第一章 問題関心

近年、女性労働者の増加とともに、職場での「セクシュアル・ハラスメント(以下、セクハラ)」は働く女性につきまとう危険の一つとして問題となっている。1999年に施行された改正男女雇用機会均等法では、日本で初めてセクハラを法律による規制の対象とするなど、ますます関心は高まり、広く認識されるようになっている。それによって従来告発されることのなかった行為群がセクハラとしてカテゴライズされ、企業や大学といった組織ごとにガイドラインが作成されるなど、対策が取られるようになった。その一方で、これまで性犯罪としてカテゴライズされてきた行為がセクハラの名を借り簡略化されるという現象も起こり得ている。

しかしながら、セクハラの概念は社会的にあまり理解されていない。人々がセクハラの正確な線引きをできかねている中で、園井(2007)は「何がセクハラか分からない」という疑問が存在する背景に対し「セクハラが受け手の認識によって規定される、と考えられているからであろう」と述べている。

セクハラの被害者にあたる「受け手」と一言に言っても、どのような事柄をセクハラと認識し規定するのかは、例えば性別、年齢、各個人が置かれる状況やジェンダー観によっても、その基準は違ってくるであろう。「何がセクハラであるのか」という境界の曖昧さこそが、昨今のセクハラ問題を解決せしめない一つの要因であると私は考えた。そこで、人々はどのような行為をセクハラと捉えているのかを探り、それぞれの人が考える「セクハラの定義・判断基準」を明らかにしていきたい。