第一章 問題関心

 

 現在の日本の社会においては婚姻時に夫婦の姓を統一することが民法750条によって定められているが、この「夫婦の姓を必ずどちらか一方の姓に統一しなければならない」という制度に対して、「夫婦の姓がそれぞれ異なる(別姓)夫婦のあり方も選択肢として加えるべきである」とする夫婦別姓という考え方を提唱する人々が存在する。これらの人々は夫婦別姓の実現を望み何らかの活動を行うに至る動きもみられるが、夫婦別姓に反対する動きもまた見られる。

夫婦別姓に対する反論についての研究としては草柳(2004)などが見られるが、夫婦別姓に賛成する立場の意見についての研究としては、後述の阪井(2011)がある。これは、インタビュー調査を含むものではあるが、基本的には夫婦別姓に賛成する意見を類型化し、議論を整理する見方を提案しようとする研究である。

本研究では、夫婦別姓の推進を主張する個々人の持つ経験を調査することで、その人々がどのような背景から夫婦別姓を支持するに至ったのか、また、その背景が夫婦別姓に関する意見にどのように影響を及ぼしうるのかを考察する。その結果として、次の二つのことを主張したい。第一に、夫婦別姓を推進する人の主張は、その背景まで含めて考えると、阪井(2011)が提示した類型によっては分類しきれない部分があること。第二に、そのことを認めたうえで、しかし、阪井(2011)が主張する議論の整理にも一定の有効性があると考えられることである。