第一章 問題関心

 

 漫画やアニメの中に女性同士の恋愛を題材としたものがある。これは「百合」と呼ばれており、「百合」を題材とした作品を専門とした雑誌が刊行されるほか、「百合」を題材とした作品専門の同人誌即売会イベントが開かれるなど、今や漫画やアニメにおける一ジャンルとして決して小さくない規模を誇っている。

 『百合作品ファイル』(コミック百合姫編集部 2008: 77)によると、「百合」と呼ばれるジャンルの定義は明確に定まっているわけではなく、「百合」と呼ばれる作品の中には女性同士の恋愛とは言えない程度の関係を描いたものもあるという。広義に女性キャラクター同士の恋愛や親密な関係性を描いたものはこのジャンルにあてはまると見なすこともでき、非常に幅広いジャンルであると言えるだろう。

 「百合」と呼ばれるジャンルの源流は戦前の少女小説にあると言われており、当時少女から大きな支持を受けた。大きなブームのきっかけとなったのは98年に出版された小説『マリア様がみてる』のブレークであり、これを機に2003年から業界初の百合コミック誌である『百合姉妹』が刊行された。2005年からは一迅社より「百合」をテーマとした漫画を専門に掲載する『コミック百合姫』という雑誌が創刊される。『コミック百合姫』は当初女性向けの雑誌として季刊で発刊を始めたが、2007年から男性向けとして『コミック百合姫S』を創刊した。『コミック百合姫』と『コミック百合姫S』は201011月に統合され、現在は『コミック百合姫』として隔月で発刊されている。

それぞれの読者層について20087月現在の最新号におけるアンケートはがきの回答から、『コミック百合姫』の男女比が男性27%、女性73%と女性が占める割合が多く、『コミック百合姫S』は男性62%、女性38%と男性の比率がやや高いことが分かっている。

一方、「百合」と同じく同性愛を題材としたものとして、男性同士の同性愛を題材としたジャンルがある。男性同士の恋愛的な関係を描いた漫画や小説などの創作物で、「やおい」や「BL(ボーイズラブ)」と呼称されている。これらのジャンルについて本論では「やおい・BL」と呼称していく。

「やおい・BL」は主に女性のみに注目されているジャンルである。しかし「百合」の場合は上記のアンケート結果から男女両方から注目されていることがわかる。一見、「やおい・BL」と同じ同性愛を題材としつつ中心人物のジェンダーを反転させただけのものに見えるが、読者のジェンダー層などにおいて必ずしも対照的とは言えない部分があるようだ。

この論文では、「百合」と「やおい・BL」の間にどのような違いがあるのかという点、および男女それぞれが「百合」に対してどのような部分に興味を惹かれ、どのような関心を抱いているのかという点に焦点を当てて調査を進めていきたい。