第三章 ビートラムミュージックフェスティバル
第一節 ビートラムミュージックフェスティバルの概要
ビートラムミュージックフェスティバル(以下ビートラム)は、2012年からはじまった、富山市中心市街地を舞台とした野外音楽フェスである。
実行委員会は、【富山市/富山商工会議所/富山市観光協会/富山地方鉄道/北日本新聞社/富山市民文化事業団/富山市民プラザ/まちづくりとやま/富山大手町コンベンション/富山市商店街連盟/総曲輪通り商盛会/中央通商栄会/大手モール振興会】で構成されている。実際の運営としては、北日本新聞社営業部 梶原徳行さんが中心となり、協力者4,5名と共に活動していた。
ビートラムは、2012年から毎年開催しており、毎年10月第二週目の土、日曜日に行われている。2012年度は前売り券が一日6500円、当日券が7000円。二日通し券は10000円。2013年度も2012年度と同じ値段だが、前年にはなかった学生チケットが設けられた。学生チケットは、中高・大学生向けで、前売り券が一日4500円、当日券が5000円。二日通し券は8000円と、通常価格よりも2000円安い。また、大人同伴で子どもはチケット代が無料である。
ビートラムは、富山城址公園を会場にした「メインステージ」、「プラタナスステージ」、「フロントステージ」と、富山市内環状線を運行する路面電車を貸し切りステージとした「トラムステージ」で、ライブパフォーマンスが行われる。(「プラタナスステージ」は2013年度以降設けられた。)2012年度、2013年度は、「フロントステージ」のみ無料で観覧可能であったが、2014年度は全ステージが有料となった。図3-1は2013年度の会場マップである。来場者は、図下部の富山城側から城址公園に入り、リストバンド交換所で公演チケットを入場パスとなるリストバンドと交換する。図からわかるように、有料エリアに入るにはテントで作られた出入り口を必ず通る必要がある。出入り口ではリストバンドをスタッフに提示しなければならない。後でも詳しく説明するが、トラムステージの申し込み受け付けは、会場後、有料エリア内で行われる。図3-1〜3-4は2013年度のそれぞれのステージの写真である。大きい順に、「メインステージ」、「プラタナスステージ」、「フロントステージ」である。
タイムテーブルでは、2012年度は「メインステージ」と「フロントステージ」が、2013年度、2014年度は「メインステージ」と「プラタナスステージ」が、ほぼ交互にライブパフォーマンスをするように組まれていて、多くのアーティストを見ることが可能となっている。
富山のDJイベント「LOVEBUZZ」とコラボし、2012年度にはビートラム前夜祭、2013年度、2014年度には中夜祭といった連携イベントも別会場(富山市内のクラブハウス「クラブマイロ」)にて行われている。2013年度は富山市内のライブハウス「ソウルパワー」でも朝10時から同時進行でスピンオフ・ライブが行なわれた。こうした連携イベントには、フェスティバルのチケット・リストバンドの提示で入場することが出来る。(ただし入場時のドリンクチャージ料500円は別途必要。)もちろん連携イベントのみのチケットも発売されている。
また、フェスティバルのチケット・リストバンドは、開催2日間の富山地方鉄道が運行するトラムの無料乗車券としても使用可能である。
動員数は2012年度、2013年度ともに約2500人。2012〜2014年度の県外からの来場者比率は2012年度は25%、2013年度は45%、2014年度は48%と、伸びてきている。
開催の経緯は以下の通りである。ビートラムは元々事業や企画があったわけではない。富山城址公園では、夏にステージを使用した祭りが行なわれていた。しかし、秋には観光客を呼ぶようなイベントが行われていなかった。そこで、秋に富山城址公園でステージを使ったイベントをしてほしいという旨の企画の募集があり、その際に梶原さんが音楽イベントの案を出した。当初はまち全体を取りこんだ音楽イベントを構想していたが、フェスティバルというかたちに落ち着いた。しかし現在では、本稿ではその全てに触れることは出来なかったが、当初の構想のようにまちなかのイベントやお店等とコラボし、フェスティバル当日に限らずまちなかで様々な音楽イベントを開催している。
図3-1 2013年度会場マップ
図3-2 メインステージ
図3-3 プラタナスステージ
図3-4 フロントステージ
(図3-1〜図3-4 全てビートラム2013HPより)
第二節 トラムステージの概要
本節では、ビートラムにおける最も大きな特徴といえるトラムステージに関してより深く説明したい。
前述のとおり、トラムステージは富山市内環状線を運行する路面電車を貸し切り、ライブステージとしたものである。
車両は富山地方鉄道のサントラムを用いる。サントラムは富山市内を走るトラムのひとつである。富山市内で運行しているセントラム・ポートラムに続く3つめのトラムで、最新の車両である。普段は南富山駅―大学前間を運行しているが、ビートラムの際には、車両の先頭にフェスティバルのロゴマークを付け、富山市街地をまわる環状線を走る。
図3-5 サントラムT101号車
(富山地方鉄道株式会社HPより)
次に、トラムステージの乗車システムについて述べたい。
2012年度のトラムステージは、フェスティバルのチケット購入者のみトラムステージ参加の応募資格を有していた。HPで抽選申し込みを受け付け、ビートラム開催前の9月20日締め切りであった。応募多数の場合は抽選となる。当日は、環状線2周、約40分間を1ステージとし、1日2アーティスト(開催2日間で計4アーティスト)が出演した。
2013年度のトラムステージでは、フェスティバル当日に、チケットをリストバンドに交換した際に、番号がふられた抽選申し込み券をもらう。抽選申し込み券の半券に、乗車したいアーティストにチェックを入れ、会場有料エリア内のトラムステージ受付にて、申込みをする。開場時間の10時から申し込み受け付けを開始し、10時30分に締め切る。2012年度同様、応募多数の場合は抽選となる。抽選結果は11時に、申し込み場所にて貼り出し発表される。この時点で定員に達していないアーティストに関しては、12時まで乗車申し込みを受け付ける。当選した人は、ステージの時間が近くなると電停丸の内駅近くのテントに集合する。そこでさらにくじを引き、その番号の席に座る。丸の内駅から乗り込み、環状線1周、約20分を1ステージとする。1日10ステージで、6アーティスト(開催2日間で計12アーティスト)が出演した。2014年度の乗車システムも2013年度とほぼ同様である。
図3-6は申し込みの様子である。アーティストごとに投票箱のようなものが設けられ、来場者はそれぞれ目当てのアーティストの箱に申し込み券の半券を入れている。図3-7は当選者発表の様子である。写真のように、当選者は半券に記入されている番号で発表される。
図3-6トラムステージへの申し込みの様子 図3-7当選者発表の様子
(共にビートラム2013 HPより)
前述のとおり、サントラムは3両が連結した車体となっている。アーティストは乗車口がある中心の車両でライブを行う。乗客は36名ほどで、アーティストとスタッフを合わせると、一度に40名前後の人が乗っている。少しでも多くの人がトラムステージを見ることが出来るようにと、前後の車両では通路も観客席としてカウントされ、通路席となった人は座布団に座ってライブを見る。図3-8から、アーティストとの距離が近いことが分かるだろう。車内が狭いため、アコースティックやギター一本での演奏など、機材は少なくするようにしていた。
図3-8トラムステージ内の様子
(カジヒデキ ブログより)
第三節 調査概要
本稿では、ビートラム実行委員の梶原徳行さんに計二回インタビューを行った。詳細は以下の通りである。
インタビュイー:北日本新聞社営業部 梶原徳行さん(ビートラム実行委員)
場所:北日本新聞社近くの喫茶店
・第一回インタビュー
日時:2013年11月13日18:00〜
・第二回インタビュー
日時:2013年12月17日18:00〜
加えて、ビートラムの最大の特徴ともいえるトラムステージに関しては、出演アーティストと来場者のブログやtwitterを調査し、その実態を明らかにすることを試みた。来場者のブログに関しては、実行委員梶原さんから教えていただいたブログが最も細かく書かれていたため、それを調査対象とした。以下は筆者が可能な範囲で調べたブログの詳細である。
ブログの著者:Middx.さん(女性、千葉県出身、東京都在住)
「フォートラベル」という旅行の口コミサイトで、旅行記や口コミを更新している。
2014年1月現在、約150件の旅行記を書いており、14カ国31都道府県に訪問している。
ライブを見るために遠出をすることもあるようである。
2013年のビートラムの際に初めて富山に訪れたが、大好きな場所に奈良と富山を挙げており、富山に対しては非常に好意的であると言えよう。
第四節 トラムステージ
第一項 トラムステージ乗客の反応
トラムステージの乗客の反応を来場者のブログから見ていきたい。Middx.さんはビートラムのCMを見て来場を決めたという。2013年度、2014年度のビートラムに来場しており、どちらの年度もトラムステージに乗っている。以下は、両年のブログのトラムステージに関する部分の引用である。(写真は割愛している。)
<2013年のブログ>
このビートラムというフェス、
素晴らしい点がいくつもあるのですが
一番は街を走るトラムの中でのライブ!!
リストバンドと一緒に抽選券を受け取って
見たいアーティストにチェックし
抽選箱に入れると、
後ほど当選発表。
当選者はトラム内でのライブに参加できます。
0005、当たりました。
(中略)
私の乗るトラム、来ました!
通常のトラムの運行の合間なので
乗降は大急ぎ。
中は撮影禁止なので・・・。
CMをYouTubeで見て、絶対来ようと思ってました。
一生忘れられない20分。
<2014年のブログ>
2012年のトラムステージ(街中を走る路面電車の中でのライブ)
の様子をYouTubeで一目見て
「絶対行かなきゃ!!」と初参戦した昨年に続き
今年も行って来ました大好き富山!大好きビートラム!!
素晴らしい快晴にも恵まれ
文字通り本物の『多幸感』に街全体が包まれた素敵なフェスでした。
(中略)
1周目だと「次は〜HARCO〜HARCO〜」
という車内アナウンスが聞ける上に、
次の電停に待ってるミュージシャンの方が見えて
「あ〜いる〜!!」って言う盛り上がりが楽しめます。
2周目だとミュージシャンの方がもう乗っているので
こちらが乗る時に出迎えてもらえ、更に
乗り込む時間・セッティングの時間が無く
1周目より長く聞く事が出来ると思います。
2年で両方経験できました。
どちらもそれぞれ楽しいですよ。
引用部分から、トラムステージの様子が伝わるだろう。筆者自身、2013年度、2014年度のトラムステージに参加し、その空気を味わってきた。乗客たちは、トラムに乗りこみアーティストを目の前にすると、皆笑顔になっていた。筆者が参加したアーティストのライブでは、曲を聴いたり皆でコーラスをしたりという普通のライブでの楽しみに加え、アーティストがトラムの揺れで歌いにくいという話を聞き、また、たまたまトラムの横に停車した自動車の運転手にびっくりした顔で見られていることに気づいて乗客皆で笑っていた。運転手が駅名を読み上げるように、アーティストの名前を読み上げるなど、トラムならではの工夫がみられた。なによりトラムステージに出演するアーティストのファンにとっては、他のフェスティバルにはない、近い距離のライブに参加できることから、特別感、満足感を得られるといえよう。
Middx.さんは、2013年度のビートラムは一日のみの参加で、次の日は富山県内を観光する予定だったそうである。しかし、市内を観光中にまちなかを走るトラムと、カメラを持ってトラムを追いかける女の子を目撃し、予定を変更し、ビートラムの無料エリアやトラムステージを外から見に行ったそうだ。
<2013年度のブログ>
前日カメラっ子がいたポイントに
行ってみる事に。
1)抽選に外れてトラムのライブには
参加できないから、せめてトラムの外から
写真だけでも撮りたい人、と
2)ライブには興味ないけど特別仕様の
トラムを撮りたい撮り鉄の人、が
入り乱れのポイントです。
信号とカーブがあるので良いポイントみたい。
(中略)
そしてやって来た最後のトラム。
昨日ライブ飛び入りの
ヒダカトオル氏、乗ってるはず。
こっちに手を振ってる!!
嬉しすぎてブレた。
この後、手を振り返して
ぴょんぴょん跳ねていたので
知らない人にはちょっと変な目で見られた。
上の引用部分から、トラムに乗っていない人との関わりもうかがえる。まず、ビートラム限定の特別仕様のトラムの写真を撮りたい人がいる。前述のとおり、サントラムが環状線を走るのはビートラムの開催2日間のみである。また、ビートラムのロゴマークを車両の顔の部分に着けてあるのもこの期間のみである。また、車両から少し音漏れもしているので、ビートラムのことを知らない人でもトラム内でのライブに気付き、興味を持つ可能性もあるだろう。そして、抽選に外れてトラムでのライブには参加できないが、せめて外から写真だけでも撮りたい人がいる。アーティストが乗っているトラムはもちろん、アーティストの交代ポイントの駅もまちなかにあるので、気軽に見に行けるのである。
以下の引用は、第四節第二項で述べるトラムステージ出演アーティストの反応を調査した際に、アーティストのブログのコメント欄で発見したものである。返信をしている日高央(ex. BEAT CRUSADERS)はTHE STERBEMSのボーカルである。THE STERBEMSは2013年度のビートラムに出演しており、日高央はソロアーティストとしても同年度のトラムステージに出演している。このコメントは、THE STERBEMSのメンバーがビートラム出演に関して書いたブログに、トラムステージの抽選に外れた人がブログに書き込んだものである。
<THE STERBEMS ブログ コメント欄>
2013/10/17 20:19
トラムステージの抽選に外れたので
せめても、と思って富山駅前を通るトラムを待っていたら
トラムの中で歌う日高さんがこちらに気付いて
手を振ってくれました!!!めっちゃ嬉しかったです♪
夜更かしビートラムも最高でした!
まだ余韻に浸っています☆
ありがとうございました^^
返信
日高
央 より:
2013/10/30 16:19
お客さん全員降りてから一人で勝手にアンコールで「LOVE DISCHORD」歌ってたから、その時かなf^_^;)?
引用したコメントから、トラムの外からでもトラム内でライブが行われていることが確実に分かるといえよう。そして、アーティストがトラムの外の人に手を振っていることから、トラムの中からも外の様子が分かるといえる。
第二項 2013年度出演アーティストのトラムステージへの反応
本項では、トラムステージに出演したアーティストのブログやtwitterからその反応を見ていきたい。
【KONCOS】(2012年、2013年共にトラムステージに出演。)
KONCOS 佐藤寛 ブログ(2012年10月16日)
僕ら二人では成し得ない
プラスアルファーな要素がガツンとハマった瞬間でした。
流れる景色(人やビルや空や車や自転車や街路樹や噴水や看板)
電車の音(ガタゴト、ゴトンッ、キキキキー)
停車時や発車時、カーブの揺れ&重力。(ややフラつく)
全てがあわさって素晴らしいコトになっていたと思います。
とてもふくよかな気持ちで終える事ができました。
【カジヒデキ】ブログ
このトラム・ステージは本当に楽しい!街の中を移動しながら、流れていく景色と、普段味わう事の出来ない空間でライブをしているという高揚感の中で、お客さんと表現者が一体になっていく感覚はとても素晴らしいと思いました。(中略)約20分で1周し、お客さんを入れ替えて、もう1周。約20分なので、いつもの感じだと5曲位かな?と選曲したのですが、シチュエーションが面白いのでトークにも花が咲き、約4曲演奏するのがやっとでしたね。1周目はラストの「ラ・ブーム」が1コーラスだけだったり、僕の時は少し揺れが大きかったように思うので、時々よろけたりもしつつ、でもとっても楽しかったです!サポートしてくれたコンコスのヒロシくん、ありがとう!そしてご乗車頂いた皆さん、本当にありがとうございました!
KONCOS、カジヒデキのブログ引用部から、電車の音、停車時・発車時・カーブ時の揺れや重力がライブ演奏に合わさり、固定されたステージではない、トラムステージならではの特別なシチュエーションがあることがわかる。ここで着目したいのは流れる景色である。まちなかの景色をぐるっとトラムに乗って見ながら音楽も楽しめる。普段と同じ風景が、この特別なシチュエーションによって違う見え方ができるのではないか。
【堂島孝平】 twitterより
トラム・ステージ最高だった…。路面電車の中で歌う特別感だけでもたまらないのに、ライヴと関係なく停留所に立っていたお姉さんが投げキッスしてくれたり、JK(筆者注:女子高校生)がみんなで手を振ってくれたりしたから富山来てホント良かった。(10月12日)
BEATRAMでのライヴ、とっても楽しかった!お客さんみんなが反応が早くて、これが良い空気を作ってる一因だと思う。とっても良いフェス。(10月13日)
堂島孝平のtwitter引用部分からは、前項でも述べたトラムに乗っていない人との関わりがうかがえる。ここから、前項のビートラムの来場者でトラムステージの抽選に外れた人、トラムの写真を撮りたい人以外にも、ビートラムと関係なく、偶然居合わせた人との関わりもあったことが読み取れる。
第三項 インタビューでの言説から
梶原さんは、ビートラムの富山らしさを、フェスティバルのシンボルであるトラムにあると話す。
100年間も動き続けてるものって、やっぱりその町に必要だからあるんで、いらないってなったらなくなってるはずなので、なんかこう、そのくらいのもの、まちの景色に馴染んでいて、ここにいてごーって音が聞こえても、別にハッともしないし、あの、ほんとに街の風景と溶け込んでいるけれど、けっこうまあ面白いことなんじゃないかなあという。(南:んー。)で、それって、えっとなんだろうな、住んでるとなかなか発見できないけれども、外から来るといろいろ見つけられるものがある
路面電車を活用したまちづくりを推進している市長や市など行政の方針に寄り添っているといった一方で、梶原さん自身の思いとしても、富山のまちなかを走る路面電車の存在は大きい。路面電車は100年間も必要とされ、動き続けているものであり、富山のまちの風景に馴染んでいて、溶け込んでいる。梶原さんはそこに面白さを見出している。
ビートラムならではのトラムステージでは、外部から来た人にすると、電車の中で1本2本ではなく、10本もライブをすることができる驚きがある。交通機関が発達した都会では、路面電車は多くの人を運ぶためにダイヤが隙間なく組まれている。それに対し、富山では、臨時で貸しきった路面電車を一日に何本も走らせることができる。梶原さんはこれが地方でしかできない面白さだと言う。これは大都市にはない地方都市の魅力と言えよう。
一方では、地元の人にとっては、普段移動手段でしかないものがライブハウスになる驚きがある。梶原さんは、その驚きから、富山の街の面白さや楽しさを見つけ、富山の街に誇らしさを感じてほしいと言う。
まちの人には、ああこんな風に使えば、富山の街、何にもない、とか、別に面白いこと何にもないんじゃなくって、面白くしようと思えばいくらでも面白くなるまちだねっていう、ことの発見みたいな。そういうところにらしさがあればいいかなっと。(中略)何を発見するか。皆が当たり前だと思っていたり、別に珍しくもないし、楽しくもないって思ってるものを、楽しくするっていうのに、音楽が使えるっていう、ことかな
もともとあるところに、光を当てつつ、それが新しいことになってくっていうことかなって思うんですよね。(中略)なにかこう、見つけてあげるというか、視点。それによって、そのらしさであったり面白さっていうのが、できるはず、なので、もちろん音楽そのものの魅力っていうのはもともとあるので、それを使ってっていう、言葉はよくないかもしれないけど、それと一緒になって、まちの特徴を浮かび上がらせるような、そうなったときに富山らしいってことになるんじゃないかな
インタビューから、地元の人には、富山の街には何もないのではなく、面白さや楽しみを見つけだしてほしいという思いもあるのだと読み取れる。ビートラムは、もともとある富山の街に、音楽イベントを通して光を当て、街の魅力を発見する新しい視点を提案していると言えるのではないか。
第五節 音量問題
ビートラムでは、他の大型フェスティバルより数は少ないものの、数件の音量に対する苦情があった。1年目は11,12件。2年目は半数の5,6件であった。
とにかく1年目はなにをしたらいいのかもわからなかったので、その、フェスをやったことある人間がほぼ誰もいなくて、もちろん僕も音楽イベントすらやったことないんで、んーーー。だからたとえばまちなかでやる音量がどのくらいがいいかっていうのもわからない、し、何組出て、どのくらいの時間に、どのくらいの雰囲気で行われるのかっていうのもわからないし、もうあらゆることがわからなかった
1年目は、初めての開催で、フェスティバルの運営経験者がほとんどいなかったという事もあり、まちなかで行われるフェスティバルでの音量がどの位のものであるか分からなかった。午前8時30分ごろにリハーサルが行われたが、その際の音量は山中で開催されるフェスティバルと同じくらいではあったが、周辺のビルの窓が震えるほどとても大きいものだったという。まちなかで開催されるため、急きょ音量を下げてフェスティバルを開催した。2年目の開催に向けての課題として、まちなかで音楽イベントを行っているので周辺の地域住民への考慮もしなければならないが、来場者に物足りないと感じさせてはいけないため、妥協点を探らなければならないといった点が挙げられるであろう。
今下がっている状態ではあるけれど、それでもやっぱりあの、5,6件の苦情はあるし、あるいは騒音と思う人はもちろんまだ居るので、やっぱりまだ音の問題っていうのはまだあって。で、今年はラインアレイっていうスピーカーをこうキュッて吊り上げて、こうやってお客さんの方に向けてるっていう吊り型のスピーカーに変えてあったんだけど、あれは結局そこに人がいたり芝生があればそこに向かって基本的に音が落ちるので、思ったほどその遠くには行かなかったり、騒音とか(低音?)とかがひどくないので、そのラインアレイというスピーカーを導入することで、問題は1つ解決した。
2年目は、1年目同様音量を下げ、かつ、スピーカーを変更した。1年目に使用していたステージに直接置き、まっすぐ音が出るタイプのものから変更し、2年目は「ラインアレイスピーカー」を使用した。通常のスピーカーでは音が水平方向にも垂直方向にも広がるのに対し、ラインアレイスピーカーでは垂直方向には広がらず水平方向にだけ広がる特性を持つ。通常のスピーカーに比べて音の減衰の仕方が小さいため、前の席でもうるさくなく、後ろの席でも十分な音量の確保が可能。リスナーの位置の違いによる音量差を低減できる。梶原さん自身、1年目に使用したものより、音が遠くまで響かず、低音が大きくないということが実感としてある。
ビートラムにおける音量問題に関して、「チケットの無料配布」について触れておかなければならない。
ビートラム開催に際して、梶原さんは「二日間ご迷惑おかけしますがお願いします」と会場のある城址公園周辺の町内会長に挨拶してまわった。 「町内会長さんはみんなその2日間くらいいいよ。若い人たちが集まって富山のまち楽しんでくれるんだったらいいからもうにぎやかに楽しくやってくれっていうのがほとんど」とあるように、多くの町内会長はビートラムの開催に好意的であったという。
結局有料のイベントだから中で何しているか分かんないけど若い子たちみんな楽しんでいるんでしょみたいな感じだったので、これはいけないなと。その一応こう、まあ聞きたいわけじゃないけどもう家にいれば無理やり聞こえてくる音楽が一体何なのか、誰が楽しんでいるのかも見えないとそれはちょっとその人たちからすれば耐えてる2日間になってしまうなーと思って。で、全員にはもちろんあげられないんだけど町内会に何枚かずつ招待券を配って、ぜひみなさんに見に来てほしいと。
で、えっとみんなが何を楽しいと思っているか、なぜこれがここであって面白いのかってことを、まあ見に行って結局うるさくてやってられないよって思うかもしれないけど、逆にその、あっこんなふうに楽しんでるんだねって、楽しそうだねって、これは来年もあったほうがいいねって思ってもらえたら何枚招待券出しても地元の人たちだからいいなーっと思って地元の人たちをご招待して。それはそれでちょっとよかったかなーと思ったりしてます。
しかし、有料のイベントであるので、周辺地域住民にとっては若い人たちが楽しんでいるけど、中で何しているのかはわからないという状態だった。周辺地域に住む「音楽フェス」を知らない人にとってみると、2日間なり続ける音楽が強制的に聞こえてくるのである。梶原さんは周辺地域住民にとって耐えなければならない2日間になってしまうことは避けたいと考えていた。そこで、有料エリアも含めた会場内を見てもらうために、町内会への挨拶まわりの際にチケットを数枚無料で配布した。実際に、筆者がボランティアスタッフとして参加した2014年度のビートラムでは、無料で配布されたチケットを持って受付にくる人がいた。注目したいのは、無料で配布されたチケットを持って来場したのは、一般的なフェスによく来るような年齢層(10代〜40代)というよりも、60代以上の人がほとんどであったという点である。梶原さんの狙いは、会場周辺の住民にフェスを見てもらって、どんなことをしているのか、何が面白くてどう楽しんでいるのかを知ってもらうことである。フェスに馴染みがある若者層だけでなく、年配層にも見てもらえているということは、幅広い年齢層にフェスを理解してもらえるチャンスであると言えよう。そして、実際に見てもらうことにより、どんなふうに楽しんでいるのか知ってもらうことができ、来年度以降のフェスティバル開催への理解と支持を獲得しうるのではないだろうか。
以上、ビートラムでは音量問題に対して、スピーカーの変更やチケットの無料配布など、様々なアプローチが見られることが分かった。しかし、音量は人によって感じ方はさまざまである。ビートラムのように様々なアプローチを用いても、騒音と感じてしまう人は出てくる。まちなかでの開催において、音量問題の解消にはいまだ多くの困難があり、解決は難しいだろう。