5章 考察

 分析の結果から、大きな盛り上がりはきっかけとなる発話を皮切りに起こり、繰り返しや言い換えによって継続されることが明らかとなった。またそれから大きな盛り上がりが続くか、安定した盛り上がりに移行するかは、共感の連鎖が関係していることが分かった。

 また第4章第3節で、全員同時発話が発生していることが、大きな盛り上がりの特徴であることを述べたが、これは通常の会話の順番取りシステムが崩れた状態となっていると言えないだろうか。通常の順番取りシステムが適用されている会話の中では、現在の話し手と聞き手は区別されており、話し手から聞き手へ、聞き手から話し手へといった話者交替がスムーズに行われている。このルールは安定した盛り上がりには見られる。しかし大きな盛り上がりの状況下では、全員が同時に一斉に反応し出すため、話し手が複数いる状態となってしまう。このようにルールに沿わない混乱した状況は長続きせず、聞き手に質問されたり、それまで物語の話し手だった者が物語の続きを話し始めたりすることによって終息していく。大きな盛り上がりは、あくまで一時的なものなのである。

 大きな盛り上がりでは話し手と聞き手が固定化されない状態が形成されると分かれば、第4章第5節で取り上げた「第二の物語の簡潔化」がなぜ必要だったかにも説明がつく。その理由は、話し手と聞き手の固定化を避けるためではないだろうか。大きな盛り上がりの場では、話題に対して面白さを感じているため笑いが続いたり、会話参加者が積極的に話し手になろうとする。そのため、全員同時発話が起こると思われる。しかし、ここで物語を語ると、話し手に優先的に発話ターンが譲られ、聞き手は相づちを打つ程度の反応となってしまう。そして話し手と聞き手の立場が固定化され、全員同時発話が行われなくなる。そのうち、盛り上がりは落ち着き、大きな盛り上がりは消えてしまうのである。この固定化を避けるには、発話ターンを長く独占しないよう短く簡潔にオチの理解・共感を示さなくてはならない。そのため、第二の物語の簡潔化が必要になるのである。

 これらの結果から、盛り上がりは会話参加者たちが協力して作り上げられ、調整されているものだと分かる。盛り上がりは、ただ話し手が笑いを誘う発言をすればよいわけではない。笑いを誘う発言は盛り上がりのきっかけになりうるが、その後の聞き手の反応がなければ、盛り上がりには至らないのである。私たちはこのような相互作用を通じて、多様で刺激のあるコミュニケーションを営んでいるのである。