3章 調査方法および調査概要

 

1節 調査方法 

 

1項 アクション・リサーチとは

 

本項では、今回用いたアクション・リサーチと呼ばれる調査方法について、額賀(2013:80-85)にしたがってまとめたい。

アクション・リサーチは「調査を通して現場の問題を解決するべく、研究者が行動(アクション)を起こす方法」と定義される。

従来、伝統的な社会科学の研究においては、調査の立案からデータの収集・分析、公開までの全てを研究者が担うことが自明であった。それで得られた結果は、学会や論文を通して研究者のコミュニティに還元されることが当然として、期待されていた。

このような「研究者による、研究者のための調査」を批判し、1940年代に「アクション・リサーチ」という言葉を初めて提起したのが、アメリカの心理学者クルト・レヴィンである。彼は調査者が状況に働きかけ、何ならかの行動を起こすことを通じて知識や理論が産出される過程を重視する。また、秋田(2005)によれば、彼は「その場に生きている人が参加し変化の担い手となること、そのための道標を提出し変化できる力を育てることを研究者の役割と位置づけている」(秋田 2005: 167)という。つまり、調査と問題解決行動を別々のものとして考えるのではなく、むしろ両者を一体として捉えるのである。

 

具体的に提起されたのは、現場の問題解決に向けて「計画―実行―評価」を1つのサイクルとして行動し、それを次の新たなサイクルへと続けていく螺旋的過程である。その過程には研究者だけでなく、従来は調査の対象としか考えられてこなかった、現場に生活する人々も関わることが想定される。たとえば1950年代のアメリカでは、教師自身が時に大学の研究者と協力しながら自身の授業を反省的に振り返り、問題点を明らかにして、生徒がより効果的に学べるように授業の内容や方法を改善するという教育運動が活性化したという。(額賀 2013: 82

 

このような新しい調査のあり方に対し、実証主義を重んじる当時の社会科学は否定的であった。そして、1960年代になるとアクション・リサーチは一度衰退する。

しかし近年、アクション・リサーチが再び脚光を浴びている。それは、この手法を通じて階層、ジェンダー、人種、民族などの違いによって生じる社会的不平等の是正が期待されているからである。さらに、その中でノーマン・K・デンジン他(2006)が「参加型アクション・リサーチ」と呼ぶ手法は、現場にいる人々のエンパワーメントを推進するとされる。(額賀 2013:80-85)

2項 レヴィンのアクション・リサーチと本研究との共通点

 

レヴィンの提唱した、いわば古典的なアクション・リサーチと、筆者の研究方法には大きな共通点がある。それは、「計画―実行―評価」という螺旋的サイクルを辿ることである。具体的に言えば、まず第1次計画案を参加者となる現場の人々の前で発表し、彼らの評価を受ける。その反応を分析した結果を活かした第2次計画案を立て、実行に移し、さらに参加者の反応を分析する、というものである。

 

3項 「参加型アクション・リサーチ」と本研究との相違点

 

一方で、ノーマン・K・デンジン(2006)らによる「参加型アクション・リサーチ」とは、いくつかの点で異なる。まず、この手法は社会的不平等の是正を目的とするものではないという点である。したがって、現場にいる人々のエンパワーメントを推進するとまでは言えないかもしれない。さらに、報告書を書くプロセスにおいて、現場の人々を巻き込んでいない。

そのため、今回筆者が用いる研究方法は、前項に挙げたレヴィンによる、古典的なアクション・リサーチの手法であると言える。

 


 

2節 調査概要 

 

今回の研究において、筆者は地域通貨一般についてと全国における成功例を調査した上で、実際に富山県富山市中心市街地で、その圏内を生活圏とする人々を主な対象として流通させる地域通貨の計画案を立てた。次に、その発表時に周囲の人々より受けた反応を整理、分類し、分析した。また、別の事例の調査や分析を進めつつ、それらの結果を踏まえた上で同じく富山県富山市中心市街地における第2次調査案を立て、実行に移した。さらに、そこから得られた結果や参加者からの反応を、再び整理し、分析した。このように、本調査は先述したようなアクション・リサーチにおける自己内省の螺旋的サイクルをたどった。この間、筆者は研究者であると同時に参加者として、フィールドにおける内部知識の獲得に努めた。