第五章 2000年代作品の分析

 

第一節 2000年代作品のストーリー、舞台設定などに関する基本的特徴

 

2000年代の作品は、外見・容姿は『俺物語!!』の主人公を除いた全ての登場人物が、細い線で中性的に描かれている。主人公は精神的に未熟な点はあるが、片想いをして、一途に好きな人のことを想い続ける。そのように好きな人との恋愛を通して成長していくストーリーが描かれている。

『愛してるぜベイベ★★』の主人公は高校生であり、ある日叔母が蒸発し、従妹の面倒を見ることになった。そのような子育てと、クラスメイトとの恋愛を描いた物語である。

 『オトメン』の主人公も高校生であり、主人公が転校生の女の子に一目惚れし、その恋愛や、主人公以外にもオトメンが多数登場し、主人公の日常に起こるさまざまなことが描かれた物語である。

 『失恋ショコラティエ』の主人公は20代であり、彼はショコラティエとして自分のお店を持ち経営しているが、専門学校の頃からずっと片想いしている人への気持ちを通して、その恋を成就させようと恋に仕事に奮闘する物語である。

『俺物語!!』の主人公は高校生であり、ある日、電車で痴漢にあっていた女の子を助けるが、その子に一目惚れする、というところから物語は始まる。その主人公の恋や、親友との友情、ほかの登場人物の恋などが描かれた物語である。

『ラストゲーム』では、かっこいい・頭いい・お金持ち・スポーツ万能な完璧少年である主人公の前に、ある日女の子の転校生が来た。なんでも一番だった主人公だが、この転校生に勉強でも運動でも勝てない。この転校生に対しいつのまにか恋心を抱き、10年以上片想いをし、奮闘する物語が描かれている。

このようにみると、日常的で現実主義的な舞台と登場人物が設定されている作品が中心であることがわかる。ただし、舞台やストーリーが非現実的な作品も例外的に2000年代には存在している。それは今回の分析対象からは省いている。

 

 


 

第二節 2000年代の読者たちの反応

 

第一項 読者から見た男性主人公の特徴

 ここでは、2000年代少女漫画における男性主人公について、読者が語っている部分を挙げていく。なお、以下のデータはブログから引用・抜粋したものである。

 

『ラストゲーム』

美琴ちゃんにヤキモチを妬かせよう作戦も見事に散りましたね。
柳くんは学習してそうで結構してない部分も多いですからね。
美琴ちゃんにいざ見られるとテンパるあたり
彼は浮気は出来そうにないタイプですね。
一途な人って素敵ですよvV
             (ふんわリズム 201344日の記事より抜粋)

 

 この記事は、『ラストゲーム』第18話についての感想が書かれたものである。主人公の柳尚人が、10年間好きな女の子である九条美琴に、ヤキモチを妬いてもらえることを期待して、自分に好意を持っている後輩の女の子と二人きりでいるところを見せようとした。しかし、それを実行しようとした時に美琴はその場におらず、また、そのあと実際美琴に見られた時も、あわてて必死に二人きりになった理由を説明し、美琴に誤解されないようにしていた。このことからブロガーは、柳は「浮気はできそうにないタイプ」と解釈し、「一途」だと述べている。

 

ラストゲームの2巻です!この巻はとにかく柳に笑い、柳に萌えます!九条に振り回されて青くなったり赤くなったり白くなったり… そんな報われないキャラに見え隠れするプリンス感がたまらないです。

(中略)

顔も頭もスポーツもお金もなんて、どこかの国のロイヤルファミリーでしかあり得ないような、パーフェクトな条件を持ちながら、それを活かしきれず、時にかなぐり捨てて我が道を行ってしまう柳。素敵です。

(「マンガがあってよかった。」201274日の記事より抜粋)

 

 この記事では『ラストゲーム』2巻の感想が書かれている。ブロガーは、容姿も良く、勉強もスポーツもでき、さらに家がお金持ちである柳のことを「パーフェクト」と述べている。しかしそんなパーフェクトな彼が好きな人の行動や言動に振り回されており、まったく報われていない様子を見て笑い、萌えを感じているという。

ブロガーは、条件としては完璧であるのに、その完璧さが一貫しないような柳の性格設定に親しみと好感を持っていることがわかる。

 

『俺物語!!         

まぁどっかずれてるン彼だけど---
彼女を守ることに必死な姿は爆笑ながらホロリ。
朝起きたら彼の周りは小動物がいっぱい--
「彼の傍って安心するンだよね」と笑う大和ちゃんが
またかわいすぎだった・・。。

好きになったら 純情一途---

shaberiba 2013418日の記事より抜粋)

 

 この記事は『俺物語!!』第1巻から第3巻までの感想と、主人公である剛田猛男の特徴について書かれている。主人公の猛男とその彼女である大和凜子は山へピクニックに出かけるが、遭難してしまう。そのようなトラブルに遭っても猛男は大和を不安にさせないように振る舞い、守っていた。このように、好きな人を守るために必死な猛男のことをブロガーは純情で「一途」だと述べている。

 

『愛してるぜべイベ★★』

読後感がよいです。

その理由は、主人公である結平に物語の焦点が当たっていないからだと思いました。物語の焦点は、どちらかというと結平の周りにあります。

ゆずゆや、結平の恋人になる徳永心などが、物語を動かしていきます。

結平のほうは、物語を動かすような要素がほとんどありません。

女遊びが激しいという要素は、序盤に心とくっつくことになり、消えます。

あとは、高校生が幼稚園児の面倒を見るという要素も、結平があまり苦にしないために消えます。早いうちに、結平が外見に人間味を加えたいい男になってしまうのです。よって、周りが作り出す問題を結平が解決するというのが物語の構造になります。

(完結漫画の読書感想文 2009323日の記事より抜粋)

 

この記事では『愛してるぜべイベ★★』全巻についての感想が書かれてあり、ブロガーは読後感が良いと感じる理由を述べている。主人公である結平は、最初こそ女の子にモテモテで女遊びが激しかったが、心と付き合うようになってからは一切ほかの女の子と遊ばないようになった。このことから、結平は好きな人に対して「一途」であると考えられているのがわかり、女遊びが激しいという最初の設定は、「一途さ」を引き立てるための要素だとうかがえる。

 

『オトメン』

剣道部で活躍している飛鳥ちゃんは凄くカッコイイのですが、このカッコよさそのままに、少女漫画読んだり手芸したり料理したりと可愛らしさ全開。ドラマ化とかであらすじは知ってたけどギャップ萌えはやはりいいな。イケメンが乙女趣味。このギャップがたまらない。

とある名古屋の読書目録2014128の記事より抜粋)

 

この記事には『オトメン』第1巻についての感想が書かれている。主人公の飛鳥は、剣道部主将であり、容姿端麗でクールだが、実は少女漫画や手芸、料理が大好きという乙女のような趣味をもつ。このような見た目とのギャップに萌えを感じられている。また、主人公のことを「飛鳥ちゃん」と呼んでいることからもブロガーは主人公に可愛さを感じ、好感を持っていることがわかる。

 

『失恋ショコラティエ』

んで、主人公の爽太は、こんなサエコさんにやられっぱなしの振り回されっぱなしな訳だが、妙なトコロで筋が通っている。

周囲の人に、「サエコさんはフツーの女だよ。こんなひどい目に遭って、いい加減目を覚ませ。」とたしなめられるのだが、

「恋は生理現象。太陽を見て、眩しい!と思うのを止められる?」

「神様が門を開けてくれるまで待ってる。別に平気。オレそーいうのは、全然平気。」

と言って、サエコへの恋を止めない。まあ、どM男子ってことですな。

(中略)

この爽太が、名前と正反対の、粘着質なグジグジした男に設定されてるのがまた面白い。サエコさんに振られても、「オレ、二番手でいい!サエコさんが彼氏に放っとかれてつまんないとき、オレで暇つぶししてくれたらいーから!」とまで、食い下がる根性の持ち主。

(酒とドラマの日々。200979日の記事より抜粋)

 

この記事は『失恋ショコラティエ』第1巻の感想が書かれたものである。ブロガーは、主人公である爽太が、好きな人であるサエコに振り回されっぱなしで周囲の人に止められているのにもかかわらず、サエコへの恋をやめようとしない「粘着質なグジグジした男」という設定が面白いと述べている。また、この恋をやめようとしないことから、爽太は「一途」であるといえる。

第一項のまとめを述べる。2000年代少女漫画の男性主人公は、好きな人に対して「一途」という顕著な共通点があるといえる。これはそもそもストーリーの中心が恋愛ではない傾向の強かった80年代の男性主人公をもつ少女漫画には見られなかった特徴である。

また、女性主人公と恋愛ストーリーをもつ少女漫画の場合、男性登場人物はしばしば想いを寄せられる対象、または、女性主人公に想いを寄せる存在となるが、そこでの性格付けは、クールさ、格好良さ、男らしさなどが前面に出て、人間的な弱点は平板にしか描かれない傾向があるように思われる。それに比べると、ここで挙げた男性主人公たちは人の良さや弱点、意外性をもとに「萌え」や「可愛らしい」と言われるような親しみを呼びこんでいることがわかる。

よって、2000年代の少女漫画においては、恋愛ストーリーの男性主人公は、それぞれ細かい設定は異なるが、読者の親しみを引き寄せるだけの細やかで複雑な性格づけが施されていること、またその中で、好きな人にたいして「一途」という最大の共通項をもつといえるだろう。

 


 

第二項 読者から見た想われ人の特徴

 

 ここでは、2000年代少女漫画の男性主人公が好きな人の特徴について読者が語っている部分を挙げていく。なお、本稿では、男性主人公が好きな女性のことを「想われ人」と呼称する。

 

『オトメン』

そんな時に出会ったのが転校生、都塚りょうという女の子
見かけは可愛いけど中身は男らしいりょうに一目で惚れる正宗!
りょうの男らしさもありがちな言動が男の子っぽい子・・・
じゃなくて自然と出る行動が男前で嫌味がなくて可愛いです。
          (おぼろ二次元日記 2007710日の記事より抜粋)

 

 この記事では『オトメン』第12巻の感想が書かれている。ブロガーは主人公正宗飛鳥に想われる人・りょうの特徴を挙げている。「見かけは可愛いけど中身は男らしい」りょうのことを「嫌味がなくて可愛い」と述べていることから、好感を抱いていることがわかる。

 

りょうは相変わらず天然さんキャラだからなのか
飛鳥に対する感情のモノローグがなくて
そういったところが物足りなさを感じてしまう部分かなと。

(マンガに恋するゆらゆらライフ 2008424日の記事より抜粋)

 

 この記事では『オトメン』第5巻の感想が書かれている。ブロガーはりょうについて、天然という特徴に加えて、飛鳥に対する感情のモノローグがないと述べている。飛鳥はりょうのことが好き、という感情がわかるのに対し、りょうの飛鳥に対する感情がわからないことにブロガーは物足りなさを感じていることがわかる。

 

『愛してるぜべイベ★★』

一方学校では、結平はちゃらんぽらんな女ったらしとして有名ですが、そんな彼が気になっている徳永心という女の子がいました。

いつもクールで感情を見せない彼女ですが、結平はふとしたときに彼女の視線を感じるような気がして、周囲の友達には自意識過剰とつっこまれていました。

心ちゃんのキャラがすごくいいな〜と思います。

1巻では、まだまだ謎めいた感じで結平との絡みも少ないですが、やっぱり結平のことを気にかけているのが随所に描かれています。

(おいしい作品たち 2011530日の記事より抜粋)

 

 この記事は『愛してるぜべイベ★★』第1巻の感想が書かれている。主人公結平に想われる人・心について、「クールで感情を見せない」と述べている。感情が見えず謎めいているが、結平のことを気になっている様子がわかり、そのようなところに魅力を感じている。また、「結平との絡みも少ないですが、やっぱり〜」の部分から、結平との絡みを期待していると考えることができる。

 

『ラストゲーム』

あの目がかわいいし、表情乏しいのがツボ。
この、あんまり表情筋使ってないのに全身から溢れる感情がたまらなくかわいい。そうだよそうなんだよ、確かに九条は真面目・堅実で鉄のようなクールな女だけど、冷たい女ではないんだよ。基本的にひょうひょうとした顔してるけど、めちゃくちゃ素直なんだよ。嫁にしたい。
とにかく今少女漫画で一番推したいヒロインは九条一択だわ。

(中略)

3話ではまだこんなぐちぐち言っている柳だが、4話からはもー、九条が好きですが何か?状態の柳がたっぷり見れる。そう、私は別にツンデレが見たいんじゃない。九条が大好きで、でも九条が鈍感すぎて伝わらなくて、九条の言動に一喜一憂しているかわいそうな柳が見たいのだ!

(すーぱーそふぁーたいむ 2014218日の記事より抜粋)

 

 この記事では『ラストゲーム』第1巻から第5巻までの感想が書かれている。ブロガーは、主人公柳に想われる人・九条の特徴について「真面目・堅実で鉄のようなクールな女」だと述べている。しかし、決して冷たいわけではなく、表情は乏しいが素直で、柳の気持ちに気づいていない鈍感なところがかわいいと述べており、非常に好感を抱いている。

このように、2000年代少女漫画における想われ人はクールで表情が乏しいという共通点がある。しかし決して冷たい性格付けはされておらず、読者から好感をもたれるような設定がなされていることがわかる。ただし、男性主人公の「一途」さに比べると、想われ人のクールさ、無表情は共通性が若干劣る。次に挙げる例はそのようなものである。

 

『俺物語!!

A大和ちゃんの純粋さ・可愛らしさ(奇跡的な純度を保ちながらも、ひょっとしたら現実にいるかもしれないと思わせる絶妙なリアリティがある。本作は男性読者も少なくないみたいだけれど、猛男さんの漢らしさに惚れた、という読者以上に、外見を重要視せずに相手の本質を見ようとする大和ちゃんのピュアさに夢を見て救われている、という読者も多いのでは? と思う)
         (早く××になりたい! 2013215日の記事より抜粋)

 

 この記事では『俺物語!!』第1巻,第2巻の感想が書かれている。ブロガーは作品の魅力について自分の考えを述べている。その中で主人公の猛男に想われる人・大和の特徴が挙げられている。大和は必ずしもクールで無表情なキャラクターではない。その代わりに「奇跡的な純度」と評されるほど、やや現実離れした純粋さをもっている。猛男は従来の少女漫画の主要登場人物にはいなかったような外見(いわゆるブサメン)であり、ブロガーも最初は猛男の良さがわからなかったが、大和は初めから猛男に好意を抱いていた。ブロガーは外見を重要視せずに相手の内面を見る大和の純粋さに好感を持ち、もしかしたら現実にいるかもしれないという絶妙なリアルさが魅力だと述べている。

 

『失恋ショコラティエ』

この「サエコさん」のキャラクター設定が秀逸だわ。

何しろ、サエコさんてば「大して美人でもないのに、各学年一番のイケメンと次々付き合ってきた○△×□女。」の異名をとり、「空気読まなさ過ぎるイノセントさ。」で、周りの男(ていうか爽太)を、自分にずぶずぶとハマらせて来た、リアル魔性の女なんですよ。

(酒とドラマの日々。200979日の記事より抜粋)

 

 この記事では『失恋ショコラティエ』第1巻の感想が書かれている。主人公爽太に想われる人・サエコもクールで無表情ではない。しかし彼女の特徴について、ブロガーは「リアル魔性の女」と述べ、それは「空気読まなさすぎるイノセントさ」で表されていると述べている。また、サエコの性格設定を秀逸だと述べていることから、ブロガーはサエコに興味を引かれていると考えることができる。

 

サエコさん怖い女ですよね・・・。
でも私は何故かサエコさんの事が嫌いになれない(苦笑)
多分、人からどう思われようと自分の気持ちに素直な人だからだと思います。

(北の栗から 2013915日の記事についたコメント:イギー2013-09-16より抜粋)

 このコメントは、『失恋ショコラティエ』7巻の感想をブロガーがサエコに焦点をあてて書いた記事についたものである。コメント主はブロガーの考えに同意しながらも、「何故かサエコさんの事が嫌いになれない」と述べていることから、サエコはクセの強い性格だが、どこか人として魅力的で、なぜか嫌いになれないという特徴があることがわかる。

第二項に関してまとめを述べると、2000年代少女漫画の想われ人は、クールで無表情であることが若干目立つ。また、それぞれ個性の強い性格付けがなされており、その中にはリアリスティックとはいえ非現実性を内包するキャラクターも存在する。また、たとえ表情に表れていても、感情のモノローグが少ないため感情が読み取りにくくなっている傾向も部分的にはある。