第五章 考察

第一節 先行研究との比較

先行研究との比較を行うと、規則に関する主張と同調に関する主張で気になるものがあった。

羽賀・渋谷(2002)は、規則違反の程度や自覚は異なるものの、高校生は規則に否定的な意識を持ち、自己を表現するために規則違反をするという手段をとっている人が多いと言っている。今回の調査では図1-1より78割の人が守らなくてもいい規則があると感じている結果となったが、多数の人が規則は必要であると答えていた。多数の人が規則を必要としているため、必ずしも規則に否定的ではないのではないかと考える。この結果について考察をしながら比較する。

Aさんの発言に「先輩もしてるから、私らもしていいんだみたいな。このくらいなら許されるんだなみたいな。」Cさんの発言に「先輩とかがしてるの見て、レッグウォーマーいいんや」という発言があった。

Aさんの「このくらいなら許されるんだな」Cさんの「いいんや」という発言から校則では禁止されていることであるが、先輩がやっているから、周りがやっているから、これくらいならいいだろうという自分たちの解釈があるように感じる。具体的にはDさんの発言に「言われてすぐ直せないことはしない」とあったため、注意されたらすぐ直せるようなちょっとした規則違反なら許されるであろうという意識がある。この言われてすぐ直せるようなある程度の着崩しを多数の人が行うため、校則に準拠しない生徒独自の着装行動が、彼らにとって集団規範として機能している(古結・松浦2012)といえる。色の違うスカートを履いてきたり、形の違うブレザーを着てきたりするわけではないので、全く規則に違反しているわけではなく、規則に関する意識はあり、規則に否定的なわけでもないと考える。しかし、生徒独自の集団規範が存在するためある程度のものなら許されるであろうという意識が働くのである。

 

古結・松浦(2012)は学年と学期別、男女別に調査を行っており、1年生の1学期と2学期を比較すると集団の着装規範が、やや逸脱傾向のあるスタイルになっていた。このことを踏まえると、多数派となった着装行動が集団圧力として、対人的な不安の高い者に作用している可能性があると言っている。

今回の調査では同調意識が着崩しと関連のあることが明らかになった。しかし、同調意識がある人は同時に可愛く着こなしたいといったファッション意識もあった。今回の調査での同調意識は「一人だけ浮くのが嫌だ」という一人だけ異なることを回避する意味を持っている人もいた。よって、入学して間もないころは一人だけ着崩しを行うのは嫌であったが、周りが着崩しをし始めると、自分も着崩しをしやすくなったから着崩しを行ったという可能性もあるため、集団圧力という表現は適切ではないのではないかと考える。


 

第二節 ファッション的同調

 前章では、制服の着崩しは同調意識とファッション意識から起こることがわかった。そして、矛盾する2つの意識が着崩しに結びつく理由として、ファッション的同調があることを明らかにした。この節では前章までの分析結果をまとめつつ、ファッション的同調について詳しく考察していく。

 前節でも触れたが、私服において同調意識が強い傾向にある人は制服においても「目立つのが嫌だから」といったように自分だけ浮いてしまうこと、自分一人だけが異なっている状態を回避する意味で同調する。しかし、私服において個性意識の強い傾向にある人も制服においては友達と同じ着崩しをしたいといった同調意識がある。その理由として制服と私服の違いがある。制服は私服と違って、皆が同じ服装をしていることが前提であり、制服で個性を出そうにも限度があるため諦めざるを得ないことである。個性意識の強い傾向にある人は、ファッションへの関心も高いため、制服をより可愛く着こなそうとする。その時により自分好みに可愛く制服を着こなしている人を真似るような、ファッション的な同調が起こる。他者の着崩しから学び、自分のものとして制服を着崩し、制服でのおしゃれを楽しんでいる。よって周りと同じ着崩しをしたいことと個性的であることは両立するが、自分一人が異なっている状態を回避する意味での同調ではなく、おしゃれを楽しむ意味での同調である。

 

 

第三節 まとめ

学校制服の特徴として、着装方法に関する規則が存在し、皆が同じ格好になることが前提である。このことが学校制服を着崩す際に同調意識が関係する大きな要因であるのではないかと考えられる。自分一人だけ異なることを回避するような同調だけではなく、様々な意識が絡み合って同調している。具体的には規則に対する意識と、ファッションに対する意識が同時に存在することが、同調意識につながると考える。「可愛く制服を着たい」というファッション意識があっても、「これ以上短いスカートはまずい」といった規範意識が同時に存在すると、個性的すぎる着崩しは避けて周りに同調する。また、「可愛く制服を着たい」というファッション意識があっても学校制服は皆が同じものを着ているために個性を出すには限界があるため、他者の着崩しを真似る。よって学校制服の着崩しは、同調意識と深く関係していることが明らかになったが、それは、学校制服は着装方法が規則によって定められており、皆と同じであることが前提とされているからである。