4章 事業の実態

 

1節 A施設(社会福祉法人)

1)施設概要

 このクラブの登録児童数は200名(2013年)であり、1日の利用児童数は90名程度。このクラブでは1か所定員45名のクラブを2つ開設しているため、定員は合計90名である。小学校1年〜6年生の児童が対象。開設時間は、平日は下校時から1850分、休日及び学校休業日は730分から1850分。この時間外にも、早期保育(700分から)や、延長保育(1850分から2030分まで)も行っている。休館日は春・夏・冬休み期間の日曜日及び年末年始(1231日〜13日)。このクラブでは利用形態が2種類ある。一つ目はレギュラー会員という、ほぼ毎日利用する子ども向けのものであり、1か月基本料金は11000円。このクラブに通う兄姉がいれば20%割引。休日・学校休業日は時間が長いためこの基本料金のほかに11500円追加される。2つ目はスポット会員という、月に3回程度などの利用日数が少ない子ども向けのもので、こちらは11000円。また別途、早期保育料、延長保育料、おやつ費、給食費、特別活動費などがかかる。Aクラブでは怪我をした場合などへの補償制度が整っており、こちらは年間815円。初年度の入会料は5000円であり、更新時の登録料は3000円。

職員数は正規職員が6名(うち有資格者4名)、非正規職員が5名(うち有資格者3名、アルバイト2名)で運営されており、職員の採用は資格重視であるという。毎日ミーティングを行い、職員の間での情報共有をしている。

 

 2)設立目的・経緯

 この施設は、堀川小学校区の地域の方々への恩返しを目的に2007年に設立された。初めは児童数50名程度を予定していたが、地域で評判がよく、広い場所で、子どもがのびのび遊ぶことのできる施設であるという噂や口コミにより90名になった。校区を限定していないため現在22の小学校から児童が通っている。遠くから通っている児童は、ファミリーサポーターや家族などが付き添いながら電車やバスといった公共交通機関を利用している。

 

3)親との関わり

 施設の利用案内は年3回行う予定であったが、人気が高くすぐに定員に達してしまうようになったため、23年度から年1回(12月)のみ開催。子どもの帰宅は全て保護者が施設に迎えに来る形式をとっているため、その時に、1日の様子などを職員が伝えている。再登録時に保護者からの要望を聞く機会を設けているが、特に要望はないという。

 

4)学校との関わり

 学校から施設まで集団下校をさせてもらう。新年度は1週間、職員が学校まで児童を迎えに行き、下校の練習をする。行事予定などの年間スケジュールや、大雨などによる突然の休業などを連絡してもらうなどの連携をとっており、職員が学校に行くこともあれば、学校の先生が来ることもある。

 

5)充実した設備

 A施設では、子どもが走り回り、運動ができる広いホールや、数多くの図書が蔵書されている読書室、おままごとやハンドベル、電車のおもちゃなど多い人数で楽しむ遊びが出来るプレイルーム、宿題やそろばん教室・ピアノ教室をする学習室、9台のパソコンが設置されているパソコン室など、子どもが長時間遊んでも飽きないほど多くの設備が整っている。これらは、同じ法人が他に経営している保育園などの知識や経験を生かしながら建物を建設し、設備を充実してきていることが背景にある。施設内は、子どもの目線の高さや、子どもたちがどのようなことに興味を持ちやすいのか、どんな遊びをしたいと考えているのか、子どもが安全に過ごすために必要な配慮などが反映された設備になっていると感じた。

 

6)ユニークな活動内容

 施設に来たら、まず手洗いうがいを徹底。学校の宿題をした後、おやつの時間。その後は、子どもが何をしてもいい自由時間である。自由時間に子どもがその日の気分でのびのびと遊ぶことが出来るように、A施設では様々なサービスを展開している。

一つ目は「キッズタイム」である。この活動は無料であり、半年に1度、申し込みをして参加する。キッズスポーツ教室やフットサル、ヒップホップダンスは外部からコーチを呼び、行っているが、ほとんどは職員の得意分野を生かしたり、資格を取得したりして行っている。外部講師のものも、職員のつてを利用して確保しているために、公募はしていない。全ての活動が施設内の部屋で行われているため、これらの活動によって子どもが施設外に移動することはない。

参加に関して、申し込みが必要なものについては、半年に1度募集をかける。途中でやめたり、逆に途中から参加したいという子どももいるが、たいてい受け入れているという。

 

キッズスポーツ教室(月曜日)参加自由・外部講師

 フットサル(水・金曜日)参加自由・外部講師

 ハンドベルクラブ(月・水曜日)

 子どもバンド(月・水曜日)

 かきかた教室(火曜日)参加自由

 イングリッシュタイム!(火曜日)

 パソコン・どっと・こむ(水曜日隔週)

 サイエンス倶楽部(水曜日隔週)

 ヒップホップダンス(木曜日)外部講師

 リトミック(金曜日)

 

 二つ目は「レッスン」である。これは、「習い事」であり、外部の講師が行っているため、月謝などの料金はそれぞれの講師に支払いをする。ピアノ教室とそろばん教室は施設内で行われているため、子どもが施設外に移動することはない。一方、スイミングは、外部施設で行っているため、スイミングクラブのバスで送迎をしている。また、特別活動時には法人所有のマイクロバスで送迎をしている。レッスンへの参加などの手続きや料金に関しては講師が行っているため、施設では関わっていないという。

 

 ピアノ教室(月・金曜日)

      (水・木曜日)

      (火曜日)

 そろばん教室(火・金曜日)

 スイミング(木曜日)24名

 

 これらの活動は、保育する児童の増加により付加価値として始められ、この施設に子どもを預ける魅力の一つとなっている。この活動のほかにも、夏休みにはサイエンス教室やクラフト教室、クッキー作り、富山県立近代美術館及び富山市科学博物館の見学、ピアノコンサート・発表などの様々な特別活動も展開し、子どもたちがいろんな分野に触れる機会を設けることで、興味を持つきっかけづくりをしている。職員は施設での活動愛情持って見守っているという。

また、キッズタイムや特別活動などのサービスを材料費のみの徴収で提供出来ている背景には、保育している子どもの数が多いことと、補助金をうまく活用していることがある。設備が充実していることから、こういったサービス面に向けられる金銭が大きいのではないかと考えた。

 

7)今後の課題

 この施設では、魅力的な付加価値を充実させてきている一方で、「小さい所にあるような、熱意のこもったきめ細かいサービス」をすることを今後の課題として挙げている。そのために、児童数が多い施設ではあるが、「職員全員が児童全員を担当する」という意識を持ち、児童の様子を見ているという。

 また、職員の創造力を高め、お金をかけずに楽しめる企画を考えていくことも必要であると語られた。

 

 

 

 

※図41 A施設見取り図

 

 

 


 

2節 B施設(NPO法人)

1)施設概要

このクラブは、地域ミニ放課後児童クラブ事業として平成21年に開設され、2小学校区に通う16年生を対象に、低学年児童を預かる施設が3か所、46年の高学年が対象の施設が1か所の計4か所で行っている。子どもの登録人数は130人で、無資格の指導員が、二人体制で子どもたちの面倒を見ている。開設時間は平日の放課後から19時までであり、夏休みなどの長期期間中は8時から19時まで行っている。保育料は、通年利用で月10000円、長期利用という、春・夏休みのみの場合は年35000円、また、長期利用の子どもが放課後などの半日保育を利用する場合は半日1000円で、土曜日など1日保育を利用する場合は12000円となっている。

 

2)設立目的・経緯

今回のインタビュイーであり、この法人の理事長であるYさんが、子ども会を運営している父母会の会長に選ばれ、その運営を行っていた際、子ども会には定員がないために収容可能人数以上の子どもたちを保育している現場を目にした。その状態を解決するために定員を設けることをYさんが決定した。しかし、定員を設ければ事業を必要としているが受け入れしてもらえない児童が出てくることになった。そんな子どもたちを預かる施設を作るために、地域ミニ放課後児童クラブ事業を始めたのがきっかけである。地域ミニ放課後児童クラブ事業を選んだ理由は、地域住民がボランティアで立ち上げることのできる事業であったから。準備期間としては、平成20年に申請し、同年11月にはNPO法人取得、翌年4月から開設し、その後、高学年の児童を保育するための施設として地域ミニ放課後児童クラブ事業も残しつつ、放課後児童地域健全育成事業として展開している。

この施設がある地域は、住宅の増加と共に富山県内外から人が流入し、人口が増えている地域である。そのため、不審者などの犯罪者も流出、流入してくる可能性がある。そういう意味では、下校時一人で帰ることや、一人で家にいることが、以前とは違い、危険になることが考えられる。

 

人が、徐々に徐々に増えるなら、近所付き合いが、あるだけど、ここ今一気に増えてるでしょ。(中略)今までだとほら、なんか怖いことがあれば、近所の知っとるおばちゃんのとこへ駆け込むことができるけど、今近所の知っとるおばちゃんがいないみたいな、ね。そういうのもあるし。そうすると、まあここがおばあちゃん家、「第二の家庭」みたいな役割を果たしているっていう感じなんかなと。

 

学童保育事業の施設が、子どもにとって「第二の家庭」となり、以前の「近所のおばちゃん家」の役割を果たし、地域の子育て力の強化につながっていくのではないだろうか。

この施設の4か所の建物のうち、3か所を賃貸、1か所を所有して運営している。この建物や運営に必要なものなどは開設時にYさんが自分で歩いて探したり、「こういうものが欲しい」という情報を地域の人に積極的に発信したりしたことにより、噂や情報が集まるようになったという。子どもをよりよい環境で保育するための改装もできる範囲で行っており、所有している建物の2階の改装を現在は予定している。賃貸の3か所は建物が古く、耐震に関して不安があるため、こちらも早急に対処していく必要があるとも語られていた。

 

 

3)親との関わり

保護者との関わりのひとつとして、6月と10月に、交流会という形で子どもたちの活動の様子を撮った写真を上映したり、アンケートを行ったりしている。保護者の方が窮屈に感じないよう、参加はすべて任意にしている。開設当時のルールを保護者主体に作ったために、目立った要望も少ない。また、施設の利用案内については、10月に説明会を行うか、口コミでの繋がりになっている。

 

4)学校との関わり

B施設に通う子どもたちは、小学校で付けている名札にフェルトがついていて、一年生は下校時に指導員が迎えに行くのだが、その際に担任が子どもたちを集めておいてくれる。また、学童に来ていない子どもの所在確認を、学校を通じて行うなど、比較的学校とは強いつながりがあると考えられる。

施設への通所に関しては、学校と施設が近いため、子どもたちは徒歩で施設に来る。一年生に関しては、指導員が小学校まで迎えに行く。

 

5)夏休み期間の企画活動

学校が長期休暇中の場合は、開設時間が朝 8時から夜7時とまで長いため、独自に企画した様々な活動を行っている。遊園地の貸切や、英語のできる先生による簡単なイングリッシュかるた、午後からプールへ行くこともある。こういった活動は職員が自分たちでできることを探して企画している。その他にも週1回、ランチを施設で用意し、材料を切ることあれば子どもたちに手伝わせている。それもまた一つの「遊び」につながっていくと語られた。4年生5年生は飛騨の鍾乳洞の方へ泊りに行くなど、上級生は独自に活動をしている。このほかにも、まちなかを探検するなどの課外活動も行っている。

 これらの活動の基本は「自分たちも楽しければ、子どもたちも楽しいだろう」という考え方で、子どもたちの夏休みを楽しいものにするために、自分達がやって楽しいことを活動として行っている。また、施設に引きこもるだけでなく、外での活動をした方が子どもたちに楽しく電車の乗り方や外出先でのルールなどの社会勉強をさせることができるとも話していた。

 

6)地域との対話・子どもの自主性

 B施設では、1年生から3年生は、定期的に外で遊ぶときに使用している公園の清掃を「ボランティア」として行っている。この活動を通して子どもたちに楽しく「ボランティア」という言葉を知ってほしいという思いがそこにはある。このほかにも普段の遊びから様々なことを学んでいってほしいと語られた。しかし、学年が上がるにつれ、下級生と同じことをしていてもそこから学べることは少なくなってくる。

 

4年生ぐらいになってきたら、自分たちであの、もうゴミ拾いなんてだって言いだすから、じゃああんたたちなんかできることある?て言ったら、えーって言う­から、介護施設に行って、私たちにできることありますかって訊いてこられって言ったの。そしたら、その施設の人たちが、あるあるよって言­て、夏休みだけ、そのおじいちゃんおばあちゃんたちのところに行ってゲームの相手したりとか4年生になって、ゴミ拾いのボランティアしなきゃって言ったたらまた発展がなかっただけど、介護施設へボランティアに行っといでって言ったらちゃんと行ったから、今年もその施設でボランティアをやらせてもらう。ボランティアもそうやって成長に合わせて変えていけばいいのかなって。

 

このように、学年に合わせて活動を変えていくことで、そこから新たな学び、成長を得ることが出来る。ただ子どもたちを預かり、目を配ることだけではなく、預かっている時間内で出来る遊び、活動からの学びを追究している。

他にも、高学年を預かっている所では、年度始まりに施設で放課後を過ごすにあたってのルールや、そのルールを守らなかった場合にどうするかを子どもたちに決めさせることで、「自分でやりたい」と言う子どもたちの意思を尊重し、より一層の成長を促している。ルールの例としては、「階段で遊ばない」や、「冷蔵庫を勝手に開けない」、「備品を触らない」、「勝手に鍵をしめない」など。夏休みなどの長期休暇中にはこの他にもゲームに関するルールが作られることもある。

 

7)運営者の裁量による柔軟性

 この施設に預けられている子どもの中には途中退会した後、また預け始める人もいる。その理由としては、下校途中に友人と遊んでいて遭遇した事故がある。こういったことが心配な保護者がもう一度子どもを預ける。通いかたは、そこはその子に合わせて変えるため、一週間のうち2日のみ通うなど多様である。

 また、退会していても、この施設に預けられたことのある子どもであれば保護者の都合の悪い時には預けることができる。

 

だからそんなふうに、あんまり決め決めじゃなくって、やっぱちょっとこう、自在性があることで、もしかして行政的にはダメなんかもしれないけど、でも一応こっちに名前、住所登録してもらって、まあ退会にはなったけども、でも登録してもらってるから知ってるし、私らも知ってるし、そういう子はいいですよっていうふうには言ってあるのね。そうやって、必要な時に利用できるのが一番ベストでしょう

 

この施設において保護者は、より柔軟な自在性のある利用をすることが出来る。また、早い時間に迎えに来た保護者には、この施設に来る前に買い物をしてから来ることを薦めることや、子どもを預けることで地域や事業によっては生じる「父母会」への参加などによる保護者の負担をなくし、保護者がよりゆとりを持って子育てに取り組むことが出来るように支援もしている。

 

8)施設の課題・将来

 この施設の4か所のうち1か所に、小学校から徒歩10分ほどの距離に位置している所があり、児童の通所時の安全確保が課題の1つとなっている。この課題は、この施設のある地域とつながりや連携を構築することで解消して行けるのではないかとYさんは考えているため、お祭りなどの地域行事への参加を積極的にしている最中だという。

 現在までは需要が多くあるなどの大きな流れに乗りながら事業を拡大しており、10年くらいで余力がつけばとYさんは考えているというが、現在の日本では少子化が進んでおり、今後は児童数が減少して行くと予想される。この施設では、そういったことも考え、現在4施設で行っている事業を、将来、児童数が減少し、需要がなくなってきた場合には施設数を減らすことで規模を徐々に縮小していくことも考えているという。この点からも、B施設の運営には柔軟性があると分かる。

 また、現在いる職員でこの先も続けていくことが出来るとは限らないため、後継者の育成にも力を入れている。

 

※図42 B施設 地域ミニ放課後児童クラブ事業の建物見取り図

※図43 B施設 放課後児童クラブ1か所目 見取り図

※図44 B施設 放課後児童クラブ2か所目 見取り図

※図45 B施設 放課後児童クラブ3か所目 見取り図(以下の写真はこの建物内部のもの)

※図46 B施設 出席簿

※図47 B施設 1階の様子その1

 

 

※図48 B施設 1階の様子その2

 

※図49 B施設 2階の様子

 

※図410 B施設 子どもたちが決めたルール

 


 

3節 本章の分析とまとめ 

 今回の調査により、同じ「放課後児童クラブ」に分類されるこの2施設の間に相違点と共通点があることが分かった。

 相違点は事業主体の違いからくる、事業展開の差異である。A施設を経営している社会福祉法人では、放課後児童クラブのほかに保育園など様々な施設の経営も行っている。そこから培われた知識・経験が施設の設営に大きな影響を持っていることが分かった。経営主体が社会福祉法人でしっかりしていることにより、子どもにとって安全で楽しい空間を持つ独自施設の建設や、より自由で魅力的な付加価値の付与を、金銭面でもスペースの面でもゆとりをもって実現出来ていることが分かった。一方、B施設を経営するNPO法人は、その事業について知識や資格を持っていなかった個人が立ち上げをし、金銭面や学童保育事業を行うことを想定していない物件を活用していることによる、スペース面などの様々な制約がある中でも、職員が創意工夫をしながら事業を展開していることが分かった。B施設の特徴の一つでもある、保護者目線にも立った型にとらわれない柔軟な事業運営をできる点はNPO法人の特徴の一つではないだろうかと考えた。

 共通点の一つ目として、事業設立の経緯を挙げたい。A施設では、この社会福祉法人の前オーナーが「地域への恩返しをしたい」と考えていた所に、地域のニーズがあったため、事業を公的制度にのって整備した。B施設も、Yさんの「子ども会で預かってもらえなかった児童の受け皿を作らなければならない」という責任感と、人口流入が激しく児童数も増加している地域という環境とそれに伴う学童保育への需要の増加により市民主導で事業を設立した背景がある。この二つの事例から、「個人の動機」と「地域の需要」がつながった時に「行政」の枠組みを利用してこの事業は設立されるのではないかと考えた。

 共通点の二つ目として、事業内容に関する保護者からの要望が現在は特にない点が挙げられる。問題点がこの事業を利用している側から出てこないことから、事業全体が前向きに流れており、事業主体が事業内容に付加価値をつけたり、設備を整えたりするなどの「環境づくり」に積極的に取り組むことができているのではないだろうか。