まちづくりとやま第2業務部部長)

 現在、フォルツァをはじめとした、まちづくりとやまが管理する、中央通り商店街にある施設(フォルツァ、グランドプラザなど)運営の責任者。

 

 Hさんによれば、まちづくりとやまにおいてフォルツァは娯楽部門の施設、つまりアミューズメントパークに近いものであり、普段の運営はもちろん、フォルツァで何かイベントを行なう時はまず、どうしたら人が集まるか、あるいはどうしたら人が興味をもって足を運ぼうとしてくれるか、ということを考えるとのこと。現在は県内にすむ人に講師をお願いし、多目的ホールを利用してカルチャー教室を開催することに力を入れている。それら以外の貸しホールを利用したイベントについては、ほとんど現場の運営スタッフに任せているそうなので、特に演劇について意識をしたことはないそうである。ただ、貸しホールを利用した、演劇をはじめとする外部からの持ち込みの企画(音楽ライブなど)は、フォルツァを拠点として総曲輪通り商店街に人々が足を運ぶきっかけになってくれるものなので、今後もぜひ利用してもらいたいし、可能な限りの協力をしたいとも語っていた。

 以上のことから、まちづくりとやまはフォルツァの現場スタッフ以上にフォルツァをまちなかの人々が集まって何かを行なう場、あるいは何かを楽しむ場、つまり「賑わい創出の場」であると意識して活動していることがわかった。


 

第二節     Mさんのお話から

 

<演劇集団との関わり方>

設立時からフォルツァの運営に関わっているMさんのお話からは、映画館としてのフォルツァへの想いが非常に強く感じられた。そのためフォルツァを賑わい創出の場としての働かせる際には、強く映画を推し、多目的ホールでの催しは映画による集客などの手助け程度になれば、という考えがMさんの中では大きいように感じられた。

しかし、演劇がフォルツァで行なわれることが増えてきた中で今後どう演劇と接していきたいかという質問では、演劇で多目的ホールを利用してくれる人々への想いを語ってもらえる場面もあった。

 

そうだね、ここでこんなこと(演劇)やるっていうのは、うちのスタッフと一緒に、・・・考えながらやって、いくしかないかなとは思いますけど。うん。逆に、どうなったらいい、どういう風に、どんなものがあったらいいっていうのをもっと教えてもらいたいですね。

 

もう一方のインタビュイーであるNさんもそうなのだが、フォルツァの運営スタッフ側は多目的ホールが演劇に適していない場であることは重々承知している。また、Nさん以外の運営スタッフで演劇に関する知識が豊富である人間がいないことにも心を痛めているとのこと。そのためMさんは、演劇の場としてフォルツァを利用してくれる人には、どうしたらフォルツァも演劇を行なえる場へと進化できるのかを教えてもらい、ともに考えていきたいという姿勢で対応している。お互いに知恵を出し合い新しい利用方法が見つり、その後も定期的にフォルツァを利用してもらえれば、賑わい創出の場としての効果を継続する手助けになるからであろう。

 

<劇場と利用者のつながり>

 フォルツァ内では現在、著名な映画監督が舞台挨拶に頻繁に来てくれるという流れが出来ている。その流れが生まれるまでの過程のお話を聞いている際に、Mさんが以下のようなことを語って下さった。

  

 結局、Oさん(舞台挨拶に来た監督)もいうんだけど、こういうのって結局個人と個人のつながりだよねって。だから、話の中で、ほんとにみなさん待ってると思うんできてくださいねっていう話をすれば、わかりました、っていってくれるわけですよ。

 

この場面でMさんは、現在フォルツァにある著名な監督が来て下さる流れが生まれたきっかけは劇場側のMさん個人と、監督の皆さん各個人とのつながりであったということを熱く語ってくれている。要するに、劇場スタッフ個人と劇場を利用する側のつながりが強くなればなるほど程、思わぬ著名人がフォルツァにやってくるなど、フォルツァでは通常実現不可能ことも可能になるということだ。

 もしこの考えが、ホールの利用者との関わり方ではあまり活用されていないとされている現在、演劇集団との関わり方も映画関係者との関わり方のように変化すれば、フォルツァでの演劇人口が増えるきっかけになる可能性があるのではないだろうか。もちろんこの考え方1つではどうにもならない現実的な問題(設備の不足など)はあるが、全く可能性がないと言えないと私は考える。


 

第三節     Nさんのお話から

 

<フォルツァ運営スタッフ側の姿勢>

勤続年数が23年と他の運営スタッフに比べるとまだまだフォルツァでの経歴が浅いNさんだが、運営スタッフ内で唯一演劇に関する知識を持っているということと、ホール担当という肩書を持つことから、演劇に対するフォルツァの姿勢に関して大変熱く語って下さった。

 以下の語りからは、本章の第一節でも触れた演劇集団との関わり方がわかる。

 

(照明に関しては)危険の無い程度の無茶は結構してるね。でも、Uさん(利用者)とかはもう諦めて、ここなりのやり方をやってくれているから、それはそれですごい助かる。なんというか、あるなかでやってくれているというか、最初からそこ(照明設備)はないものと思ってやってくれているから。ちょっと、大変申し訳ない話なんだけど。

 

 やはり照明設備に関しては不足したことを重々承知している上で、利用者の要望を応えるためには可能な限りの努力はしているとのこと。別の語りの一部では、演劇集団からの要望ではないが、ダンスによるパフォーマンスをメインとするある音楽団体からの、舞台と客席を逆にして利用したいという要望に応えた前例があったということが聞けた。この要望はつまり、本来ステージ側を照らしている照明機材をすべて反対の客席側に向けるという、舞台を知る人間からすればとんでもない要望なのだが、それくらいの斬新な要望にも応えるようにしているとのこと。このようなとんでもない要望もあるものの、そこまでしてでも、フォルツァなりの、フォルツァでしかできない上演方法をともに考えてくれているんだと実感できるのであろう、語りの中盤からは利用者に非常に感謝している部分がみられる。

 またこの語りからは、十分な設備もなく演劇の知識が豊富なスタッフがいないフォルツァでも、積極的に利用してくれる利用者には精一杯応えようといった、フォルツァ運営スタッフ内で共有された想いがあることがわかる。

 

 

<フォルツァの持つ強み>

フォルツァの売りのような部分はありますか、という質問でNさんは次のように答えてくださった。

 

  たぶん、(使用料が)安いと思う。僕も県内の他のホールで働いたことないからわかんないですけど、わかるとすれば割と自由に使えるということ。客席と舞台を逆さにしようと構わないし、よほど危険なことでなければ許可してますね。消防法に触れない程度に。たぶん普通のホールだと水をぶちまけますって言ったら絶対お断りすると思うけど、うちはやれる方法を探す。

 

 前項でも触れたように、やはりスタッフ内で共有されている想いこそが強みであるのだろう。また、設備などの面で他の公共ホールでは可能なことでもフォルツァではできないことも多いが、逆に設備が不足したフォルツァだからこそ出来ることもある、と明言して下さっている。つまりフォルツァは、他の公共ホールでは実現できない斬新な舞台の利用法が生まれやすい場となっているといえるだろう。

 続いて以下のようにもNさんは語って下さっている。

 

 そういう物事(演劇や映画)をいろいろミックスしてるのは一応強みだと思いますね。それが、例えば映画観に来る人ってそういうの(映画や演劇)に興味があって観に来てるから、その人たちを刺激できる魅力はあると思う。(中略)…ここだと演劇見に来た時に、これ(映画)面白そうだとか、そういうところに総合的に触れられるのは売りだと思う。

 

 映画館と多目的ホールが併設されているからこそ生まれる強みが、やはりフォルツァの魅力の1つのようだ。映画か演劇のどちらかを目的にフォルツァへ来れば、本来の目的でなかった方の情報も自然と手に入れられる仕組みができている。そのため、フォルツァには来場者数が増えるというメリットが生まれ、多目的ホールの利用者には彼らの活動に触れてもらえる機会が増えるというメリットが生まれる。このように、フォルツァと利用者の双方に良い効果がもたらされるということがフォルツァの最大の強みと言えるのではないだろうか。