注
(1) 「別世界の男たち」として馬場(1997)で扱われていた作品は以下の通りである。
・森川久美,1978〜1979『シメール』 (LaLa/白泉社)
・大和和紀,1977〜1978『KILLA』 (週刊少女フレンド/講談社)
・山岸涼子,1980〜1984『日出処の天子』 (LaLa/白泉社)
第7回(1983) 講談社漫画賞受賞
・こなみ詔子,1989『KAMUI−神已−』 (マーガレット/集英社)
(2)「現代風の男たち」馬場(1997)で扱われていたもの作品は以下の通りである。
・吉田秋生,1983〜1985『河よりも長くゆるやかに』
(プチフラワー・別冊少女コミック/小学館)
第29回(1985)小学館漫画賞受賞
・吉田秋生,1985〜1994『BANANA FISH』 (別冊少女コミック/小学館)
1994年,1995年に、NHK-FM「青春アドベンチャー」枠内でラジオドラマが放送された
2005年,2009年にAxleにより舞台化
2012年にグループ・ファースト・エースにより舞台化
・森脇真末味,1984『踊るリッツの夜』 (プチフラワー/小学館)
・伸たまき,1984〜1986『あるはずのない海』 (WINGS/新書館)
・森川久美,1981〜1983『南京路に花吹雪』 (LaLa/白泉社)
(3)藤本(2008)は1990年代の少女漫画、槇村さとる『おいしい関係』を例に挙げ、この作品は一見すべてがよくできた少女漫画の枠組みそのままをなぞっているようにみえるが、にもかかわらずこの作品には今までなかった決定的に新しい要素が随所に現れていると述べている。それは、本来主人公の相手役として設定されているはずの男性と他の女性との恋愛関係が描かれるというものであり、このようなことはその当時はいまだかつてないことであったという。藤本(2008)は、これはやはり、それまで自分と彼との「運命の恋」しか見えていなかった主人公たち(=読者)が、考えてみれば彼とこれまでかかわりのあった女性たちにも皆、自分と同じくそれぞれの思いがあり、人生があり、彼との間に独自なかかわりがあったということに目を向け始めたことのあらわれだと指摘している。
藤本(2008)はもう一つこの作品には少女漫画における重大な掟破りがあり、それは、主人公のヴァージンを破るのが主人公の好きな人ではなく、その好敵手である男性だったことであるという。これは恋愛や性というものが夢や憧れでなく、女性の中で本当に消化され、身近なものとなっていることの証なのだろうと藤本(2008)は述べている。
かつて少女漫画といえば、少女の内面を描くもの、その内面の不安が癒され、その内なる願望がようやく満たされる、そうした夢を描くものであった。だが今、少女漫画現実と確かに向き合い、複雑な現実を複雑なままに受け入れ、その中でなお自分の道を進んでいこうとする少女(女性)たちを描いていると、藤本(2008)は述べている。
このようにパターン化された恋愛ストーリーが読者に好まれなくなる傾向が少なくとも90年代において既に始まっていた可能性が考えられる。