第五章 考察

 

第一節 高齢者利用の阻害要因

 

第一項 導入時の否定的事情

 高齢者の端末利用が促進されない理由として、端末導入時のトラブルが大きく起因していると考えられる。

まず、事業参加のきっかけである。第四章でも述べたが、利用方法を理解してもらうための集落単位での募集だったので、みんなが入ったから仕方なくといった「体裁的参加」をした利用者が、現在端末を利用していない高齢者に多いのではないかと思う。

また、導入時の端末の不具合も、高齢者にとって端末への興味をそぐ要因になったと思う。今回インタビューをした利用者は、全員、端末導入当初にテレビ電話を使ってみたと語っている。つまり、初めから興味がなくて使わないのではなく、使ってみて画面が「砂嵐」のように乱れたりして印象が良くなかったから、結果使わなくなってしまったのである。また、今回の端末は実際に使ってみて改良するというスタンスで利用が始まったため、現在までに3回あった端末の交換のために時間を割かなくてはいけなかったことも、高齢者にとっては負担となったのではないだろうか。導入当初から100%の状態に仕上げるのは、困難なことだが、コンピュータリテラシーを持っていない高齢者に、ICT技術に馴染んでもらうには、第一印象が非常に重要であると考えられる。

しかし私は、「体裁的参加」や「不具合」が問題なのではなく、参加した後のサポートが高齢者の利用者にとっては不十分だったことが、利用されていない現状の原因ではないかと思う。

先行研究の山田村の事例(第二章第一節)で、山田村が実績を残せた理由として「導入当初にリーダーシップを持った人材がいたこと」が挙げられており、パソコンリーダーのための研修も行われていた。リーダー側としてもやるべきことが明確化されていたので、活発に活動していたのではないか思う。また、奥出雲町の事例(第二章第二節)では、定期的に高齢者にテレビ電話をかけたりして、高齢者側から明確な頼りどころとして認知されている。

南砺市の事業でも、集落マネージャーやコールセンターが設置されていた。しかし、それらは、各戸に端末を導入するまでの期待される役割については比較的明確だったものの、導入後の役割については統一的なものはなく、活動は各々に任せられていた。したがって、包括的なサポートのあり方も手探りの状態であり、そのためか、インタビュー調査からは、高齢者が困ったときの頼りどころとして設置された「集落マネージャー」にも関わらず、高齢者に存在がうまく認知されていない状態であることがうかがえた。また、市役所の市川さんが設置全戸を回った時、回りきるのに3カ月かかったと語っており、1人では限界があるため、改めて高齢者に身近な集落マネージャーの存在は必要不可欠であることが分かる。

私は、高齢者はICT技術に対して強い抵抗感を持っていると思っていたが、今回のインタビュー調査で、導入当初、物珍しさで使ってみたという意見が多く、新しいものに適応しようという意識を持っていると感じた。しかし、今回の事業では、不十分なサポートや知識のまま利用し始めてしまった。そのため、利用者が操作に混乱してしまい、導入当初に端末の使用に躓き、「やはり、高齢者には使いこなせない」と利用を止めてしまったりしたことが、現在の利用状況の原因になっていると思う。

 以上より、ICT技術を高齢者の生活の中に浸透させるには、導入当初からサポート体制を整え、高齢者の新しいものに対する興味をそのまま継続的な利用に繋げていけるような体制作りが必要だと考えられる。

 

 

第二項 習慣との相違点

ふれiTV端末が、高齢者が今まで使ってきた「固定電話」との違いが多く、馴染みづらいというのも、利用を阻害している一因であると考えられる。

まず、「形」である。タッチパネルに対して抵抗があると答えた高齢者はいなかった。確かに、お知らせや買い物サービスはタッチパネルだと操作は高齢者にとっても容易に出来るし便利だと思う。

しかし、電話に関しては違う。

 「電話=受話器をとる」というのが、高齢者の認識であり、60年以上行ってきた習慣なのである。実際、奥出雲町の事業では、高齢者の抵抗感を少なくするために、テレビ電話に受話器をつけている。顔を見て話せるというメリットより、習慣と異なった操作をしなければいけないデメリットが高齢者の中では上回ってしまい、テレビ電話自体を排除してしまうのではないだろうか。改めて、高齢者に新しいサービスを浸透させるためには、高齢者向けの工夫の重要だということが分かった。

 次に、「音」である。今回のインタビュー調査で「音に馴染がない」ことが、テレビ電話の利用を妨げている原因ではないかと語る利用者が多かった。パソコンや携帯に慣れていれば、多少の呼び出し音の違いは気にならないかもしれない。しかし、多くの高齢者は日常生活で固定電話のみを利用している。固定電話は各家庭で呼び出し音が決まっているため、「自分家の呼び出し音=電話」と認識している高齢者が大多数だと思われる。つまり、スカイプの独特の呼び出し音は電話として認識されないため、テレビ電話がかかってきている事にも気が付かないことも多いのではないだろうか。すると、テレビ電話をかけた側も電話が繋がらないからと、次から固定電話の利用を選択してしまう。その結果、テレビ電話を使う機会がなくなり、ひいては、テレビ電話の良さを感じてもらう機会、慣れてもらう機会を失ってしまっていると思う。

 以上より、ICT技術を高齢者の生活の中に浸透させるには、高齢者にとって使いやすいように簡単な操作にするのはもちろんのこと、今までの習慣との相違点を出来るだけなくし、高齢者の抵抗感を少なくすることも非常に重要だと考えられる。

 

 

 

第二節 端末機能ごとの利便性

 

 ふれiTV端末には、大きく分けて、テレビ電話機能とタッチパネル機能の2つがある。それぞれの利便性について考察していきたい。

 

 第一項 テレビ電話機能

 南砺市役所の市川さんは「テレビ電話の利用は医療とかそういう目的をもったものか、親族との会話というようにターゲットを絞っていくことで有効に使われるのではないか」と語っている。

現在、テレビ電話を使った健康相談や見守りなどの直接的なコミュニケーションは、あまり活用されていない。しかし、今後、日本はさらに高齢化していくことが予想され、高齢者に直接会って健康相談や見守りを行うには限界がある。そんな中で、テレビ電話でのコミュニケーションの需要は高まるのではないかと思う。また、現在は、あまり活用されていないテレビ電話での健康相談や見守りだが、私は高齢者の生活に浸透する可能性があると思う。

 ここで、第四章第六節のTさんと孫の関係の変化に注目してみたい。テレビ電話を使う前は、直接会っているにもかかわらず、言葉を交わしてもお互いによそよそしい感じだった。しかし、テレビ電話を使うようになってから、テレビ電話を通していても顔を見て話す機会が増えたことで、直接会っていなくてもお互いに親しみが生まれ、直接会った時のコミュニケーションが変化している。つまり、テレビ電話でのコミュニケーションで築いた親しみや信頼感は、直接的なコミュニケーションにも影響するのだ。よって、直接会って話をすることが最も好ましいことだが、テレビ電話でも、高齢者と第三者に親しみが生まれ、十分な健康相談や見守りが可能だと思う。

 また、テレビ電話のデメリットに「プライベート空間を他人に見られること・見てしまうこと」が挙げられている。しかし、先行研究の山口県の事例で述べたように、プライベート空間(=自宅)という最も落ち着く場所で出来るテレビ電話は、高齢者の自己開示が促進されるというメリットにもなる。これにより、自然体な高齢者とより親密な健康相談や見守りが可能になると思う。

 ただし、第四章第五節内で述べたように、高齢者は初めはテレビ電話でのコミュニケーションに対して、少なからず抵抗感を持っている。したがって、社会福祉協議会など支援する側が定期的にテレビ電話をかけるなど継続的な支援を行い、徐々に抵抗をなくしていくことが重要だと考えられる。また、単身高齢者や寝たきりの高齢者など、見守りサービスを必要としている人がテレビ電話を使えるように、支援する側のサポートも重要だと考えられる。

 

 

 第二項 タッチパネル機能

 タッチパネル機能であるお知らせや買い物支援は、高齢者に理解されつつある。タッチパネル機能は、生活に直接関係する情報を扱っているため、高齢者が関心を持ちやすいことも浸透しつつある理由だろう。また、指で直接触れて操作するため、高齢者にとって分かりやすいことも、キーボードやマウスと比較してタッチパネルが受け入れられている理由だと考えられる。先行研究の奥出雲町の事例も、端末はタッチパネルであり、高齢者にとってタッチパネルが有効であることが改めて分かった。

 しかし、お知らせ機能が今後高齢者の生活に浸透していくためには、集落のお知らせの発信する役割を担っている集落マネージャーの活動が重要となってくる。高齢者はタッチパネルの操作に困惑していないことが分かった。つまり、お知らせ機能を使うか使わないかは、お知らせのコンテンツ次第なのである。お知らせ機能は、文字だけでなく、写真・動画も載せることが出来るため、多様な情報の発信に利用できる。したがって、多くの集落マネージャーに、Nさんのように集落の寄合やイベントなどの生活に密接に関係していて、かつ高齢者が興味を持つような情報をお知らせ機能を使って発信してみて欲しい。お知らせ機能は、ふれiTV端末の機能の中で、最も多くの利用者に浸透しうる機能だと思う。よって、市役所、集落マネージャーが積極的に発信することがお知らせ機能の利用、ひいては端末自体の利用の促進に繋がるのではないだろうか。

 

 

 

第三節 今後の展望

 

 Sさんは、ふれiTV端末について以下のように語っている。

 

自分の家の電話ならすぐ出るけど、このふれあいテレビやと、全然また別のもんやと考えとる。(中略)このテレビ電話に関しては、全然もう、無用の長物っていうか、うちらの住んどる世界とは違うもんみたいな考え方を高齢者たちはしられるんじゃないですかね。

 

現在、パソコンリテラシーがない高齢者は、便利であると分かっている一方、電話でもテレビでもないテレビ電話は馴染みがないこと、そして習慣から今まで使ってきた固定電話を選択してしまっている。今、端末を利用している世代は、以前からのパソコンとの繋がりが薄いため、新しいものに対する抵抗感が新しいものに対する適応力を上回ってしまっており、利用に結びつきにくいのだと思う。今後、見守り世代が後年齢化していき、高齢者世代にまでタブレット端末が普及することで、高齢者の抵抗感は弱まっていき、利用は促進されていくのではないだろうか。

 また、今後利用が促進されるためには、集落マネージャーなどの支援する側のサポートの充実が必要不可欠である。前述したように、高齢者はふれiTV端末を便利なものとして認識している。しかし、その認識が利用に結びついていないのは、使い方が分からなくて、自分の生活にとって便利だと感じたり、操作に慣れたりする前に使うことを放棄してしまうからではないだろうか。また、特にテレビ電話は、有効に活用されるシーンが限られていると思う。単身高齢者や寝たきりの高齢者など、サービスを必要としている人が使えるように、集落マネージャーやホームヘルパーなど支援する側のサポート体制を強化すれば、利用は促進されていくと思う。

 高齢者の生活に新しいサービスを浸透させるには、今までの習慣と適応させなければいけないため時間がかかる。また、現在、あまり利用されていないのは、習慣との相違の他にも、世代の問題や遠方の家族のスカイプの普及など、様々な理由が考えられる。そのため、今後の利用状況は変化していくと考えられ、高齢者のICT技術の利用の可能性に対して、結論を急ぐ必要はないと感じた。また、テレビ電話などすべてのサービスが全員にとって有効ではないため、ふれiTV端末は多様な使い方がされるだろう。南砺市役所の市川さんは、今後、防災面を機能向上とした端末として、山間地全世帯への設置。そして、血圧測定も取り込んだ健康相談業務を展開していきたいと語っており、これからも様々なサービスが追加されていくと考えられる。高齢者が自分にとって必要なサービスを取捨選択し、ICT技術のサービスを生活の中に取り込むことで、高齢者の生活はさらに便利に、そして活性化されるのではないだろうか。