第一章 問題関心と調査概要

 

 重度の身体障害者が自らの責任において生活を設計する「自立生活」を実現しようとする運動が1970年代から行われている。現在は様々な制度が整備され、国や自治体からの給付金で福祉サービスを自ら選択できるようになるなど、自立生活をするための環境が整ってきたように思われる。しかし、それに伴い、それまで無償の人付き合いで行われていた介助が給与を介した仕事としての介助へと変化していった。介助が給与の発生する仕事になるということは、介助に職業としての専門性を持たせる機運を招くが、そのことで障害者一人一人に合わせたニーズに対応できる柔軟性が失われるのではないだろうか。そこで本研究では身体障害者の介助者を事例として、近年の介護テキスト等における専門性のとらえ方と、それが現場の介助者たちにとってどのようなことを意味するのか、そしてその専門性が介助現場に持ち込まれるとどのようなことが起こりうるのかについて、「個別ケア」という側面から考えていきたい。

 本調査では20126月に、富山県富山市で居宅介護人派遣事業を中心に行うNPO法人文福のスタッフ2人にインタビューを行った。

NPO法人文福は、障害児・障害者、及び高齢者が地域で自立した生活を営めるよう、必要な事業や活動を行うために2002年に設立された。文福の主な活動として、介護人派遣事業がある。文福は居宅介護人派遣事業指定事業所であり、障害者の日常生活と社会参加の保障のために介助派遣を行っている。また、県の指定を受け、重度訪問介護従業者養成研修を行っている。そのほかの活動として、障害者の地位向上や障害者差別をなくすことを目的とした障害者部会や、障害者と健常者の交流の場を作ろうとするレクリエーション活動などがある。