第二章 先行研究

 まず最初に、本章で扱う先行研究について説明しておきたい。先行研究を「演劇」と「商店街」というキーワードで検索したところ、該当する研究はないことがわかった。これは地方都市において、フォルツァのように商店街の中に存在する小劇場の存在が稀有であること、また単純に演劇を好む層が極端に少ないということが原因だと考えられる。しかしこれまで研究はされてこなかったものの、私はフォルツァのような特殊な小劇場がもつ小さな魅力が引き起こしている現象や事実を吟味することは、非常に意味のあることだと考える。

 そこで今回は「演劇」というキーワードに縛らず、「商店街」にある出し物やイベントをする場、いわゆる「パフォーマンス・スペース」というものまで視点を広げ、2つの事例を用いてフォルツァについて検討したい。


 

第一節     横浜市伊勢佐木町クロスストリート

本節では樋口(2010)に記されている、横浜市伊勢佐木町商店街の事例を取り上げる。この事例は、近年経済的地盤沈下が進んでいた横浜市伊勢佐木町商店街において、地域経済の活性化という同じ目的を抱きながら、市に事業を委託されて活性化に取り組むNPO法人と商店街側の有志たちが対立し、その結果商店街側が、市が設置した地域活性化事業の補助金制度をうまく活用し、商店街側の提案が認められ、ひとつの施設をを生み出すことに成功したというものである。「CROSS STREET(クロスストリート)」というイベントスペースで、現在は今までに引き寄せたことのない客層を多く集めている。以下ではこの施設設立までの経緯を樋口(2010)に従ってまとめたい。

まず、横浜市には「地域経済元気づくり事業」という取り組みを前提とした、「商店街事業提案型活性化事業」という取り組みが存在する。この取り組みでは、商店街単独では活性化に限界があるため、第三者のアイデアを取り入れ新しい提案を生み出す必要があると考えている。そのためNPO法人や専門家などが商店街に拠点を置き、地域のニーズをくみとって商店街との事業提携へとつなげるという枠組みになっている。この枠組みにならって、NPO法人が「ザキ座」という拠点を伊勢佐木町商店街に構え、伊勢佐木町商店街はかつて映画で栄えた街である、としてミニシアターの開設に取り組もうとした。しかし商店街側はそれまで力を入れて取り組んできた路上音楽イベントを中心に考えた施設を求めていた。そこで商店街側は活性化部会という会を作り、独自に音楽イベントスペースの計画を進めた。だが、補助金をもらうためにはザキ座の活動を引き継ぐ必要があったため、映像も音楽も広く「アート」とくくり、多目的なイベントスペースとすることでつじつまを合わせ、「CROSS STREET」設立を実現させた。

 

フォルツァとの違い

 この伊勢佐木町の事例とフォルツァの特別大きな違いは、補助金の規模と設立のプロセスそのものである。まず、クロスストリートは設立開始の時点で2000万円、以降1000万円までを補助金としてもらえることになっていた。フォルツァは補助金を非公開としていたが、フォルツァの施設としての規模からみてそれほどは受け取っていなかったと考えられる。補助金にそれだけ差があるとすれば、設立する施設の規模にも差が生じ、最大収容人数や設備のクオリティなどにも差が生まれるだろう。しかし、伊勢佐木町の事例で今までにない客層を引き寄せているように、フォルツァも現在それまでになかった演劇での利用者が現れ始めている。つまりフォルツァには、多くの補助金があれば潤う設備や施設の規模以外に、何か特別な魅力が存在するということではないだろうか。

 また伊勢佐木町の事例では、施設設立までに商店街の人間が積極的に動いている。フォルツァ設立の際には、商店街の人間は動いていたのだろうか。そして設立後は商店街の人間とどのように関わっているのだろうか。本調査では以上のような点を、伊勢佐木町の事例から得た観点として注目していきたい。

第二節     富山市グランドプラザ

 本節では濱中(2010)に記されている、富山市のグランドプラザの事例について取り上げる。グランドプラザはフォルツァと同じ商店街に面し2007年に開所された、約1400平方メートルのイベントスペースである。富山市がこれまでに行なってきた中心市街地活性化のための事業展開の1つで、「そこに行けばなにか楽しいことが行なわれている」「そこに行けば誰かに会える」という状況を作り出すことが目的とされて作られたスペースである。2009年までは富山市が直営で管理していたが、2010年度からは、フォルツァも管理している、株式会社まちづくりとやまが管理している。またグランドプラザでは、「マッチング事業」というものが行なわれている。マッチング事業とは、資金や経験はないがイベントのアイディアは持っているという市民と、グランドプラザを利用してPRがしたいなどの想いをもった企業との間をグランドプラザが仲介して結び付け、イベントを実現させるというものである。このような事業も行ないながら、グランドプラザでは、月や年ごとによってばらつきはあるものの、ほぼ毎日何かしらのイベントが行なわれている。

 

フォルツァとの共通点・違い

 同じ商店街に存在し、またどちらも2007年に開所されたという共通点をもちながら、フォルツァとグランドプラザはその規模が全く違う。屋外にあり大規模なイベントを行ないやすいという商店街においては稀有な存在のグランドプラザだからこその魅力というものが存在するのであろう。ではフォルツァはどうだろうか。フォルツァは屋内にあり、規模は小さいものの映画館と多目的ホールの2つの顔を持つ商店街には非常に稀有な存在である。ではそのグランドプラザとは違った魅力とは一体なんなのだろうか。

 また濱中はマッチング事業の調査を通して、グランドプラザでのイベントは利益などを気にしない個人の趣味などが発端だが、個人の自己実現というだけには留まらないメッセージ性を持っていることから、「商店街の賑わいを創出していくためには、単に商店街に人を集めるだけでなく、何らかの社会性を帯びたメッセージを発信する場としてまちを機能させることが必要なのではないだろうか」と述べている。グランドプラザは商店街に人を集めること以外の効果も商店街にもたらしているようだが、フォルツァはどうなのだろうか。個人の趣味が発端の演劇であるが、自己実現に留まらないメッセージ性の作品を上演することができれば、商店街の賑わい創出を担うような影響をもたらすことは可能となるのであろうか。以上のような点をグランドプラザの事例から得た観点として本調査では注目していきたい。