第三章    先行研究

 

 この章では、B級グルメを用いたまちおこしに関する先行研究を紹介し、本論文を展開していくうえで着目したい観点を示していく。

 

第一節「愛Bリーグ」と「まちおこし団体」の関係性

 

第一項     クラスター理論の有効性

 

吉野・松尾(2013)では、「愛Bリーグ」と「まちおこし団体」の関係性についてPorter(1998b)のクラスター理論を用いて言及している。

クラスターとは既存の産業分類とは異なったカテゴリーとして分類されており、補完製品メーカーや専門的な訓練・教育・情報・研究・技術支援を提供する機関で構成されている。つまり、クラスターという既存の産業分類を超えた諸主体が相互にネットワークを構成し、協同的な関係と競争的な関係を相互に展開することによって、地域のダイナミズムが生まれ、競争力が創造されると述べられている。

吉野・松尾(2013)によれば、「愛Bリーグ」と「まちおこし団体」の関係は「B級ご当地グルメ」を題材にクラスターとして形成されており、「まちおこし団体」の協同的かつ競争的な関係は「B-1 グランプリ」の成果から認められると示している。ここで言う「まちおこし団体」とはB級ご当地グルメでまちおこしを行っている人々を指し、「愛Bリーグ」は全国各地の「まちおこし団体」を統合した協議会である。「愛Bリーグ」は加盟している「まちおこし団体」と互助会的な関係性を持っており、また「B-1グランプリ」は加盟している「まちおこし団体」と共同開催によって、全国に点在するまちおこし活動が集約したイベントである。「まちおこし団体」は「B-1グランプリ」に出展することにより全国的な知名度向上をもたらし、消費者は地元地域から全国規模へと広がっていく。吉野・松尾(2013)は「まちおこし団体」同士が協同的かつ競争的に繰り広げていくことによって愛Bリーグの中にダイナミックな「まちおこし団体」と顧客の関係が構築され、B級ご当地グルメの競争力が創造されると述べた。

 

第二項     「愛Bリーグ」と「まちおこし団体」の戦略の相違

 

B級ご当地グルメ」によるまちおこし活動には戦略性があり、「愛Bリーグ」の戦略と「まちおこし団体」の戦略は独立して存在している。吉野・松尾(2013)は吉野(2011)の提唱する「基本目標と事業コンセプト」の枠組みに両者の戦略を当てはめて考え、戦略の違いを示している。「表31

戦略には基本目標という長期的な視点が取り入れられ、その基本的目標に基づく事業コンセプトの具体的な取り組みを定める必要がある。愛リーグの場合、基本目標は全国にある「まちおこし団体」をまとめ、「B-1グランプリ」を開催し、イベントを成功させることである。「まちおこし団体」の場合、基本目標は「B級ご当地グルメ」を使って地元地域の活性化、自立するためのまちおこし活動にある。また、吉野・松尾(2013)は金井(2002)に依拠しながら事業コンセプトの要素をそれぞれ「どのような顧客=WHO」、「どのようなニーズ(価値)WHAT」、「どのような方法(能力)HOW」を挙げている。「B級ご当地グルメ」の顧客はもちろんそれを食す一般消費者である。戦略の価値と方法について、「愛Bリーグ」では、まちおこし活動に取り組む「まちおこし団体」の会員のサポートをする理念のもと、地元に根付いていたB級グルメを「B級ご当地グルメ」としてブランド化し、「B-1グランプリ」で全国の消費者に提供させる仕組みを行っている。一方、「まちおこし団体」は地元地域活性化のために提供する店舗やボランティアの協力を得て、日常的なまちおこし活動に励みながら、「愛Bリーグ」のもとで「B-1グランプリ」を通じて全国向けての情報発信を行っている。

 

31 戦略の違い

 

 

Bリーグ

まちおこし団体

基本目標

B-1グランプリの成功

地元地域の活性化・自立

WHO

 

一般消費者

WHAT

まちおこし団体

B級ご当地グルメと地元地域

HOW

差別化を測る仕組み

B-1グランプリ

 

基本目標が異なる「愛Bリーグ」と「まちおこし団体」は組織として共存しているわけではないが、愛Bリーグが各地の多様な「まちおこし団体」を用意し、「B-1グランプリ」の成功を目指していること、「まちおこし団体」が「愛Bリーグ」主催の「B-1グランプリ」に出展して全国に「B級ご当地グルメ」を提供し、地元地域の活性化に寄与していることを踏まえると、「愛Bリーグ」と「まちおこし団体」は相互作用の関係性を有しており、「まちおこし団体」は「愛Bリーグ」に包括された体系をとっている。以上から、吉野・松尾(2013)は「愛Bリーグ」の戦略は「まちおこし団体」をまとめ、「B-1グランプリ」を成功させる全体戦略が存在する一方で、「まちおこし団体」は地元地域を活性化させ、自立することを目標とした地域単体の個別戦略が存在すると述べている。また、「愛Bリーグ」の全体戦略と「まちおこし団体」の個別戦略がそれぞれ独立して展開されている一方で、個別戦略を全体戦略に展開したものである「B-1グランプリ」が成果を生んでいることから、吉野・松尾(2013)は、主体は「まちおこし団体」の個別戦略にあり、全体戦略を管理、統合していることを明らかとした。

 

上記で述べるとおり、「愛Bリーグ」と「まちおこし団体」は相互作用の関係を有しており、多くの「まちおこし団体」は「愛Bリーグ」へ加入し、活動の基盤を「愛Bリーグ」に置き、B級ご当地グルメブランドの確立、また地域活性化を目指して地域それぞれの個別戦略を展開していくプロセスをたどる。しかし、後で詳しく述べるとおり、高岡コロッケは「愛Bリーグ」に加入し、「B-1グランプリ」出場を目指したものの、その後「愛Bリーグ」から離脱し、高岡コロッケ独自のやり方でまちおこし活動を展開していくという特殊な経緯を持ち、一般的な「まちおこし団体」のまちおこしの手法とは異なる道をたどってきている。この点に着目し、「愛Bリーグ」と共同的な関係を築くことをせずに独自のまちおこし活動を展開していった高岡コロッケのこれまでの活動の経緯について考察していきたい。


 

第二節 行政の役割

 

 滝田(2010)では、八戸市の「八戸せんべい汁研究所」と栃木市の「じゃがいも入り栃木やきそば会」の事例を比較し、そこから地域活性化に必要な人材、また活動主体などについて述べられている。2つの活動事例や全国の愛Bリーグ加盟団体の例から、B級グルメによるまちづくりは市民団体を結成して行っているところが多く、地域内外で様々な活動に取り組み、市民が積極的に関わっているのが特徴であることが明らかとなった。このことから滝田は、柔軟な発想を持つ人、地域の分析を行い、工夫して情報を発信する人がまちづくりに求められることを指摘し、市民を主体としたまちづくりを進め、市民自ら他地域との差異に気づき、地方から話題を発信していくことが重要であるとしている。他にも滝田は、B 級グルメは伝統的な食文化の継承、観光による地域活性化に結びつきやすいことや、地元の食材を使ったB 級グルメを提供することも地産地消を促進する可能性があること、B 級グルメを活用した新たな食育施策等について述べており、B級グルメが地域の抱える食の問題で担う役割についても考察している。

そのなかで滝田は行政と市民団体との関わり方について、B級グルメを使ったまちおこしは行政が主導して行うのではなく、市民が活動の中心となってまちおこしをするのが望ましいと述べている。滝田の取り上げる事例ではどちらも市民団体が結成され、その団体が中心となって地域内外で様々な活動を行っている。

八戸市の事例では、せんべい汁を売り出す発端は市役所から始まったが、その後せんべい汁の全国展開を目指し、飲食店経営者などのせんべい汁関係者が携わっていないまちおこしに意欲的な市民が集まり、「八戸せんべい汁研究所」が結成され活動の中心が移った。八戸市では、年間 50 万円の補助金を出している。その具体的な内容はパンフレット制作、イベント等の出店経費の一部負担などで、せんべい汁研究所の活動をバックアップしている。栃木市の事例では、栃木市の飲食店・製麺店関係者が「焼きそばを名物にして街おこしを」と集まり、「じゃがいも入り栃木やきそば会」を設立した。会のコンセプトとして他地域との「交流」を掲げており、B 級グルメ関係のイベントや団体にこだわらず、幅広い分野での交流を目指している。主にイベント活動に力を入れてまちおこしを展開しており、他地域のイベントに積極的に出向いている。また、同市で開催された焼きそば会主催のイベントでは栃木市商工観光課、栃木市観光協会などの後援のもとイベントが開催され、行政との連携も取れている。

滝田はこの2つの事例のように市民団体が中心となって行うことで、自由な発想が生かせることや活動のスピードを重視してまちおこし活動が展開できると指摘している。滝田の論文では詳しく言及はされていなかったが、例えば八戸の事例では、B級グルメのブランドの全国展開と食によるまちおこし団体の組織化を目的として愛Bリーグ協議会を立ち上げ第1B-1グランプリを地元で開催したり、せんべい汁の実食機会創出を目的に、大規模試食会をせんべい汁研究所のメンバーが全国数か所をまわり、毎年20回以上の回数を実施したりしていた。これらができたのは市民団体だったからこそ行えた部分もあるだろう。他にも滝田は市民団体の場合、ボランティア団体であるために、資金を確保することが難しいため、行政は市民団体に活動の補助金を支給するなど、市民団体が活動を継続して行えるように活動のサポートをする立場にあるのが良いと述べた。市民団体の良さを失わないために行政とバランスよく関わっていくことが重要であると考察している。

 

後で述べる高岡コロッケの事例を先取りして述べると、最初は高岡市の行政事業の一つとして始まったが、2006年に「高岡コロッケ実行委員会」が発足されたことにより、本部が富山新聞社高岡支社へ移行し、民間主体となって様々な活動を展開している。また、高岡市からは補助金が捻出され、それを活動の資金にしたり、観光対策やイベントに関することは市の観光交流課や商工会議所とも連絡を取り合いながら、相談して活動を行ったりしている。このように、「高岡コロッケ実行委員会」は行政以外では新聞社と商工会議所の役員からなるメンバーで構成されている。八戸市の「八戸せんべい汁研究所」はまちおこしに関心・熱意のある一般市民(せんべい汁やその材料の販売に関わらない人を含む)からなるメンバーで構成されており、メンバー構成に違いはあるものの、活動の主体が行政から民間に移って展開している点や、行政からの資金援助、行政との連携を取りながら活動を進めている点が滝田の主張する八戸市の行政との関わり方と類似しているのではないかと考えられる。したがって、ここでレビューした2事例との比較を念頭において、高岡コロッケの場合の官民協力のあり方に着眼して分析を行いたい。