第二章 先行研究

第一節 制服のファッション化の歴史と背景

学校制服というと男子は詰襟、女子はセーラー服で統一されている印象が強かったが、現在では、学校ごとに多種多様な制服が見られる。また、多数の制服メーカーが多様な制服アイテムを販売しており、高校が私服校の生徒が「なんちゃって制服」と呼ばれる学校制服のような私服を着用したり、学校制服のような衣装を着たアイドルが登場したりするなど、学校制服は学校を飛び出して、1つのファッションのとしてとらえられるようになってきた。

学校制服の詰襟が初めて採用されたのは、1873年頃の工部省工学寮や札幌農学校であり、現在の学校に広く通じる学生服の起源は、東京帝国大学が1886年(明治19年)に定めた制服とされる。

女子の制服は1920年に平安女学院がセーラー服を初めて採用した。この頃の制服はすでに男子は詰襟、女子はセーラー服という形であったが、1940年頃には国民服と呼ばれる服が登場し統制化されて、詰襟とセーラー服は姿を見せなくなった。戦後にまた、現代のような詰襟、セーラー服が復活するようになった。(有限会社 村田堂HP「制服の歴史」)

以下より松田(2005)が制服のファッション化について論じていたものを参考にしている。

日本は高度成長期を迎え、1960年代から高校進学率が上昇し、1970年代半ばから1980年代前半頃にはそれが90%を超え、「大衆教育社会」と呼ばれるようになった。このころから親が学校に教育を任せきりにするのではなく学校教育に目を向けるようになり、学校が「顧客の個人的なニーズに応えるサービス機関」と化し、親が制服へと目を向けるようになっていった。それに伴い生徒の学校への適応分類として「向学校/反(脱)学校」という生徒文化の分化が起こった。校内暴力を行ったり、学生服を変形させたりするような学校に反する層が出現し、注目を浴びるようになってきたのである。

そこで「変形学生服」防止のために1982年「日本被服工業組合連合会」が男子襟詰服に「標準型学生服認証マーク」を導入し、多くの学校がデザインに優れているようなスーツ型やブレザー型の制服にモデルチェンジした。モデルチェンジの際に、課題とされていた変型防止、着崩し対策、世間的評価向上をデザイン性により克服していったのだ。

 このモデルチェンジの際の着崩し対策を表向きの理由としないために、1980年代半ば、「CI(コーポレート・アイデンティティ)」をヒントにメーカーが「SI(スクール・アイデンティティ)」を提唱した。SIはさまざまな制服のデザインは学校のアイデンティティを具現化する役割を持つとして期待されるようになった。

 1980年代後半になると、モデルチェンジが一般的になり、DCブランドの制服(デザイナーズ・キャラクターズブランド)も登場し、制服は「教育的」なものから抜け出し、ファッションやイメージとして消費されるものになっていった。

 また、男子襟詰服をすでに全国展開していた4大メーカーが女子の制服を本格的に手掛けるようになったことが制服のファッション化を促進させた。更にその時期が第2次ベビーブーム世代の高校入学時期と重なっていたことが大きく影響している。(松田2005

 

第二節 制服着崩しイメージの変化

校内暴力を行なったり、変形学制服を着用したりする反学校派が登場する前までは、制服は学校の象徴としてのイメージを引きずっており、学校文化的であり、統一感があった。反学校派が登場してからは、制服を決められた通りに着用しないという個性を表す行為を通して、学校への反発の姿勢をみせた。学校への反発の姿勢を見せていたことから、この時点では制服と学校との関係性はある。88年以降のモデルチェンジブームにより可愛い制服が登場してくることによって、他者との差異化が可能となった。学校制服は学校特有のものではなくなり、一つの消費対象となり、消費行動としておしゃれをするようになる。おしゃれな制服を好む女子高生が増えると、制服アイテムも増える。学校制服は学校との関係が希薄になり、若者文化へ変わる。このように山口(2007)はモデルチェンジを境に制服の着崩しは学校からの逸脱からお洒落という若者文化へと変化していると言及している。

こうした流れから確立した、女子高校生の制服おしゃれが、若者文化として定着した。この制服おしゃれの定着化によって、山口(2007)は制服おしゃれが単に差異化の作用を持つだけでなく、女子高校生全体、あるいは友だち集団になじむような全体的同化をしながらも、その中で自分だけの着こなしやお洒落を表現していく個人的異化という、細部にわたる自己演出をできるものとなったとしている。(山口 2007

 

第三節 制服着崩し要因

古結・松浦(2012)の研究は学年学期男女別に制服着装行動と自己意識との関連を検討するために質問紙調査を行っており、高校2年生に対する調査結果では、他者から見られる自己への注意が高い者は、かわいく着こなしたいという制服による自己呈示意識を強く持ち、逸脱傾向のある着装行動をとるとある。また、羽賀・渋谷(2006)の調査結果では、制服を規則通りに着ていない者は、ファッションに関心があり、周りの人から良く見られようとする、規則を面倒と思い、規則を守るより流行や友達に合わせたいと思う傾向があることが、明らかになっている。どちらの研究でも、他者から見られることを意識し、他者からよく見られようとすることが共通している。古結・松浦の研究は、女子の1年生1学期は購入した状態のまま制服を着ていたが2学期になるとやや逸脱傾向のあるスタイルになる。1年生1学期の結果では、対人的な不安意識の高い人ほど、校則の必要性を高く感じており、校則に準じた制服着装行動を行っていた。しかし2学期にやや逸脱傾向のあるスタイルになることを踏まえると、多数派となった着装行動が集団圧力として、対人的な不安の高い者に作用している可能性があるとしている。つまり、可愛く着こなしたいという自己呈示以外にも、対人不安によって周りに同調する可能性がある。このことから、制服を着用する際には規則、対人不安、ファッションなど様々な意識が関係していることがいえる。

本調査ではすでに調査が行われている<規則><学校生活><人間関係><ファッション>に注目し、この4つの項目と制服の着崩しとの関連を調べるために質問紙調査を行った。さらに、先行研究ではあまり行われていないインタビュー調査も行い、気になる点について詳細に質問している。女子生徒のほうが制服にファッション意識を持っていることや、状況によって制服を変化させていること、女子生徒の制服のほうが種類やファッション性があることから、今回の調査では対象を女子に限定する。