4章      メディア調査

 

 ここまでは世論調査から少年犯罪に対する世論がどのように変化しているのかを探ってきたが、ここからはメディアの報道に注目し、少年犯罪の種類ごとの報道件数の変化を調べていきたい。

 

4-1 調査方法

 

 内閣府が行った『少年非行に関する世論調査』には情報源としている媒体を聞く質問がある。この質問は複数回答であるが、テレビが83.7%と高い数値を示している。だがテレビ放送は録画していない限り後から検証することが出来ない。そこで後から検証することが可能で、情報源としては2番目に多い新聞を使って調査を進めていくことにした。新聞には「朝日新聞」、「読売新聞」、「毎日新聞」といった全国紙があるが、その中でも入手しやすい「朝日新聞」の記事から分析をしていくことにした。新聞記事の入手については朝日新聞データベースである「聞蔵」を利用した。「聞蔵」では過去の「朝日新聞」の記事に期間を絞ってキーワード検索することができ、見出しに特定の言葉が含まれた記事だけを抜き出すことも可能である。ただ、全く関係ない記事も検索結果に現れることがあるので注意が必要である。この調査で使われている記事は全て「聞蔵」で入手したものである。

 調査期間は世論調査の直前の記事が世論調査に影響を与えるという仮説に基づき、内閣府の世論調査が行われる3ヶ月前から世論調査が行われるまでに絞った。これは調査期間が長くなるとデータが膨大になり、分析できなくなることを防ぐ為である。それぞれの調査期間は1998年が19日から49日まで、2001年が815日から1115日まで、2005年が20041013日から2005113日、そして2010年が825日から1125日までである。

 調査は世論調査の少年犯罪の分類に基づき、少年犯罪の種類ごとに記事件数を調べていくことにした。まずは『少年非行に関する世論調査』内の「社会的に見て問題だと思う少年非行」という項目の回答のうち、結果がわかりやすい「刃物を使った殺傷事件」と「いじめの問題」に焦点を当てて行うことにした。どちらも特定の年に大きく変化しているからである。「聞蔵」で特定の言葉を使ってキーワード検索を行った後、見出し検索で見出しに特定の言葉が含まれている記事を検索した。キーワード検索の後で見出し検索を行ったのは、見出しに特定の言葉が使われているほうが記事の中で特定の言葉が使われているよりも目立つからで、それが世論調査の結果に影響を与えている可能性があるからである。「性非行」については警察白書からキーワードになりそうな言葉を抜き出し、その言葉をもとにキーワード検索と見出し検索を行った。

 


 

4-2 殺傷事件について

 

 「聞蔵」で「少年、殺人」をキーワードにして検索してみると、1998年には全部で172件の記事が見つかった。同じ条件で2001年、2005年、2010年も検索してみると、それぞれ92件、117件、102件の記事が確認できた。これらの記事の中には関係ない記事も含まれており、実際の数はこれよりも少ない。また2001年と2010年には過去の事件の裁判の様子を報道する記事が多くあった。1998年で目立つのが「ナイフ」という言葉である。この年は少年のナイフ所持が問題となっており、実際にナイフを使った事件も多く報道されている。少年非行の防止に焦点を当てた記事でも見出しには「ナイフ」や「刃物」という言葉が目立ち、期間内の少年非行防止に焦点を当てた15件の記事のうち6つの記事の見出しに「ナイフ」または「刃物」という言葉が使われている。読者の意見にも少年が刃物を持つことについての投稿が多く、世間の注目度が高かったことがわかる。この年以外には目立った言葉はなかった。

それぞれの年の報道内容を詳しく見てみると1998年に報道された少年による傷害事件のなかで大きく報道された事件として129日に栃木県で発生した教師刺殺事件があげられる。この事件は全国的に報道され、少年のナイフ所有に関する議論や規制が始まったきっかけでもある。この事件が発生した1月以降の記事ではナイフが簡単に入手可能だったことを報じている。

 

  店長は「バタフライナイフは数千円と安いので、一般のおもちゃ屋にも置いてある。片手で刃を出せるので、最近では釣りをする子供が『糸を切ったりするのに便利』と買うこともある」と話す。(「「趣味で収集、いいんじゃない」 町ゆく少年のナイフ所持【大阪】」『朝日新聞』1998.2.3.朝刊)

 

 ナイフを使った犯罪を防止するために県や警察ではナイフ所有や規制についての議論が行われ、その様子が報道されている。また販売店への販売の自粛や少年にナイフを売らないことを呼びかける活動が行われるようになった。すでに所持している場合の対策として学校で所持品検査が行われたこともいくつか報道されていた。記事の中には少年にインタビューを行ったものもあり、その中にはナイフを持っている少年や友達がナイフを持っていることを知っている少年が登場する。そこで語られるナイフを所有する理由はファッション感覚というものから護身用までと幅が広かった。

2001年に報道された少年による傷害事件のうち、期間内に大きく報道された事件はなかった。またいくつかの事件に共通するキーワードとして「強盗」があげられるが、その数はあまり多くない。

2005年に報道された大きな事件としては、20041024日に発生した栃木・宇都宮の男性監禁事件や、20041124日に発生した水戸の鉄アレイで両親殺害の事件などがあり、その他にも小さな事件が平均で十日おきに報道されている。傾向としては、監禁や親などの大人が被害者となっている事件が多く、また加害者の年齢層は18歳や19歳が多かった。また検索した期間に起きた事件ではないものの、その一か月前には金沢市で、18 歳の少年二人が両親を刺殺する事件が起きており、加害者の少年に下された処分に関する記事も見られた。また、少年犯罪防止の具体的な動きに関する記事が7件と比較的多くヒットした。

2010年に報道された大きな事件として大阪府池田市の高校一年生放火事件が7回、兵庫県神戸市須磨区で起きた22歳の無職の男性に少年二人が暴行を受けた事件(加害者でではない少年が加害者と共謀する形で犯行に関わり、最終的に窃盗等の余罪で逮捕された)が13回報道されていた。また、小さい事件の中にナイフ等刃物を凶器とした事件が5件だけ見られた。

 

4-3いじめについて

 

 1998年に報道された調査期間内で「いじめ」をキーワードに聞蔵で調べてみると556件出てくるが、その多くは読者の声である。見出しを「いじめ」で検索してみると記事の数は63件まで減少した。いじめの場合でも先ほどの傷害事件と同じようにナイフ所持が問題に上がっている。ただしいじめの場合は、学校にナイフを持ってくることが問題にあげられ、学校で事件が起きるたびに持ち物調査が行われたことなど学校側の対応が報道されている。記事の書かれ方としては事実のみを報道している記事が多いが、被害者が亡くなっている場合は被害者の親のコメントや様子が記事に載ることがある。その場合は事実を明らかにすることを求める声か被害者の親の心情が書かれていることが多い。いじめが発覚した後の学校の対応としては、いじめの実態を把握する調査が行われることがほとんどである。いじめに関する大きな事件として埼玉県の東松山ナイフ事件があげられる。この事件では記事がその場で見ていたかのように詳しく書かれている。この事件に関連する報道では事件が起きた背景やその後の学校の対応が詳しく書かれており、事件を身近なものだと感じさせられる。

 2001年の調査期間内を「いじめ」をキーワードに聞蔵で検索してみると全部で278件あるがそのほとんどは講演会や戦争に関することだった。見出しを「いじめ」で検索すると記事の数は38件になった。また文部科学省が行った問題行動調査のデータを使った記事が21件あり、その見出しからはいじめや暴力行為が増加しているように見える。

2005年の調査期間内を「いじめ」という言葉で検索してみると215件の記事が見つかったが、その多くは講演会や今回の調査とは関係ない事件の記事だった。そこで「いじめ」で見出し検索をして絞り込むと、ヒットするのは11件と圧倒的に少なかった。その中でいじめと断定できる記事の数は0件であり、ヒットした11件のうちほとんどは過去のいじめ自殺を教訓とした相談会や、過去のいじめ事件の訴訟を扱った記事だった。

2010年の調査期間内の記事を「いじめ」という言葉で検索してみると、全部で293件の記事が見つかった。その中の見出しにいくつか「いじめ」という言葉が出てきたので見出し検索をしてみると、全部で68件の記事が出てきた。この中で大きく報道された事件は、群馬県桐生市で起きた小6女子いじめ自殺事件だけだったが、その記事数は15件と全体の4分の1を占めていた。またいじめが原因で自殺や自殺未遂をした記事もいくつかあった。県ごとに行われるいじめ調査の記事が26件と比較的高い割合で見つかっている。これに関しては8月〜12月にかけて全国的に調査が行われていることが関係していると思われる。

 

4-4性非行について

 

 警察白書でキーワードになりそうな言葉を探してみたところ、「強姦」、「強制わいせつ」という言葉のほかに「遊ぶ金ほしさ」という言葉が出てきた。そこで先ほどの言葉に「売春」や「援助交際」という言葉を加えてキーワード検索と見出し検索を行った結果が以下の表である。なお記事の中には「強姦」の代わりに「婦女暴行」という言葉を使っていた記事もあったため、「婦女暴行」でも同じように検索を行った。その結果は以下の表のようになる。

4-4-1

4-4-2

これらの記事の中には講演会や法律に関するものも含まれているため、事件を報道している記事はこれよりも少ない。「売春」や「援助交際」の記事は1つの事件あたりの報道数が少ないため、大きく報道されてはないと思われる。また「強姦」、「婦女暴行」、「強制わいせつ」には少年によるものではない事件が多く含まれているため、それぞれの言葉に「少年」を追加し再度キーワード検索を行った。「強姦、少年」で検索し直すと1998年は6件、2001年も6件、2005年は12件、2010年は25件まで減少した。「婦女暴行、少年」の場合は1998年が16件、2001年が2件、2005年が0件、そして2010年が1件という結果になった。「婦女暴行」で大きく報道されていたのが1998年に発生した「帝京大学ラグビー部事件」だった。この事件には13件の記事が存在し、同じ時期に大学生による婦女暴行の記事が他にも何件かあったことから問題としてとらえられている。「強制わいせつ、少年」で検索を行うと1998年が18件、2001年が4件、2005年が7件、2010年が13件という結果になった。「強制わいせつ」で大きく報道されていたのが2004年の「国士舘大サッカー部員事件」で7件の記事が見つかった。サッカー部の事件の中には市が出した性犯罪防止を求める決議も含まれていた。またこの時期は大学生による強制わいせつの記事が他にも何件もあり、社会的な問題としてとらえられている。