第四章 求職者の反応

第一節  データから読み取る求職者意識の分析

第三章第二節第一項で触れたように、行政は就職活動を行う学生等に対しても、広報・周知活動を行っている。就職活動を行う学生を含めた「求職者」は行政、もしくはWLBについてどのような関心を持っているのかを考えてみようと思う。ここでは、著者の立場から考えやすいことと「学生の就職意識」関連の論文が多くあったことから、「新卒(学生)」をベースに進めていく。

社団法人中小企業診断協会岡山県支部が刊行した『平成23年度 調査研究事業 中小企業の採用活動と大学生の就職意識に関する調査研究 報告書』では、尾道大学などの尾道にある学校に通う学生を対象に(1)中小企業がどのような採用活動を行っているか、(2)中小企業が採用活動を通じて得ようとする新規学卒者の人材像、(3)新規学卒者の中小企業に対する就職意識の3点について主にアンケート調査で調べている。(ここでは関連する(1)(3)だけ取り上げる)

(1)の結果としては、新規学卒者の採用を行う理由は、将来を担う優秀な人材を確保し、事業を継続させていきたいからであることがわかった。また、自社独自の情報提供は手間がかかるため、既存のHPの利用や、他企業との合同の場を通じて極力手間を省いた情報提供を行っている傾向が強いことがわかった。

そして、(3)の結果としては、学生が企業規模選択時に重視したのは「大企業志向」であり、給料や福利厚生などの待遇面を重視している傾向が強かった。加えて「複数の部門があり、様々なことに挑戦できる」や「人と出会える」などの前向きな姿勢も見られることがわかった。

一方、「中小企業志向」の学生たちは「雰囲気が自分に合う」などの仕事面を重視している傾向が強いことや、学生は長期的・高所的な視点よりも、現実的・直接的な視点で就職をとらえている傾向がある。(就職する企業に求めることは職場の雰囲気、ついで、福利厚生・仕事のやりがいである)学生は確かに生活の糧を得るために働き、福利厚生といった待遇面を重視している面があるものの、それと同じぐらいに職場の雰囲気といった環境面や仕事のやりがいや生きがい、社会に役立つためといった自己成長や社会的使命の実現の場としての面を重視していることもわかっているようだ。

男女比について述べるならば、企業規模の選択においては、差異はあまりないものの、女子学生よりも男子学生の方が、「大企業志向」を持っている。また、女子学生が企業規模の選択を行う理由として企業規模にかかわらず、「福利厚生がしっかりしている」や「地元で就職したい」などの保守的、現実的な傾向が見られた。さらに就職する目的や理由の点では、女子学生は男子学生より仕事に対する義務感が強いことがわかった。

さらに田口勝美(2003)によると、ハローワークと大学との連携を拡大したことにより、学生の利用者が27%増加した(20034月から6月)。また、新卒時にハローワークを利用する割合は学部別でみると、文系79%、性別でみると女性が6割、男性4割ということより、女性は就職への危機意識が高く、相談も一生懸命な傾向がある。希望職種別では、事務が46%、営業が23%と多く、以下専門・技術、販売、サービス、ITと続くことがわかった。


 

第二節  就職活動に携わる機関の対応

第一項  富山大学キャリアサポートセンター

著者が通うキャリアサポートセンターの職員によれば、就職活動を行う学生は求人票の仕事内容だけでなく、「条件」を確認していることが意外に多い。これに対して職員は、仕事選びの際にオプションとして考えるのはOKだが、福利厚生やWLBの取組みはメインの志望動にはなりえないと助言している。さらに、職員は「働く=将来設計」であることから、長く勤められるように「自分にマッチしているかどうか」ということに重きを置いて考えるよう学生たちに指導しているとも述べた。

ちなみに、キャリアサポートセンターに寄せられる企業の求人票を確認したところ、福利厚生の欄には「○○休暇取得有」などと書いてある企業もあった。その一方で、筆者が確認した複数の企業の求人票には、行政発の取組名のようなものは明記されてはいなかった。

ここで、感じたことは、WLBは就職活動を行う学生にとっては、「福利厚生的にあればいい」感じで、あまり重要と思われていないということである。また指導・紹介する側も「仕事内容と自分が合うかどうか」に重きを置いていることからそこまで重要視してない印象を持った。

 

第二項  企業

筆者の就職活動時の経験を振り返ってみると以下の事があった。企業説明会にて、某金融企業の担当者が進んだWLBの取組みについて紹介した後に、「福利厚生やWLBの取組みがいいと思ったから」などの仕事内容を無視したような志望動機は面白くないと言われていた。また合同説明会では、大半の企業は「仕事内容」について説明している。休暇日数や社内制度を含む福利厚生については深く言及することはなかった。また、本研究で取り扱う取組みに加入している企業もいたが、福利厚生やWLBの取組みについては話すことはなかった、もしくは少し話す程度であった。

このように企業も、福利厚生に関する話の流れの中でWLBについても話すものの、あくまで「仕事」に興味を持ってもらわないと長く務めてもらえないことから、「仕事内容」「企業内容」について熱心に話す傾向が強い。ゆえに、企業も紹介機能をとりもつキャリアサポートセンターと同じく、WLBに関するアピールを重視しない傾向にあると思った。


 

第三節  この章のまとめ

働くにあたって重要であるWLBは就職活動の際にはあまり重要とされておらず、職選択における志望動機は「仕事内容」が主軸となることが判明した。やはり、働く一歩としては自分がしたい仕事や自分に適している仕事に就くことで、仕事にやりがいを持って勤めることができることは重要と考えられる。

しかし、本当に志望動機が「仕事内容」だけでよいのだろうか。どんなに好きな仕事に就いても、同時にライフワークにおける結婚や出産、育児などの環境の変化に対応しながら働けるような制度がなければ、仕事を辞めざるを得ない状況が発生すると考えられないだろうか。ゆえに、求職者のWLBに関する意識の部分にも検討の余地があると言えるだろう。