5章 考察

 政府により「放課後子どもプラン」などの学童保育に関する公的支援事業が整えられてきている中、地方自治体や事業主体でみると、地域のニーズを感じとった主体によりその事業数は増加し、事業内容も拡大してきている現状が見えてきた。また、調査した2つの事例から、ニーズを感じ取る主体も、地方自治体や社会福祉法人などの経営基盤のしっかりしたものから、それまで何の知識も持たない個人までさまざまであることも分かった。このことから、行政主導により一律に枠組みが設定されているように見えるが、実際には事業主体の動機や地域の需要が学童保育事業を作り上げ、その事業内容も工夫されてきているということが分かった。

ここで第3章の施策の流れを振り返ると、そこでのポイントの一つであった事業主体の拡大が具体的に実を結んでいる地域があることが本論文の調査で分かった。例えばB施設では、地域の需要を感じた個人が、富山市の施策であり、個人でも事業立ち上げをすることが出来る、地域ミニ放課後児童クラブ事業を活用し事業を立ち上げした。その後、事業拡大に応じて持続性を獲得し、個性と柔軟性を持ったまま、NPO法人の法人格を取得、その後放課後児童クラブ事業を地域ミニ放課後児童クラブ事業と並行して立ち上げ、実施してきている。こういった、個人と行政の結びつきは今後、社会資源の一つとして活用されていくのではないだろうか。

ただし、このような事例が全ての地域でみられるのかは分からない。地域でのニーズはあるものの、そのニーズを事業化する主体が存在しない地域や、少子化によりニーズはあるもののその規模が小さくなってしまっている地域が存在しているであろうことも考えられる。このことが学童保育の地域格差につながっていくのではないだろうか。

 事業内容に関しても、各事業に個性があり、ほぼ同額の保育料でも受けられるサービスが異なっていることも発見された。今回の調査対象施設では、学習と遊びは両立して考えられ、どちらも「強制」されている形ではなかったが、近年では学習塾を経営している会社が学童保育に参入し、保育料は割高になるものの、小学校1年生から放課後の時間を活用し勉強するサービスを展開している事業も存在しているというニュースを耳にした。初めは「共働き家庭や母子・父子家庭の小学生の子どもたちの毎日の放課後(学業休業日は一日)の生活を守る施設」として設立された学童保育事業に、個性という名の様々な付加価値が与えられることにより、金銭的に余裕のある家庭にとっては、「子どもの生活を守りながら学びや体験の場を提供する施設」となってきているのではないだろうかと考えた。

 また、少子化が進んでいる現在も、保護者の共働き率の増加などによりまだ拡大し続けている学童保育事業ではあるが、将来のことを見据え、事業縮小の計画を練っている施設があることも今回の調査で分かった。児童数が減少する中でどのように経営していくのかも今後の課題の一つになりうるのではないかとここから推測した。

 本論文では事業主体に注目し、その事業の設立や展開、サービス内容について分析、考察した。しかし、富山市の3つの事業の内、放課後児童クラブ及び地域ミニ放課後児童クラブ事業については調査したが調査対象が2施設ということもあり量的に不足しているのではないかと感じている。また、子ども会の施設は調査対象としなかったが、富山市役所への調査で今後子ども会を充実させていこうとする動きが見られたことを含めて、今後これに注目した調査を行うことも課題として残しておきたいと思う。さらに、利用者である保護者や子どもたちの声に関しても本論文では取り挙げていないため、地域で具体的にどのようなニーズが存在しこの事業を発展させてきたのかを確認をすることもできなかった。しかしながら、内容は異なるものの、「個人の動機」が「行政」と「地域のニーズ」を中継することで学童保育事業が展開されていることを確認できたことは今回の収穫となったのではないかと考える。