第三節 加害者の意識

調査から、【加害者の意識】をセクハラと判断するための重要な要素と考えている人もいることがわかった。ただ、【性的要素】が含まれていると判断し、また「嫌がっていたら」(【不快感】を抱いている)といった前提で【加害者の意識】を判断材料として加えるような意見がほとんどであったため、上述の【性的要素】や【被害者の不快感】よりも重要度は低いようだ。

以下は、アルバイト先の店長が女性店員を職場の「華」として扱っていたら、それはセクハラになるかという質問に対するセッション2でのやりとりである。回答は、女性に不快感があればという前提でセクハラと判断されているが、その中でもさらにDさんとEさん二人の意見には若干の違いが見られる。

 

D:やっぱ女性が嫌がってたらセクハラになる。

E:そうかもしれませんけど、ちゃんと言葉にして言ってないならセクハラではない。

R2:どういうこと?女の人が?

E嫌だって言葉にしたら・・・。

R2:あぁ、嫌がってるって口に出したら。つまり店長が女の子が嫌がってるのを知らなければセクハラじゃないって意味だね。 

 

Dさんは、被害者(女性店員)が嫌がって(不快に感じて)いたらその行為はセクハラになると主張した。一方で、Eさんは被害者が不快に感じているのはもちろんだが、それだけではなく加害者(店長)が、被害者が嫌がっていると知った上でなお、そのような行為を続けた場合のみセクハラになると主張している。ただし、2人とも共通して被害者が不快に感じているということを前提としている。

 このように【加害者の意識】を判断材料とする意見は男性のみで構成されたセッション2における貴重な意見であった。この時の【加害者の意識】とはつまり、加害者が被害者の不快感を認識しているにも関わらず行為を続けることで、そこに被害者に不利益を及ぼそうとする「悪意」のようなものが生まれることを指す。

 

h:でも、不快に思うっていうのは問題かな。たとえば、二人の人がそこにおって、関係無い女の子もおって、二人で下ネタっぽいことを話しとるんね。で、女の子はそれが聞こえて嫌な気分になっとるけど気にしないふりをしとる。でも二人が女の子が嫌がっとるって気づいとるんにそれを面白がって続けてたらセクハラだと思う。

 

セッション4でhさんは上記のように語った。下ネタを関係の無い人の前で話しているという状況に、「女の子が嫌がっているのを分かっていて、わざとやっている」という状況付加がされることにより、話し手には「悪意」がある、つまりセクハラ判断要素【加害者の意識】がそこに生まれることから、hさんはこれがセクハラであると言った。ところが一方で、同じく男性のみで構成されたセッション5において次のような意見もあった。

 

K:男から女にする場合で、男のほうに意図がなくても女のほうが嫌だったら、セクハラ。

 

これは、ディベートに参加したメンバーに、「どのような要素をセクハラと判断するための材料としているか」という議題の中で見られた意見である。Kさんは上記Eさんの意見とは反対に、加害者に意識があろうとなかろうと、加害者の性的な行為により、被害者が不快に感じていたならばそれはセクハラになると判断している。

被害者に対してなされる行為に際した【加害者の意識】は、セクハラ判断材料として十分に議論されている。しかしこのように、【加害者の意識】に関して全く別の2つの意見があるため、その性質が必ずしもセクハラの有無に影響を及ぼす要素だと一概に言うことはできないと考えられる。

以上のことから、【加害者の意識】は、【性的要素】や【被害者の不快感】と比べるとあまり重要度の高くない要素と判断できる。しかし【加害者の意識】を必要不可欠な要素と主張する意見もあったということは、セクハラという概念を考える上で無視すべきではないだろう。