第三章 行政の事業が持つ効果と成功
本研究では、「県(行政)が主導」である点と「労働者のWLBを図るための企業支援制度」のこれら2点を考慮して、以下の県内の2つの取組みについて取り上げる。調査方法は、各取組みを運営している機関の担当の方々にインタビューを実施した。なお、インタビュー調査は録音許可されなかったため、全て手書きのメモだけで報告書を作成した。そのため、本論文原稿を担当課に事前に送付することで修正点を聞き取った。以下、調査対象の概要である。
調査対象(1)「元気とやま!子育て応援企業」
日時:2013年10月21日(木)
場所:富山県庁
インタビュイー:富山県商工労働部 労働雇用課 森川しのぶさん
表2 元気とやま!子育て応援企業の概略(次ページに続く)
目的 |
子育て支援に取り組むことを内外にPRすることで企業の模範的なまたは独自の取組みが他企業へ広がり、社会全体で子育てを応援する機運の醸成を図る。 |
導入時期 |
平成(以下、H)24年度8月〜 ※前制度「子育て支援企業エントリー制度」※2 |
経緯・内容 |
前制度は「一般事業主行動計画※3(以下、行動計画とする)の届出・公表」「企業概要・PR」だけで登録できた。しかし、企業に実行性をもたせる、中身のある取組みにしたいにしたいと思いH23年度から現制度の案があがり現在に至る。 |
新規に加わったのは、「経営トップの子育て応援メッセージ」と「WLBの取組み実績の公表」である。 |
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登録要件 |
(1)一般事業主行動計画の届出(労働局) (2)両立支援に関する一定の取組み実績があること (両立支援に関するチェックシート内の2項目以上のチェックが必須) |
登録 方法 |
「元気とやま!子育て応援企業」の専用HPの登録画面にて必須事項を記入して登録になる。 |
有効期間 |
行動計画の有効期間 |
報告書の提出 |
1年毎の報告義務がある。 |
登録のメリット |
(1)企業のイメージアップ(登録マークの交付) (2)商工中金による事業の設備運営資金を優遇金利で利用可能 (3)県建設工事の競争入札参加審査においての加点 (5/330点:従業員が50人以下に限る) (4)講師を派遣しての企業内研修 (5)毎年8月に行われるセミナー (両立支援表彰企業と講師による講演など) |
登録数 |
272件(H25年12月8日現在)のうち約9割が建設業(242件) |
調査対象(2)「男女共同参画推進認証事業所」
日時:2013年10月29日(金)
場所:富山県庁
インタビュイー:富山県生活環境文化部 男女参画・ボランティア課 男女共同参画係
荒木美智子さん(係長) 松下愛里さん(担当)
表3 男女共同参画推進認証事業所の概略(次ページに続く)
目的 |
「男女共同参画」の名の通り、固定的な性別役割の意識を変えることと、男女ともに働きやすく活躍できるようになることである。また女性の管理職が増えることを望んでいる。 |
導入時期 |
H15年度〜 |
経緯・内容 |
H14年度から検討されH15年の1・2月に14か所の男女共同参画チーフ・オフィサー(以下、CGEOとする)設置事業所に「男女共同参画推進認証事業所」の案を見せに行き、企業の意見を取り込むなどして企業と一緒に考え作り上げていった制度である。 |
県内企業の役員クラスの方にCGEOに就任すること、かつCGEOの設置事業所について、男女共同参画の推進にむけた取組み(女性の活躍推進及びWLB支援等)をしている事業所であることを富山県知事が認証する。 |
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認証要件 |
(1)CGEOを設置していること※4 (2)労働基準法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの関係 法令が遵守され、必要な措置が実施されていること (3)女性の管理職登用及び男女労働者の仕事と家庭の両立支援(WLB) のための法を超える制度の整備、委員会の設置又は行動計画の策定 等の具体的な取組みが行われていること |
申請方法 |
「男女共同参画推進事業所認証申請書」「男女共同参画チーフ・オフィサー設置申込書」「男女共同参画推進事業所認証申請の事前チェック シート(4枚つづり)」「就業規則(全文)、関係規程、行動計画等の写し」「具体的取り組み内容がわかるものの写し 例)採用マニュアル、研修カリキュラム概要 等」の書類等を提出することで申請ができ、審査を経て認証される。 |
有効期間 |
3年間 (期間満了後は再申請が行える) |
報告書の提出 |
1年毎 |
認証のメリット |
男女共同参画推進認証事業所のみ: (1)企業名を記載したPRチラシを作成し、「大学等合同就職面接会」「Uターンフェア」などで配布 (2)県建設工事入札参加資格審査において優遇(H22年度〜) (3)物品等の調達について優遇措置(H23年度〜) |
男女共同参画チーフ・オフィサー: (1)年2回の講演会(先進事例の紹介と講師による講演会) (2)年4回のニューズレター |
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認証数 |
73件(H25年度)のうち6割が建設業 ※目標数は未設置 |
第一節 インセンティブ効果の成功と限界
第一項 インセンティブ効果の成功
「元気とやま!子育て応援企業」「男女共同参画推進認証事業所」の両事業では、登録することで、経済的優遇措置である「県建設工事における入札加点」を受けることが可能である。そのため、登録企業がほとんど建設業である。つまり、登録業種に偏りが生じてしまう現象が起こっている。※5
表4 元気とやま!子育て応援企業登録業種内訳
表5 男女共同参画推進認証事業所の推移
また「元気とやま!子育て応援企業」で用意されている別のインセンティブである「優遇金利での貸付」である、商工中金の利用について確認したところ、商工中金の利用は前制度である子育て支援企業エントリー制度では2社のみ利用していた。しかし、現在は利用状況を把握していないことがわかった。
さらに、「男女共同参画推進認証事業所」のインタビュー調査では、入札加点を導入した建設業は、インセンティブ効果として成功しているという認識があることを確認した。
つまり、建設業は入札の点数を稼ぐために登録すると予想され、行政によるインセンティブ効果はある特定の業種にしか作用しない。もしくは、特定の業種以外の業種には弱いことがわかった。しかし見方を変えれば、インセンティブ効果で企業の登録数が伸び、行動計画の策定並びに両立支援の制度に取り組むようになったことを踏まえると、インセンティブ効果は絶大であるとも捉えることも可能である。
第二項 インセンティブ効果の難しさ
「男女共同参画推進認証事業所」は、課題や改善点としてインセンティブ付与の難しさを挙げた。
登録することで、獲得できる企業メリットをメリットと感じてもらえない業種や企業のために、インセンティブを付与していきたいが、新たなインセンティブを考えることは、かなりのコストがかかることから、まだ案はあがっていない。また、金銭面が絡む助成金などは、自治体単独で運用できないことが多いので、あくまで県レベルでできる範疇のインセンティブが望ましい旨であった。
また他県で、インセンティブ機能に関する様々な取組みをしているが、効果は検証してみないとわからないことも指摘された。
インセンティブ機能に関する取組みの結果や効果は未知数である。そして行政が実施することが可能なインセンティブ効果の取組みの範囲には限界が伴う。それ故に、行政は新たなインセンティブ付与に関して悩みを抱えている。
第三項 今後の展望
インタビュー調査で、両事業において「インセンティブ効果」よりも「情報提供」の方に力を入れていくことを共通して挙げられた。「元気とやま!子育て応援企業」では、改善点として幅広い業種登録のために、広報に一層力を入れていきたいと答えていた。また今後の展開としては、インセンティブ付与はなく、間接的に女性の再就職支援についての取組みの案があがってきていると述べた。
つまり行政は、「インセンティブ効果」(入札加点・融資など)よりも広報、つまりいかに企業の人に周知してもらうかという「情報提供」に力をいれている。よって、行政はインセンティブ効果に限定せずに、多角的にそれぞれの取組みを進めようとして、複数の取組みを実施し限界を超えようと努力している。
第二節 情報提供機能の成功と限界
第一項 広報・周知に力を入れる行政
第一節第三項で行政は周知のために広報に力を入れていると述べた。ではなぜ、広報に力を入れるのか。
労働雇用課は、「元気とやま!子育て応援企業」では登録することで、企業にとって2つのメリットがあるとしている。一つは、仕事と子育ての両立支援に取り組んでいるというアピールが内外にできることである。もう一つは、人材の確保、育成または従業員のモチベーション維持などの企業の人材面にメリットがある。
一方、男女共同参画・ボランティア課の「男女共同参画推進認証事業所」では認証されることで、この取組みに参加するために諸制度を整えるため、男女問わずそれを利用し、いずれ優秀な人材を獲得することが可能になる。そして、次々に新たな取り組みに参加しようとするなどの良い循環が企業内に生じ、小さな企業から大企業まで働きやすい環境作りができることとしている。
また、実際に行政は認証や登録をしていない企業に対しての周知、申請促進のためにどのようなことをしているのか。
「男女共同参画推進認証事業所」では、法を上回る取組みをしている企業を耳にすれば、直接訪問することもある。また普及、PR に関しては、ホームページ(以下、HP)、経済団体での記事記載やチラシ配布をしている。そして、就職活動をしている学生に向けては「Uターンフェア」にて認証企業を紹介する優遇措置の一つであるチラシ配布を行っている。
「元気とやま!子育て応援企業」は、企業向けであることから人事や経営者の目に留まるように、セミナーの際に広報チラシの配布や「労働とやま」や会報誌に記事を掲載してもらっている。
以上より、両取組みにおいて登録することで得る企業側のメリットは、「人材の確保」「労働環境の良い循環」の2点が共通している。また、WLB推進には経営トップや管理職から始めていかなければならないことと捉えられているのもわかった。そして今後働くであろう若年層の人達への周知活動も行っている。※6
ここからは、情報提供機能のWLBを広める部分に該当する「元気とやま!仕事と子育て両立支援セミナー」を取り上げ、筆者の参加経験をもとに詳細に分析していくこととする。
以下概略である。
日時:平成26年8月27日(水)13:30〜16:00
場所:富山県民共生センター「サンフォルテ」2F
主催:富山県(商工労働部労働雇用課)、富山県社会保険労務士会
<セミナーの流れ>(1)開会挨拶
(2)元気とやま!仕事と子育て両立支援企業の表彰
(3)表彰企業による取組み事例の紹介(各10〜20分×2社)
(4)外部講師による基調講演
(5)閉会挨拶
※本研究で触れるのは(1)から(3)のみとする。
(1) 県知事の開会挨拶
県知事は開会挨拶時に、日本の「少子・高齢化」の現状と富山県も該当する県であるという内容について説明した。また「高齢化は現役世代の負担を増加させてしまう」と考えていることから、県では5年前から「子育て支援・少子化対策条例」を制定し、それに基づく「みんなで育てる とやまっ子 みらいプラン」を策定し、色々な取り組みを進めていると述べた。そして、現在の条例で51名以上の企業には行動計画の策定を義務付けたところ、富山県に本店又は主たる事務所を置く企業の100%近くが策定している。そうした結果を受けて、知事は手応えを感じていることを語った。またこれらの取組みに意欲的であり、中小企業の意見も踏まえながらながら今後、計画の策定対象の範囲を拡大することなども検討したいとも述べた。
(2) 元気とやま!仕事と子育て両立支援企業の表彰
県内の11企業が表彰を受ける。職種の内訳は福祉・介護事業が5事業所、建設業が2事業所、あとは広告デザイン業、金属加工業、清掃・緑化サービス業、歯科技工業であった。従業員数に関して言うと多くて200名、少なくて20名とばらつきがある。司会者からの説明では「労働条件」「子育て支援の整備」などのどの点で表彰の経緯に至ったかの説明が企業紹介とともになされた。
(3) 表彰企業による取組み事例の紹介(各10〜20分×2社)
今年度の発表企業は「歯科技工業」と「福祉・介護事業」の会社によるものだった。
従業員数は前者は約30名で後者は約45名である。前者の主な取組みはフレックスタイム制度、時間単位の看護休暇制度の導入や早期退社のための一斉消灯が評価されたようだ。その企業の発表者にとって、社内制度を整備し取り組むときに初めて社員構成を知ったことが大きかったようだ。一方、後者の取組みは、子連れ・孫連れ勤務OK、職場復帰がしやすいように業務日誌のメール配信と職員に配慮した仕組み作りが新鮮である。さらに週40時間労働の週4日勤務の正社員も可という斬新なシステムがあることも考慮すると、働きやすさだけでなく、職員の満足度につながるような、多様な取組みが展開されている点が評価につながったのだろう。担当者は職員への柔軟な対応について、熱く語っていたのが印象的だった。
このように表彰式と受賞企業による事例発表、そして講師の基調講演を兼ねた講習会であった。また登録企業は任意参加、また一般人も参加することもでき、会場内には子連れできている女性もいた。このセミナー参加者は200名定員のところ、160名であった。また、このセミナーには託児所が用意されていたが利用はなかったことを確認した。
行政の役割の面から言うならば、渥美(2008)で述べられていた「情報提供」機能の役割をしっかり果たしていると思った。また託児所を設置するなどの子連れの参加者への配慮もなされている点もよかったと思った。ただし、当初の予定していた人数を上回ることができなかったのは少し残念である。
一方、表彰企業の取組み内容面では、表彰企業のどれもが20名以上の従業員がいることから、表彰されるような進んだ取組みを実施するためには、ある程度の人数が必要なのではないかと考える。例えば、子育てに関する制度を整えたところで対象となるような従業員がいなかったり、少人数で成り立つような企業にとっては、1人1人の役割の大きさが重いので制度をなかなか使ったりすることができないのかもしれない。しかし、制度を作らずとも企業には独自の、円滑に動けるようなシステムがあるのかもしれない。つまりある程度の従業員数を確保することで、WLBに関する取組みの幅も増えるのではないかと考える。
第二項 企業にとってのメリットに関する行政と企業の意識の差
第一項では、行政が目指す目的とそのための広報、周知の方法について論じた。では、企業は一体、どのように両事業についてとらえているのかを検証する。
そのために、「元気とやま!子育て応援企業」の登録企業のHPについて調べた。著者が見つけることができたのは、登録企業全体(272件)の3割程度の86社である。その86社のHPより、以下の内容について調査した。
(1)HPにて登録時に交付されるシンボルマークの記載の有無
(2)「元気とやま!子育て応援企業」の登録について書かれているか
(3)「元気とやま!子育て応援企業」での取組みについて書かれているか(行動計画も可)
結果は以下の通りである。
表6 元気とやま!子育て応援企業の登録企業HP
このように、いずれの点においても該当企業数の比率は少ない。インタビューでは、普及活動の一貫で配布したチラシを機に未登録企業から問いあわせが来ることがある。その時に登録をすすめてみるが、色々な企業から「メリットを感じられない」と言われることもあったということだった。
また、H25年度版の「男女共同参画推進認証事業所」の認証企業HP、同時にCGEOも確認してみた。
概要として「CGEO委嘱」のサイトにはHPを持っている事業所のHPとリンクする仕組みが取られている。「男女共同参画推進認証事業所」の方はリンクがなかった。
「CGEO委嘱」の事業所は全部で157事業所である。そのうち、事業所のHPを行政に知らせている企業数は104である。その中でさらに、「男女共同参画推進認証事業所」の認証企業は全部で73事業所であり、県HPにリンクを貼っているのは42である(CGEOのリンクを利用)。また応募は毎年5月中旬に締切りである。調査内容は以下の通りである。
(1) HPにて登録・加入について明記してあるか
(2) 取組みに関する記載があるか
結果は以下の通りとなった。
表7 男女共同参画推進認証事業所のHP
やはり、いずれの点においても該当企業の比率が少ない。ここで指摘したいのは、行政が思う企業にとってのメリットと企業が望むメリットにとの間に齟齬が生じている可能性があることだ。もしくは、それ以前に企業自体、WLB推進をすることの適切なメリットの理解が醸成しきれていないのかもしれない。よって、企業は表層的な取り組みを持って登録し、実質的な中身が追い付いていない状況が発生していると考えられないだろうか。それゆえに、「メリットが理解できない」という意見や登録・加入がHPに記載するほどのものでないと企業は考えていることなどが推測される。
第三節 情報公開機能
第一項 元気とやま!子育て応援企業
渥美(2008)では、ネガティブな情報公開こそが企業のWLB推進には必要であると述べた。(第二章第一節)しかし、実際はどうなのであろうか。
企業からの結果報告についての公表の予定はあるかという質問をしたところ、労働雇用課からは、「企業の成果報告や実績報告内容はそのまま今後載せていく予定だ」という答えが返ってきた。失敗談やネガティブな内容もそのまま載せるかについては検討中であるとのことだ。
「元気とやま!子育て応援企業」は、各企業の取組み内容も実績も公開するとのことだ。なぜ、そのようなことができるのだろうか。本制度の登録手段と内容に工夫があると考えたことより、「元気とやま!子育て応援企業」の登録手段と内容について調べてみた。
「元気とやま!子育て応援企業」の登録制度に必要なものは、「行動計画」の策定と、両立支援に関する一定の取組み実績があることである。前者の「行動計画」は、次世代育成支援対策推進法(以下、次世代法)では、従業員101人以上の企業にWLBの推進などの雇用環境整備に取り組むにあたっての目標を定める「行動計画」の策定・届出・公表を義務づけている。
しかし富山県では、中小企業においてもWLBを推進できるように、「子育て支援・少子化対策条例」(以下、県条例)を制定し、H23年4月から従業員51人以上の企業に行動計画の策定を義務づけた。
従業員51人以上100人以下の企業については「行動計画」の公表は努力義務であるが、企業HPをもたない企業でも、「元気とやま!子育て応援企業」に登録することで「行動計画」を専用HPにて公表することができ、他の企業の取組みや結果を閲覧することができる。
一方で、実績が芳しくなかった企業に対しても、労働雇用課では、実績も大事だが目標を達成するまでの取組みの過程も大事という考えを持っている。その考え方からであろうか、登録の辞退は現在のところはない。
「元気とやま!子育て応援企業」には「情報公開」に関して、実際に企業で働いている人は、制度や規則を把握していないことが多いため、現状を周知することに意義があるという考え方があり、「情報公開」に関しては積極的な印象を受ける。また、県条例で「行動計画」の策定を義務付するだけでなく、「元気とやま!子育て応援企業」という「情報公開」の場を設けることで、各企業のWLBの取組みや実績を公表し、誰でも知ることができるようにした仕組みはかなり評価できる。
第二項 男女共同参画推進認証事業所
では、どのような「男女共同参画推進認証事業所」の経緯や仕組みがあるのかを男女共同参画・ボランティア課は、以下の通りに説明した。
「男女共同参画推進認証事業所」という取組みは、「企業と共同で行っていく」というスタンスにより、県は進めている。企業にとって営利が第一の目的であるが、このような取り組みも大事であるという認識と、負担にならない取組みとを、企業と行政が協力して、一緒に考えていくという意図で発足されている。
また、本取組みに登録・認証するには、書類提出などの手続き面で相当な労力がかかり、実際に辞退する企業も出ている。必要書類には、採用マニュアル、研修カリキュラム概要等々、具体的な取り組み内容がわかるものの写しも含まれ、それだけではなく、就業規則(全文)、関係規定なども提出が必要となる。それらの中には、企業の内部情報も含まれる。そのため、この事業では、認証を受けた企業名のみ公表している。つまり、取組みが公表できる機会は年に数回、企業名のみであるということだ。
以上より、「男女共同参画推進認証事業所」は「情報公開」の観点では、企業名のみの公表にとどまっているが、WLB推進の観点から考えた時、行動計画だけではWLBの推進ができるとは限らない。それに対して、「男女共同参画推進認証事業所」の場合は、企業が保有する就業規則なども資料として提出した上で、行政と企業が共同的にWLBを推進していくという側面があるため、登録・認証を行う企業にとっては、労力がかかるもののより安全に推進していくことができる、とも考えられる。
第四節 この章のまとめ
渥美(2008)と照らし合わせてみると、今回の調査で扱った「元気とやま!子育て応援企業」と「男女共同参画推進認証事業所」は、取組みの内容はきちんと整備されている。このことより、両事業は行政の役割を果たしているといえるのではないか。しかし、渥美が論じた「登録業種の偏り」はやはり存在し、行政にとっても頭を抱える案件であった。インセンティブ効果が業種の偏りをあっという間に発生させてしまうこと、新たなインセンティブの付与の難しさのための対応策が練りにくいことから、登録業種の偏りを修正できないまま制度・取組みが運営されざるをえない現状が続くと考えられる。
また企業にとっての登録のメリットにおいて、企業の側が行政の考えているメリットをあまり理解していないように感じた。そのため、企業の中にWLBがどのくらい浸透しているかは、未知数である。行政は両取組みにより、企業が人材育成や人材確保などを含めたWLBを推進することが、企業にとっての一番のメリットと考えて周知活動をしている。だが、企業の側は、それら事業への登録をHP等であまりアピールしていないように見える。
情報公開の点では、県条例を制定し、従業員51人以上100人以下の企業に公表の努力義務がある行動計画を登録の必要条件とすることで、各社の取組みを知ることができるようになった。しかし、WLB推進施策は、就業規則等の企業秘密と深く関与してくるため、情報公開が難しくかつ手続きが大変な部分もあることがわかった。その代わり、行政と協力してWLBを推進することができるので、企業側は安心して取り組める側面もあるだろう。