第五章 中小企業の反応

本研究では、ネットで公開している「元気とやま!子育て応援企業」に登録していてかつ、従業員数が50人以下の県内の中小企業の3社にインタビューを行った。以下、概略である。業種区分は「元気とやま!子育て応援企業」を参考にしている。

 

(調査対象1)(株)高田組

所在地:富山県

業種区分:建設業

従業員数:41人(20代以下:3人 30代:19人 40代:6人 50代以上:13人)

インタビュイー:aさん(役員) bさん

主な取組み:・子供出生時における父親休暇の導入。

・社員専用のHPにて固定的な性別役割分担意識の是正のための

情報提供の実施。

・子どもだけでなく孫と一緒に使用できる各種チケットの配布。

(プール、美術館など)

 

(調査対象2)道路施設株式会社)

所在地:富山県

業種区分:建設業

従業員数:20人(20代以下:3人 30代:5人 40代:6人 50代以上:6人)

インタビュイー:cさん(役員) dさん eさん

主な取組み:・子供の出生時に父親の取得できる休暇制度を導入。

・年次有給休暇の取得率を上げる。

・子供の学校等行事に参加できるよう休暇制度を導入。

 

(調査対象3)(株)リハ・システムウェイ

所在地:富山県

業種区分:サービス業(他に分類されない):訪問看護・介護

従業員数:27人(正社員:14名 パート:13名)

    (20代以下:2人 30代:17人(全員パート)40代:3人 50代以上:5名)

インタビュイー:fさん(役員)

主な取組み:諸制度について手法に創意工夫を凝らして従業員に対し積極的な周知活動。


 

第一節 インセンティブ以外の要素の重要性

本研究で取り上げている県の事業は、いずれも建設業に対するインセンティブがあり、第三章でインセンティブを動機に登録していると推論した。しかし、本当にそれだけの理由なのか。

「元気とやま!子育て応援企業」に登録した理由についてbさんに尋ねてみたところ、インセンティブについて触れたものの、子育て世代の従業員が半数以上在籍していることもあって登録したという。また、(株)高田組の理念は「人は会社の宝であり、未来です」としていることから、インセンティブ以外に「社風や経営トップの意向」と「従業員の年齢構成」の点から登録していることが分かった。

 

また、cさんの働く道路施設株式会社の登録理由についても尋ねたところ、インセンティブについても認める一方で

 

時代の流れというか、女性だけが子育てがどうのっていう感じは時代遅れっていうのもあるし、あとは誰でも居やすい企業っていうことを目指したいので、そういう取り組みも今後必要となってくるかと思って、導入したんだと思うんですよ。

 

と時代の流れを意識して「誰でも居やすい企業」を目指したいことがわかった。これらのことを踏まえると、建設業2社とも「インセンティブ」については認めるものの、「インセンティブ」以外の要素も大きいことがわかった。

では、建設業でない(株)リハ・システムウェイはいったい、どうして登録したのか。そのいきさつをfさんに尋ねたところ、一番の理由は県からの助成金を受けるために登録したとのことだった。詳細としては、育児休業から職場復帰した社員がいるとき補助金を受けることができる別の制度があり、それを受けるには「元気とやま!子育て応援企業」に登録する必要があり、そのとき、はじめて「元気とやま!子育て応援企業」の存在を知ったようだ。しかし、fさんは

 

働きやすい環境っていうのが、すごく自分の中ではキーワードになってて、子どもが育てやすい環境を作るっていうのは、女性が主になる業種では必要と考えて登録しました。

 

とも語っていた。女性の従事者が多い職種である点やfさん自身、子を持つ母親であることから出産、育児をする女性への配慮を意識した経営を目指す観点から登録していると思われる。

 上記より明確になったことは、インセンティブよりもその他の要素をどの企業も重要視していたことだ。しかも3社とも業種に関係なく、従業員の働きやすい環境について触れている。つまり、将来会社を存続していくためにこのような取組みは必須であると判断して登録したと言える。


 

第二節 中小企業における柔軟性

第二章でも取り上げた渥美(2008)は、中小企業が持つ柔軟性や機動性についても論じている。また松田(2007)は、従業員が二十人以下の中小企業には両立支援制度はないものの、仕事と家庭生活の両立がしやすいようにしばしば配慮がなされると指摘していた。では実際、今回調査対象となった中小企業の「柔軟性」の具体例、職場の特性とその背景を見ていこうと思う。

 

第一項 具体的な事例

具体的な例についてみていく。休暇届の在り方について建設業の2社に確認したところ、急な出産の立ち会いや子供の不調における休みを要する時は、従業員から口答で連絡を受けて休暇を取ってもらい、後日届出を出してもらうという流れになっている。しかし、企業にとっては従業員の急な休暇は困ることも多いだろう。そのようなときはどのように応対するのだろうか。

 

子どものあれだから、突然っていうのもあるんで、それは仕方ないんで、朝電話入ってくるのも実際あるんです。子どもが具合が悪いので休ませてくれと。それは会社として駄目とは言ってないので、そこらへんはフォローしてるっていうか、人員を配置換えしたりっていうのは当日、バタバタしますけどそういうのはやって、どうにか乗り切ってやります。

 

cさんはこのように語った。従業員の急な休みによって一日の仕事のスケジュールを変えなければならない大変さはあるものの、従業員全員でフォローして対応することで業務を行っていっている。実際に、共働きで働く従業員から朝、連絡を受け、子供の容体によって半日もしくは一日休暇を取得したい旨を伝えられることもあった。さらに、社内で子供を持つ従業員を把握していることから、dさんは「もしかしたら休まれるかもしれないっていう心構えはできてるんじゃないかな」と語っている。子供のいる従業員の状況を他の従業員も把握しておくことで、もしかしたら・・という形で心構えができることで、従業員自身が嫌な思いをせずに臨機応変に動くための隙間ができると思われる。

 

子供産まれたとき、もう産気づいた時に、その場でじゃあお疲れみたいな。退院の時も会社休ませてもらったり、子供とか荷物とかもあるしね。うちは一人目だからね、嫁も色々不安あるやろうし。

 

と、aさん自身が体験した急な「早退」に対応してくれた会社の配慮について語った。また、bさんは、当時1人目を出産して職場復帰するかを迷っていた時

 

うちの総務部の方から、もうしょっちゅう電話あって、元気にしとる?とか赤ちゃん連れて会社においでとか。私の担当していた仕事も少しひき継いで、代わりにやっていただいたんですけど、え、これどうやるがだったっけ?とか赤ちゃんつれておいでよとかって、会社とかの接点をずーっと繋いでくれていたんですね。なのですごく、戻りやすかったです。

 

と語った。上記までは、緊急時の柔軟な対応について述べたが、一方で(株)リハ・システムウェイは正社員の雇用の仕方に柔軟性を持たせていると考える。以下のfさんの語りからわかる。

 

時短といって、正社員なんだけど、朝は10時から、帰りは16時30分までっていう時間を短くした正社員で働いてもらってる。それは本人の保育所のお迎えとか色々負担を考えて、その方が働きやすいって言ってるからそうしてもらったんだけど。本人は働きやすいって言ってくれてるね。

 

と言う風に、正社員であっても本人が働きやすいように考慮した短時間という勤務体制で働いている人もいる。また「時短」と言えども、「朝普通に来て、16:45に帰っていくっていうのをしばらくやった人もいる」と1時間だけ早く帰れるような、本人の状況に応じた多様な時短の体制をとっている。fさん自身も「大枠な制度は会社でできあがっているから、あとはファジーに決めてるよ」と語っていた。

また(株)リハ・システムウェイでは従業員同士が互いの状況を偽りなく把握するための仕掛けが存在する。勤務中は携帯電話を触ることがないように専用のロッカーに入れるという規則がある。よって、子どもの早退などの外部からの緊急時の電話は会社にかかってくるようになっている。「子育ての応援もするし、従業員の環境もわかってる。だけど学校や幼稚園には会社の電話番号を教えなさいっと言っているの」と語ったfさんによると、携帯電話の普及により情報が個人化してしまい、情報の真偽が本人以外は判断することができない。そのため、従業員が置かれている状況を正しく把握することが難しいと感じていたが、このような仕掛けを作ることによって、従業員同士の気遣いなどの配慮がスムーズになることを実感したそうだ。

従業員にとって、上記で述べたような緊急時の対応や勤務体制などの会社側の細かな配慮や支援は、自分が会社にとって必要な存在、一員であることの自覚をもたらし、働き続けようというモチベーションにもつながるのだ。従業員が休暇を取る際、大企業は周囲の理解の周到や会社側の細やかな気配りはしてくれるだろうか。これは、中小企業ならではの「柔軟性」がもたらした成果であると言える。

 

第二項 職場の特性

次に「柔軟性」を生み出す職場の特性について考えていく。では、どのように従業員について把握しておくのかという質問をしたところ、cさんは以下のように語った。

 

うちは人数が少ないんで、いつ頃運動会やるとか、参観日あるとかというのが事前にわかっているんで。小さい会社のいいとこなんかしれませんね、それは。誰がどこ遊びに行くにしても、休みどこ行ったかそ、こらへんわかってるんで。

 

つまり、会社内での日常会話で従業員の現状や動向を把握しているのだ。またcさんとdさんとeさんが働く道路施設株式会社では、社内でのバーベーキューや旅行などの社内での触れあいが活発である。またeさんは自分の働く会社をいい会社にしたいという気持ちやギスギスするような職場雰囲気を回避したい気持ちから不満を直接、社長にも漏らすことがあるとのことだ。

道路施設株式会社の特徴は従業員同士、不満を言い合える位の風通しの良い職場であることだ。つまり言いたいことを言ってもらえるような職場環境、要はインフォーマルな会話を立場関係なく、お互いに行えることは中小企業ならではの特性であると言える。ともすると、人数が少ないから日常的に会話を行うことで敢えて一人ひとり聞き取りする必要もない。それだけではなく、無意識のうちに従業員同士の理解が進み、会社一丸となって働くことができるのだ。また不満がなかなか言えない人でも、個人的に飲みに行って話すことで不満を解消することもしている。このような職場内で行う日常会話は、柔軟性を生み出す要因の一つであると思う。

 

うちみたい中小企業はもう、お互い様。みんなでカバーしあって、お互い様という気持ちでパパも育児に参加しやすいようにしています。

 

と語ったbさんの「お互い様の精神」も柔軟性を生み出し、職場内の環境を円滑にする要因であると言える。制度を利用したことのない従業員であれば、今は自分に関係のない制度かもしれないが、今後休暇制度を使う日が来る可能性はあるだろう。一方、制度を利用したことがある従業員であれば、自分が休暇を取っていた間、他の従業員によってフォローしてもらっていた感謝を忘れずに嫌な思いをすることなく働くことができる。(株)高田組の「お互い様」という精神が後々の従業員の存続、会社の繁栄につながると考えられる。

 

(株)高田組と道路施設株式会社に対して、(株)リハ・システムウェイは少し変わっている。第一項でも述べたようにfさんの働いてた時の経験が生かされている。さらに長く働いてもらうために「仕掛けが必要なんだよ。それはマニュアルに書いてあるわけじゃないけど。」と経営者が介入した環境づくりの大切さを語った。また社内制度やWLBの制度に関する周知は「話し合うっていうより、トップダウンの説明になっちゃうんだけどね。」と経営者であるfさん本人から従業員に伝えていくという方法をとっていることも分かった。また、個人の意思や休暇取得の際は11の形をとった個人で汲み取っていくようだ。実際、辞めたがっていた職員のカウンセリングを2時間とったこともあるようだ。その中でfさんがその職員の欠点を指摘するなどして結局退職しなかったようだ。後々その職員は「自分のことをこんな風に指摘してくれる人は初めてだ」と漏らしたとのことだ。

 

この3社の特性を一言でいえば、(株)高田組は「お互い様精神」、道路施設株式会社は「日常会話」からの把握、(株)リハ・システムウェイは「経営トップの介入」と言える。(株)高田組、道路施設株式会社は家族的な雰囲気が強い。しかし、(株)リハ・システムウェイは経営者が発端となって従業員同士の円滑な職場に作り上げていることから調整要素が強いように感じた。このような違いは企業文化・特性からやってくると考えられる。(株)高田組、道路施設株式会社は業種柄、個人ではなく団体で現場などの業務を常に行うため一体感が少なからず存在する。しかし、(株)リハ・システムウェイは同じ会社にいても各々の業務を行うため、個人意識が拭いきれない部分があると予測される。ゆえに調整することで負担をスムーズに解消しているのかもしれない。

 

第三項 背景

インタビューを行った3社は常に「人材不足」が続く業界である。3社ともインタビューの際に必ず「人材不足」という言葉を語っていた。また第一節で語ったように、従業員の労働環境への配慮からも人材に関する意識の高さがうかがえる。

また「建設業」ならではの業種の特徴も関連してくるだろう。(株)高田組のbさんは取り組むにあたっての課題として、建設業は男性従事者が多く、男性社会であり、育児は女性がするものという考えがまだ残っていることから、支援が子育てを行う女性のみに向かいがちになるのを是正したいと語った。そして、「中小企業」の観点から、cさんは「誰が動いても、一人の歯車がでかい会社っていうか、一人の動きが会社に影響するみたいなとこもあるんだけど」と会社に対する従業員一人の影響力の大きさについても指摘した。

一方(株)リハ・システムウェイの方は業種の特性よりも、むしろ経営者であるfさんの実体験が影響しているように思える。fさんは現在の会社を立ち上げる前に違う所で働いていた。三人目の妊娠中に体調が優れないにも関わらず無理やり働かされた際に「自分の体じゃなくて仕事の穴を心配してるんだな」と会社の魅力が減退していくのを感じたそうだ。さらに会社の都合から出産して4か月後には働きにでなければいけないという状況から退職した経験を語ってくれた。そして、立ち上げる際は、労働環境の整備や社内制度や仕組みには意欲的であったようだ。そして社内での取組みに関しては、「働きやすい環境にしないと、続けてもらえない。」と語った。従業員、つまり人がいることによって会社は成り立つことを指摘し、人材不足に対する危惧感を露わにした。

つまり、人が来ないかつ足りない状況下の中で、企業としてできるのは今いる従業員を大切にして、働きやすい環境作りを行う必要がある。いうなれば、人材確保への意識の高さが「柔軟性」の背景といえる。


 

第三節 行政への要望

行政に対する要望について尋ねたところ、建設業2社は主に「病児保育」を挙げた。現在の「病児保育」制度は、病児保育に対応する保育園の数が限定されていることから、利用する際は子供が通う保育園でなく、別の保育園に行かなければいけないという状況である。そのため、知らない場所と人のところに置いてかれる子供のことを案じながら、親は働かざるを得ない。bさんは次のように指摘する。例えば、子供がただの風邪であれば、数日程度で済むが、インフルエンザであれば、治っても自宅待機を要することになる。また祖父母などがいる3世代であれば面倒をみてくれるが、核家族かつ共働きの家庭はに、預ける場所がない限り、どちらかが仕事を休まなければならないのだ。

またcさんは、インセンティブよりも病児保育に関する行政支援の拡充を望んでいる心のうちを以下のように語った。

 

ポイントやるからって行政は動いてますけど、心底何がしたいのっていう、こちらからの要望はそこですよね。企業もそういったことに協力していますし、役所も何らかそういった休みやすいような、突然なんか子ども預けるようなとか、ちょっと一時間だけ面倒見てもらうとか、そんな機関がもっとあってもいいんじゃないかなって思うんですけどね

 

cさんは、独自の託児所を持たない、休みにくい中小企業の現状を考慮して、拠点毎に配置されている地区センターなどの公共施設を使用して、臨時の託児所などを開設するなどの行政だからできる「病児保育」の在り方を期待しているようだ。続けてcさんは「そこらへんはね、行政の方もやれやれじゃなくて、私もここでやりますみたいなのは見せてもらいたいなっと思って」と語った言葉は行政へのもうひと踏ん張りの頑張りを期待を込めて語ったのかもしれない。

さらにこの2社は「学童保育の時間延長」についても要望していた。17時までの学童保育は子供が帰宅してから一人で1時間を過ごさせてしまうこともフルタイムで働く親にとっては心配な要素の一つになることも語っていた。

故にこの2社にとって「インセンティブ」ではなく、「病児保育」などを含んだ「子供の保育」に関する支援を求めていることが明確になった。

 

 しかし一方のfさんは自身が経営者であることからも関係するであろう「補助金制度の拡充」を要望していた。「一人一人が休むってなると、やっぱり経営的なことを言うと、人員不足になるわけですよ。だからといって、人がすぐに入ってくるわけでもなくって。」とただでさえ人手不足かつ即人員を増やすことのできない現状があるため、休暇取得から職場復帰を果たした従業員がいる会社に補助金などの優遇をさらに行なってほしいと語っていた。このような優遇は「優遇してもらえたら、もっともっと働きやすい環境を考えていけるのになって思うけどね。」とfさんが語ったように、働きやすい環境づくりへの意欲に繋がる可能性は大きいと言える。

企業支援に尽力している行政であるが、このように声を聞くなどのもう一歩踏み込んだ企業支援を考えていく必要がある。行政には企業のWLB推進に向けた取組みをさらに促進するため、企業の真の要望を聞き取り、支援していくことが求められる。


 

第四節 企業にとってのメリットへの感度

今度は企業にとってのメリットの点から考えていく。第三章では「メリットが感じられない」「登録するための準備が大変である」という理由で登録しない、もしくは更新の辞退をする企業もいると述べた。

では登録企業は、行政の挙げるメリットを全く感じていないのかを確認してみた。すると「男女共同参画推進認証事業所」にも登録している(株)高田組のbさんは、登録理由の一つとして、人材不足である業界の状況から、合同説明会などでのPRは人材募集に効果的と判断した旨を話してくれた。

また実際、PR効果はあったかを続いて尋ねてみたところ、

 

今年何回か、富山県が主催する合同就職面接会に参加しましたね。やっぱり、学生さんと直接話しできるので、これからも大いにこの面接会には参加したいなって思ってるんですけど。

 

実際の採用にはつながらなかったものの、学生と話す機会があることは(株)高田組にとって有意義なものであることがわかった。このような機会によって、就職活動の最前線を把握したり、新たな考えや発見が多かったりするなどの収穫が企業にもたらされる。

ゆえに、行政が提供するインセンティブ以外でも人材募集の際のPRなどでメリットは感じられていることがわかった。ただし、手続き面での労力や社内制度の運用や実績など多くの準備作業が必要である。

第三章第二節を踏まえて考えたとき、企業にとってのメリットには、インセンティブのような企業が実感しやすいメリットとそうでないメリットがあると思われる。今回、この章でとりあげた人材募集は後者にあてはまる。ゆえに、後者のようなメリットは、即効性がない割にコストがかかるため、企業がメリットとして実感することが難しいかもしれないが、取組みの結果として感じられるケースもあることがわかる。


 

第五節 この章のまとめ

 今回のインタビューを通して実感したことは業種に関係なく、3社とも人材確保に関する意識の高さが覗われたことである。日常的に人材不足の業界であるからこそ、働き続けてもらうための制度や職場づくりを大切にしていたように思える。

 また小規模特性を生かした柔軟性も各企業に行政の事業以前に存在していることが分かった。さらに柔軟性にも「家族型」と「調整型」というように企業文化や業種特性によって異なることもわかった。ゆえに行政の支援の限界を超えた部分は企業の内発的な部分によって支えられていると言える。

 そして企業にとってのメリットに関しては、インセンティブのような即効性のあるメリットには企業の反応は良いが、そうでない人材募集などの中長期的な視点が必要な企業メリットに対する反応は鈍いこともわかった。やはりそこまでコストをかけられる余裕は、県内の多くの中小企業にはあまりないかもしれない。