第三章 フォルツァ総曲輪

 フォルツァは富山市総曲輪通り中央通りの西側にある総曲輪WIZ ビル4階にある、ライブホールを併せ持つ映画館である。正式名称は「賑わい交流館フォルツァ総曲輪」。上の階の5階がフォルツァ運営スタッフの事務所となっており、スタッフの人数は7名でそのうち4名が常勤スタッフ、残り3名が非常勤スタッフである。人数が少ないため、スタッフチーフなどの役職はあるものの、手が空けば他の部署の補助にもまわるという、役職に縛られない職場となっている。フォルツァの主な活動は、176席のシネマホールでのミニシアター系映画の上映と、多目的ホール貸出、イベントの催しである。

 

3-1 フォルツァ表入口

 

3-2 簡略地図

 

第一節     設立までの過程

 現在フォルツァがある総曲輪WIZビルは2005年まで、ある不動産会社が保有しており、当時からビルの2つのスクリーンがあるシネマホールと、シネマホールの管理事務所がそれぞれ45階に存在していた。しかしそれらは利用されることなく放置されている状態だった。そこで不動産会社が2005年の12月にシネマホールとシネマホールの管理事務所部分を富山市に寄贈したことがきっかけで、このシネマホールを中心市街地の活性化に生かし、人があつまり、賑わいが創出される場、賑わい創出拠点をつくろうという運びになった。そのことを知った市民によって、国からの戦略補助金²を受け、株式会社まちづくりとやまが補助金を管理するという形でフォルツァ設立への活動が開始された。

まず彼らは、官民が協力して映画の上映機会をつくる「コミュニティシネマ」という考えを用いて、地域や学校を巻き込み、映画に関心のある会社員や大学生など約20人を集めて、「富山コミュニティシネマ実行委員会」を設立した。そして委員会の中から、シネマホールに常駐して上映会などを運営する人員を選出し「とやまWIZシネマ倶楽部」をたちあげた。その後、富山市が国から受け取った戦略補助金によって、20067月から9月の3か月間、2つの団体が中心となって毎週末3日間のみ上映を行なう、という試行上映会や、トークイベントなどを開催した。これが非常に盛り上がり、試行上映期間の最後には「かもめ食堂」という作品で、6日間の上映で1800人という来場者数を記録した。この試行上映会の結果から、本格的オープンも可能であると富山市が判断し、戦略補助金による3年間の事業補助で運営することを決定した。200612月には愛称を公募し、また多くの利用者に来てもらえるようにと2つあったうち1つのシネマホールを多目的ホールへと改築し、翌年2007年の2月に総事業費約22200万円をかけて「フォルツァ総曲輪」としてオープンされた。

 

多目的ホールへの改築

 本節で記したようにフォルツァは2つあったスクリーンのうち1つを多目的ホールへと改築している。この改築には当時のフォルツァ設立メンバーが、フォルツァを賑わい創出の場として強く意識したことに起因している。フォルツァをまちなかの映画館として考えた場合、当時から一世を風靡していた巨大なシネマコンプレックスに対抗するには、賑わい交流館であるフォルツァならではの特別なサービスが必要だと設立メンバーは考えた。そして、スクリーンの1つを多目的ホールへと改築し、イベントスペースとして貸し出しを行なうなどすれば、多目的ホールと連携した新しい形の映画館として賑わいを創出できるだろうという考えに至り、ホールへの改築を行なうことが決定した。現在では、演劇集団や音楽団体の貸し出し以外にも、スクリーンでの上演作品の舞台挨拶や、出演者のトークショーといったイベント、フォルツァが主催するカルチャースクールの場としても大いに利用されている。


 

第二節     運営体制

 2007年にオープンしてから2009年までの3年間、まちづくりとやまが富山市から受けた国からの戦略補助金を受託し、元「とやまWIZシネマ倶楽部」のメンバー数名が、有償ボランティアとしてフォルツァの業務運営を行なっていた。そして国からの補助金による3年間の補助期間が終了したことをきっかけに、富山市からの助成金を受け、2010年から「株式会社まちづくりとやま」(以下まちづくりとやま)の管理下に入ることとなる。まちづくりとやまは2009年に富山市が策定した「富山市中心市街地活性化基本計画³」に基づき、富山商工会議所などの富山市中心地区の中小企業者たちの出資による第三セクターのTMOとして2000年の77日に設立された。現在ではフォルツァ以外にも、グランドプラザや総曲輪WIZビル1階にある「地場もん屋総本店」などの「富山市中心市街地活性化基本計画」に基づいて設立された建物の管理を行なっている。フォルツァにおいては金銭面の管理を行なっており、フォルツァへの助成金の仲介、フォルツァの収益の管理、フォルツァ運営スタッフへの給料の配布などを管理している。フォルツァ運営スタッフは、まちづくりとやまの契約社員という形で業務運営を続けることとなった。補助金に関しては、県からのものは現在受けておらず富山市経産省中心市街地活性化推進課からのまちなか活性化事業サポート補助金を受けながら運営をまかなっている。


 

第三節     映画館としてのフォルツァ総曲輪

第一項     基本的なサービス

 フォルツァのスクリーンの席数は176席。年間来場者数は約15千人。フォルツァのスクリーンで上映される映画の料金は表3-1の通りになる。

 

3-1 フォルツァの映画料金表(※20141月当時)

その他のサービス制度

・毎週木曜日 フォルツァサービスデー 大学生以上1000

・毎週月曜日 シニアサービスデー シニア 900

・シネマ会員制度

年会費2000円(入会金なし)でお得なサービスを提供

・入場料が毎回1000

 ・隔月発行のシアターガイド・イベント情報などを定期的に発送

 ・4階のカフェ部分でホットコーヒー100円引き

 ・特別企画での会員割引を実施

・ポイントカード制度

 映画を観るたびに1ポイント

 5ポイント貯まると、映画無料招待券1枚進呈

 

第二項     フォルツァ総曲輪の上映方法

 フォルツァでの映画の上映は、他の映画館と同じく中小の配給会社に作品を配給してもらう形である。配給してもらう作品については運営スタッフ内で「上映選定会議」というものを行なって決定する。会議は、まず各スタッフが他県のミニシアターで上映されている作品や、配給会社からフォルツァで上映してもらたいたいと送られてくる作品を参考にして、ぜひ富山で上映したいと感じたものをスタッフごとに厳選して持ち寄り、次に、どの作品がフォルツァで上映することに適しているか、どの作品が富山県民にぜひ観てもらいたいものか、ということを選定基準にして作品を選り抜くという流れで進行していく。

 また、フォルツァで上映されている作品はメジャーな配給会社のものではなく、独立系配給会社の作品である。これは、メジャーな配給会社が、自社の作品を巨大なシネマコンプレックスなどの限定された劇場でしか上映しないという制約をもっていることが理由である。そのため、フォルツァのようなミニシアターでは、巨大なシネマコンプレックスでは上映しない作品を上映する、という差別化をはかっているのである。そのようなフォルツァで上映される作品には、アメリカを始めとしたフランス、ドイツ映画など海外のものも非常に多い。上映選定会議に出席するスタッフによれば、日本国内では上映されているものの、富山県では上映されたことのない素晴らしい作品が海外映画には多いからだそうだ。そしてより多くそれらの素晴らしい作品を観てもらう工夫が、フォルツァの上映スケジュールには組み込まれている。フォルツァでの上映映画1作品における上映期間は平均で12週間と、大手の映画館に比べると非常に短い期間となっている。上映期間のサイクルをはやくすることによって、より多くの作品を観てもらうたいと考えたフォルツァのスタッフたちが考えた工夫だそうだ。

3-2 映画スケジュールの例

 

 

 

上演映画の例

・ハンナ・アーレント

2012114分/ドイツ/監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ /出演:バルバラ・スコヴァ、アクセル・ミルベルク、ジャネット・マクティア、ユリア・イェンチ、ウルリッヒ・ノエテン

舞台は60年代初頭。高名な哲学者であるハンナ・アーレントが、ホロコーストの責任を問う元ナチスの重要戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判に立ち会う。発表されたレポート記事を巡り、世論は揺れる。絶対悪とは何か?そして考える力とは何か?を問いかけるとともに、アーレントの強固な信念を描く。

 

・ペコロスの母に会いに行く

概要

2013113分/日本/監督: 森崎東/出演:岩松了、赤木春恵、原田貴和子、加瀬亮、竹中直人 、原田知世、宇崎竜童、温水洋一 

62歳の漫画家が認知症の母との日々を描いた原作の漫画は、SNSで人気爆発となりついに映画化。母役の赤木春江は89歳にして介護経験もあり、愛しくもおかしい認知症の母を堂々と演じている。父親役の加瀬亮は、新境地とも言える父親像をユーモラスに演じている。ほっこりと涙する介護喜劇映画登場!

第四節     多目的ホールとしてのフォルツァ総曲輪

 多目的ホールを演劇の劇場として扱った場合の最大収容人数は100人。演者が芝居や音楽ライブの際にたつステージの大きさは幅7メートル、奥行き4.5メートルで客席から80センチメートルの高低差がある。客席側の壁の両面のうち片面は全身鏡となっており、フォルツァ主催のカルチャースクールのひとつであるフィットネススクールの際によく利用されている。

 

第一項     利用方法・料金について

 この多目的ホールは映画関連の舞台挨拶や、多目的ホールのステージ上に残されているスクリーンでの特別上映会などフォルツァが利用することもあるが、その他にも市のイベントスペースとして、あるいは外部団体の催しの場として貸し出しされている。外部団体の催しとしては、演劇や、アマチュア音楽団体によるライブ、特定の人物による講演会や、県外で活躍する落語家の寄席の場として利用されることが多い。多目的ホールの使用料金は使用目的によって値段が変化する(3-3、表3-4)。ちなみに、この多目的ホールの貸し出しによる収益は年間230万円となっている。

 

3-3 多目的ホール貸出料金表(※20141月当時)

・無料催事…付帯設備使用時には追加料金が発生

・有料催事…入場料の徴収額によって追加料金+付帯設備使用時に追加料金発生

 

 

 

3-4 入場料別加算額表(※20141月当時)

・加算額は使用者が表示する入場料の最高額をもって区分される

 

利用料金の価格設定について

 表3-2の多目的ホール貸出料金は、フォルツァオープン当時のメンバーが他の公共施設の使用料金を参考にして考えたもの。そのため市内の他の小劇場やライブハウスと比べて非常にお手頃な価格となっている。このようにお手頃な価格に料金を設定した理由は、フォルツァが少しでも賑わい創出の場として盛り上がるように利用者が利用しやすい安い価格に設定したかったという、当時のスタッフたちの想いが反映したためであるとのこと。

 

 

第二項     利用者について

 多目的ホールは、平日は主にダンスレッスンの教室の場としての利用されている。そして休日は主に、音楽団体、演劇集団、その他(寄席、講演会など)3つのジャンルの団体が利用している。どのジャンルの団体がより頻繁に利用しているか、などはフォルツァに各団体の演目の資料が残っているというわけではなかったためわからなかった。しかし、近年になって演劇団体が利用してくれるようになった感覚があると、スタッフ達は述べている。以下で、各ジャンルで定期的に多目的ホールを利用する団体を簡単に紹介しておく。

 

音楽団体

・開進堂楽器店…本来は楽器店であるのだが、少しでも多くの人が楽器に興味をもてるようにとイベントを行なっている。フォルツァでは、「OneStepJam(ワンステップジャム)」という新人アーティストへのバックアップを目的とした音楽イベントを開催している。

音楽団体に関しては団体名はわからないものの、その他56団体が年に12回公演を行なっている。

 

その他

・三遊亭良楽さん…フォルツァ設立時に頻繁に多目的ホールを利用していた噺家。富山出身ことで、富山で寄席を広めたいという想いを伝える場としてフォルツァを利用してくれていたとのこと。スタッフによれば、現在は利用がなくなってしまったそうだ。その代わりというわけでもないが、現在では「柳家さん生会」という噺家の団体が年に2回公演を行なっている。

演劇集団(演劇集団については後章で改めて詳しく紹介する)

・劇団演人全開血が滾ってきたぜ!…富山市内を中心に活動している劇団。年に1度はフォルツァを利用している傾向がある。シチュエーションコメディ中心の現代劇を上演している。

 

・遊人企画KANTAN…富山市内を中心に活動する演劇集団。近年フォルツァを利用し始めている。災害や難病などを作品のテーマにとりあげ、メッセージ性の強い作品を上演することが多い。

 

・富山大学人文学部社会学分野比較文化コース…毎年1回、講義の内容をもとに舞台を行なう場として多目的ホールを利用している。