第三章 調査概要
第一節 南砺市そくさいネット「ふれiTV」事業の概要
本論文の調査対象である南砺市のそくさいネット「ふれiTV」事業の概要について、南砺市役所企画情報課の事業担当者市川さんと、端末を開発した「株式会社 ヨーズマー」(1)の津村さんに行ったインタビュー調査の内容をもとにまとめてみたい。
第一項 目的・経緯
そくさいネット「ふれiTV」事業は、平成21年(2009)総務省の「ユビキタスタウン構想推進事業」(2)の一環として、行政(市役所)によって発案された。
事業の経緯は以下の通りである。
2009年12月 総務省「ユビキタスタウン構想推進事業」の
対象事業として交付が決定。 (交付金 88,947千円)
2010年 6月 住民説明会・募集 (1回目)
11月 集落代表者・集落マネージャー
12月 集落マネージャー説明会
利用者説明会 ふれiTV端末設置
住民説明会・募集 (2回目)
2011年 2月 試験運用開始
3月 そくさいネット「ふれiTV」事業の発表会が開催
4月 本格的に運用開始
7月 利用者再募集の説明会を開始
2012年 7月 買い物支援 開始
南砺市では、ICT技術を取り入れた事業は今回が初めてで、南砺市の既存のネットワークとリンクしながら、高齢者を支援をしていけないかということで取り組んだ。
南砺市の既存のネットワークは3つある。
<地域ICT対面型ネットワーク>
地域ICT対面型ネットワークは、民間企業・地元商店・JAなどの企業間を結ぶテレビ電話のネットワークである。
主に、事業開発、業務の打ち合わせなどに利用されている。
<地域公共ネットワーク>
地域公共ネットワークは、南砺市は合併に伴い、新しい庁舎を建てるということをしないため、既存の8つの庁舎を結んでいるものである。
8つの庁舎が情報連携しながら、行政を進めていくのに利用されている。
<地域ICT医療ネットワーク>
地域ICT医療ネットワークは、南砺市の病院・診療所をつなぐネットワークである。南砺市内に病院は2つ、診療所が3つ、そして、南砺家庭・地域医療センターが1つある。南砺市の広さに比べ、医療機関が少ないことが分かる。
よって、住民がどこの医療機関に行っても診察を受けることが出来るように、電子カルテを共有したり、診療所では分からない症状の時に、病院に確認することにも利用されている。
以下の図は、高齢者をとりまくネットワークの概要をまとめたものである。
【図3−1】 (南砺市役所ホームページより転載)
事業の目的は、行政とか福祉施設、商業施設とも連携しながら、高齢者の安心、安全な暮らしを確保するため、地域ぐるみでの高齢者世帯や限界集落(3)の支援環境を整備すること。そして、南砺市の肝である世界遺産を持つ五箇山村地域の活性化である。
2010年の6月くらいから市の広報に記事を掲載し、集落単位で募集・説明会を行うなど事業の宣伝が広く行われた。2011年2・3月に行われた試験運用を経て、4月から本運用が始まっている。7月からは、市の広報に記事を載せたり、利用者説明会を開催するなど利用者の再募集を行っている。今までは、利用方法を理解してもらうために募集は集落単位だったが、今回からの再募集では家族など見守る人がいるのであれば、個人でも受け付ける。
当初、サポート業務は「ふれiTV」端末の開発をしたヨーズマーが担当していたが、2012年の4月からサポートは「となみ衛星通信テレビ(株)」に移行し、ケーブルテレビ会社のサービスの1つとして普及させている。
第二項 事業
「ふれiTV」事業の大きな特徴は、日本で初のスカイプを利用した高齢者支援事業ということだ。
南砺市役所の市川さんは、スカイプの特徴であり利用する利点として、
・インターネット(今回の事業ではケーブルテレビの回線)があれば利用できる
・インターネットの使いほうだいの料金プランになっていれば料金は心配ない
・サービスそのものにお金がかからない
・さまざまな媒体(パソコン・スマートフォン・スカイプTVなど)とテレビ電話可能である
・電話がハンズフリーなので家族みんなの電話になること
を挙げている。
しかし、高齢者世帯にはインターネット回線に入ってない世帯も多いので、今回の事業ではインターネットを接続する工事の費用を市役所が負担している。また、五箇山村地域のケーブルテレビの加入率が100%であるので、ケーブルテレビのインターネット回線を利用している。また、家庭内に設置された端末は無線通信機能(WiFi)を利用しているので、家庭内の配線をさわる必要もないし、無線が届く範囲内であったらどこにいても利用することができる。
この事業では、3種類の端末が各所に設置されている。
1.世帯等設置端末(ふれiTV)
現在、平・上平・利賀の五箇山村地域を主に310台が世帯の中に入っている。また、行政センターをはじめ、社会福祉協議会、デイサービスセンター、保育園などに33か所に40台が置かれている。
機能は、TV電話(双方)、お知らせ(受信のみ)、各種サービス(今後付加)がある。
2.高機能端末T(msi端末)
現在、社会福祉協議会・介護センターなどの福祉関係の施設や、農協・食料品店・建設会社などの民間企業に50台設置されている。設置されている民間企業は、今後追加予定の「各種サービス」などで利用を図っていく会社である。
機能は、TV電話(双方)、お知らせ(発信のみ)、各種サービス(今後付加)がある。
3.高機能端末U(mac端末)
現在、30台設置されており、南砺市の8地域の行政センターに1台ずつ、そして福野や福光などの庁舎の各課などに置かれている。
機能は、TV電話(双方)、お知らせ(発信のみ)、各種サービス(今後付加)がある。
この台数は、事業当初の数である。前述したように、利用者の再募集を行っているため、世帯等設置端末(ふれiTV)の数は増えている。
第三項 端末機能とサービス
ふれiTV端末は、大きさ19cm(W)×13cm(H)×2.3cm(D)のアンドロイド端末である。端末はバッテリー式で、卓上タイプの充電器で充電される。以下の図は、ふれiTV端末のトップページである。
ヨーズマーが高齢者向けの端末を作ったのは今回の事業が初めてである。この端末は、高齢者に配慮されており、例えば、操作はできるだけ簡単にされていて、少ない操作で目的の機能を早く呼び出せるように、3回タッチしたらどの機能も使えるように作られている。
ふれiTV端末の利用料は、現在無料期間中である。2013年4月から一部有料化される予定。高齢者以外の世帯の利用料は通信料を含め、月約3,000円。高齢者の世帯の利用料は、助成制度を利用して月1,000円で予定されている。
端末は、高齢者の要望を聞き、改良されている。最近では、スタンドがスピーカー内蔵になり、以前より音が拡張されるので、高齢者にも聞き取りやすくなった。
【図3−2】 (南砺市役所ホームページより転載)
端末には、テレビ電話機能、お知らせ機能があり、また、この端末を利用したサービスとして買い物支援や見守りがある。以下それぞれに関してくわしく説明する。
1.テレビ電話機能(スカイプ)
テレビ電話機能は、主に高齢者が遠く離れた子供や孫たちやお友達と連絡する手段として導入された。
スカイプは、お互いにスカイプIDを登録していないと繋がらないため、迷惑電話やオレオレ詐欺などが防止されている。
端末の会話ボタンをタッチすると、お気に入り画面が出る。お気に入り画面は、よく電話する相手を4件まで登録しておくことができる。また、各個人は写真付きで登録されており、相手を探しやすいように高齢者に配慮されている。そして、発信したい相手の写真をタッチするだけで、相手にテレビ電話がかかる仕組みになっていて、タッチ3回で操作を完了することができる。
スカイプIDの追加登録は、市に申請書を提出すれば、市がサーバーにスカイプIDを登録してくれるので、高齢者が難しい操作をしなくても済むようになっている。
この端末では、スカイプは基本1対1である。多人数も出来ないわけではないが、難しくし過ぎると、高齢者が混乱してしまうため、出来るというふうにはうたっていない。
2.お知らせ機能
おしらせ機能は、市と集落に設置されている高機能端末T・Uなどで入力した内容が、ふれiTV端末に画像のような記事となって自動に表示される。お知らせ画面は、以下の図の通りである。
【図3−3】 (ふれiTV公式サイトより転載)
各記事は、画面左側の「見る」のボタンをタッチすると、より詳細な内容を見ることができ、その画面では動画を再生させることもできる。また、拡大ボタンで文字サイズを変更することもできる。お知らせが入ると、ピンポンと音がなる。
ただし、警報やクマ出没情報などは「緊急情報告知」として通常の黒い画面ではなく、赤い画面で表示される。「緊急情報告知」の記事が入った時は、大きな音とともに「緊急情報が入りました。緊急情報が入りました」という音声が鳴り、通話中(操作中)でも画面がお知らせ画面に切り替わる。
(1)市発信のお知らせ
2012年4月から、市のホームページとお知らせが機能連動し、市のホームページに掲載されたお知らせが、毎日自動で端末にも表示されるようになった。
よって、気象情報や道路情報など、生活に密着した情報をタイムリーに得ることが出来るようになった。また、南砺市の中で開催される祭りの情報や、一般会計の予算などの記事も表示されるので、自分が住んでいる地区以外の動き(=南砺市中の動き)が、わざわざホームページを見ることなく知ることが出来る。
お知らせ機能は、情報をお茶の間に直接提供することで、高齢者の生活を守り、「安心感」を与えること。また、毎日降ってくる市の新しい情報に触れて、高齢者を「リフレッシュ」するという両面の役割を担っていると市川さんは語っている。
(2)集落発信のお知らせ
各集落の集落マネージャーや各地区の社会福祉協議会などが、集会や、集落内の祭りなどの記事を発信する。各集落マネージャーには、IDとパスワードが配布されており、これら2つを知っていれば、集落マネージャー以外の人でも記事を発信することができる。
また、各記事には、地区コードが設定されているので、集落ごとに表示される記事とされない記事を分けることが出来る。
3.買い物支援
2012年7月1日からサービス開始された。
南砺市の食品スーパー「サンキュー」・JAなど計16社が表示され、店舗と直接テレビ電話をして買い物することが出来る。
【図3−4】 (中日新聞『CHUNICHI Web』より転載)
画像左上の「サンキュー ネットスーパー」は画面を操作して商品を選ぶだけで買い物ができ、自宅まで宅配してくれる。
野菜や魚、肉などの生鮮食品、惣菜、日用雑貨など計2,500種類くらいを取り扱っており、スーパーに行くのと同様の買い物が出来る。
午前9時までに注文すれば、当日の夕方から夜にかけて配達することが可能であり、手数料が350円。3,000円以上の注文で手数料は0円になる。
高齢者に対応して、通常のインターネットでの買い物と異なっている点が2つある。
一つ目は、サンキューのページに入るときにIDとパスワードの入力が不要ということである。これは、高齢者に煩わしい操作をさせないように、端末で認証されるようになっている。
二つ目は、支払いは必ず現金決済ということだ。通常のネットスーパーは、クレジットカード決済が出来るが、この端末を利用した買い物は、クレジットカードに慣れていないであろう高齢者に、通常の買い物のように現金での決済ができるように代引きでの取引に限定されている。
利賀などの山間部の地域は、スーパーまで片道1時間かかるところもあり、また、豪雪地域でもあるので、高齢者の方々の反応は良い。
4.見守り
(1)社会福祉協議会による見守り
65歳以上で一人暮らしの高齢者などを対象に、定期的にスカイプを利用して安否確認など、日常生活の援助を行っている。
(2)市役所による見守り
バックエンド側で、高齢者がお知らせを見たか(=端末に触れたか)が把握できる。そのため、天気予報などの情報を毎日流し、高齢者が毎日お知らせを見てくれるように工夫している。集落単位のリストで、見てない人を特定することが出来るので、安否確認の役割を果たしている。
第四項 利用者
ふれiTVの利用者は、利用方法を理解してもらうために集落単位で募集され、応募があった全集落に設置された。2011年7月からは利用者の再募集を行っている。今回からの再募集では家族など見守る人がいるのであれば、個人でも受け付ける。以下の図は、2011年7月時の利用者の年齢別構成のグラフである。
【図3−5】
利用実態は、高齢者のみの世帯(70歳以上)と一人暮らし世帯(65歳以上)が全体の40%を占めており高齢者の割合は比較的高い。しかし、このグラフの分類上、利用者が高齢者でも64歳以下であったり、高齢者が利用していても69歳以下の同居している家族がいる場合、「3.その他の世帯」に分類されてしまうため、実際はこのグラフより高齢者の割合が高いのではないかと思われる。
また、割合は少ないが、高齢者が一人もいない利用者世帯もある。このような利用者世帯がある理由は、利用者を高齢者だけに絞ると、画面に触れる行為に慣れていないために、機械に馴染めなかったり、事業について理解してもらえないため、集落の中に高齢者をサポートする存在(=集落マネージャーなど)が必要だと考えられたからである。
第五項 サポート
利用者が端末について分からない事があった時のために、2つの頼り所が用意されている。
一つ目は、集落マネージャーである。集落マネージャーは、利用者が困った時に頼る相手として各集落に配置されていて、ある程度パソコンが出来る、少し若い人が選ばれている。集落マネージャーは、ふれiTVのお知らせ機能で、その集落限定のお知らせ(回覧板など)を発信する役割も担っている。
二つ目の頼り所は、となみ衛星通信テレビが行うサポートセンターである。ふれiTVの端末にボタンがあり、そこを押す事で、テレビ電話で質問することができる。また、場合によっては、直接利用者宅を訪問して対応することもある。
事業開始当初は市役所のコールセンターが、端末の操作に慣れてもらうために、高齢者宅にスカイプをしていた。しかし山間部の高齢者は昼間外に出ていることが多いため繋がらないこと、またコールセンターの担当者相手に会話が続かないことより、無理押しの会話は意味ないと気付き、7か月で止めた。
第二節 利用者インタビュー調査概要
今回の調査では、以下の方々にインタビュー調査を実施した。現在も継続して利用している利用者にお話しを伺った。
【Tさん(67歳 女性)】
南砺市役所の市川さんより、テレビ電話を遠方の家族と利用している利用者として紹介して頂いた。
旧平地域内に一人暮らし。現在、自宅近くの豆腐屋で働いている。娘さんが2人いて、富山市と小矢部市に嫁いでおられる。
パソコンは、あまり使えない。
【Iさん(女性)】
小矢部市在住。Tさんの娘さん。
高齢者と離れて暮らしている家族のお話を伺いたくてTさんに紹介して頂いた。
この事業が始まる前からTさんとのテレビ電話することを考えていたそうで、この事業への参加を迷っていたTさんに参加を勧めた。
【Nさん(50代 男性)】
南砺市役所の市川さんより、全集落マネージャーの中で最も精力的に活動している方として紹介して頂いた。
旧上平地域の某地区の区長であり、集落マネージャーをしている。
【Sさん(72歳 男性】
Nさんと同じ地区に住んでいる。奥さん・息子さんと3人暮らし。
仕事は、シルバー人材センターを通して、診療所の患者送迎バスの運転手をしている。
健康状態としては、難聴で、補聴器を利用している。
パソコンは使えない。
【Aさん(利賀高齢者福祉センター ネイトピア喜楽 職員】
利賀地域の見守りサービスを担当している。
ネイトピア喜楽では、高齢者向けのサロンや教養講座などを開催している。