第四章 調査(2) 全国萌えキャラフェスティバル

 次に、萌えおこしの大枠を掴むため、第三章でもふれた岐阜県大垣市の「全国萌えキャラフェスティバル」への参加団体同士の比較を「あみたん娘」も含めて行った。今回の調査では、出展キャラクターの中からMoe1実行委員会(東京都)、もえしょくプロジェクト(静岡県)、桜織プロジェクト(山梨県富士吉田市)を除いた11団体を比較の対象として扱った(4)。なお、「全国萌えキャラフェスティバル」は2014年にも開催されているが、ここでは2013年の出展キャラクターを扱う。

参加団体、キャラクターに関する説明は以下の通りである。

 

・足利ひめたま(栃木県足利市)

 第二章を参照。

 

・知多娘。(愛知県知多半島)

 知多半島の活性化と若者の就職支援を目的に誕生した知多半島のイメージキャラクター。2009年に厚生労働省委託事業「ちた地域若者サポートステーション」のキャラクターとして「知多みるく」が誕生したのが始まりで、現在では16人のキャラクターが存在する。キャラクターデザインには長野県在住のイラストレーター、宙花こより氏を起用。

 

・小峰シロ(福島県白河市) 

財団法人白河観光物産協会の公認キャラクターで、白河市のPRと東日本大震災で被災した各地の復興の応援をしている。3種類の姿に変身するという設定。2012年「Moe1グランプリ」では観光部門、キャラクター部門でグランプリを受賞。

 

・あきたこまち(秋田県羽後町)

JAうごが「あきたこまち」の米袋にイラストレーターの西又葵氏による和装少女の絵を載せて販売したところ、登場から1ヶ月で従来の2年分に相当する売り上げを達成した。2012年「Moe1グランプリ」ではお土産部門でグランプリを受賞。

 

・大垣きゅん物語(岐阜県大垣市)

大垣市のご当地キャラクタープロジェクト。大垣に実在する町のイメージキャラクターが90人近く登場する。キャラクターデザインはアニメーターのこつぶ氏が担当。市内に住む専門学生などもデザインに加わっている。

 

・日本橋プロジェクト(大阪府日本橋)

 大阪日本橋界隈の活性化を目的としたプロジェクト。「音々(ねおん)ちゃん」、「光ちゃん」を公式キャラクターとしている。キャラクターデザインは大人気ライトノベル『灼眼のシャナ』、『涼宮ハルヒ』シリーズの挿絵を手掛けた、いとうのいぢ氏が担当。

 

・山県さくら(岐阜県山県市)

 「山県市名山めぐり事業」のイメージキャラクター。選考における最優秀作品のデザインを元にキャラクターを決定した。

 

・ことまきプロジェクト(京都府) 

萌えキャラを使った地域活性化や産業振興の手助けを目的としたプロジェクト。キャラクターを「二次元タレント」として扱っている。現在は12人のキャラクターがいる。

 

・やくならマグカップも(岐阜県多治見市)

多治見市を中心に地域活性化を目指す「たじみくるくるろくろプロジェクト」の活動の一環で、女子高生×陶芸の漫画をフリーペーパーとして多治見、名古屋、東京で年4回(予定)配布している。

 

・萌ッ娘企画(神奈川県相模原市)

相模原市の名産と「萌えキャラ」をコラボレーションさせて各地に広める活動を中心に行っている。現在は相模伝統醤油の「桜姫」や、フルーツようかんの「ラズーとブルル」がいる。「桜姫」のラベルデザインには漫画家のユキヲ氏を起用している。

 

比較は以下の6項目によって行い、結果を記号で示して表を作成した。

 

(1)外見の萌え要素

当てはまる要素が1つでもあれば○、全くなければ×とする。なお、今回の調査では「メイド服」や「猫耳」など、もともとのオタク文化を象徴する萌え要素のみに限定する。

 

(2)物語性       

 ストーリーそのものがメインになっているものであれば◎、一般的に「物語」と言えるような時間的経過の感じられるストーリーであれば○、四コマ漫画など断片的で時間的経過の感じにくいコンテンツであれば△、ストーリーが全くないものは×とする。

 

(3)物語のジャンル

 物語性があるものに関してはその物語のジャンルを示し、ないものに関しては「/」を表記。

 

 

(4)キャラクターデザイン

 プロの著名なイラストレーター(アニメーター)が担当している場合は◎、一般にあまり知られていないイラストレーター(アニメーター)や漫画家などの場合は○とする。

 

(5)二次創作(イラスト)

イラスト交流サイト「pixiv」において、対象のキャラクターに関係するイラスト・作品の投稿数。公式のイラストを除いたものを検索と目視によって抽出した。(調査日は201411月)

 

(6)二次創作(動画)

動画投稿サイト「YouTube」、「ニコニコ動画」において、対象のキャラクターに関係する動画の投稿数。検索だけでは二次創作の動画だけを抽出することが困難なため、目視によって10点以上の投稿が確認されたものは、「10+」とする。(調査日は201411月)

 

以上の項目において、確認が出来なかったものに関しては「−」を表記した。

 

 

(1)外見の

萌え要素

(2)物語性 

(3)物語の

ジャンル

(4)キャラクター

デザイン

(5)二次創作

(イラスト)

(6)二次創作

(動画)

あみたん娘

×

戦闘、アイドル

30

10

足利ひめたま

×

(5)

82

6

知多娘。

コメディ

173

10

小峰シロ

ファンタジー

139

10

あきたこまち

×

×

20

0

大垣きゅん

×

青春

21

0

日本橋プロ

×

コメディ

143

10

山県さくら

×

×

1

1

ことまきプロ

×

日常

5

0

やくならマグ

×

文化、青春

21

7

萌えッ娘企画

×

コメディ

0

0

 


201411月現在のデータによるもの

41 全国萌えキャラフェスティバル(2013) 参加団体の比較

 

41を見ると、意外なことに殆どのキャラクターの「外見の萌え要素」に×が付いた。これは、基準を“もともとのオタク文化を象徴する萌え要素のみ”に限定したため、非常にハードルが高くなったということも原因ではあるが、いずれにせよ、「あからさまな萌え要素」を外見に取り入れているキャラクターは少ないということがわかった。さらに、○の付いている「知多娘。」に関しても、「猫耳」や「メイド服」といった萌え要素を含むイラストは見られたものの、16人いる全てのキャラクターにそれが当てはまる訳ではなかった。そして、薄い網掛けで示してあるように、「外見の萌え要素」に×の付いているキャラクターの中で、「あみたん娘」、「足利ひめたま」、「あきたこまち」、「日本橋プロジェクト」については「キャラクターデザイン」に◎が付いている。このことは、有名で人気のあるプロのイラストレーター(アニメーター)がキャラクターデザインを手掛けることによって、あからさまな外見の萌え要素がなくとも、「萌えキャラ」として認められるということを示しているのではないだろうか。また、著名な人物を起用することによって、絵のクオリティやその人自身の知名度といった面からも集客効果が期待できるものと考えられる。

「物語性」に関しては少なくとも△以上のものが多いが、◎が付いたのは「やくならマグカップも」のみであった。従って、萌えおこしはストーリーというよりはキャラクターをメインに押し出すものが多いのではないかと考えられる。また、殆どのキャラクターで実際に「二次創作」が行われているということが確認できたが、濃い網掛けで示してあるように、イラストと動画の数がいずれも一桁以下の「山県さくら」、「ことまきプロジェクト」、「萌えッ娘企画」については「物語性」が×、または△となっている。これは、ストーリーに盛り込まれている素材が二次創作を誘発したり、ユーザーの関心を高めたりしているからではないだろうか。これらのことから、萌えおこしにおける物語性は、全てがそうとは言えないが、二次創作の素材や設定の補充といった意味合いが強いのかもしれない。

また、「物語のジャンル」では、今回扱った対象の中だけでも様々なジャンルがあったにも関わらず、物語の王道とも言えるであろう「恋愛」をメインにしたものがなかった。このことについては後の第六章で詳しく論じるため、ここでは敢えて追究しないものとする。