第五章 分析

第一節 タイムラインの可読性

巻末資料を見てもわかるように、タイムラインというものは実に様々なツイートが並んでおり、とても複雑なものに見える。そこで、実際にユーザーはそのTLをどのように読み取っているのかということを明らかにするべく、TLのツイートの分類を試みた。今回は以下のような基準で分類をした。

 

・発信者分類

有名人、情報提供アカウント、bot(自動的につぶやいたり、自動的に返信したりするプログラム)、フォローしている人、自分の5種類

・形式的分類

普通のツイート、リプライ、公式リツイート、非公式リツイートの4種類

※なお、データは番組放送前、放送中、放送後で区切りのいいところで一部省略してあ

る。

・内容的分類

共通の好きな芸能人に関するツイート(黄色)、放送中の番組に関するツイート(緑色)、その他のツイート(自分の生活に関するツイートなど)(青色)の3種類

※色分けは分かりやすくするために自分、フォロワー、そしてリツイートされたツイートのみに施した。

 

 

以上のように分類をし、実際のユーザーがタイムラインを頭の中でどのように分類しているかを可視化させた表が巻末資料にあるものである。第三者の判断による分類ではなく、その時の状況を踏まえたユーザー自身の思考による分類であるため、なぜそのような分類になったのか一見理解できないというものも中には含まれている。たとえば、21番の“びーるの泡がねえ!”というツイートは、普通に読み取るとその他のツイートである青色に分類されるはずである。しかし実際は、この時放送中の番組において、出演者がビールを飲んでいるシーンがあり、それを見てツイートしていたのだ。このことから緑色に分類してあるのである。誰が何をした、という風に完璧な文章で綴らなくても、Twitterを見ると同時に番組を見ているので、ユーザーは瞬時に番組のことであると判別し、理解、そして分類することができるのである。

このように、一見様々なツイートが複雑に入り込んでいて混沌とした印象を受けるTLであるが、ユーザーの頭の中では無意識の内にうまく分類されている。番組放送中は特に緑色のツイートに意識が向けられ、それ以外のツイートと瞬間的に区別をする。

 


 

第二節 Twitterのリアルタイム性が活きたコミュニケーション

タイムライン1おいて、各ツイートを見ると形式的分類が表示されているセルが内容別に色分けされているが、その中でも放送中の番組に関するツイートを意味する、緑色のツイートに注目する。

これらはほぼ全て、テレビの情報を前提としなければ意味のわからないツイートとなっている。通し番号43番と45番のツイートを例に挙げよう。それぞれ“きーーーたああぁああーーーおんぶううぅう”“おんぶー゚+(*゚Д゚*)+゚”というツイートである。一見なんのことであるか見当もつかないが、実はこれは、同時間に放送しているテレビドラマの内容に関するツイートなのである。出演している増田貴久氏が、共演者である仲里依紗さんのことをおぶるシーンがあり、両者ともこのシーンを見ながらツイートをしたという具合である。

つまり、43番と45番のツイートを投稿したユーザーは、“テレビ画面を見ながらつぶやいている”ということになる。このTLの所持者も、実際にテレビ画面で番組を見ながらTwitterを利用しているので、これらのツイートの意味全てを容易に理解することができる。

テレビを見てその様子や感想を報告するというツイートの並びに関しては、何かが起こる瞬間とそれをつぶやく瞬間がほぼ同じである、リアルタイム性という概念を持つTwitter上だからこそ共有される情報であり、成立する状況なのである。

また、これらのツイートを眺めると、ほとんど短い一言や二言のみでつぶやかれていることが見て取れる。これは、自分とリツイートに対しての反応のツイートをしている人の両者が“テレビ画面を見ながらつぶやいている”という前提があるため、余計な説明がなくても必要最低限の情報だけで十分理解できるからだ。逆に言えば、短いからこそ「同じものを見ている」ということが暗黙の了解のようになり、その部分が返って浮き彫りになるのではないか。この、「同じものを見ている」という感覚は、他のSNSツールでもある程度実現できることではあるだろうが、Twitterでの利点はそれをリアルタイムで共有できることである。リアルタイムであることで、その感覚が「同じものを見ていた」という“回想”ではなく「今まさに見ている」というものになる。これにより、その瞬間にテレビを見て沸き起こった感情や感覚が短い言葉にもしっかりと乗り、その感情をも共有することができるのだ。この状況は、一見実況中継と同じように見えるが、実はそうではないことも確認しておきたい。実況中継とはその場にいない人に何が起こっているのかを伝えるものであるのに対し、ここでは皆が同じものを見ていることを前提の上でそれについてのコメントになるツイートを投稿しているからである。

これより、テレビ画面を見ながらつぶやくという特殊な条件の中、Twitterのリアルタイム性と、140字以内の短い文章でつぶやくという字数制限が相乗効果を持つことで、“感情、感覚の共有”が生まれ、リズムの良いコミュニケーション、さらに盛り上がりのあるTLが生み出されていると考えられる。

 このような感情、感覚の共有というTwitterの性質は、フォロワーとの人間関係にも影響を与える。

 フォロワー内での関係はもちろん一人一人異なり、大きく分けて関係が浅いフォロワー・深いフォロワーとで関係の強さには違いがある。関係が親密であるほど普段からタイムライン上ではお互いのツイートにリプライなどの反応をしやすく、そのやり取り自体も頻繁に行われる。これを踏まえて、今回のデータの中のあるリプライのやり取りに注目したい。

37番の“@nyaxxxxxx 見てるだけでいらいらする!てかやばいー(∩^ω^)⊃━☆゜.*・。真中先生かわいすぎて!!”というツイートに関して、これは@neexxxxx@nyaxxxxxxに対して送ったリプライである。このあとにも数回、同時に放送されているテレビ番組についてのリプライによる会話が続いているが、両者は普段フォロワー同士にもかかわらずあまり交流がない。ではどうしてこのような会話が起こったのだろうか。その背景には先ほど述べたリアルタイム性が関わってくると言える。番組放送中のTLには、リアルタイムで投稿されたその番組に関するツイートが溢れ、それが原因でTLの流れも一気に早くなる。そのため、誰がつぶやいているかよりも、何をつぶやいているかに視点が変わっていく。これにより、普段あまり交流のない関係の浅いフォロワーとも、番組に関するツイート、リプライで盛り上がる現象が起こるのだ。ただし、この現象はあくまでも一時的であり、番組が終了し通常のTLに戻ると、またもとの状態に戻る。

 このことから、フォロワー内にある関係の強さの違いは、一時的ではあるが番組放送中のTLにより崩されるということが言える。

 以上2点より、リアルタイム性というのは、単に即時的なコミュニケーション形成の一助ということではなく、フォロワーの関係性に大きく影響を与えるものであることが分かる。この意味で、Twitterにおいてリアルタイム性が非常に大きな要素となっていることをデータから確認することができた。

 

 

第三節 リツイート機能による“一体感”

そもそもリツイートというのは、ある程度の話題性を兼ね備えた、インパクトのある興味深い内容である可能性が高い。だからこそ見ている者を他のユーザーともこの情報を共有したいという気持ちにさせ、拡散されやすい。タイムライン2は、男性アイドルグループ「NEWS」の増田貴久氏が出演していたテレビ番組の放送中に取得したものであり、出演時の増田氏の服装について言及されたリツイートが複数見受けられる。リツイート内容を確認すると、番組を見ているだけでは知ることのできない、TL上で初めて知ることのできる情報であった。するとその後リツイート内容に反応を見せるような“普通のツイート”や、その話題についてのリプライによる会話のやりとりが続々とTLに表れたことが見て取れる。その様子を分かりやすく可視化させるために、巻末資料において増田氏の服装について言及されたリツイート及びそれに対する反応を見せるツイートに色を塗ってみた。各ツイートのユーザーID、ツイート内容の部分のセルに着色し、話題ごとに色分けを施した。TL2のピンク色のツイート群を例に挙げてみる。通し番号は上から順に1309596127135142151163番である。これは、番組で着用していた増田氏の私服が、共演者である仲里依紗さんが私服として所持しているものと全く同じであるという情報についてのリツイート及びそれに対する反応のツイートである。通し番号30番のツイートRT @yh1xxx: マッスーのずぼん仲里依紗も着てたよ(´゚д゚`) http://t.co/2d5VpnYqは、情報源となるリツイートである。これは、@yh1xxxがその情報を証拠となる写真付きで知らせるためにツイートしたものを、@tmhxxxxがリツイートしたものである。(ツイート内容に関して、マッスーとは増田氏の愛称のことであり、ツイートの最後のURLをクリックすると、仲さんが増田氏と同じ洋服を着た写真が表示される。) そして、これら情報源のリツイートに続き、95番の“りいちゃんとおそろばっかりwwwほんとに趣味一緒なんだ!りいちゃんとお洋服の話してるまっすー絶対イキイキしてるだろなあ(*´ω`*)96番の“『ひいっ!!!里依紗とたかちゃん同じズックはいとる!!!!』母「里依紗まっすーと付き合っとるんじゃなーい??」”という、リツイートに反応するツイートが表れる。さらにその後、@melxxxxxxx@oshxxxxxxxとの間で、リツイートの情報を会話のきっかけとして、リプライのやり取りがしばらく続いている。

また、例外ではあるだろうが1番のツイートも紹介したい。これは、情報源となるリツイートであるが、発信源となるユーザー“@riixxxxxxxxxx”は仲さん自身であり、仲さんが増田氏と同じ洋服を実際に着用しTwitterに投稿したものを、@uooxxxxxがリツイートしたものである。(ツイート内容に関して、「ジェレミー」とはその洋服のブランド名であり、ツイートの最後のURLをクリックすると、仲さんが増田氏と同じ洋服を着た写真が表示される。)このツイートが特殊である理由は、この仲さんによるツイートが、番組放送中にツイートされたものではないということだ。つまり、直近ではなく過去にツイートされたものがリツイートされたということである。しかし今このタイミングでリツイートされることによって、結果的に盛り上がりのあるTLとなっている。このような例外的なツイートも時折TLに登場する。

これらのツイートより、リツイートはTLにおいて話題提供としての役割が強いと言えるのではないかと考える。リツイートされるツイートは、今回の場合、それがテレビを見ているだけでは得られない情報だったように、その内容を話題として盛り上がることのできるようなものが大半である。しかもそれはリアルタイムな最新の情報なのである。これがリツイートという非常に手軽な仕組みで一瞬にして広まり、リツイートとそれに対する反応を見せるツイート、両方がTLに並ぶことによって、ツイートの量も増え、一体感や盛り上がりが生まれると考える。

このことから、リツイートはTL上のツイートの量を増幅させると共に、コミュニケーションの広がりの効果を持たせると言える。

 

第四節 Twitterのネットワーク

この節では第三節で紹介したタイムライン2を再び使い分析してゆく。

巻末資料TL2の“ツイート内容”の部分を、黄色に着色してあるツイートに注目したい。これらは、先ほど第三節で紹介したとおり、放送中の番組に関するツイートであるが、どれも番組を見ているだけでは汲み取れない情報についての内容だ。例えば、通し番号27番の RT @sm1xxxxxx: ブリーフ40275www http://t.co/XHscXRASというツイートを例に挙げて説明をする。これは増田貴久氏が放送中の番組内で手にしていた、私物のブリーフ型クラッチバッグの値段を知らせるためのリツイートであり、@sm1xxxxxxがツイートしたものを@masxxxxxxxxxxがリツイートしたものである。このようなツイートは情報提供型の内容ゆえにリツイートされやすい傾向にある。そしてそのあとに続く36番の@rurxxxxxxxxによる“ブリーフwwwたけえええええ”や、52番の@ sh1xxxxxxxによる“ブリーフクラッチバッグ、4万とか((( ;゚Д゚)))というツイートは、27番の投稿内容に対してのコメントとなるツイートである。TL2ではたまたま表示されていたが、場合によってはこれらのツイートの情報源となる27番のようなツイートはTLに表示されないことも十分に考えられる。なぜなら、各ユーザーそれぞれが見ているTLが異なるからだ。例えば、自分のフォロワーのAさんのTLに情報源のツイートが流れてきて、その後Aさんがそのツイートに対する反応を見せるようなつぶやきをしたと仮定する。この時、Aさんがその情報源のツイートをリツイートしたのちに反応となるツイートをすれば、自分のTLには両方が表示され、何についてつぶやいているのかは一目瞭然である。しかしリツイートをしなかった場合、情報に対する反応のツイートのみが現れることになり、その結果一見意味不明なツイートとしてTL上に登場してしまうことになる。

 以上のことについて実際に今回のデータを使って詳しく分析してゆく。今回は、情報源となるツイートがTL上に存在する場合だ。“ツイート内容”の部分に色が塗ってある、リツイート以外のツイートは全て、リツイートの内容に対して言及しているものである。先ほど例に挙げたリツイートをもう一度使い分析していく。27番の RT @sm1xxxxxx: ブリーフ40275www http://t.co/XHscXRAS ”という情報源となるリツイートが投稿された2分後に、36番のブリーフwwwたけえええええ3分後に42番の“ブリーフに4万出せないわwwwww”、5分後に52番の“ブリーフクラッチバッグ、4万とか((( ;゚Д゚)))というようなツイートが投稿されている。これらのツイートはリプライではないので、システム上では27番のツイートとのつながりはないのだが、内容からすると明らかに27番のツイートに対する反応だと容易に考えることができる。そのようなツイートが、情報源のツイートに続き次々並んでゆくことで、個人間でなく、「みんな」で、大勢の人で情報を共有し楽しんでいるという感覚に陥るのではないかと考えられる。

ここで、もし情報源のツイートに反応するツイートがリプライであった場合を考えてみる。これには、情報源のツイートを投稿したユーザーが、自らのフォロワーである場合とそうでない場合の2種類がある。後者の場合には、第三章の第二節で述べた通り、リプライ自体はリプライを送った側と、送られた側の両方をフォローしていないと表示されないので、そもそも反応している側のツイートがTLには現れない。前者の場合、リプライを送った側のツイート、ここでいう反応を見せている側のツイートがTL上に表れ、それをクリックするとリプライを送られた側、つまり情報源のツイートを実際に見ることができるので、両者のつながりをしっかりと確認することができる。ところが今回の場合、リプライではなくリツイートである。それが故に、元の情報源のツイートが表れず、反応の方のツイートのみがたまたま表示されるということもありえる。これが前述した情報源となる27番のようなツイートがTLに表示されない”状態である。つまり、実際つながりのある一連の会話のうちの一部だけしか表示されないということだ。しかし、そのような現象が起こることが、TL上のネットワークに必ずしもマイナスの働きかけをするのだろうか。実際に今回のデータで確認してみる。

 

発信者分類

形式的分類

日付・時間

ユーザー名

ユーザーID

ツイート内容

フォローしている人

普通のツイート

2012/11/29 23:03

ハル?

rurxxxxxxxx

ブリーフwwwたけえええええ

自分

普通のツイート

2012/11/29 23:04

にゃんはるまぁち☆

nyaxxxxxx

ブリーフに4万出せないわwwwww >RT

フォローしている人

普通のツイート

2012/11/29 23:06

しーちゃん

sh1xxxxxxx

ブリーフクラッチバッグ、4万とか((( ;゚Д゚)))

フォローしている人

普通のツイート

2012/11/29 23:06

あかねん♭

craxxxxxxxx

みんな特定早すぎ!爆笑

フォローしている人

普通のツイート

2012/11/29 23:06

じゅん@思いっきり愛してるかーい?

neexxxxx

ブリーフくそたか!www

4-1

 

 情報源のリツイートに反応しているツイートを並べてみた。どうであろうか。見て分かるとおり、情報源のリツイートがなくても、これらのツイート、つまり会話の一部分となるツイートが並んでいるだけで、「ブリーフ型のクラッチバッグが4万円である」という内容を載せたツイートが出回っていて、皆が共通して盛り上がっていることが容易に推測できる。さらに、リプライではなく普通のツイートとして相手を特定せずにつぶやかれていることで、より沢山の人々と情報、又はそれらについての感想を共有することができる。

ここで重要となってくるのは、各ユーザーそれぞれが見ているTLが異なっているということだ。だからこそこのような現象が起こり、それが“自分の見えないところで未知の情報が流れている”ということを感知させ、さらに“知りたい”という欲求をかき立たせる。そこから発展して、例えば、検索機能を使ってワードを入れて調べる行為に出るとする。そうすることで、情報源のツイートを実際に確認することもできれば、自分のフォロワー以外の沢山のユーザーが、同じ話題で盛り上がっていることが確認でき、さらに皆で楽しんでいるという一体感は増していくのである。現にこのデータでも、自分の見えないところでも情報源となるツイートが流れていることを察知させるツイートが紛れている。56番と78番のツイートに注目してみる。ツイート内容は“みんな特定早すぎ!爆笑”“みんな仕事はやっwwwとあるが、どちらとも「みんな」という不特定多数を指すワードを組み込んでつぶやかれている。このことから、情報源となるツイートが流れているという事実に加え、それらを発信しているユーザーが複数いるであろうことが読み取れるのである。このようなツイートもまた、一体感を感じさせTLを盛り上げる重要な要素となっているのである。

 以上より、「皆が同じ情報を共有していない」という、普通の常識で考えればマイナスに働くこの不完全な情報ネットワークが、Twitterでは逆にプラスに働き、情報共有における広がりを持たせていることが分かる。