第四章 SVCセイハローフェスティバル
第一節 SVCセイハローフェスティバルの概要
SVCセイハローフェスティバル(以下セイハロー)は、富山県南砺市イオックスアローザスキー場で開催されている野外音楽フェスティバルである。(※開催地:〜2013年度は太閤山ランド、2014年度はイオックスアローザ。今後はイオックスアローザで継続して開催される予定。)
前身のサマーヴォイスカーニバル(SVC)は2012年まで通算5回太閤山ランドにて開催されていた。フェスティバル開催の担当者が今回のインタビュー協力者である実行委員会の委員長に変わったことにより、フェスティバルの名称を一新してSVCセイハローフェスティバルとした。また、その過程でコンセプトをより具体的に変更した。「東北大震災の復興支援」、「地域活性化・貢献」に力を入れている。
主催はセイハローフェスティバル実行委員会。共催はイオックスアローザである。
2013年度は、7月2週目の土、日曜日の二日間(両日とも10時30分開演、夜ステージはない。)、2014年度は、8月2週目の土、日曜日の二日間開催された(土曜日:11時〜21時、夜:22時〜5時、日曜日:11時〜21時)。ステージは、大きい順に、「HELLO!ステージ」、「BONJOUR!ステージ」、「HOLA!ステージ」の三つで、すべて有料エリアとなっている。2013年度は「HELLO!ステージ」が太閤山ランドに元々ある建物を利用した屋内ステージ、「BONJOUR!ステージ」、「HOLA!ステージ」は野外に設置されたステージであった。図4-2〜4-4は2014年度のステージの画像である。これらの図からも分かるように、2014年度は「HELLO!ステージ」、「HOLA!ステージ」は野外に設置されたステージで、「BONJOUR!ステージ」はイオックスアローザスキー場の倉庫の中で行われたステージである。図4-1からもわかるように、ビートラムよりも広い範囲を会場として使用している。そのためステージ間の移動は長距離になるが、他のステージの音楽がそのステージのライブに影響することはない。
2014年度の料金は、一日券が5500円、夜チケットが3500円、二日通し券が10000円で、当日券は全て1000円増しとなる。キャンプサイトチケットは1区画3000円。一日券、二日通し券はグループ割があり、3名もしくは5名でまとめて購入すると割安になる。(3人:1日券14500円 / 2日通し券27000円、 5人:1日券22500円 / 2日通し券42500円)また、学生(高校生以下)は一日券を500円で買い求めることができる。(2013年度は1日券4500円/2日通し券8000円/学生1日500円。グループ割3人、5人有。)
入場時にチケット料金とは別にワンドリンク500円が必要である。そのうちの200円は東日本大震災の義援金へと充てられる。2013年度は約21万1000円が寄付された。
動員数は2013年が約1400人、2014年が約800人。(2014年は開催日に台風が接近していたため動員数が少なかったのではないかと考えられる。)両年とも、約6割が県外からの来場者である。
駐車場は1500台分を無料で開放している。また、最寄りのJR福光駅から会場まで臨時シャトルバスを運行している。運行スケジュールは以下の通りである。
8月9日
(のぼり)福光駅(10:50発)― イオックスアローザ(11:15着)
(のぼり)福光駅(11:50発)― イオックスアローザ(12:15着)
(くだり)イオックスアローザ(21:00発)― 福光駅(21:25着)
8月10日
(のぼり)福光駅(10:50発)― イオックスアローザ(11:15着)
(のぼり)福光駅(11:50発)― イオックスアローザ(12:15着)
(くだり)イオックスアローザ(10:00発)― 福光駅(10:50着)
(くだり)イオックスアローザ(21:00発)― 福光駅(21:25着)
図4-1 2014年度セイハローフェスティバル会場図(セイハローフェスティバルHPより)
図4-2 2014年度HELLO!ステージ(ATATAブログより)
図4-3 BONJOUR!ステージ(南砺市HPより)
図4-4 HOLA!ステージ(ミニマル道中記より)
図4-5 キャンプエリア(南砺市HPより)
セイハローの一番の特色は、その出演アーティストにある。
実行委員長の「知られていないいい音楽を来た人に聞いてもらいたい」という思いから、ポストロック、レゲエ、テクノ等、ジャンルにとらわれず、日本の様々な音楽シーンを代表するアーティスト、バンド、DJが多数出演している。毎年数多くのフェスティバルに出演している、いわゆる「フェス慣れ」したバンドばかりが名を連ねるフェスティバルが多くあるが、セイハローはそうではない。例を挙げると、「Yogee New Waves」は2013年結成したバンドで、セイハロー出演前までのライブ回数自体が少ない。「she her her hers」は、野外フェスティバルへの出演は初めてである。また、海外を拠点に活動しているアーティストを積極的にブッキングしている。例えば、「MONO」は、2013年度、2014年度共に日本で開催されるフェスティバルへの出演はセイハローのみである。2013年度においては、54公演中3公演(東京、大阪での公演と富山でのセイハロー)だけが日本でのライブである。これらより、いかにアーティストのブッキングに力を入れているフェスティバルであるか分かるだろう。
また、セイハローでは、その出演アーティストがフェスティバルのTシャツをデザインしている。2013年度は「te’」のメンバーが、2014年度は「LOSTAGE」のメンバーがデザインしており、音楽ファンの心をつかむ要素のひとつとなっているだろう。
第二節 調査概要
本稿では、SVCセイハローフェスティバルの実行委員会の委員長にインタビューを行った。インタビュー概要は以下の通りである。
インタビュイー:セイハローフェスティバル実行委員会 委員長
日時:2014年9月3日 17:15〜
場所:実行委員会の事務局
また、筆者自身も2013年度、2014年度のセイハローにボランティアスタッフとして参加した。
第三節 開催地と音量問題
セイハローは、一年目の開催地の太閤山ランドから二年目以降イオックスアローザスキー場へと会場を変えた。その経緯を述べたい。
セイハローはその前身フェスティバルであるサマーヴォイスカーニバルの頃から太閤山ランドを会場としていた。しかし、セイハローとは関係はないものの、太閤山ランドに対して周囲の住民からイベント時の騒音に対して苦情が来たそうである。実行委員長曰く、この苦情に対し、太閤山ランドでは、一定の音量を制限として定めたそうだ。その音量を超えるとそのイベントは中止となる。問題はその制限音量の厳しさである。実行委員長はこの音量では音楽フェスティバルを開催することは不可能だと判断し、会場を移すことを決意した。
南砺市で開催することを決めると、次々と協力者が出てきた。会場のイオックスアローザスキー場もセイハローの開催に協力的だったという。太閤山ランドでの開催と比較して、スキー場での開催であるため、音量の制限が少なくなった。先にも述べたが、会場を広々と使用できるため、出演時間が重なっても他のステージの音量に影響されることは少ない。ここにセイハローにおける音量問題の解消がみられる。加えて、スキー場周辺には住民が少ないので、夜通し音楽を鳴らすことができ、オールナイトでの開催が可能となった。それと並行して、2013年度には作れなかったキャンプエリアの設置が可能となった。ここから、セイハローの音楽イベントとしての進展もみられる。
スキー場を会場として利用する利点はまだある。セイハローに対して協力的なイオックスアローザスキー場では、セイハロー期間中はスキー場の施設も利用できた。食堂がある休憩所や温泉をスタッフだけでなくアーティスト、来場者も使用できる。多くの野外フェスティバルではテントを建てて設けられる本部や救護室も、建物の中に設置できる。また、駐車場は1500台分を無料で開放している。前年度の太閤山ランドでは1300台分の駐車場があったが、有料だった。郊外へと場所を移したが、自動車で来場する人が多いと考えられるため、来場者にとっては、駐車場無料は喜ばしいといえよう。
セイハローでは、音楽以外の面でも来場者向けにヨガやライブペインティングなど、様々な要素を取り込んでいる。これは2013年度からの取り組みであったが、スキー場に会場を移したことにより、より多くのスペースが利用可能となり、より充実していた。特に注目したいのは来場した子ども向けのワークショップである。公式twitterでも、『家族連れで楽しんでもらえるように、キッズエリアの充実。小さなお子様連れの方にも安心して楽しんでいただけるように、授乳室も設けますのでぜひ家族そろって遊びに来てください』とコメントしているように、キッズエリアにも力を入れていた。2013年度は、廃材の竹を再利用してアスレチックパークを建設した。2014年度は、竹を利用したアスレチックに加え、LOVECHILDやPowwow-aeaa Earth Kids Project-7Nature Usagiという、未来を担う子どもたちに、芸術を通して地球環境や自然との関わりを伝えたり、ワークショップを行うことによってこどもの創造性や自主性を育てたりする団体に出展してもらっていた。筆者もボランティアスタッフの仕事の合間に、悪天候ではあったが、芝生の上で、7 Nature Usagiのウサギのバルーンのようなもので、大人と一緒に遊んでいる子どもたちを目撃した。
第五節 県外からの来場者
セイハローの特徴の一つとして、県外からの来場者が多いことが挙げられる。2013年度も2014年度も来場者の約6割が県外からの来場者である。筆者がボランティアスタッフをしていた時に感じたのも県外から来た人の多さである。第三章で述べたビートラムでは、ボランティアスタッフをした際には富山県内の人がほとんどで、県外からの来場者は、東京都など大都市圏か、石川県など近隣の県からが多いイメージであった。一方、セイハローでは、筆者が話をした限られる人数でも、東京都などの大都市圏以外にも、千葉や、岡山など、様々な地域が挙げられた。また、2014年度は悪天候のため来場者は少なかったが、2013年度に来ていた人がまた来ている割合が多いように感じた。
2013年度はコアなファン層を狙っていた。しかし、2014年度は一転して、狙う層を決めずにフェスティバルを作ったという。2014年度は、前節でも述べたようにキッズエリアの充実を図り、親子連れにも来やすいフェスティバルづくりをした。
筆者は県外からの来場者の多さが地域振興に大きな役割を持つのではないかと考え、そのような趣旨の質問を投げかけたところ、実行委員長は、地域を知ってもらうためにはまずその地域に来てもらわないといけないと話した。