第八章 考察

 先行研究より、CALP/BICS理論は外国人生徒たちの言語能力の欠如についてわかりやすく説明しており、学習不振の問題に当てはまるように見える。しかし、CALPを養成することのみが彼らの学習不振の問題を解決する手段といってよいのだろうか。母語使用を徹底していても学習不振を抱えている生徒もいれば、全くその逆の生徒もいる。それに加え、ブラジル人生徒は母語が曖昧であるものが多く、母語使用の観点からは具体的な解決策を講じることは不可能に思えるケースも存在した。そのため、このCALP/BICS理論のみで彼らの問題を説明するということには疑問を感じる。

 また、調査からわかる通り、児童らは自分の学習不振の問題を正確に理解できていない。学習初期において、母語と似通った部分や、教師の表情などから授業をある程度理解し、「わかった気がする」といった意識を持つ。そのため、「わかったふり」をしてしまい、「授業をやり過ごす」のだが、それによって自他ともに学習不振に気付かずに、問題は悪化していってしまうのである。このことが、結果的に「日本語能力(CALP)の欠如」に見えている部分がある。そのために、CALP/BICS理論のみでは説明できないケースが数多く存在するのだろう。

 日本に住む外国人児童たちは、両親とも、学校で接する友人や教師たちとも境遇が違い、彼らの抱える問題を理解してもらえる環境にいない。そのこともあり、学習不振問題も解決するどころか時がたつにつれて拍車がかかってしまっている状況である。そのような彼らに対してどのような学習支援が必要なのだろうか。

本論文の調査より、授業に初期の段階で遅れをとることが大きな問題であることがわかったため、まず、外国人生徒が来日初期に日本語を学習する場所である日本語教室には改善の余地はあるだろう。現在の日本語教室ではそれなりに会話ができるようになるという段階で終了してしまっているために、普通教室に戻った生徒たちは授業を部分的に理解することで「やり過ごし」てしまっている。特定の授業時間から生徒を取り出して行うという日本語教室では現実的には非常に難しいが、継続的に、より長い期間をかけてじっくりと支援を行うべきだろう。しかし、この点に関しては本研究の調査対象外であり、今後に残される課題である。

では、彼らの学習に対するフォローという面では何かできることはないだろうか。彼らの学習不振の問題を解決するために最も必要なことは、彼らの抱える問題を理解することだろう。彼らは来日の時期も言語習得状況も学習能力もばらばらである。彼らの抱える学習不振の要因は、CALPの欠如なのか、日本語の不慣れなのか、初期の学習での遅れなのか、それらを理解しなければ彼らに適切な支援は行えないだろう。そして、彼らの抱える問題を把握したならば、彼ら自身にそれを伝えることも重要ではないだろうか。彼らの中には、自分がなぜ学習で遅れをとるのかできないのか理解できぬまま苦しんでいるものも多い。自分の抱える問題を正確に理解していれば、友人や教師に相談しようという気にもなるはずだ。外国人生徒らそれぞれの問題を理解し、彼らにもその問題について理解させることが重要な支援になるのである。