第四節 相手との関係性

先に挙げた3つの要素全てに深く関わりを持つと考えられ、インタビュイーたちがセクハラを判断する際に繰り返し考慮していたのが【相手との関係性(親密度)】である。以下は、セッション1で「女性にお杓をさせるのはセクハラになるか」という質問に対するaさんとのやりとりである。

 

a:私はまあ、年齢の近い人に笑いながら言われたら話題の一つかなって思います。

r1:年齢・・・が、高かったらだめ?

a:高い人に、例えば上司とかにちょっと圧力的な感じで言われるとプレッシャーかな。だから、上司とかになると、セクハラの幅って広がると思う。

r1:上司とかになると、よりセクハラって思いやすくなるってこと?(A:思いやすい。)

 

行為者の年齢が自分より高いことによってセクハラであると感じるということをaさんは強調している。彼女はディベートの際一貫して行為者との親密性を前提としたセクハラ有無の判断をしていた。これは、aさんが「同年代の仲の良い友人」、例えば大学のサークルや学部なり、彼女の生活圏内におけるコミュニティで深く関わりのある人々を想定しているからである。つまり、まったく同じ行為であろうと、aさんにとって「親密度の高い人」が行為者であった場合、それ以外と比べると明らかにセクハラの判断基準が低くなるのである。一方で、ただ年が離れているだけではなく「年上」であることがもう一つの重要な要素となる。なぜ年下ではなく年上なのか、これに関してセッション2でのやりとりから伺える点がある。

 

E:その人の持ってる社会性とか、その人の立場の違いによって一回目のお願いでもセクハラみたいな強要が生まれるかもしれません。

R2:明確な上下関係があって、断りきれない空気があったりしたらそれはセクハラになるということ?

D:まあ、逃げ道みたいなのをその人が用意してなかったら、それは強制的になるんじゃないかな。

 

ここで論点となっているのは強要しているかどうかである。キーワードとして、Dさんは「逃げ道」という言い方をしている。行為者の意図に関わらず被行為者にとってその行為が強制となるには、被行為者に「逃げ道」が存在するかどうかの判断が必要となる。相手が年上であるということは、少なからず被害行為者よりも立場が上になる可能性が高い。そうなると、自然と被行為者に「やらされている」という感情が生じたり、「断り辛い」という状況に陥ってしまうのかもしれない。それこそがDさんの発言が示す「逃げ道」であり、行為者は発言や指示の際に、命令的になっていないか、断ることで対象が不利を被ることを意図的に示唆していないか等、「逃げ道」の用意をして慎重に発言することが求められる。

また、ただ年が離れているというだけでなく、交友の頻度による判断基準がみられる発言もある。多くのセッションで「仲の良い人から言われたらセクハラではない」という意見が何度かみられた。

 

a:でも、サークルの人には言われてもいいけど、同じことを最近会ってない地元の友達に言われると嫌とかはある。

 

例として挙げたのはセッション1でのaさんの発言である。ここで重要なのは、年齢が近い仲の良い人という同じ条件にも関わらず、印象が変わっているという点である。「サークルの人」=現在大学で頻繁に関わる友人だと解釈できる。一方で「最近会ってない地元の友達」は、文字通り現在の生活行動圏内では滅多に関わらない友人である。つまり、今回の調査の中で判明した、セクハラと判断されやすい相手との関係性の基準は、「年齢が高いこと」と「交友の頻度が低いこと」が挙げられるといえる。