第六章 考察

 今回の調査でわかったことは、渥美(2008)で述べられている行政の役割の機能を果たしているものの、国の方針や企業利益の順守などの理由により、情報公開に関する制約や周知活動以外のその他支援へのアプローチには行政単体では限界があることが明確になった。故に、先行研究の中で課題となっていた業種の偏りの是正や公開する情報の質の向上等の問題は未だ消化しきれていない状況である。

 しかし、行政が補いきれない限界を超えた部分は、WLBに関する取組みが制度化される以前より行ってきた中小企業の内発的な取組みでカバーしてきたと言える。それによって、中小企業のWLBは保たれている部分がある。そして、中小企業のその内発的な取組みを支えるのは、松田(2007)の言う企業メリットではなく、人材確保に関するリスク意識の高さから波及したものといえる。また内発的な取組みには中小企業ならではの柔軟性を含んでいることも明らかにした。さらに、その柔軟性には業種などの特性によって、家族的な雰囲気と経営者による積極的に調整されるものと違いがでることもわかった。

 また、求人意識にも着目した時、就職の際は第一に仕事の内容で職選択を行われるべきであると考えられており、また実態としてもそのようになっていることがわかった。しかし、求職者のWLBに対する意識の低さは問題かもしれない。ある程度、求職者のWLBに関する意識が高まれば、企業のWLBは進めやすくなり、結果として社会全体のWLBの成熟は加速していくだろう。現在では、大学にキャリア教育も講義の一環として導入されている。例えば、仕事内容と等しくWLBに関する部分の企業研究も授業内容に取り入れるなどすれば、求職者の意識改革も進むのではないだろうか。

 今後、行政主導のWLB関連の企業支援を展開していくには、企業の細かなニーズの聞き取りを行い、積極的に評価制度の検討や見直しを行うことである。企業の細かなニーズの部分では、今回の調査でインセンティブ拡充よりも病児保育の託児所開設を望んでいるなどの不満が少々こぼれてきたからである。アンケートなどの調査でニーズの傾向の最前線を把握することで行政への支援不満を回避する目的もそこには存在している。そして、定期的な評価制度の検討や見直しを行い、企業のモチベーションをアップ、行政だからできる支援を拡充することで、企業のWLBの推進の仕組みや環境が加速するのではないかと予測される。

また、先行研究と同様に公開する情報量の増加を目指す必要がある。限られた情報内では企業はどのように取り組めばよいのかが分からない。また自分たちの取組み以外の取組みからアイデアを得る可能性もある。企業同士がそのように他を知り、他の要素を取り入れ、独自の仕組みを作って切磋琢磨していくことが、WLBが社会に醸成していく一歩であると思われる。故に、現段階での情報公開のハードルを少し下げてみる必要がある。例えば、取り組みたい、もしくは登録したい企業が知りたいのは具体的な取組みの内容であることから、企業名をふせて簡単な取組みの具体例を挙げておくと取り組む内容のビジョンを企業が描けることができるだろう。

企業が一番頼ることのできる機関は行政であることから寄せられる期待は計り知れないだろう。また企業の要望に寄り添うことができるのも行政にしかできない。相互の努力がWLBの機運を醸成する一番の近道であるのだ。