第三章    調査概要

 

第一節      調査対象

調査作品の選定にあたって、まず、忍者が登場する作品がどのくらいアメリカで製作されているのかを調べた。映画やテレビ番組のオンラインデータベースであるInternet Movie Databaseや、二万点を超えるビデオゲームをデータベース化したTheGamesDB.net、世界中のコミック情報のオンラインデータベースであるThe Comic Book Databaseを参照し、忍者作品をまとめた年表を作成、データベース化することを目指した。その中から、米国人が抱く忍者観に影響を与えたであろう作品を選出する。いずれのメディアの作品においても、アメリカで製作されたもののみを加えており、ローカライズされた作品は含まれていない。下図3-1は、1967年から2013年までにアメリカで製作された忍者作品数の推移を示している。

 

3-1メディア別米国忍者作品数の推移

 

3-1の通り、1980年代を境に忍者を題材とした作品が製作されるようになったようだ。1980年代初頭から1997年までに一つ目の山、そして2002年から現在までの間に二つ目の山が形成されており、この期間中は特に忍者作品が多く製作されていることが分かる。一つ目の山の始まりには、日本人アクション俳優であるショー・コスギが出演する『Enter the Ninja』(1981)が公開されており、これを契機に忍者ブームが巻き起こった。この一つ目の山の期間中、特に1980年代初頭に製作された数々の作品によって、アメリカにおける忍者という存在のひな形が形成されていき、忍者表象の方向付けが成されていったと考えることが出来る。他の媒体に比べ日本においても比較的入手しやすいことから、映画の作品のみを調査対象とする。

下図3-2は、1945年から2003年までに、日本、アメリカで製作、公開された忍者映画作品数を示している。日本の忍者作品のグラフは、2003年に学研から出版された『忍者と忍術』をもとに作成した。

 

3-2. 日米忍者映画作品数の推移

 

日本においては、1950年代初頭から忍者作品数が増え始め、1964年のピークまで安定して忍者作品が製作されているが、70年代に入って以降は急激に数を減らしており、一方のアメリカでは、1980年代から一挙に忍者作品が製作され始め、1990年代半ばまで継続して多くの作品が公開されていることが分かる。

この中から、両国で多く忍者映画が製作されていた時期の作品を選定する。アメリカからは忍者イメージが固まって行ったであろう1980年代に製作されたものを中心に選定した。日本作品からは1950年代から1960年代にかけて製作された作品から選定した。また、日本作品からはそれに加えて、アメリカで忍者映画制作が盛んになった1980年代と同時期の作品を加えた。

 


米国作品

A…Enter the Ninja(1981

B…Revenge of the Ninja(1983)

C…American Ninja(1985)

D…The Hunted(1995)

 

日本作品

『忍びの者』(東映, 1962

『十七人の忍者』(東映, 1963

『忍者部隊月光』(1964

『忍者武芸帳 百地三太夫』(東映, 1980

『影の軍団 服部半蔵 』(東映, 1980


 

Aは忍者ブームの皮切りとなった作品であり、Bはその続編として製作されたが、ストーリーに関連はない。Cは後に5作目まで続く人気シリーズの1作目である。80年代初頭から90年代半ばまでで形成される山が終わる頃に製作されたDは、80年代に方向づけられた忍者像の発展を見るために選出した。

日本作品については、戦後に第2次忍者ブームが起こったと言われており、5060年代にかけて多くの忍者作品が製作、発表されていた。ア、イ、ウはそれぞれそのような忍者ブームの最中に公開された作品である。エ、オは忍者ブームが去った後に製作された。また、エ・オが公開された1980年代には、アメリカで忍者ブームが起きているということもあり、同時期の両国の忍者表象を比較する良い資料になると思われる。

第二節      調査方法

前節を受け、それぞれの作品についての調査事項を設定する。吉丸(2012)によると、「忍びの者」の主な行動は、諜報・破壊活動・窃盗の三つであるが、諜報と窃盗行為については重なる要素も多いため、諜報と破壊活動を基本的な二項目としてそれぞれ調査する。また、「忍者」について調べるため、超人的な忍術によってそれらが遂行されているかどうかという点も同時に調査する。加えて、アメリカで最初期に製作された『Enter the Ninja1981が米国忍者作品のひな形となっている可能性を考慮し、作品内の忍者の行動として特徴的な要素を書き出し、それを加えて調査項目とした。

具体的な項目は、何かしらの情報を得るための諜報活動、敵施設の破壊や敵との戦闘・暗殺等の破壊活動、それら二つの活動の回数、さらに、それぞれの活動の際に超人的な忍術を使用している描写回数を項目として設定する(「諜報・超」、「破壊・超」項目)。例えば、諜報活動でどこかに侵入する際と脱出する際、共に超人的な忍術(またはそれに準ずるもの)を使用していた場合は、諜報活動一回に対して超人的な忍術使用は二回とカウントする。それに加えて、『Enter the Ninja』で見られた特徴から、忍者ではない人物が忍者になるための修行をする描写の有無(○/×)、赤や青色の奇異な忍装束の描写の有無(○/×)、忍者の集団行動の有無(敵味方問わず集団行動=◎、味方のみ集団行動=○、敵のみ集団行動=△、敵味方問わず集団行動が無い=×)、忍者と他者との報酬に基づいた雇用契約の有無(敵味方問わず雇用されている=◎、味方のみ雇用されている=○、敵のみ雇用されている=△、敵味方問わず雇用が無い=×)、明確な悪が設定されている勧善懲悪的な物語かどうか(○/×)、忍者の国籍(国籍(主人公/敵))、作品の舞台設定、をそれぞれ調査項目に設定する。

第五章ではこれまでの調査を踏まえて考察を行う。