第3章 公的支援事業
第1節 政府の公的支援事業
第1項 沿革
川又(2012)及び厚生労働省のHPをもとに、学童保育の歴史的展開と政府から出されている公的支援策についてまとめる。
厚生省(2001年より厚生労働省)は1963年、放課後留守宅の児童のための学童保育補助事業を開始し、1976年には児童健全育成事業を予算化した。その後、幅広く様々な層からの活動が展開。1997年に児童福祉法が改正され、厚生労働省所管の「放課後児童健全育成事業」として法律の中に位置づけられた。2001年に、障がい児を受け入れる学童保育に対して指導員加配制度が、2006年には、障がい児の受け入れが補助金対象になるなど、障がい児の受け入れに関する施策もまとめられた。
一方、文部省(2001年より文部科学省)では、1966年に留守家庭児童会補助事業が始められ、1970年からはその事業を校庭開放事業に統合。「放課後子ども教室(地域子ども教室)」を中心的事業として「放課後子どもプラン」進め、1999年に「全国子どもプラン」、2002年から「新子どもプラン」、2004年度からは緊急3ヵ年計画として「地域子ども教室」が進められ、全国で実施された。
2007年、「放課後子どもプラン」が文部科学省、厚生労働省両局長連名通知で発表。「放課後児童健全育成事業」と、2007年度から文部科学省が仕組み内容を変更して実施した「放課後子ども教室推進事業」とを、各地方自治体で、一体的あるいは連携実施する事業として策定・実施する、というのがこのプランの基本的な考え方である。
続く、2008年に「新待機児童ゼロ作戦」、2010年に「子ども・子育てビジョン」が発表。そして、昨年の2011年、「子ども・子育て新システム」中間とりまとめにおいて、「小学校4年生以上も対象となることの明記」などが示された。
第2項 「放課後子どもプラン」
「放課後子どもプラン」(平成25年5月15日第6次改正)は、子どもを取り巻く環境の変化を踏まえ、放課後等に子どもが安心して活動できる場の確保を図るとともに、次世代を担う児童の健全育成を支援することを目的としている。
事業の内容
(1)放課後子ども教室推進事業
放課後や週末等に学校の余剰教室等を活用して子どもたちの安全・安心な活動拠点(居場所)を設け、地域の方々の参画を得て、子どもたちに学習や様々な体験・交流活動の機会を定期的・継続的に提供するもの。これらの取組を通じて、子どもたちの社会性・自主性・創造性等の豊かな人間性を涵養するとともに、地域社会全体の教育力の向上を図り、地域の活性化や子どもが安心して暮らせる環境づくりを推進していく。
この事業は、都道府県・指定都市・中核市を実施主体とし、事業の一部を適当と認められる社会教育団体等に委託して行われる。
対象は子ども全般。
(2)放課後児童健全育成事業
保護者が労働等により昼間家庭にいない小学校に就学しているおおむね10歳未満の児童に対し、授業の終了後等に小学校の余裕教室、児童館等を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図るものである。
実施主体は、市町村、社会福祉法人その他の者であり、対象児童は、保護者が労働等により昼間家庭にいない小学校1〜3年に就学している児童。また、その他健全育成上指導を要する児童(特別支援学校の小学部の児童及び小学校4年生以上の児童)も加えることが出来る。
事業の実施に当たっては、遊びを主として放課後児童の健全育成を図る者(「放課後児童指導員」)を配置することが求められる。
また、放課後児童の就学日数、地域の実情等を考慮し、年間250日以上開所とする。ただし、利用者に対するニーズ調査を行った結果、実態として250日開設する必要がないクラブについては、特例として200日以上でも国庫補助の対象になる。
開所時間については、1日平均3時間以上。ただし、長期休暇期間などについては、子どもの活動状況や保護者の就労状況等により、原則として1日8時間以上開所とする。
子どもの情緒の安定や事故防止を図る観点から、1クラブ当たりの放課後児童の人数が一定規模以上になった場合には、分割を行うなど適正な人数規模のクラブへの転換に勤める必要がある。
この事業は、放課後児童の健康管理、情緒の安定の確保、出欠確認をはじめとする放課後児童の安全確認、活動中及び来所・帰宅時の安全確保、放課後児童の活動状況の把握、遊びの活動への意欲と態度の形成、遊びを通しての自主性、社会性、創造性を培うこと、連絡帳等を通じた家庭との日常的な連絡、情報交換の実施、家庭や地域での遊びの環境づくりへの支援、その他放課後児童の健全育成上必要な活動の内容・機能を有するものと定められている。
クラブ数、登録児童数及び利用できなかった児童数の推移
※図3‐1 平成12年度から平成24年度までのクラブ数、登録児童数及び利用できなかった児童数の推移(厚生労働省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002kbjt.htmlより抜粋)
第2節 富山市における公的支援事業
ここでは、富山市が行っている支援事業について説明する。富山市では、「地域児童健全育成事業(以下、子ども会)」、「放課後児童地域健全育成事業(以下、放課後児童クラブ)」、「地域ミニ放課後児童クラブ事業」の3事業が行われている。以下、富山市のHPや利用のしおり、富山市役所こども福祉課の職員へのインタビューなどを元に、詳細を記す。
第1項 地域児童健全育成事業(以下、子ども会)
富山市独自の学童保育事業として、昭和59年に開始。放課後などに子どもたちが自主的に参加できる遊び場を提供することを目的としている。登録できるのは原則として各子ども会がある小学校区に在住している1〜3年生までの留守家庭児童であり、地域の実情に応じて、小学校4年生以上の児童、その他健全育成上指導を要する児童が登録している。指導員は施設がある校区に住む保護者で、子どもたちに楽しく安全に遊べるよう指導する。運営形態は、市が各校区の運営協議会に事業委託する形をとっており、市から委託料が支払われる。小学校の余裕教室、児童館、公民館等を利用して活動を行っている。
平成10年には児童登録制度が導入され、平成11年からは「利用のしおり」が配布開始。その後も検討委員会の開催や、要綱の改正などをしている。
対象児童は通学校区の保護者が労働等により、昼間家庭にいない小学校1年生から3年生で、開設時間は、平日は放課後から午後6時(最長)まで概ね3時間以上、土曜日および長期休暇期間(夏休み等)は1日8時間以上としている。 また、開設日数は年間250日程度。利用料は無料であるが、おやつ代・材料費などの実費を徴収する場合がある。
従来は@原則1年〜6年生の児童を対象とし、A平日は放課後から午後6時(最長)までの概ね3時間以上、土曜日及び長期休暇期間(夏休み等)は1日3時間以上の開設、B開設日数は年間250日程度であったが、平成24年にこの事業の方向性が変更され、@対象は留守家庭児童の小学校1〜3年生を優先(登録時の調査による)、A平日は放課後から午後6時、長期休暇期間は8時間以上の開設、B年間250日以上の開設を目指すこととなった。
この変更は、放課後児童クラブに事業内容を近づけ、充実していくことで、両親が共働きである世帯など、本当にこの事業を必要としている子どもや家庭に利用してもらうために行われた。
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施設数(箇所) |
登録児童数(人) |
平成19年 |
58 |
8008 |
平成20年 |
58 |
8196 |
平成21年 |
58 |
8051 |
平成22年 |
59 |
7910 |
平成23年 |
59 |
7885 |
平成24年 |
58 |
8022 |
平成25年(4月現在) |
58 |
7033 |
※表3‐1 平成19年度から平成25年度までの富山市における地域児童健全育成事業の施設数、児童数(富山市こども福祉課へのインタビュー調査から筆者が作成)
地域児童健全育成事業は国の補助制度を活用しながら富山市独自の放課後児童健全育成施策として推進してきた事業である。国の補助制度において、平成21年度までは、特例として、年間開設日数が200日以上でも国庫補助の対象とされていたが、平成22年度から、利用者に対するニーズ調査を行った結果、250日開設する必要のないクラブについては200日以上でも国庫補助対象とされた。富山市では、ニーズ調査を行わないとしたため、補助対象外となる施設が発生し、国からの補助金額が減額された。
国の算定基準では、施設運営にかかる経費の概ね1/2を保護者負担で賄うことを想定しており、残りの1/2分について児童数が10人以上で、原則、長期休暇(8時間以上開所)を含む年間250日以上開設するクラブに補助することとしている。
第2項 放課後児童健全育成事業(以下、放課後児童クラブ)
平成15年から開始されたこの事業は、保護者が労働等により、昼間家庭にいない留守家庭の児童を対象に、適切な生活と遊びの場を提供し、安全に預かることを目的としている。登録児童には定員があり、国のガイドラインにおいて1施設につき最大70人までと定められている。定員を超えないために、登録児童数が多いクラブは施設を2カ所以上に分割している。指導員は、児童の遊びを指導する者の資格を有する者が望ましいとされており、子ども会よりも保育の専門性が求められていると言える。
平成15年に富山市の事業として開始される前の平成9年から、市民のニーズなどにより社会福祉法人や父母会などが事業を実施してきたが、この時点では社会福祉法人や父母会が独自に事業を実施しており、補助金などの交付はなかった。富山市の事業として開始された後は、補助金は算定基準に従って交付されるようになっている。
実施主体は、社会福祉法人やNPO法人で、実施場所は専用施設及び民家等。 対象児童となるのは上でも述べたが保護者が労働等により、昼間家庭にいない、小学校1年生から3年生。平日は放課後から午後7時または午後8時まで、土曜日および長期休暇期間(夏休み等):午前8時から午後7時または午後8時まで開設しており、開設日数は年間291日以上。利用料は有料であり、各施設により金額は異なる。
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施設数(箇所) |
登録児童数(人) |
平成19年 |
11 |
379 |
平成20年 |
12 |
462 |
平成21年 |
12 |
487 |
平成22年 |
16 |
562 |
平成23年 |
20 |
707 |
平成24年 |
23 |
877 |
平成25年(4月現在) |
24 |
981(予定) |
※表3‐2 平成19年度から平成25年度までの富山市における放課後児童健全育成事業の施設数、児童数(富山市こども福祉課へのインタビュー調査から筆者が作成)
富山市放課後児童健全育成事業費補助金交付要綱(平成24年度)によると、補助金の基本額は児童数により異なる。(開設日数291日以上)
(1)児童数10〜19人の放課後児童健全育成事業の運営に要する経費(飲食費を除く)
1か所あたり年額 1,640,000円
(2)児童数20〜35人の放課後児童健全育成事業の運営に要する経費(飲食費を除く)
1か所あたり年額 2,504,000円
(3)児童数36〜45人の放課後児童健全育成事業の運営に要する経費(飲食費を除く)
1か所あたり年額 3,675,000円
(4)児童数46〜55人の放課後児童健全育成事業の運営に要する経費(飲食費を除く)
1か所あたり年額 3,517,000円
(5)児童数56〜70人の放課後児童健全育成事業の運営に要する経費(飲食費を除く)
1か所あたり年額 3,358,000円
(6)児童数71人以上の放課後児童健全育成事業の運営に要する経費(飲食費を除く)
1か所あたり年額 3,200,000円
また、年間291日以上開設している施設には開設日数加算があり、年間291日を越える開設に要する経費(1日8時間以上開設する場合)を1か所あたり年額14,000円×292〜300日までの291日を超える日数分交付している。1日の開設時間が6時間を超え、かつ18時を超える開設に関する経費には長時間加算がされ、平日分(1日6時間を超え、かつ18時を超える開設に要する経費)は1か所あたり260,000円×「1日6時間を超え、かつ18時を超える時間」の年間平均時間数、長期休暇分(1日8時間を超える開設に要する経費)は、1か所あたり117,000円×「1日8時間を超える時間」の年間平均時間数が加算される。
障害児受け入れ推進費という、障害児の受け入れのための専門的知識等を有する指導員の配置に要する経費もあり、これは1か所あたり年額1,520,000円が交付、衛生・安全対策費として当該事業に従事する職員に対する健康診断に要する経費が、職員1人あたり年額4,200円交付される。
第3項 地域ミニ放課後児童クラブ事業
平成18年から開始されたこの事業は、町内会やボランティアといった地域団体が学童保育事業に参入することで、地域の力を生かした子育ての新たな支え合いを推進することを目的として設立された。上記二つの事業の規定を緩和されたことで、地域団体が事業に参入しやすくなっている。地域ミニ放課後児童クラブは、富山県が進める「とやまっ子さんさん広場推進事業」の補助制度を活用し、市が県から交付額の1/2の助成を受け、市から事業実施団体へ補助金が支給されている。
「とやまっ子さんさん広場推進事業」とは、地域の人たちが、子どもたちの放課後の居場所を作り、子育てを応援することを目的とした、富山県の事業であり、平成17年から実施している。とやまっ子さんさん広場推進事業の概要によると、開設期間は年間概ね100日以上であり、夏休みなど長期休業期間のみの開設も可能で(1)、対象児童は原則小学生以下の子ども(場合によっては中学生まで受け入れ可)であり1施設当たり概ね5人以上保育。開設時間は午後2時から午後7時までの原則3時間以上であり、公民館や地区集会場、民家などで開設している。子どもを保育する「世話人」は地域住民・地域の高齢者など。町内会などの地域住民団体やボランティア・NPO活動を行う団体などが実施主体であり、法人格等を取得する必要はなく、世話人は1人以上で、経費の一部を保護者から徴収可能である。
この事業を富山市では「地域ミニ放課後児童クラブ事業」という名称で実施。実施主体は町内会、ボランティア団体、NPO法人等で、公民館や民家等を利用して実施している。 対象児童は原則小学生であり、就学前児童も受け入れ可能である。開設時間 は、平日は放課後から午後6時または7時までの間で原則3時間以上、土曜日および長期休暇期間(夏休み等)は午前8時から午後7時まで(最長午後8時)までである。開催日数は原則年間100日以上であり、利用料は有料。この事業でも放課後児童クラブと同じように利用料は各施設で異なる。
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施設数(箇所) |
1日の平均利用児童数(人) |
平成19年 |
3 |
13 |
平成20年 |
4 |
29 |
平成21年 |
5 |
52 |
平成22年 |
6 |
69 |
平成23年 |
6 |
60 |
平成24年 |
6 |
59 |
平成25年(4月現在) |
7 |
90(予定) |
※表3‐3 平成19年度から平成25年度までの富山市における地域ミニ放課後児童クラブ事業の施設数、児童数(富山市こども福祉課へのインタビュー調査から筆者が作成)
富山市地域ミニ放課後児童クラブ事業実施要綱に基づき実施される事業に必要な経費に対し予算の範囲内において補助金を交付している。交付額の算定方法は、対象経費(後述)の実支出額から寄付金その他の収入額を控除した額と基準額(後述)とを比較して少ない方の額とする。交付条件は(1)補助事業に要する経費の配分又は補助事業の内容の変更をする場合においては、市長の承認を受けること(ただし、軽微な変更については、この限りではない)、(2)補助事業を中止し、又は廃止する場合においては、市長の承認を受けること、(3)補助事業の遂行が困難となった場合においては、速やかに市長に報告して、その指示を受けることである。
対象経費とは、事業の実施主体が事業を実施するための経費であるが、(1)他の補助金の対象となるもの、(2)飲食物に関する経費等については補助対象としない。
基準額は「とやまっ子さんさん広場推進事業」の助成基準に準じており、(1)開設日数100日以上で500千円、(2)開設日数150日以上で750千円、(3)開設日数200日以上で1000千円となっている。(4)開設日数25日以上100日未満(夏休みなど長期休業日のみの開設等)の場合は開設日数に応じて別途協議する金額を交付している。ただし、(1)から(3)までの基準額は指導員を2人以上配置する場合とし、指導員1人の場合は上記金額の1/2の額とする。
第3節 まとめ
この章では公的支援事業の概要について述べた。
国、都道府県、市町村ごとに学童保育事業が推進されてきたことが分かった。市町村が実施している事業は、国や都道府県の制度や事業の枠組みを利用して制定、改正されている。
富山市 |
地域児童健全育成事業(子ども会) |
放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ) |
地域ミニ放課後児童クラブ事業 |
事例 |
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A施設・B施設 |
B施設 |
※表3‐4 事業のまとめ(筆者が作成)
富山市では子ども会の施設数がほぼ横ばいに推移してきているのに対し、放課後児童クラブや地域ミニ放課後児童クラブが年々事業数を拡大してきており、こちらの需要が高まってきているのではないかと考えられる。
また、放課後児童クラブ事業および、地域ミニ放課後児童クラブ事業における待機児童数は延べ56人である。ただし、この数字は各施設に「保育を断った児童の数」を聞いたものであり、児童が重複していたり、他の施設で保育されていたりする可能性があるため、「どこにも保育してもらえなかった児童の数」ではない。
施設数の増加が続いてきたことや待機児童数がそれほど多くないことから、富山市では放課後児童クラブや地域ミニ放課後児童クラブは充実してきているのではないかと考えられる。そのため、この2つの事業に注目し、事業の実態を調査・考察して行きたいと思う。