第五章 考察

第一節 野外フェスティバルの開催地

 本稿では、富山県内で開催されているふたつのフェスティバルの取組みを見てきた。このビートラムとセイハローの最も大きな違いが開催地である。そこで、2014年度に開催された全国の野外音楽フェスティバルの開催地を表にまとめた。これが表5-1である。これを見ると、野外フェスティバルは174件開催されていた。このうち、海岸やスキー場、郊外で開催されているものが143件あるのに対し、市街地で開催されているものは26件と少ないことが分かる。さらに、市街地の公園で行われているものは11件であった。これは、第三章第五節でも取り上げた、音量問題が影響しているのではないだろうか。

 


 

第二節 フェスティバルの王道としてのセイハロー

セイハローは、スキー場にて開催される、いわばほかの野外フェスティバルと同様の、郊外で開催されるフェスティバルである。第四章第三節でも述べたが、開催場所を太閤山ランドからイオックスアローザスキー場へ変更したという経緯がある。セイハローではないものの、太閤山ランドに周辺住民からイベントに対する騒音の苦情があった。その対処として太閤山ランド側は音量に制限を設けたが、その制限は厳しく、太閤山ランドでのフェスティバル継続は困難となった。そこで、開催地をイオックスアローザスキー場へと移した。会場をスキー場にしたことによって、オールナイトでのライブパフォーマンスが可能となり、屋外でも音量や時間を気にせず、音楽を楽しめるフェスティバルとなった。

また、セイハローはアーティストのブッキングに力を入れているフェスティバルである。これは音楽のファンを会場に呼ぶ力が強いと言える。実に来場者の約6割が県外から来ている。これは、県外から富山に来てもらう、純粋な音楽イベントとしての富山の発信になると言えよう。

 しかし、セイハローは、スキー場での開催であるが故に、まちとは切り離されてしまうのである。純粋な音楽イベントとしての特徴が強いため、セイハローは富山でなくてはならないイベントであるとは言えなくなってしまう。

 


 

第三節 新しい可能性を示唆するビートラム

ビートラムは、開催地がまちなかであることにより、県内外の人が来場しやすくなることは明白であろう。ほかの多くの野外フェスティバルでは、キャンプ場や公園で開催されることが多く、最寄りの駅からバスに乗り換えたり、混雑する道を自動車で向かったりしなければならない。フェスティバルでは日中からお酒を飲むことを醍醐味とし、楽しみにしている人も多いため、自動車で行きたくないという人もいるだろう。その点において、ビートラムでは富山市の中心市街地での開催であり、駅から近く、かつ、ビートラム開催期間中はトラムに無料で乗車できる。JR富山駅は、北陸本線と高山本線が乗り入れている。また、富山地方鉄道の電鉄富山駅とも近接している。自動車での来場は難しいものの、交通手段は十分にあるといえる。会場周辺には飲食店や宿泊施設が充実しており、県外からの来場者にとっても、フェスティバル以外での環境面に縛られることなく過ごすことが可能である。

 第三章でも述べたように、トラムステージでのライブは出演者側にとっても観客にとっても多幸感あふれる体験である。トラムステージに出演したいという理由でビートラムへの参加を決めたアーティストもいるという。このトラムステージに関して着目したいのは、まちなかと人々の結びつける作用である。トラムの中にいる人にとっては、車窓から見える風景が人々とまちなかを結びつける要素になるのではないだろうか。動く景色と演奏が合わさり、普段トラムを利用する人にとっても新たな視点からまちを見ることが出来るのではないか。第三章より、トラムステージの存在はビートラムに参加していない人でも気付くことがわかる。トラム内での演奏という試みは、トラムを外から見ているまちなかの人にとっても、改めてまちなかに関心の目を向ける機会を与えているのではないだろうか。したがって、トラムステージは「内から外」、「外から内」の二方向からまちなかと人々を結びつけているのだと考える。トラムステージはまちなか全体をステージと変える効果があるとも言えるのではないか。トラムステージは、梶原さんが「富山って魅力あるまちなんだなって思ってもらえるような、そういうまちを発見する新しい視点を見つけることができたら面白い」と話していた、まちなかの魅力の再発見に大きな役割を持っているといえよう。

 また、ビートラムは出演したアーティストの多くがブログやtwitterを更新していた。それを見ることにより、そのアーティストのファンはビートラムを知ることとなる。ビートラムでのライブに関する情報以外に、富山の食について触れているものが多かった。アーティストの発信するブログによる情報は、富山の発信にもつながるだろう。

ビートラムは、音楽フェスティバルを通して、もともとあるトラムや富山城、城址公園にスポットを当て、そのまちの良さを再発見しようとする取り組みの色が強いと思われる。これは、その土地に元来ある文化やモノに、音楽を付加価値として結びつけ、地域振興をはかる動きがあると言えるのではないか。

 一方で、ビートラムにはまちなかで開催するからこそのデメリットもある。それは音楽活動に制限が課せられるということである。第三章第五節で述べた音量問題にあったように、まちなかで開催するため、近隣住民に対する配慮は欠かせないものである。しかし、音楽イベントとしては来場者に音楽を楽しませることが一番重要だといえよう。この兼ね合いが難しく、課題でもある。

 


 

第四節 まとめ

 本節では、今後のフェスティバルの発展と、地域振興への貢献増大を図るために、筆者の考えを提言として述べたい。

 ビートラムは、まちなかで、トラムを用いたステージがあり、北陸新幹線開通後の開催にはさらなる変化が見られるであろう。そのうちのひとつに、環境の変化が挙げられる。富山地方鉄道の富山軌道線と富山ライトレール富山港線の南北接続に伴い、JR富山駅の新幹線高架下に新たに停留場が設置される。南北接続にはまだ多少の時間がかかるとみられるが、停留所が増えることにより、従来の運行ダイヤとは変わることが予想される。トラムステージはトラムの通常運航の間を縫って走らせている。また、富山市では、JR富山駅と観光地を結ぶ二次交通として、トラムを重視していることから、トラムの利用者は増加すると推測できる。人の多い富山駅内を通る際にもどうすべきか議論があるだろう。

 前節で、ビートラムの音量問題を指摘したが、ここで筆者の考えを一意見としてあげておく。音量は音楽イベントにとって大きな位置づけを持つものである。思い切って、出演アーティストの音楽ジャンルにこだわってみたらどうだろうか。2014年度の出演アーティストにも多かった、シティポップに影響を受けているアーティストに揃えていくのも手だと思う。若者向けのロックよりも落ち着いていて爽やかな印象を受けるシティポップなら、まちなかでのビートラムにおいても騒々しくなく感じるのではないだろうか。筆者が実際にビートラムに行って感じた、やわらかい雰囲気を今後も活かしていってほしい。

 セイハローは、交通面でより充実が求められているのではないだろうか。高校生以下の学生料金を500円と設定し、若い世代への文化振興の働きがみられる。しかし、自動車での来場者への待遇は厚いのに対し、最寄りのJR駅と会場をつなぐ臨時バスの運行は数少なく、一日にのぼりと下りを合わせても3,4本ほどしかない。臨時バス以外の交通手段としてはタクシーしかない。これは学生のフェスティバル参加にとって、非常にネックとなるだろう。また、20153月には北陸新幹線が開通する。北陸経済研究所の調べによると、新幹線開通後の来訪者数は、年間24万人増の約141万人の見込みである。おそらく北陸新幹線を利用してセイハローに来る人もいるだろう。新幹線を利用して来県する人が、同じJRの城端線を利用し最寄りの福光駅まで来ると考えると、ここでも駅から会場間の移動が問題となるだろう。この問題を解消するためには、やはり臨時バスの増便が不可欠だと考える。

 また、地域振興としての面を発展させるためにはより南砺市の協力が必要だろう。会場のあるスキー場周辺以外の、市内観光へと結びつけるために、斡旋が必要と言えよう。あくまで筆者の仮想ではあるが、可能なら南砺市内で利用できるクーポンや市内の観光地情報を、フェスティバルのパンフレットに掲載しても良いのではないかと考えた。

 本稿では、富山県内の異なる特色を持つ野外フェスティバルふたつを調査対象として、その現状を明らかにしてきた。今回調査したフェスティバルは、どちらも開催年数が短い若いフェスティバルと言える。両フェスティバルともに、残念ながら本稿では触れきれなかった取り組みも数多くある。今後も十分に変化していく可能性があり、その進展に注目する必要がある。全国では様々なフェスティバルが開催されているが、その一部としてフェスティバルの事例研究ができ、現状を知ることができたのは今回の収穫であろう。

 

 

謝辞

本稿を作成するにあたり、インタビューに快く応じてくださった梶原徳行様、セイハローフェスティバル実行委員の皆様に心から感謝いたします。本当にありがとうございました。