7章 まとめ――人の繋がりを可視化させることの効果

 

「人の繋がり」というものが、地域、殊にコミュニティ活性化においては不可欠であることを前提として、筆者は本研究を進めてきた。(経済的活性化のみを論じる場合は、また異なるかもしれない。)いくら人の繋がりが重要とはいえ、そのことばかりを抽象的に、当該地域の人々に対して押し付けても仕方がない。彼らと筆者とが一体となり、自分自身でその価値を感じられるような具体的な体験をしてこそ、その感覚を味わうことができる。さらに、参加者が人の繋がりに価値を見出している様を、参加者以外にも見えるようにすることが、大きな鍵となる。ここでの「人」とは、中心市街地を行き交う人全員を指す。

「まちなか とくいの銀行」では、参加者の「とくい」を価値のある無形資源として扱い、取引の対象にした。もちろん、価値あるものが取引される引き出しイベントも、価値のある場となる。これをきっかけに、初対面の人との出会いや、長年の友人でも知らなかった一面の発見、その後も長く続く友人関係や、新たな挑戦の機会など、多くの人の繋がりが生まれた。そして運営を担った筆者は、しつこいほどにその成果を参加者に向けて知らせた。彼らが難しい仕組みに躓く隙も与えないほどに、参加者同士が誰のどのような「とくい」で出会い、どれほど楽しい時間を過ごし(実際、失敗に終わった引き出しイベントはなかったと感じている)、ときにはその後の展開として起きた良い結果も報告した。「とくいの銀行」の価値表現に擬似通貨を使用しないシステムと、運営側の積極的な働きかけにより、人の繋がり自体とその価値が可視化された。

この試みは決して万能ではない。しかし、引き出しイベントの名を借りた「人の繋がり」は参加者が楽しむことができるという意味で価値のあるものであり、それを支えているのも当該地域を行き交う人々が持っている「とくい」という名の無形資源である。多くの人が忘れかけている「人の繋がり」の価値に気付いてもらうきっかけとしては、十分に機能したと言えよう。言いかえれば、当該地域を行き交う人々の存在とそれを活用する人の熱意さえあれば、多額の予算や難しい仕組みがなくても、コミュニティの活性化は可能であるということを、多くの参加者と共に証明できたのではないだろうか。

 

謝辞 

本稿の作成にあたっては、下記の皆様に多大なご支援とご協力をいただきました。ここに記し、深く謝意を表します。(個人、団体、五十音順)

武内 孝憲 様

樋口 幸男 様

平本 浩美 様

深澤 孝史 様

()まちづくりとやまの皆様

まちなか とくいの銀行 富山中心街支店の参加者の皆様

山口とくいの銀行 ななつぼし商店街支店の皆様